Brain and Nerve 脳と神経 46巻6号 (1994年6月)

総説

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I.はじめに

 若年性パーキンソニズム(juvenile parkinsonism:JP)は,40歳未満に発症し,パーキンソン症状を主徴とし,levodopaの効果が明らかな一群を指す1)。発症年齢を40歳で区切ったのは人為的作業であるが,われわれが経験した遺伝性JPは図1に示すように40歳を境に発症がみられなくなっており,また20代,30代に発症したパーキンソン病(Parkinson's dis—ease:PD)の若年発症例は高齢発症例に比べてlevodopaに対する反応や臨床経過に特徴がみられることなどから,40歳を境界とすることは妥当と考えられる。20歳未満の発症例のみを遺伝性JPと規定しようとしたQuinnら2)の提案はわれわれの症例から判断すると適切でないと考えられる。

 パーキンソニズムを主徴とすることに関しては,JPの症状の特徴の1つにジストニアがあり,症例によってはジストニアがパーキンソン症状と同等に認められるものがある。遺伝性進行性ジストニア(Heredi—tary progressive dystonia:HPD)3)はパーキンソン症状もみれら,睡眠による症状の改善(日内変動)など遺伝性JPと類似した所見もみられるが,ジストニアを主徴とすることなどから近年JPと区別して扱うことが多い。

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I.はじめに

 若年性パーキンソニズム(Juvenile parkinsonism,JP)は40歳未満の若年に発症するパーキンソニズムであり,levodopaの効果が明らかな一群とされている25,27)。このJPは,その特徴的な臨床所見などから,これまでにもいくつかの病型に分類されてきた8,25)。しかしながら,臨床像と生化学的異常あるいは病理形態学的所見との対応は,未だ不十分であり,現在も議論のあるところである3,9,28)

 本稿では,石川9)が改めて示した臨床病型(表1)のなかでその主体をなすと考えられる"常染色体性劣性遺伝形式をとり睡眠による症状の改善を呈する型(AR-JP)"および"パーキンソン病が若年に発症する型"について,その自験例を呈示するとともに,これまでの剖検報告例を整理してみたい。

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 IR法シークエンスにて脳脊髄液の信号を抑制しT2緩和時間の差を強調するFLAIR(fluid—attenuated inversion recovery)法の撮影条件の評価を行い,脳梗塞,多発性硬化症,てんかん患者における有用性について検討した。1TのMR装置ではくりかえし時間(TR)は6000msec前後,反転時間(TI)は1600msec前後,エコー時間(TE)は140 msecで脳脊髄液を低信号に描出し,梗塞巣や脱髄巣を高信号として明瞭に描出した。T2緩和時間が100 msec以下の病巣ではFLAIR法画像の信号強度とT2緩和時間の間に有意な相関がみられた。T2緩和時間が100 msec以上ののう胞性変化が考えられる病巣は低信号として描出された。また,のう胞周囲や脳室周囲,脳表に接したT2緩和時間の延長した病巣は高信号として描出され,有用であった。今後日常診療において有力な補助診断手段の1つになっていくものと考えられた。

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 内頸動脈系脳梗塞で出現するHorner症候群の特徴を明らかにするため,内頸動脈あるいは中大脳動脈主幹部に閉塞を有する急性期脳梗塞112例を対象に,病巣側瞳孔の縮瞳を示す,いわゆるHorner型瞳孔不同と,動脈閉塞機序,閉塞部位との関係を検討した。Horner型瞳孔不同は,内頸動脈系脳梗塞全体としては塞栓性閉塞で頻度が高く,塞栓性閉塞の中では内頸動脈閉塞で出現頻度が高かった(p<0.05)。また,塞栓性内頸動脈閉塞は血栓性内頸動脈閉塞に比べても出現頻度が高かった(p<0.01)。以上より,内頸動脈系脳梗塞におけるHorner型瞳孔不同は,塞栓性機序が関与した内頸動脈閉塞の存在を示唆する有用な症候であると考えられた。

