臨床皮膚科 74巻10号 (2020年9月)

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要約 83歳,男性.約73年前に空襲にあい,左下肢を受傷.以後,左下腿に金属片が遺残したまま生活していた.2日前から左下腿に腫脹と疼痛が出現.初診前日より同部位に発赤をきたしたため受診した.炎症反応の上昇があり,下肢CTで左下腿皮下に異物と複数の囊胞状の腫瘤を認めた.遺残した金属片の周囲に生じた膿瘍と考え,第1病日に切開排膿を行い,抗菌薬加療を開始.その後炎症反応は速やかに改善した.第4病日に異物を摘出.異物は2×1×0.5cmの腐食した金属片であった.第12病日に被膜のデブリードマンを行い,外用で肉芽形成と上皮化をはかった後,第55病日に退院となった.皮下の金属遺残では比較的長期間を経て症状が生じた症例が散見されるが,本症例は70余年ときわめて長期を経て感染の原因となっていた.同様の遺残物を発見した際は積極的に摘出を試みる必要があると考えられた.

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要約 86歳,男性.初診1か月ほど前に,右前腕に結節を形成し,結節表面から出血が続くため当科を紹介受診した.止血を目的に結節を切除し,病理所見より血腫と診断した.血液検査では血小板・フィブリノゲンの減少,FDP・D-dimerの上昇があり播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)と診断した.CT検査では腹部大動脈瘤ステントグラフト留置部に血栓を形成し大動脈瘤が拡張していた.ステントグラフト留置部再拡張と血栓形成に伴い生じた消費性凝固障害による血腫と診断し,新鮮凍結血漿投与と圧迫で止血した.大動脈瘤に合併する凝固異常は慢性DICであり,local DICもしくは消費性凝固障害と称される.皮膚科領域でも稀には凝固異常による皮膚症状を診察する機会がある.止血困難を生じる場合には,慢性DICを起こしうる疾患の存在を念頭に置いて検査を行い,患者ごとに適した治療を選択する必要がある.

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要約 40歳,女性.28歳時に卵巣子宮内膜症で腹腔鏡手術を行った.初診の1年前より月経時に臍部の疼痛と臍の両側に結節が出現し増大した.2か月前に月経時に臍部左側から出血があり,当科受診.初診時,臍の右側に径2cmで常色の弾性軟の結節があり,臍の左側に5×10mmの紅色結節を認めた.両結節の腹腔内への連続性をみるためにCTを施行したところ,臍右側の結節は腹壁瘢痕ヘルニアであった.臍左側の紅色結節の病理組織像では,表皮は不規則に肥厚し,真皮には1層の円柱細胞からなる腺腔構造がみられた.腺腔周囲にはCD10で染色される間質細胞を認め,臍部子宮内膜症と診断した.今回,ヘルニアの内容は脂肪であったが,場合により安易な生検での腸管への侵襲も危惧された.臍部子宮内膜症が常色の結節を呈しうることを十分に認識し,術後瘢痕部の子宮内膜症ではヘルニアの合併を念頭に置いて,画像検査を優先する必要があると考えた.

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要約 24歳,女性.会陰部の軽快と再燃を繰り返す2cm大腫瘤について当院産婦人科より紹介された.圧痛はなく,月経期間に一致せず腫脹が増悪した.病理組織像では単房性の囊腫状病変周囲に不規則な管腔構造,線維組織性間質,ヘモジデリン沈着,赤血球漏出を認めた.管腔は2,3層に重層し,一部,断頭分泌を認める好酸性の細胞から成り,間質の細胞は紡錘形で核は小型であり,免疫組織化学染色でCD10陽性であった.以上より子宮内膜症と診断した.会陰切開歴のある生殖可能年齢女性の会陰部腫瘤では,圧痛や月経時の症状増悪を伴わなくとも会陰部子宮内膜症を鑑別疾患とし,肛門括約筋との癒着の可能性を術前に画像評価しつつ,肛門括約筋を損傷しないように手術を行うことが重要であると考えた.

