神経研究の進歩 13巻2号 (1969年6月)

特集 神経病理—第9回神経病理学会より

会長講演

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I.はじめに

 今回の日本神経病理学会総会の機会に,私の講演に多大の時間を与えて下さいまして誠に有難うございました。

 周知のように肝脳疾患に関しては,日本の研究者たちが多大の貢献をなしております。猪瀬1)は従来安易にWilsonと診断されていたものから,いわゆる特殊型(猪瀬型)を剔快してにせ物を追放されましたし,沖中一門2)は銅代謝の研究に,白木ら3,4)は類瘢痕型の確立に立派な業績を残されました。その上アジアの米食地帯は肝疾患の宝庫であります。この地帯にWilsonが多いかどうか知りませんが,教室の石崎5)はタイ国でWilsonを4例も発見してまいりました。

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I.はじめに

 乳幼児期あるいは少年期に,傾眠,視聴力障害,四肢の痙直などの特異な臨床像をしめし,主として脳幹部における特異的な組織変化と病巣分布を伴う,比較的稀な疾患,すなわちinfantile subacute necrotizing encephalomyelopathyを初めて独立疾患として記載したのは,1951年subacute necrotizing encephalomyelopathyの名のもとに報告したLeigh13)であるとされており,後にRichter18)によりinfantileの語がこれに付加された。

 ところが,すでに1934年,T. Tanaka20)がso called breast milk intoxicationとして本邦から報告した症例と,一部の疑義もあるが,本症は同一疾患であろうと考えうることがFeigin & Wolf8),およびRichter18)などによつて指摘されていることは興味深い。

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I.はじめに

 1922年HallervordenおよびSpatz1)は小児期に発病し,不随意運動,筋強剛および精神知能荒癈が緩徐に進行し,20歳代で死亡した5姉妹を経験し,その1例を剖検し,淡蒼球および黒質に鉄反応陽性色素顆粒の沈着増加と軸索の腫大を認めた症例を報告した。その後,同様の症例は多数報告され,本邦においても,柳沢ら(1966)2)の同胞例,秩父ら(1966)3),皆川ら(1968)4)の例など,計4例の報告がある。

 本症は原因が明らかでないため,Hallervorden-Spatz(以下H, S. と略する)病あるいは症候群と呼ばれているが,臨床的には進行性の錐体外路症状と痴呆を主症状とし,病理学的には淡蒼球―黒質系における色素顆粒沈着増加,spheroidの出現によつて特徴づけられる疾患である。

変性・代謝疾患(lipidosisなど)

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Ⅰ.緒言

 1967年7月,筆者らは四肢の筋力低下による姿勢歩行の異常を主徴とする8月齢の雌のシャムネコを剖検し,病理組織学的検査の結果,Tay-Sachs病に極めて類似する所見を得た。その後同じ両親より産まれた他の2例にも同一変化を認め,同胞発症が明らかになつた。家畜のcerebral lipidosisに関しては,Hagen(1953)5)以来最近15年間にイヌの症例報告は次第に増加しつつあるが,他の動物では記載に乏しく,ネコでは僅かにFankhauserら(1967)4)がpseudolipidosisの1例を簡単に報告するに過ぎない。明瞭に同定され,また家族的発生の明らかなネコの初めての症例として以下に記載する。

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Ⅰ.緒言

 有機水銀中毒症としてのヒト水俣病の臓器組織内水銀の含有量,分布についてはすでに数回にわたり報告してきたところであり1〜5),また脳組織内のそれについても1963年,教室の白石6)が報告した。しかしこの時の検索では大脳・小脳半球について,10例の成績をのべたにとどまつた。また白石の行なつたTimm硫化銀法は特に脳を検索の対象とする場合には現像液の作用時間の上で短かすぎるきらいがあり,方法上にも改良の余地が残つている。さらにまた,その後剖検例の上でも7例の追加があつたので再びこの問題をとりあげて知見を補遺することにした。

 すなわち,今回は水俣病全剖検例24例の中枢神経に焦点をおき,その組織細胞内水銀のあり方を,組織化学的に検索し,既に検討されていた臓器内水銀含有量の成績とあわせてその両面から検討したので以下その成績について報告する

