眼科 62巻1号 (2020年1月)

特集 デジタル化が進む眼科手術

序論 門之園 一明
  • 文献概要を表示

現在,デジタル化は眼科医療のあらゆるところで進行し活用されています。診療機器,検査機器,カルテなど気が付けばアナログ機器を見つけるのが難しいほどです。この数年で,私たちの日常生活もそうですが,眼科診療が急速に変化しデジタル化は普遍的なものになりつつあります。

  • 文献概要を表示

Miyakeらは1990年代に高精細(当時は2K),超高感度HARP(High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor)撮像管1)および箱型3Dディスプレイ2)を組み合わせた未来型眼科TV手術顕微鏡の概念を報告している3)4)。この発表は今日のデジタル化眼科手術にも結び付く研究であり,特に米国で大きな注目を集めた。

2 3D手術の近未来 秋山 邦彦
  • 文献概要を表示

3Dディスプレイを使用する手術は,heads-up surgeryあるいはdigitally-assisted surgeryとも呼ばれ普及しつつある。この方法は眼科だけではなく,内視鏡手術や脳外科手術・心臓血管外科手術をはじめとする多くの分野で応用されてきているが1),眼科手術はその多くが顕微鏡下で行う精細な手技で成り立っていることから,3D手術との相性が特に良いといえる。このシステムの導入においては,まず従来の鏡筒を覗いて観察する手術方法と同等以上の操作が,同等以上の快適性をもって可能であることが重要であるが2)~4),システムを「贅沢品」ではなく「必需品」に転換するためには,このシステムがもたらすであろう眼科手術の進化と,進化のために求められる改良すべき点を考える必要がある。そこで本稿では,

・従来の手術方法との違いの本質

・従来の手術と同等(以上)のパフォーマンスを引き出すための基礎知識

・3D手術がもたらす眼科手術の進化

・進化につながる工夫

・限界を超えた先の近未来

を考察する。

3 OCTの手術への応用 井上 真
  • 文献概要を表示

光干渉断層計(optical coherence tomography,以下OCT)は光の干渉現象を利用して光学的切片の画像化ができる装置である。眼科診療において,もはやOCTは欠くことのできない存在になっている。OCTでは検眼鏡的には観察困難であった微細な漿液性網膜剥離,網膜内嚢胞,硝子体による黄斑牽引などが捉えられる。一般診療で用いている細隙灯顕微鏡は斜めからのスリット光で光学的断層像を観察できる。一方,手術顕微鏡は前方から観察像を捉えているため,細隙灯顕微鏡で得られるような情報が得られず術中の判断が難しい場合がある。術中OCTは眼科手術顕微鏡に内蔵されたOCTであり,その手術顕微鏡の欠点を補うことができる。現在市販されている術中OCTはCarl Zeiss Meditec社のRESCAN 700とLeica社のEnFocusがある。3年間にわたるDISCOVER studyでは後眼部手術を行った593眼で術中OCTの有用性が検討され,29.2%の症例で術中の判断を左右したと報告されている1)。今回はRESCAN 700の網膜硝子体手術での応用,特に実際の症例での使用例を解説する。

  • 文献概要を表示

現代の白内障手術は安全性や有効性が向上し,完成度の高い手技となっており,眼科医が考える以上に,白内障手術に対する患者の意識は変化しつつある。実際に臨床の現場では術後視力が1.0出ていても,患者が見え方の不満を訴えることも少なくない。このように白内障手術は,確実に屈折矯正手術としての比重が増加していて,術後屈折誤差をできる限り軽減し,予測性を向上させることが重要なテーマとなっている。昨今前眼部手術におけるデジタル技術の進歩は著しく,白内障手術においてもさまざまなデバイスの進化によって,より正確な屈折矯正に貢献している。また,機械学習をはじめとする人工知能(Artificial Intelligence:AI)の活用は,眼科領域においても確実に普及しつつあり,白内障手術分野においてもAIを用いた眼内レンズ(IOL)度数計算が注目されている。

  • 文献概要を表示

近年,人工知能(Artificial Intelligence:AI)の発展は目覚ましく,医療分野においても数年前から,AIの活用が現実的に見込まれるようになってきた。具体的には,医用画像に対する自動分類や診断,疾患部位のセグメンテーションなどでの研究と臨床への応用が進んでいる。内科領域では,本邦において超拡大内視鏡画像のリアルタイム画像診断支援システムEndoBRAINⓇが2018年12月に医薬品医療機器等法に基づく承認を取得したことが話題となった。大腸内視鏡画像をAIで解析し,その画像が腫瘍であるか非腫瘍であるかを数値として出力する機能を有するソフトウエアであり,医師による病変の診断予測を補助することにより診断精度の向上に役立てることが期待されている。

