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Multilineage-differentiating stress enduring(Muse)細胞は生体内に存在する非腫瘍性の多能性幹修復細胞である。多能性幹細胞マーカーSSEA-3を指標に同定可能であり,多様な細胞に分化する能力を有する。骨髄から末梢血に定常的に動員されて各臓器の結合組織に分配され,組織を構成する細胞への自発的な分化によって微細レベルの細胞傷害・脱落を置換し,様々な臓器の組織恒常性に関わっていると考えられている。また,傷害を受けた臓器から出されるシグナルsphingosine-1-phosphateを感知することで血液中のMuse細胞は傷害部位に集積し,同時多発的に組織を構成する複数の細胞種に分化することで傷害組織を健常組織に置き換えて修復する。しかし,内因性のMuse細胞の活性低下や広範囲な組織傷害がある場合,修復に限界がある。そのような場合には,様々なモデル動物で示されているように,外来性のMuse細胞を血液中に投与することで有効な組織修復が可能である。 Muse細胞は,遺伝子導入による多能性獲得や投与前のサイトカイン等による分化誘導を必要としない。血中投与で傷害部位を認識し集積するので,外科的手術によるアプローチも不要である。さらに胎盤の持つ免疫抑制効果に類似する機能を有するため,ドナー細胞の活用においてHLA適合や長期間にわたる免疫抑制剤投与を必要としない。ドナーMuse細胞は半年以上の長期間,ホストの組織に機能的な細胞として生着が維持されることも確認されている。現在,国の承認を受けて三菱ケミカルホールディングス傘下の(株)生命科学インスティテュートがドナーMuse細胞の点滴による心筋梗塞,脳梗塞への治験を開始している。細胞治療がドナー細胞の点滴投与によって可能となれば,医療を大きく変えることが可能である。Muse細胞の今後の展望に関して考察してみたい。