臨床雑誌外科 81巻6号 (2019年5月)

特集 肝胆膵外科の臨床研究 update 2019

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肝細胞癌に対する肝移植の適応基準として,1996年に策定されたMilan基準が20年以上経過した現在も世界のゴールドスタンダードとなっている.一方,腫瘍径と腫瘍数の拡大やこれに腫瘍の生物学的悪性度を加味した新しい適応基準についての臨床研究が続いている.最近,わが国の全国集計データから移植後5年再発率10%以下,5年生存率70%以上をエンドポイントとし適応症例数が最大となる5×5×500基準(腫瘍径5 cm以下,腫瘍個数5個以下,AFP 500 ng/ml以下)が報告された.

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2007年に分子標的薬sorafenibが登場して以来,肝細胞癌に対する薬物療法は大きく変化した.遠隔転移,脈管浸潤に対する治療選択肢が増え,肝癌の進行状態でもある程度長期生存が得られるようになったが,縮小効果がとぼしいことや手足症候群などの比較的強い毒性から,sorafenibにかわる新規分子標的薬やsorafenib治療に進行性の二次治療薬の開発が精力的にすすめられてきた.しかし多くの臨床試験が10年間失敗し続けた後,2017年と2018年の2年間で立て続けに4剤(regorafenib,lenvatinib,cabozantinib,ramucirumab)が臨床試験に成功した.このうちregorafenib,lenvatinibはすでに承認され,臨床使用が可能となっている.

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肝切除はもっとも根治性な治療であるが,腫瘍学的側面から導入化学療法を先行すべき症例を選別する.肝切除術式は部分切除が基本であり,できるだけ脈管を温存する.切除限界はインドシアニングリーン(ICG)R15値と肝体積切除率に加えて,肝機能的体積切除率で決定する.肝切除の適応拡大のために,conversion chemotherapy,脈管の切除再建,門脈塞栓術,二段階肝切除,associating liver partition and portal vein ligation for staged hepatectomy(ALPPS),局所凝固療法の併用などが広く行われている.

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大腸癌肝転移に対しては,集学的なアプローチが欠かせない時代となった.切除可能な大腸癌肝転移に対しては,術前化学療法が予後を改善するという明確なエビデンスは得られていない.しかし,技術的に切除可能であっても予後のわるい肝転移群が存在し,当科では腫瘍条件によって“borderline resectable”症例を規定し,術前化学療法を行っている.一方で,切除不能大腸癌肝転移に対する術前化学療法は多くの臨床試験が行われ,複数のレジメンが存在し,手術可能となる(conversion)症例も多い.大腸癌肝切除後の補助化学療法の有用性は,いまだ確立していない.

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1990年代初頭から現在まで肝切除に関する研究は飛躍的にすすみ,手技の安定化や術後の安全性は一定の目標に達したといってよい.これらの進歩には多数のランダム化比較試験(RCT)の実績が大きく関与している.肝切除患者の周術期管理について検証したRCTを検索したところ70本余が合致した.これらを,ドレーン留置,en‑hanced recovery after surgery(ERAS),手術部位感染(SSI)対策,術後鎮痛法,肝庇護薬剤,術中輸液・麻酔,栄養・免疫賦活剤,閉腹時操作に分けて得られた結果をまとめた.

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肝移植患者の多くは低栄養であり,体組成異常を有している.したがって,正確な術前栄養評価と適切な周術期栄養管理が大切である.われわれは,入院時に体組成を含めた栄養評価を行い,個々の栄養状態に応じたオーダーメード型周術期栄養・リハビリテーション介入を行っている.2013年以降,体組成を考慮した新たな移植適応を樹立・運用し,積極的な周術期栄養・リハビリテーション介入を行うことにより,移植後短期成績がきわめて良好となった.

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膵頭十二指腸切除術はNational Clinical Databaseによると手術関連死亡は2.8%であるが,術後合併症の発生率は30~40%といまだ高率である.このため,合併症を軽減させるためのさまざまなドレーン管理および再建法の臨床試験が行われている.再建法に関する代表的な臨床試験として膵液瘻を減少させるための膵腸吻合vs膵胃吻合,膵管-空腸粘膜吻合vs陥入法,胃排泄遅延を減少させるための幽門輪温存膵頭十二指腸切除vs幽門輪切除膵頭十二指腸切除がある.膵頭十二指腸術後ドレーンは膵液瘻がなければできるだけ早期に抜去することが重要である.