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 中枢性低Na血症に対し,鉱質コルチコイド剤を投与し,その治療効果から発生機序を考察した。対象は,1992年4月から12月の間に頭蓋内疾患で入院し,中枢性低Na血症を併発した14例である。鉱質コルチコイド剤としてfludrocortisone acetateを使用し,投与量は0.1mg/日(1例のみ0.3mg/日),投与期間は3.7日間,投与経路は経管5例,経口9例であった。治療効果は,14例中12例(86%)に認められ,副作用の出現例は1例も存在しなかった。尿中Na排泄量は,全例投与前に比し減少しており,その平均減少率は,44.3%であった。また,血漿ANP値は,100pg/ml以上の症例が2例存在し,これらに著効例は認められず,投与量不足と考えられた。中枢性低Na血症に対し,鉱質コルチコイド剤は,Na排泄を抑制することにより効果が期待され,このことは,中枢性低Na血症の発生機序として腎尿細管におけるNa調節機構の障害が存在する可能性を示唆すると思われる。

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 くも膜顆粒は髄液を静脈へ排出する重要な構造とされているが,その機能に関わる形態学的特徴については一致した見解はない。本研究ではくも膜顆粒の微細構造と機能を解明するため,実験的にくも膜下腔圧を上昇させたサルのくも膜顆粒を光顕,走査型および透過型電顕で観察,検討した。3種類のくも膜顆粒が区別された。1)紡錘形に膨隆した内皮のみで覆われる顆粒,2)扁平な内皮のみで覆われる顆粒,3)膨隆,扁平の両者の内皮で覆われる顆粒。3)の顆粒は分葉形で,そのくびれの部分のみが局所的に扁平な内皮で覆われ,他の部分は膨隆した内皮で覆われていた。くも膜顆粒における髄液排出機序である閉鎖系,内皮細胞間隙の開大による開放系,細胞質空胞の拡大,開放による開放系の各形態的根拠が同一標本で観察され,3種類の髄液排出機序が同時に機能していることを示し,これらをくも膜顆粒複合体と呼ぶことを提唱した。

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 Amantadineの投与によって意図性,間代性保続が改善〜消失した3症例を報告した。症例1は皮質下に病変の主座をもつ亜急性脳症後遺症,症例2,3は皮質下の多発性梗塞による脳血管性痴呆で,全例のPETまたはSPECTで前頭葉優位の血流代謝低下が認められた。投与薬剤はamantadine hydrochloride 150mg単独,または200mgとtrihexyphenidyl 10mgとの併用であった。症例1では保続とともにutilizationbehavior,汎性注意障害も改善した。症例2,3では汎性注意障害などの変化なしに保続の改善のみがみられた。Dopamine系賦活作用をもつamantadineに対するこのような反応は,保続の機序の一部に中脳—辺縁・前頭皮質dopamine系の機能低下があることを示唆している。

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 患者は同胞4人中の2姉妹(1人は剖検)で,両親は血族結婚である。2例はそれぞれ32歳と36歳ころに不随意運動と歩行障害で発病した。剖検例(姉)は初期から四肢・体幹・顔面に及ぶ舞踏病アテトーゼ様の不随意運動と小脳症状を認めた。腱反射は下肢優位に亢進して病的反射は陽性。病期半ばころから痴呆が始まり,末期には筋萎縮,てんかん発作,自律神経異常を認めた。画像診断:小脳は萎縮しているが,脳幹は保たれている。大脳白質はびまん性に軽度低吸収。病理所見:脳重量は1,010g。大脳では白質にびまん性に髄鞘の淡明化をみる。尾状核頭部と被殻尾側は萎縮・変性している。小脳皮質3層と下オリーブ核に変性あり。橋底部は保たれる。脊髄は前角が軽度に変性している以外に異常はない。卵巣萎縮と全身小血管の平滑筋の変性を伴う動脈硬化をみる。本例に類似する剖検例はHolmes型小脳皮質萎縮症として報告されているが,そもそもHolmes型とされた従来の報告例には種々の疾患が混在していたという点に問題がある。