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要約 74歳,男性.7年前に左前腕の腫瘤を自覚し,増大したため当科を受診した.赤褐色,60×50×30mm大の弾性軟,可動性良好,易出血性の有茎性腫瘤があり,所々にびらんを形成し,滲出液と悪臭を伴っていた.局所麻酔下で全切除したところ,病理組織学的所見では異型性の乏しい孔細胞と小皮縁細胞で構成され,表皮と連続して真皮内に索状に伸びて吻合増生していた.異型性は乏しく,汗孔腫と診断した.2008〜2017年の10年間に当院で汗孔腫と診断された症例を検討した.性差は男:女=15:17,切除時年齢は平均71.7歳,罹患期間は平均6.6年,腫瘍径は平均16.3mm,部位は下肢38%,上肢28%,頭頸部22%,形状はドーム型が75%,有茎性のものは25%であった.汗孔腫は汗孔癌を生じるリスクがあること,非侵襲的な方法で汗孔癌と汗孔腫を確実に鑑別するのは難しいことから,早期に切除することが望ましい.

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要約 50歳,男性.初診数年前より左上肢に3〜10mm大,淡褐色の弾性軟の皮膚腫瘍が神経分節に沿って出現し徐々に増数したため当科初診した.病理組織は小型の核を持つ紡錘形の細胞が錯綜するように増殖する腫瘍性病変で,神経線維腫の診断であった.カフェ・オ・レ斑や他のneurofibromatosis type 1(NF1)の明らかな症状はなく,mosaic localized NF1と診断した.Mosaic localized NF1は,NF1遺伝子の体細胞モザイクによって一部の神経節に限局してNF1の症状が現れる疾患である.本邦ではこれまで臨床像により限局性多発神経線維腫や,分節型神経線維腫と呼んできたが,分子遺伝学的機序の解明に伴い,より機序を反映したmosaic localized NF1という疾患名が提唱されている.Mosaic localized NF1は,病変部におけるNF1のナンセンス変異が全身のNF1を呈した子に認められた報告や,悪性末梢神経鞘腫を発症した報告があり,遺伝性や悪性疾患リスクについて把握する必要があると考える.

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要約 症例1:78歳,男性.左こめかみ部に数年前から皮疹を自覚した.症例2:75歳,男性.右耳前部に数年前から痂皮を付す皮疹があり,徐々に増大した.いずれも当科で有棘細胞癌を疑い切除した.切除標本では,中央は潰瘍化しており,類円形から紡錘形の腫瘍細胞が胞巣を形成し,脂肪織まで浸潤増殖していた.腫瘍細胞はD2-40,ビメンチンが陽性であった.D2-40はポドプラニンを標識し,リンパ管内皮マーカーとして知られているが,有棘細胞癌でも陽性となることがある.D2-40陽性の有棘細胞癌は予後不良とされているが,自験2例とも術後2年以上経過し,現在まで再発転移はない.D2-40陽性の有棘細胞癌であっても,早期に根治切除できれば予後改善の可能性があると考えた.

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要約 53歳,男性.1年前に右肩部に表面に毛細血管拡張を伴った腫瘤が出現した.臨床および超音波・MRI所見より粉瘤を疑い切除したところ,病理組織学的に皮下脂肪組織内に腫瘍細胞が花むしろ状に増生している所見を認めた.腫瘍細胞は好塩基性で小型の核を有する細長い紡錐形細胞で,免疫組織化学染色でCD34陽性,α-SMA,デスミン,S100蛋白,EMA陰性であることから,深在型隆起性皮膚線維肉腫(dermatofibrosarcoma protuberans:DFSP)と診断した.DFSPの臨床病型は萎縮型,モルフェア様,血管腫様,有茎性,皮下型などがあり,自験例の深在型は比較的稀な病型である.深在型DFSPは通常のDFSPと異なり,表面の変化に乏しく,皮下結節の像を呈する点から,粉瘤や脂肪腫などと臨床診断がされやすい.したがって,皮下結節の鑑別疾患として深在型DFSPを念頭に置く必要がある.

