特集 アジアの大学を知る 日本の看護研究力を高める
大学視察の目的と概要
大江 真琴
1
,
真田 弘美
1,2
,
上別府 圭子
1,3
,
山本 則子
1,4
1東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター
2東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻老年看護学/創傷看護学分野
3東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻家族看護学分野
4東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻高齢者在宅長期ケア看護学/緩和ケア看護学分野
pp.620-627
発行日 2018年12月15日
Published Date 2018/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201576
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日本の看護の現状と課題
高度先進医療を支えてきた日本の看護が,世界に類をみない超高齢社会を迎え,「治す医療」から「支える医療」への方向転換を迫られている。その中で,看護学も時代のニーズに合った進化を遂げる必要があり,従来の看護学の枠を超え,生体工学,分子生物学,人間工学,哲学,教育心理学,情報工学や政策科学などの異分野と融合して新たな技術やシステムを開発することが求められている。高度先進医療で培われた日本の質の高い看護と従来の看護学の枠を超えた異分野融合型イノベーティブ看護学研究の手法は,世界の看護のモデルとなり得る。一方,新しい看護学として構築されてきた異分野融合型イノベーティブ看護学研究を遂行し,世界に発信するには,この研究手法を用いて看護研究を遂行する若手研究者の不足,および研究成果の世界への発信力の不足の2つの課題がある。
第1の若手研究者の不足の背景には看護系大学の急増がある。2007年には159校であったわが国の看護系大学は,2017年には255校に急増している。大学数の増加は,看護師の質の向上につながる一方で,教員の不足を招いた。博士課程を有する看護系大学院数も2017年には88校にまで増えてはいるが,修了した若手研究者は,自律して研究を行なう機会を経ずに看護系大学に教員として就職し,教育に専念することになる。その結果,研究経験のほとんどない教員が研究指導を行なうことになり,新たな看護学研究者が育つ土壌が醸成されにくいだけでなく,質の高い看護研究の遂行が難しい状況となり,看護学の発展を停滞させる悪循環を招く可能性がある。
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