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 脳室上衣に炎症の主座がある場合に脳室炎と定義されるが,従来脳室内操作の術後や新生児の化膿性髄膜炎に合併して発症することが多いとされてきた。今回われわれはヘルペス脳炎に罹患後,化膿性脳室炎を合併した症例を経験した。症例は68歳男性。当初急性発症の高熱,意識障害出現,血清・髄液抗体価より単純ヘルペス脳炎に罹患したと診断した。その後,好中球優位の髄液の細胞増多を示し,発熱,意識障害が遷延した。CT,MRIにて脳室周囲に異常な造影効果を認め,化膿性脳室炎と診断。大量の抗生物質投与により臨床所見,髄液所見,画像所見ともに改善した。化膿性脳室炎は成人の髄膜炎に合併することは稀であり,脳室からの髄液の排出不良などの特異な病態があった可能性が推定される。現在までMRIで脳室炎の治療経過を追跡した報告はみられないため,ここに提示した。

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 症例は,19歳男性。発熱・頭痛にひき続き,意識障害が出現し,さらにてんかん重積状態となった。頸部後屈と除皮質肢位を認め,髄液では,軽度のリンパ球優位の細胞増多と蛋白上昇を認めたが,糖は正常だった。血清・髄液のウイルス抗体価に有意な上昇は認められなかったが,ウイルス性脳炎を疑診し,アシクロビルを投与し,てんかん重積に対し,抗てんかん薬の内服に加え,ペントバルビタールの持続点滴も併用した。その後,てんかん発作は著明に軽減したが,失外套状態で固定した。入院3ヵ月後のMRIで,視床背側部・被殻・小脳の一部に,T1およびT2強調画像で,両側対称性に高信号域を示す病変がみられ,点状出血と考えられた。小児に,類似の臨床・画像所見を示す脳症が知られ,本例の発症機序に類似の病態を推定した。従来,MRIで本例と同様な所見を示した成人の急性脳症ないし脳炎の報告はなく貴重な症例と思われた。

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 TIAで発症し未破裂動脈瘤を合併した静脈性血管腫の1例を報告する。症例は59歳女性,左被殻出血後約5ヵ月目にTIA様発作で入院となった。精査の結果,左頭頂葉皮質下の静脈性血管腫および多発性脳動脈瘤と診断した。尚,血管腫には出血はなく脳波上も異常所見は認められなかった。動脈瘤に対しては手術を施行したが,血管腫に関しては局在部位がeloquent areaのため外科的処置は行わなかった。従来血管腫の場合,その初発は痙攣が最も多く次いで出血であり,本症例の如くTIAにて発症することは極めて稀である。今回我々は,虚血症状をきたした理由として被殻出血が原因で左大脳の血流低下が起こり,そのため本来の血行動態に微妙な異変が生じ一過性の静脈性血栓か盗血現象が考えられた。

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症例呈示

 症例 Y.E.75歳,女性。

 主訴 聴力低下,顔面痛,視力低下。

学会印象記

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 生活環境が多彩になるにつれて,さまざまな物理的要因や化学的物質にさらされる機会が増加している。とりわけ,活発な細胞分裂や細胞移動を特徴とする胎芽や胎児の脳に特別な外因が作用すると,出生後の暴露とは異なる影響があり軽重さまざまな機能の異常が発生する。

 この国際シンポジウムは数年ごとに行われてきたが,今回(1993年11月18日,19日,東京明治記念館,組織委員長:関 亨,主催:日本小児神経学会,精神神経科学研究振興財団)は「出生前の環境要因による中枢神経障害」を主題として,外因による先天性脳障害の実態について堀り下げた議論が行われた。プログラムは,招待者の特別講演4題と,原因別に分類したミニシンポジウム4課題,および,全般的な内容を統合した課題から構成され,日本と海外からの参加者の発表が相半ばしていた,筆者が特に興味をもった点について触れる。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
46巻6号 (1994年6月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

継続誌

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