臨牀透析 37巻2号 (2021年2月)

特集 感染症と医療安全

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透析室は血液飛散が頻回にみられる特殊な環境であり,環境表面には透析患者の血液が付着している可能性が高い.そのため,環境表面から患者や医療従事者への血液媒介病原体の伝播を防ぐ必要があり,標準予防策に加えて,環境表面に付着している血液に十分に配慮された感染対策が必要となる.環境表面は感染対策から分類すると「手指の高頻度接触表面」と「手指の低頻度接触表面」に分類されるが,環境清掃では前者を重点的に清掃することになる.また,汚れたリネン類には非常に多くの病原体が付着しているが,通常の洗濯によって,感染源になる危険性はなくなる.

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維持透析患者は細胞性免疫能の低下により,健常人と比べ感染症罹患のリスクが高く,生命予後に影響を及ぼす.透析患者の感染症による死亡は1993年以降増加傾向にあり,2018年では死因の第2位である.感染症のリスク要因として,体外循環を行う際の侵襲や,血液飛散による周囲環境の汚染に伴う血液媒介感染症をはじめ,多数の患者を同時に治療する特殊性から,インフルエンザなどの飛沫感染,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)など多剤耐性菌の接触感染などが伝播しやすい.また,医療従事者の曝露防止対策も重要である.感染症リスクを可能なかぎり低くするため,医療従事者と患者がともに日常管理および適切な観察を行うことが非常に重要である.

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透析治療は区画のない同一フロアで多数の患者に同時並行に血液の体外循環治療を行っているため,透析室の感染防止における環境整備は大変重要である.透析装置においても,操作法や清掃・洗浄・消毒を適正に行わないと感染が発生してしまうことがある.近年の透析治療は多様化が進みさまざまな透析治療が行われているため,各治療法の特徴に適した感染防止のための環境整備が必要となってくる.とくにon―line補充液を使用する治療においては,十分に管理されていないと重大な感染の危険を伴うために注意を要する.これらの安全を確保するためには,医療機器安全管理責任者の下に透析機器安全管理委員会を設置して十分に管理することが必要である.

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インフルエンザには,毎年冬季に流行する季節性インフルエンザと数十年に一度,変異したウイルスを病原体とする新型インフルエンザとがある.新型インフルエンザはほとんどの人が免疫を獲得していないため,世界的な大流行(パンデミック)となる可能性がある.透析患者はインフルエンザ重症化のハイリスク群であり,集団治療を行うことや罹患しても透析を継続する必要があることより,透析施設では特別の対策が必要である.すなわち,2020年4月に改訂された「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(五訂版)」に沿って,早期診断・治療,早期隔離,ワクチン投与,院内感染時の積極的な抗インフルエンザ薬の予防投与が推奨される.

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2018年のわが国の透析患者のHBs抗原陽性率は1.38%,HCV抗体陽性率は4.7%と以前に比べ大幅に減少しているが,非透析患者の陽性率に比較し高率である.HBV,HCVの持続感染は,患者の生命予後の悪化とともに,透析施設での医療安全対策上,問題となる.標準的な感染予防に加え,透析施設独自の感染対策が必要となる.HBVに感染すると完全排除は困難なため,感染予防のためHBs抗体価の低いHBV非感染の患者やスタッフには,HBワクチンをあらかじめ接種しておく必要がある.HCV感染患者に対し,直接作用型経口抗ウイルス薬(DAA)は,年齢やgenotypeに関係なく,HCVの排除を可能とする.DAA治療により透析患者の生命予後の改善と透析施設での感染源対策に期待がもてる.

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麻疹や水痘は空気感染し,医療施設でいったん発生すると,院内感染が拡大するおそれがある.平時の備えとして,患者および職員の免疫状態を把握し,ワクチンを接種すること,患者発生時の院内マニュアルを作成しておくことが大切である.当院で慢性腎臓病患者に配布している成人ワクチン手帳も紹介する.