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要約 78歳,男性.2か月ほど前に右腋窩部の皮下腫瘤を自覚し,以降同部位が急速に隆起し増大してきた.生検の結果,指状嵌入樹状細胞肉腫,転移性腫瘍などが疑われた.約1か月で腫瘍は急速に増大し全摘出となった.病理組織学的所見は,大型で明瞭な核小体を有する細胞で,核が偏在し大型円形ないし類円形など多彩な形態を示す異型細胞であり,細胞質は好酸性の封入体を有していた.免疫組織化学的所見では,ビメンチン,S100蛋白,CD56,MiTFが陽性で,一部の細胞にMelan A・HMB45が陽性であり,サイトケラチンとEMAは陰性であった.以上よりmalignant melanoma with a rhabdoid phenotype(MMRP)と診断した.また術前MRIにて腋窩リンパ節の腫大と診断され,CT,PET-CTを施行したが腋窩以外の腫瘍は認めず原発不明のmelanoma of unknown primary site(MUP)と判断した.MUPであったため当初の生検ではMMRPを想定できず,当初腋窩皮下原発の悪性腫瘍との判断となった.MMRPは進行が早く予後が悪いため,早期診断・治療のために病理標本からの免疫組織学的な検索を積極的に行う必要があると思われた.

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要約 67歳,男性.初診時,顔面を含む略全身に比較的強い瘙痒感を伴う多発性紅斑および丘疹を認めた.ステロイド外用を行うも軽快と増悪を繰り返しながら皮疹は拡大した.顔面の皮疹より皮膚生検を施行し,毛包上皮の海綿状態を伴う稠密な好酸球とリンパ球浸潤を認めた.好酸球性膿疱性毛包炎を疑い,インドメタシン内服を開始するも顔面を中心に浸潤を伴う紫紅色結節の出没が続いた.その後も皮膚生検を2回行ったが確定診断に至らず,皮疹の改善がないままに自己中断した.初診から4年後の当科再診時には顔面の結節および脱毛斑が多発した.4回目の皮膚生検にて,毛包周囲にCD4優位な異型リンパ球の浸潤を確認し,サザンブロット法にて単クローン性TCR遺伝子再構成を認め,毛包向性菌状息肉症と診断した.本症の臨床像は一定ではなく,初期の病理組織所見は非典型的なことも多く,診断が困難であることを認識した.

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要約 58歳,男性.2017年1月に右基底核原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Ann Arbor分類IE期)と診断され放射線療法で寛解した.同年6月頃から陰茎包皮の硬結,潰瘍を生じ難治であったため,8月に当科を紹介され受診した.包皮に黄色壊死組織が固着した潰瘍があり,周囲に硬結を伴っていた.生検では真皮内に異型の強い大型リンパ芽球様細胞が稠密に浸潤しており,中枢神経原発diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)の陰茎再発と診断した.進行期であるが,慢性腎臓病のため放射線療法のみを行う方針とし,原体2門照射4MV X線50Gyを照射した.照射後,潰瘍の上皮化および硬結の消失が得られ寛解と判断した.DLBCLはリンパ流を介して全身に発症しうるが,節外病変として尿路系,殊に陰茎の病変は非常に稀である.一方で中枢神経系原発DLBCLの皮膚再発例は報告が少なく,陰茎再発例も自験例が初の報告である.本例は稀な部位の再発病変であり,放射線のみで治療効果が得られた貴重な1例であると考える.

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要約 頭部・前額部多汗症の3例〔27歳男性,41歳男性,48歳女性,A型ボツリヌス毒素(BT-A)投与前Hyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS)平均:3.7,Dermatology Life Quality Index(DLQI)平均:9.3〕について,BT-A局注療法の有効性,効果持続期間,治療満足度,痛みの評価,副作用の有無などにつき検討した.頭部・前額部の多汗部位に1〜1.5cm間隔で,1か所2単位ずつ,計50か所,計100単位のBT-Aを局注.発汗量は換気カプセル法で測定し,全例でBT-A局注の2週後より著明な発汗抑制効果がみられ,少なくとも30週以上の効果が持続した.また,HDSSとDLQIも,全例で発汗量と同様に推移し,投与2週後より著明に低下,発汗量が抑制されている間は低値を維持した.患者の治療満足度も高く,少なくとも50%以上の改善が得られた.明らかな副作用もなかった.頭部・前額部多汗症において,BT-A局注療法は安全性,有効性ともに高い治療であることが示された.