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Ⅰ.緒言

 神経原線維変化(以下NFCと略記する)は神経細胞の特異な変化の一つであり,1906年Alzheimer1)によつて特有な痴呆状態を呈した患者の脳に見出され,初老期痴呆の脳病理を特徴づける細胞変化として記載されたものである。その後種々の疾患および一般老人脳にも見出されており,その成因の解明は神経病理学の重要な問題の一つになつている。この病変の物質構成,発生機序については,Alzheimer以来種々の説が述べられてきたが,現在まで確実なことは分かつていない。他方この変化を実験的に作り出し,その病因を解明しようとする試みがなされ,Rasdolsky(1926年)23),Stern(1954年)27),Hornet(1961年)13)らが実験動物の大脳神経細胞にいろいろの嗜銀性線維をみたと記載した。しかし,これらの報告にみるNFCと人脳のそれとの間には,明確な類似点が認められるに至らなかつた。

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I.はじめに

 cytomegalic inclusion diseaseは,従来新生児の疾患として知られていたが,近年悪性腫瘍,血液疾患,臓器移植後状態に合併した成人罹患例の報告がふえている。

 一方,急性壊死性脳炎あるいは急性封入体脳炎と呼ばれるものは,おもに側頭葉,島葉および眼窩脳に著しい組織壊死,出血を生じ.神経細胞やグリアにCowdryのA型封入体を認めるもので,そのうちの少なからぬ症例は,脳から単純性ヘルペスウイルスが分離されるヘルペス脳炎である15,37)

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Ⅰ.緒言

 過去数十年にわたる研究者の努力により,日本脳炎の神経病理学はその発症の最急性期から,急性期,亜急性期,遷延期,慢性期に及ぶ病理形態発生と進展との組織学的解析により,ほぼその全貌が明らかにされてきている。

 しかしながら,宿主―寄生体の相互関係により規定される感染の成立と進展との諸相は,宿主および寄生体双方の可変的な生物学的条件により多様に可変的なものでありうることは周知の通りである。そして自然界の「法則性」の中には,しばしば思いがけない,変則的例外がもちこまれてくる。ここに報告する日本脳炎の一例の組織像は,日本脳炎としても,またその遷延例としても例外的事象を含んでいるが,これを検討してみると,日本脳炎はもとより脳炎一般(殊に遷延型あるいは慢性型の)の組織反応の様態を知る上で,極めて興味あるまた示唆に富む所見を示している。

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Ⅰ.緒言

 Krabbe型Leukodystrophyは髄鞘を侵す遺伝性の致死的な小児疾患である。Krabbe1)が1961年に小児のdiffuse brain-sclerosisを記載し,Krabbe型Leukodystrophyと呼ばれるようになつた。この報告より先に,Bullard and Southard2)およびBeneke3)が同様の症例を記載している。

 この疾患は汎発性硬化症のなかでも,多核または単核の巨細胞が白質に出現することを特徴としている。

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Ⅰ.まえおき

 多発性硬化症の病因に関しては不明な点が多く,諸外国においても現在なお病因,疫学,治療等の基礎的検討がなされている現状である。わが国における多発性硬化症研究はかなり遅れているといえるが,その原因の一つは欧米に比較して本疾患の絶対数が少ないことにもよるとされている15)

 今回私達は多発性硬化症の1例を剖検する機会を得たので,ここに報告して多発性硬化症研究の一助としたい。

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I.はじめに

 Schilder病はわが国においては1961年横井1)が8例について総括的報告をなし,臨床診断上の手がかりと病理組織学的所見を述べ,本邦の症例と欧米のそれに臨床的にも病理組織学的にもほとんど差異は認められないと結論した。現在までおよそ22例の報告があるが,そのなかには家族発生はみられていない1〜14)

 いままでの報告からみた場合,Schilder病はつぎのように要約できる1,15〜21)

