腎と骨代謝 30巻3号 (2017年7月)

特集 宇宙医学研究の最先端

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宇宙開発の技術が発展し,長期の宇宙空間での滞在が可能となってきている.無重力環境が引き起こす骨粗鬆症や筋萎縮などのさまざまな疾患が宇宙飛行士らを悩ませている.一方,わが国では,少子高齢化に伴い,加齢に伴う運動器障害(ロコモティブ・シンドローム)を伴う高齢者の数が増加している.このような運動器の障害は,患者本人の生活の質(QOL)の低下や要介護者の増加に伴う医療費の増大につながるため,早急に解決すべき問題の一つと考えられる.つまり,宇宙での生命科学研究(スペースサイエンス)は,宇宙飛行士の健康増進だけでなく,地上における高齢者の疾患の治療や予防に通じる重要な学問分野になりつつある.本特集では,「宇宙医学研究の最先端」と題し,無重力環境が生体の「免疫」,「骨」,「筋」,「立体構造形成」に及ぼす影響について,さらに放射線が「発がん」に及ぼす作用について,それぞれの最先端の研究者に紹介していただいた.

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重力変動や放射線など宇宙環境ストレスが免疫システムに及ぼす影響を調べることは,宇宙滞在中の健康管理のために重要な情報となる.そのため宇宙飛行士からの血液などの解析のみならず,マウスなど小動物を使った宇宙実験や地上実験が行われてきた.胸腺はT 細胞供給に重要な臓器であり,さまざまなストレスで影響を受ける.マウスへの過重力が胸腺に及ぼす影響を調べたところ,内耳前庭器官を介した重力感知により,胸腺で分化途中のT 細胞が一時的に減少すること,T 細胞の分化や選択に必要な胸腺上皮細胞が比較的長期にわたり減少すること,が明らかとなった.さらに宇宙ステーションに滞在したマウスの解析が現在進行中であり,重力変動が免疫システムに与える影響について,細胞あるいは分子レベルで今後さらに明らかになると予想される.

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宇宙飛行は宇宙飛行士の免疫システムに影響を及ぼす.宇宙飛行士に対する重力の変化には宇宙飛行の際の微小重力だけでなく,打ち上げあるいは帰還の際の過重力も存在する.このような重力の変化は生体および免疫システムにとって過剰なストレスを与えると想像される.これまでの宇宙飛行士の検体の解析から,あるいはヒトおよび実験動物や細胞を用いた地上での重力変化に対する影響を観察する研究から,免疫システムに現れる変調が明らかになってきた.われわれは,重力の変化のような過度のストレスに曝された際に免疫システムが受ける影響について,とくに免疫記憶の観点から研究を行っている.本稿では,重力変化による

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微小重力空間で生活する宇宙飛行士の骨量が減少することから,骨の代謝には重力が深く関与していると考えられているが,その詳細なメカニズムはまだわかっていない.筆者らは,水棲動物であるメダカを遺伝子操作して骨に関連した細胞を光らせ,国際宇宙ステーションに打ち上げて実験を行った.1 度目は2012 年に実施した2 カ月間の長期飼育実験で骨組織の詳細な解析を,2 度目は2014 年に実施した8 日間の短期飼育実験で蛍光顕微鏡観察と遺伝子発現変化の解析を行った.これまでに行われた宇宙空間での骨研究をまとめつつ,メダカの実験結果について紹介する.

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骨組織に対する力学的荷重は骨組織の恒常性を維持する重要な要素であり,宇宙の微小重力環境や長期臥床といった状況では,骨吸収を担う破骨細胞の分化亢進による骨破壊が進行するために不動性骨粗鬆症を発症する.骨組織に力学的荷重がかからない状況での骨破壊の要因として,破骨細胞前駆細胞の易分化性の上昇と破骨細胞分化因子RANKL の発現上昇が考えられる.本稿では微小重力における骨破壊に関するこれまでの知見を基にして,微小重力環境における骨破壊について破骨細胞の観点から概説する.今後,研究が進展して分子レベルで宇宙における骨破壊のメカニズムが明らかにされれば,宇宙における骨破壊のみならず寝たきりなどによる不動性骨粗鬆症の病態理解や特異的な治療法の開発に結びつくことが期待される.