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行のため,2020年6月4日〜7日の第119回日本皮膚科学会総会(JDA2020)は完全WEB開催になりました.準備時間が不足していたこともあり,ログイン障害など参加者の皆様にご不便をおかけしたことも多かったと思いますが,約5,900名の日本皮膚科学会(日皮会)会員の皆様にご参加いただきました.事務局長として心より御礼申し上げます.今回このような機会をいただいたので,史上初の完全WEB開催となったJDA2020について時系列で振り返ってみたいと思います.

 開催100日前:日皮会の総会・学術大会チームとミーティング.この時点では,まだ京都国際会館での開催が想定されていましたが,COVID-19対策として,席の間隔を空ける,WEB参加を可能にする,などの対応策が検討されました.つまり現地で開催することを原則に,COVID-19の影響で出張できなくなるかもしれない参加者を対象に,WEB参加できる体制を整える,いわゆる「ハイブリッド開催」の方向性が模索されはじめたのです.

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 第119回日本皮膚科学会総会が慶應義塾大学医学部皮膚科学教室 天谷雅行教授を会頭に2020年6月4日(木)から4日間,皮膚科学会としては初となるWEB開催として行われた.日本皮膚科学会総会(以下,総会)は第111回総会より京都と横浜での交互開催にて行われてきたが,第116回総会が仙台,第117回総会が広島,第118回総会が名古屋と,3年間主管校現地開催が続いていた.第119回総会は4年ぶりに交互開催に戻り,京都での開催が予定されていたが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行に伴い,総会としては初のWEB開催となった.残念ながら特別招聘講演,Lectures in English,異分野特別講演など,本学会の目玉企画とも言える内容が一部中止にはなってしまったが,約8割のプログラムが予定通り開催され,参加者は5,000人を超え,WEB開催にもかかわらずきわめて盛会に開催された.

連載 Clinical Exercise・157

考えられる疾患は何か? 市川 尚子
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症例

患 者:44歳,女性

主 訴:左大腿の皮疹

既往歴:子宮筋腫

現病歴:初診の2年ほど前から左大腿に自覚症状を伴わない褐色局面が出現し徐々に増大したため当科を受診した.

現 症:左大腿に6×4cm大の硬く浸潤を触れる褐色局面を認めた(図1).発熱などの全身症状はなく,左鼠径リンパ節が大豆大に触知された.他部には,明らかな表在リンパ節腫大は認めなかった.

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目次

欧文目次

文献紹介

文献紹介

書評

次号予告

あとがき 戸倉 新樹
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 新型コロナウイルス(以下,コロナ)は皮膚科診療や皮膚科雑誌の編集行動にも影響を与えた.当初,肺炎が主症状であった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,皮膚病変として麻疹様皮疹,水痘様皮疹,蕁麻疹,しもやけ様皮疹,網状皮斑・壊死を示すことがあり,病態的に川崎病にもつながる血管病変を起こすという.一方では,乾癬やアトピー性皮膚炎などで免疫抑制薬や生物学的製剤投与中の患者はコロナに感染した場合にどう対処すべきか議論になり,また皮膚科でも使われているヒドロキシクロロキン,イベルメクチンのCOVID-19に対する効果はどうか,ということも話題となった.さらに,コロナ禍での皮膚科外来の態様,皮膚科レジデントの教育に至るまで論じられている.こうしたテーマに関して,主要な国際雑誌が膨大な数の論文を掲載している.コロナに偏重する出版傾向はもちろんこの感染が最大級の問題になっているためであるが,出版側からしても引用件数が望める論文を採用したいという意図もあるだろう.

基本情報

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臨床皮膚科
74巻10号 (2020年9月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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