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I.はじめに

 実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)は多発性硬化症を中心とする脱髄疾患群,自己免疫疾患一般へ,そして髄鞘および細胞膜構造の究明へと広い展開を約束されているモデル疾患であり実験手段でもある。広くひろがつたその研究分野の中でEAE催起物質を純粋に抽出しようとする試みは最も基本的な課題の一つである。この問題が解決されたとき,脱髄抗体形成の最初の段階が解き明かされ,免疫学的・生化学的成果および形態学的所見などが統一的に解釈されることが可能となるであろう。

 1950年代のはじめより着手されたEAE抗原抽出の試みは,幾多の論争を経て今日ようやく一つの方向を目指し出した。哺乳動物の中枢神経組織が免疫補助剤とともに他の哺乳動物(同種,異種を問わない)の皮内または皮下に投ぜられるときEAEを発症させること,および脱髄性抗体を生じしめることはすでに確認されている。このことがEAE発症に抗原抗体反応機序が関与していることの有力な根拠となつている。そして今日中枢神経組織の構成成分の中でKiesらの塩基性蛋白が最も注目されるに到つた。

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Ⅰ.緒言

 Hortegaによつて整理統一されたミクログリアの概念は最近検索技術の発達と共にその発生,形態および機能に数々の疑問が提出されるようになつてきた。そこで私は電顕およびオートラジオグラフィーを用いてその形態,機能および発生について検索し,若干の考察を加えた。

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Ⅰ.緒言

 周知のごとく,脊髄前角細胞,脳神経運動核の細胞のように軸索の大部分が末梢神経系に属する神経細胞は軸索を切断しても再生し得るに反し,Betz細胞,外側膝状体の細胞あるいはClarke細胞のように軸索が全走行にわたり中枢神経系内に留まるものは軸索切断後もはや変性から回復し得ず,ついには消滅してしまう。後者に属する神経細胞が再生し得ない理由の一つとして,軸索切断部位に形成される結合組織あるいはグリア細胞による障壁によつて断端から一旦新生した突起の伸長が阻止される点が注目され,従来哺乳動物中枢神経系の再生を目指す研究の多くは傷害部位における瘢痕形成の抑制あるいは除去に多大の努力を払つており,実際ある程度の成果が得られて来ている26,40,41,45)。しかし,これらの研究に共通している点は起始細胞,すなわち傷害部位に線維を送つている神経細胞の状態についてはほとんど記載がなく,したがつてこれらの細胞が軸索切断部位において瘢痕形成がある程度抑制された後変性から回復しているか否かは全く不明なことである。これらの研究は,軸索切断後変性した神経細胞が再生するためには障害された神経細胞とその効果器との結合が再建されることが先決であるとの考えに基づいているように思える。

血管,循環,免疫その他

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Ⅰ.緒言

 1926年Foix & Alajouanine7)は,病初は痙性,次いで弛緩性となる下肢の上行性筋萎縮性対麻痺,上行性の解離性知覚障害,遂には全知覚の消失,脊髄液の蛋白細胞分離等の臨床症候を呈し,全経過1〜2年で死亡した2症例を報告し,それらは病理解剖学的には下部胸髄から仙髄に至る髄外・髄内の主に静脈系血管の拡張,蛇行および壁の肥厚を伴い灰白質に壊死の目立つ脊髄炎,すなわちmyelitis centralis angiohypertrophicansというべき一独立疾患であることを発表した。それ以来,これに類似した症例はFoix-Alajouanine病として報告されている。しかしその後,Bodechtel & Erbsloh4)によつてこの疾患の独立性が論じられると同時に,この多くの報告例の中には必ずしも原著症例とは一致しない症例も混在していることが指摘された。ここに,この疾患の境界領域に関する問題が一つ存在する11)。更に,この疾患,なかでも血管病変の病因に関しても,外傷,動脈内膜炎,血栓性静脈炎などの後天的な病因を主張する者や,動静脈性動脈瘤,蔓状血管腫,先天的血管形成異常など,先天的な病因を主張する者など,論の多いところである。われわれはこの原著症例によく類似した1症例を経験したので,ここにそれを報告すると共に上記の病因論の問題点について私見を述べてみたい。

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基本情報

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神経研究の進歩
13巻2号 (1969年6月)
電子版ISSN:1882-1243 印刷版ISSN:0001-8724 医学書院

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