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わが国のHIV感染者は累計で約32,000人に上るが,抗HIV療法が進化したおかげでHIV感染症の予後が劇的に改善しており,末期腎不全に陥る患者も少しずつ増えている.今後の見通しでは,全国で維持透析を受けるHIV感染患者が300人に達する可能性があるため,受け入れ体制を整備する必要がある.HIV感染患者の透析方法は決して特殊なものではなく,標準的予防策を遵守して実施すればよい.「HIV感染透析患者医療ガイド改訂版2019」がすでに発行されていて,感染防御の基本や透析方法,受け入れ準備などが詳しく述べられているので,受け入れは決して困難ではない.今後,HIV感染患者を受け入れるサテライトがさらに増えるよう,全国の都道府県でHIV透析ネットワークの整備が望まれる.

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ノロウイルスはわずかなウイルス量で感染が成立し,嘔吐や下痢を引き起こす.感染者から排泄されたウイルスは環境(ドアノブ,ベッド柵,リネン類,日用品など)を汚染する.さまざまな背景の人々が空間と時間を共有する透析施設は,ノロウイルスが伝播しやすい状況にある.ノロウイルス感染が疑われる症例は個室で透析を行う,あるいは,ノロウイルス感染が推測される症例とそうでない症例とは透析曜日を違えるなどの対応が望ましい.ノロウイルス感染者と思われる患者の透析後には,透析中やその前後の患者の行動により,必要範囲を設定して周囲環境の消毒を行うとよい.また,感染者の吐物や下痢便の適切な処理は,施設内感染防止の立場からきわめて重要である.ノロウイルスの消毒について,厚生労働省は加熱や次亜塩素酸ナトリウムを勧めている.

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2020年11月より始まった第3波では,一般人口の急速な感染者数の増加により,透析患者においても急速に感染者数が増加し,11月20日から12月18日までの4週間で,COVID―19透析患者数は,335人から475人(新規感染者数140人)に増加した.いまだに確立された有効な治療薬はなく,透析患者での致死率は高率であることから,感染対策がきわめて重要である.ワクチン開発の動向として,本邦での臨床適用が近いSARS―CoV―2に対するワクチンは,ファイザー社のmRNAワクチン,米バイオ製薬モデルナ社のmRNAワクチン,アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンである.いずれのワクチンも第3相試験で,高齢者を含むすべての年代で,高い有効性が確認されている.

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多剤耐性菌およびClostridioides difficile感染症は,いずれも抗菌薬の使用が要因となり,医療スタッフの手指や,汚染された器具および環境から感染する院内感染症として発症することが多い.近年は,同一菌株の伝播のみならず,耐性遺伝子を搭載したプラスミドの伝播による菌種を超えた院内感染が起こっており,制御にはより高度な知識と技術が必要となった.多剤耐性菌に有効な抗菌薬は少なく,かつ腎臓障害性など副作用に注意が必要であるものが多い.したがって,まず院内感染予防に力を入れることが最も有効な治療法となるということを強調したい.

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肺結核は年々減少しているが,透析患者数は増加してきた.糖尿病性腎症が多く,慢性腎不全・糖尿病は共に肺結核発症のリスク因子である.血液透析センターは閉鎖空間ともいえ,院内感染の報告もされている.発病時に典型的症状に欠く例も多く,発見の遅れが目立つ傾向がある.発見の目安は新規異常陰影,発熱,胸水貯留,呼吸器症状(咳嗽・喀痰)の出現,が挙げられる.迷わずインターフェロンγ遊離試験(IGRAs)や画像・喀痰検査が推奨される.死亡率は高率であるが,治療については透析用量で用いればその安全性は高く,早期発見・早期治療が重要である.さらに予防的対応として,透析導入時にIGRAsを測定してLTBI治療の導入も推奨される.

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疥癬はヒゼンダニが原因の皮膚感染症である.瘙痒が激しく,ヒト―ヒト感染するが,高齢者などでは自覚症に乏しいことがある.また透析患者や免疫機能低下者,高齢者などではヒゼンダニが皮膚全体に増数し,角層が肥厚することがあり(角化型疥癬),ヒゼンダニが数百万匹になる.そのような患者では,鱗屑や落屑に多数のヒゼンダニが存在し,看護師・介護員などを介して院内感染・集団感染に至る.早期に疥癬を鑑別し,診断することが肝要で,医療関係者は,痒みのある患者,ステロイド外用薬で軽快しない皮疹,皮膚表面に鱗屑や落屑がある患者,手首・手掌・手関節・足などの皮疹については,早急に皮膚科専門医に相談すべきである.