  • 文献概要を表示

原発閉塞隅角緑内障(primary angle closure glaucoma:PACG)はおそらく最も古くから認識されていた緑内障病型であり,治療法のなかった時代においては急性発作から失明に至る疾患として理解されていた。1851年にHelmholtzが,初めての実用的な眼底鏡(半透鏡を用いた間接鏡)を開発したことから緑内障が視神経の疾患であることが理解されるようになった。その時代において,緑内障という用語は,急性または慢性のPACGを指していた。1854年,von Graefeは緑内障に対する手術,すなわち周辺虹彩切除術を初めて報告したが,同時に,amaurosis with cupping(視神経乳頭陥凹を伴う黒内障),つまり,眼圧上昇(眼圧計自体も彼が考案したものを使用していた)はないけれどもPACGと同様の視神経乳頭変化を持ち同様に視力障害をきたす類縁疾患(と考えられていた),に対しても眼圧を多少なりとも下降させられればとの考えから周辺虹彩切除術を行う,と記述している。眼圧測定が今より正確でなかったという背景があるにしても,正常眼圧緑内障(NTG)を含む原発開放隅角緑内障(POAG)についての洞察が行われていたことは驚きであるが,用語としては緑内障とは異なる疾患として記載されていた。この時代,瞳孔ブロックの概念はなく,周辺虹彩切除術の作用機序は不明であった。また顕微鏡がなく,Graefe knifeにより行われたこの時代の手術を考えれば,周辺虹彩切除術が濾過効果を持っていた可能性も考えられる。

  • 文献概要を表示

緑内障は40歳以上の約5%という高い有病率であり,2008年以降は糖尿病網膜症を超え日本の失明原因の第1位となっている。さらに視覚障害者が増加傾向にある唯一の疾患でもある(図1)1)ことを考えると,今後もロービジョンケアにおいて非常に重要な疾患であることが理解できる。しかし,緑内障といっても進行が比較的緩徐な原発開放隅角緑内障から,幼少時より治療を必要とする小児緑内障や糖尿病網膜症に合併して急激に視機能障害を生じる血管新生緑内障や続発緑内障など,病型が多種多様で視覚障害の進行速度も障害の程度もさまざまで年齢や社会環境も異なるため,それぞれの状況に合ったロービジョンケアが必要となる。

網膜橋渡し研究アップデート

7.幹細胞治療 崎元 晋
  • 文献概要を表示

アメリカ食品医薬品局(FDA)が1993年に行った細胞治療に関する定義によると,細胞治療とは「体外で加工又は改変された自己由来,同種由来又は異種由来の細胞を投与することによってヒトの疾病又は損傷を予防,処置,治療ないし緩和すること」とされている。一方再生医療に関しては,2013年に欧州科学財団が「加齢,疾病,損傷,又は先天的障害により組織・器官が失った機能を修復ないし置換することを目的に,機能的かつ生きている組織を作り出すプロセス」と定義している。一般に細胞治療というと,幹細胞等を用いた組織の再生医療と混同されがちであるが,図1のように考えると理解しやすい。細胞を用いる再生医療は,細胞・組織・器官を移植することにより,機能的再建を試みる治療であり,内在性細胞を活性化させる治療や,細胞を用いる免疫療法とは区別される。つまり細胞治療の基本的戦略としては,以下の2つが挙げられる。1)組織の置換(replacement)は,再生医療を目的とする細胞療法として最も期待される効果であり,例として造血幹細胞移植,角膜内皮移植などが挙げられる。もうひとつの重要な効果として,2)保護因子の放出や抗炎症作用(trophic effect)が挙げられる。例としては間葉系幹細胞移植による移植片対宿主病(GVHD)治療などである。

白内障手術のトラブルシューティング

3.Descemet膜剥離 小門 正英
  • 文献概要を表示

Descemet(デスメ)膜は角膜後面で実質と内皮の間に位置する厚さ7~10マイクロメートルの結合組織の膜である。白内障手術中のDescemet膜剥離は,超音波手術器具の挿入のための前房穿刺時にメスの上面側でDescemet膜が前方にわずかにめくれ上がるのをきっかけとして発症することが多い。切れ味の悪いメスの使用時にDescemet膜が前方にわずかにめくれ上がっているのを見逃し,術中の器具の挿入時に拡大させてしまうことで,臨床的に問題となるDescemet膜剥離に進展させてしまうことになる。