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長期宇宙滞在および加齢や寝たきりで生じる廃用性筋萎縮は,克服すべき重要な課題の一つであるが,有効な予防法や治療法は未だ確立されていない.近年の研究から骨格筋も他のさまざまな臓器により恒常性が維持されていることが明らかとなり,このことは,新たな概念に基づいた筋萎縮治療方法の開発へと繫がる可能性を秘めている.一方で,骨格筋自身も他の臓器の機能を調節していることが徐々に明らかとなってきている.そこで,本稿では,臓器連関に着目し,他臓器による骨格筋の恒常性維持機構並びに骨格筋による他臓器機能調節について最近の知見を中心に概説する.

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長期宇宙滞在において,骨格筋の萎縮は克服しなければならない大きな課題である.モデル生物線虫Caenorhabditis elegans を用いた宇宙実験においても,微小重力が筋形成に負の影響を及ぼし,筋タンパク質に加えて細胞骨格,ミトコンドリア代謝酵素の遺伝子ならびにタンパク質発現レベルでの低下をきたすことが示された.また,静水圧をはじめとする環境や運動の変化に応答して,TGF-βシグナリングを介した筋とからだの発達が制御される.さらに,高温ストレスによる筋細胞の崩壊の分子メカニズムとして,筋小胞体からのCa2+ の過剰な流入,ミトコンドリアの断片化から機能不全,最終的に崩壊に至ることがわかり,ヒト熱中症における横紋筋融解症モデルとして利用できる.これら,われわれの最近の研究成果を中心に紹介する.

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将来想定される長期間の宇宙滞在でもっとも懸念される人体影響として,宇宙放射線被ばくによる発がんと継世代影響がある.宇宙放射線の特徴は,陽子線,中性子線に加えて,鉄イオンなどの重粒子線などが混ざりあっていること,またこれら混合放射線を低線量率で長期に被ばくすることである.宇宙環境での長期滞在が現実になりつつある今,放射線防護の観点から宇宙放射線による被ばく影響の解明は急務である.

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地球上の生物を構成する個々の細胞は常に重力を含む物理的な外力にさらされているが,重力に抗した体や臓器の立体構造形成メカニズムが存在するとは想定すらされていなかった.筆者らは,メダカを用いた網羅的な変異体のスクリーニングにより,これまでの臓器形成メカニズムでは説明のつかない体の扁平化を示すhirame変異体を見出した.hirame 変異体の解析から,重力に応答して体が発生する力を制御し立体的な形態形成を生み出す機構が存在することが初めて明らかとなり,この過程は転写共役因子YAP が司ることが判明した.遺伝子・タンパク質・細胞の挙動・組織・臓器・個体の多階層レベルでYAP がどのようにして働き,立体的な臓器と体の形成に至るのかについて概説する.

巻頭言

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破骨細胞は,造血幹細胞を起源とし,単球・マクロファージ系の前駆細胞から分化誘導される多核の巨細胞であり,その分化には間葉系細胞の支持の必要性が想定されていた.1990 年代後半に,免疫分子として同定されていたTNF ファミリーのサイトカイン,receptor activatorof nuclear factor kappa-B ligand(RANKL)が,破骨細胞の運命を決定する必須な因子であることが明らかにされ,破骨細胞研究は飛躍的な進歩を遂げている.

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1.「北京原人の骨を訪ねて」から24年 1993 年の本連載(Vol. 6 No. 1)で北京原人の骨の化石が発掘された中国の周口店を訪ねた話を書いてから,もう24年も経過した.その後になって,2004年に米国で出版され,2005年にわが国でも翻訳出版された興味ある本を読んだ.この本には周口店の石灰岩の洞窟から北京原人の骨が発見されるに至るまでに,いろんな人々が何を発見し,何を考え,どんな行動をしたか…が記載されている.そこには焦点=「周口店」・「龍骨山」に集約する,偶然あるいは奇跡とも考えられる事実の連鎖が存在していたことがわかる.

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目次

投稿規定

編集後記

基本情報

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腎と骨代謝
30巻3号 (2017年7月)
電子版ISSN:2433-2496 印刷版ISSN:0914-5265 日本メディカルセンター

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