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JCI(Joint Commission International)は,国際医療基準に基づき医療評価を行う組織で,当院も2011年から認証病院である.JCIの国際患者安全目標(IPSG)は6項目あり,感染予防と管理はその一つである.JCIにおいて透析治療はハイリスクケア,透析患者はハイリスク患者とされているため透析室は,必ず審査対象となる.審査員は,感染予防のガイドラインの提示を求めるが,日本透析医学会の「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン」だけでなく,施設独自のガイドラインの有無を確認する.

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医療関連感染症を防ぐうえで最も基本的で重要な予防策は手指衛生である.世界保健機関(WHO)が示した「手指衛生5つのタイミング」は,①患者に触れる前,②清潔・無菌操作の前,③体液に曝露された可能性のある場合,④患者に触れた後,⑤患者周辺の物品に触れた後,である.透析開始時や終了時に,透析スタッフは頻回に手指衛生を行うが,回診時も,患者周辺の物品(患者ベッド,テーブル,カルテ,透析コンソール,透析回路など)に接触した後には,確実に手指衛生を行わなくてはならない.手指衛生の重要性を頭では理解していても,実施率は必ずしも十分とはいえない.実施率を高めるには,職員に対する教育研修,手指消毒ディスペンサーなどの適切な配置,定期的なモニタリングとフィードバックによって,手指衛生を無意識に行う「身についた習慣」,全職員の常識となる文化を構築することが重要である.手指衛生実施率を評価する方法には,①観察者による目視での観察,②ネットワークカメラによる直接観察,③自動計測装置を用いた直接観察,④手指衛生消毒薬使用量の測定,がある.

OPINION

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2020年は,5年に1回の国勢調査の年であった.これは,統計法に基づいて実施する日本国内に居住しているすべての人が対象となる全数調査で,国や地方公共団体における各種行政施策の基礎資料として利用されている.大正9年(1920年)に第1回調査が行われ,今回の調査は21回目で,実施100年の節目を迎えた.国勢調査前までは,明治5年の戸籍調査によってとらえられた本籍人口をもとに,年々の出生・死亡と戸籍変更の届けを用いて,推計人口を算出しており,正確な人口をとらえるという点で大きな問題があったということである.調査開始後は人口動態を正確に把握できるようになり,その結果は,選挙や納税などの各種法令に基づく利用や少子高齢化関連,防災関連,地域活性化関連といった行政上の施策への利用のみならず,人口学,地理学,経済学,社会学といった学術研究へも利用され,これらの分野の飛躍的な進歩に重要な役割を担ってきた.

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症 例:78歳女性 既往歴:子宮筋腫(37歳),高血圧症(56歳),2型糖尿病(64歳),横行結腸癌,横行結腸切除術後(73歳),右半結腸切除術(74歳) 家族歴:なし 生活歴:独居,飲酒歴;機会飲酒,喫煙歴;なし アレルギー歴:ピリン系薬剤 内 服:エソメプラゾールマグネシウム水和物10 mg 1錠,ビソプロロールフマル酸塩2.5 mg 1錠,ベニジピン塩酸塩4 mg 2錠,シタグリプチンリン酸塩水和物50 mg 1錠,ロスバスタチンカルシウム2.5 mg 1錠,ニフェジピン20 mg 2錠,フロセミド 40 mg 1錠 主 訴:呼吸苦 現病歴:60歳代に糖尿病を指摘され,近医にてフォローされていた.腎障害進行のため,X年に当科紹介となり,以降当科外来に通院していた.

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門脈/腸間膜静脈気腫症(portomesenteric venous gas;PVG)はおもに腸管虚血を示唆する所見であり,緊急の外科的処置を要する徴候である.しかし,PVGが保存的治療のみで改善した報告も散見される.近年では血液透析患者において透析中の一過性の低血圧により非閉塞性腸管虚血(non―occlusive mesenteric ischemia;NOMI)をきたしたが,保存的治療のみで改善を認めた症例も報告がある.今回われわれは,腹膜透析(peritoneal dialysis;PD)患者において尿路感染およびPD関連腹膜炎によると考えられる敗血症性ショックによって上腸間膜静脈気腫症をきたし,保存的治療で改善を認めた症例を経験したため報告する.

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目次

患者への感染対策の基本

前号ご案内

次号予告・頻出略語一覧

編集後記

基本情報

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臨牀透析
37巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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