  • 文献概要を表示

目的

低加入度数分節型眼内レンズ(レンティス コンフォートⓇ,以下LS-313 MF15)挿入眼について,2種類の屈折測定機器OPD-ScanⓇⅢ(以下OPD)とSpotTM Vision Screener(以下SVS)で他覚屈折値に差があるかどうかを検討した。

対象と方法

対象は2019年1月から6月の期間に上天草総合病院で白内障手術を行い,LS-313 MF15を挿入した20例36眼。手術1週間後に未散瞳で他覚屈折値および自覚屈折値を測定した。

結果

他覚球面屈折値(以下他覚S)はSVSよりOPDのほうが有意にマイナスの値であった。OPDの値は自覚球面屈折値(以下自覚S)よりマイナス寄りであったがSVSの値と自覚Sの間には有意差はなかった。他覚円柱屈折値(以下他覚C)はOPDよりSVSのほうが有意に強かった。OPDの値もSVSの値も自覚円柱屈折値(以下自覚C)より有意に強かった。他覚等価球面値(以下他覚SE)はOPDのほうがSVSより有意にマイナスの値であった。OPDの値もSVSの値も自覚等価球面値(以下自覚SE)より有意にマイナスの値であった。

結論

他覚SはOPDよりSVSのほうが自覚Sに近かった。他覚Cは両方とも自覚Cより強い値となり,SVSのほうがより強い値が出た。

  • 文献概要を表示

目的

急性白血病の眼内浸潤の臨床病型のひとつとして前房蓄膿が知られているが,急性骨髄性単球性白血病(AMoL)での眼内浸潤の報告は少ない。今回我々は,AMoLの経過中に隆起性の脈絡膜浸潤と角膜後面沈着物(KP)の出現など特異な臨床経過を呈した症例を報告する。

症例

40歳女性。2014年12月,急性骨髄性白血病(M5a)と診断され,化学療法導入後に骨髄移植されるも寛解には至らなかった。3か月後,右眼眼痛および視力低下を主訴に眼科を受診され,脈絡膜に隆起性浸潤病巣を認めた。化学療法を再開し,2か月後には脈絡膜浸潤は消失した。2015年9月に再度右眼眼痛・眼圧上昇・角膜浮腫があり,白色KPを認めヘルペス性虹彩炎を疑い前房水を採取した。PCR検査の結果,眼内にウイルス等は検出されず,再度施行した前房水採取後の細胞診で白血病細胞の浸潤と診断された。全身的にも白血病の再発と診断され,経過中には化学療法が強化されたが,急速な全身状態の悪化により1か月後,永眠された。

考按

白血病の眼内浸潤の際によくみられる前房蓄膿とは異なって,本症例はKPを主体とする前房内炎症と隆起性脈絡膜浸潤を呈したが,これは肉芽腫性ぶどう膜炎にみられるマクロファージが関与する所見と似ており,AMoLにおける単球由来白血病細胞の腫瘍性増殖がその病態に関与した可能性が考えられた。

  • 文献概要を表示

症例は,53歳,男性。左眼の霧視を主訴に当院を受診した。左眼視力は0.04 (0.1p)。眼圧正常。細隙灯顕微鏡検査で両眼とも後嚢下白内障を認めた。眼底は両眼とも正常であった。白内障による視力低下と診断し淀川キリスト教病院眼科に紹介した。白内障手術前検査において糖尿病が見つかり,内科で内服治療が開始された。その時の眼底検査では糖尿病網膜症を認めなかった。白内障術後1か月で両眼に網膜出血,軟性白斑を認めたが,OCTでは黄斑浮腫はなかった。初診から約4年後,軟性白斑は消失していたがOCTで両眼とも軽度の黄斑浮腫を認めた。その6か月後に右眼の視力低下を自覚し当院を受診。視力は右眼(0.2)と低下し,OCTでは右眼の黄斑浮腫の悪化を認めた。1か月前に受けた右内頸動脈内膜剥離術後より右眼の視力低下を自覚したとのことであった。内頸動脈病変を伴った糖尿病黄斑浮腫は,内頸動脈内膜剥離術後の黄斑浮腫増悪に留意する必要がある。

----------

目次

次号目次

学会告知板

投稿規程

著作権譲渡同意書

タイトルページ作成要項

編集後記

基本情報

ga62-1_cover.jpg
眼科
62巻1号 (2020年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

文献閲覧数ランキング(
8月3日~8月9日
)