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膵癌はいまだ最難治癌の一つであり,治療成績向上においては,手術のみならず術後補助療法・術前補助療法が必要である.術後補助化学療法は,現在は手術後6ヵ月間,経口フッ化ピリミジン製剤であるS-1を投与するのが標準治療である.さらなる治療成績向上をめざして,術前補助療法の研究・開発がさかんに行われている.切除可能膵癌であっても,術前補助化学療法によりさらに治療成績が向上する報告がなされ,膵癌の治療戦略が大きくかわる可能性がある.

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腹腔鏡下肝切除の至適適応を考えるとき,①腫瘍学的な適応,②肝切除として腹腔鏡手術に向いているかどうかという適応,③術者・手術チームの技量に相応した適応などの視点がある.腹腔鏡下肝切除の適応は,まず腹腔鏡下肝切除を行うべきかどうかの判断を総合的に行う必要がある.そのうえで,Difficulty scoring systemなどで難易度を客観的に評価して,導入に際しては自制的に,教育目的の症例選択として用いられることが望ましい.

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術中ナビゲーションが現在抱える大きな問題は,術前シミュレーションで計画した術式を“自動的に”術野に反映できないことである.すなわち,実際の手術で外科医は,術中イメージング技術の力を借りて術野の状況を認識しつつ,頭の中で術前計画と術野を整合させながら手術をすすめていかなければならないのである.現在われわれは,人工知能(AI)を利用した次世代Realtime Virtual Sonography(RVS-AI)の臨床研究を続けている.磁場発生装置を用いた三次元位置センサーを用いて,術中超音波画像に術前CTを自動的に同期させる技術である.現在,測定誤差は1 cm以上あり,同期のための位置合わせにかかる時間も30秒以上であるが,臨床的に有用と思われる4つの具体的応用法を見出した.今後RVS-AIは,より正確で迅速なものに進化し,肝切除を術前シミュレーションどおり行うために不可欠なツールとなることが期待されている.

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光力学診断法は,消化器外科領域のみならず各外科領域において横断的に臨床応用され,その手術支援の有用性は高く評価され,近年大きな注目を集めている.光力学診断法は肝胆膵外科領域においては,インドシアニングリーン(ICG)蛍光法を中心に解剖学的・腫瘍学的に精緻な手術を実現するnavigation surgeryの役割を担い,さまざまな手術支援に応用されている.光力学診断法のさらなる発展は,術中診断・治療成績を向上させ安全・確実な手術に寄与する大きな可能性を有している.

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胆道癌の切除後の生存率は不良であり,切除後の補助化学療法の有効性が現在検証されている.残念ながら,近年の3本のランダム化第Ⅲ相試験は術後補助化学療法の有効性を明確に示すことはできなかった.現時点では,“切除後は無治療で経過観察する”ことが基本方針である.一方,切除不能胆道癌の中には,化学療法が奏効し外科切除が再考されることがある.このような症例をどのように扱うかは今後の検討課題である.

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はじめに 腸回転異常症は新生児期に嘔吐などを契機に発見されることが多く,成人での発症はまれである1).近年,成人における腸回転異常症を合併した悪性腫瘍の手術症例の報告が散見される2~6)が,食道癌における手術症例の報告は少ない.今回われわれは腸回転異常症を合併した食道癌の1例を経験したので,再建臓器の選択において注意すべき点について若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 狭窄型の虚血性小腸炎は発症後3~8週間で狭窄症状を呈する慢性期に移行することが知られており1,2),狭窄症状の改善がない場合は外科的手術が必要となる.今回われわれは,肝膿瘍の入院加療中に狭窄型虚血性小腸炎の診断で単孔式腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.

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はじめに 類上皮血管内皮腫(epithelioid hemangioendothelioma:EHE)は,血管内皮由来のまれな非上皮腫瘍である.今回われわれは,超音波ガイド下針生検により術前診断しえた肝原発EHEの1切除例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 悪性黒色腫は早期より転移をきたす悪性度の高い腫瘍である.肺,肝,脳の順に転移するとされている.剖検例では悪性黒色腫の剖検例の15〜20%に胆囊転移を認めたとする報告もあるが,本邦での症例報告は少ない1,2).さらに腸間膜転移の報告例はなかった.今回われわれは,鼻腔悪性腫瘍切除後に,胆囊および腸間膜転移を認めた非常にまれな症例を経験したので報告する.

基本情報

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臨床雑誌外科
81巻6号 (2019年5月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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