連載 愛か不安か・2
なぜ話す対象は人じゃないとダメなのか
春日 武彦
1
1成仁病院
pp.604-608
発行日 2015年11月15日
Published Date 2015/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200159
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ラブドール考
オリエント工業という会社をご存知だろうか。ここはきわめて精巧かつリアルなラブドールを製造販売することで知られている。ラブドールとは疑似セックスを行うための人形(ダッチワイフ)のうち、ほぼ等身大で鑑賞にも耐え得るだけの品質を持ったものを指す。実際、オリエント工業製は姿勢を保持するための骨格を備え、軟部組織はシリコンで作られ、造形には芸大彫刻科出身の職人までもが携わっている。視線を調整できるように目玉を動かせるし、髪は鬘をそのまま使う。サイズもおおむね実際の人間に近く、自由に服を着せ替えられる。重量は肉体のそれに近く、まさに「人間そっくり」である。いや、顔もボディーも理想的な女性ということになろう。値段は70万円近い。
どんな人がこのラブドールを購入するのか。性欲はあるが「生身の」女性との接触を苦手とする人がいるだろう。いっそ人形だからファンタジーを存分に膨らませられると考える人もいるだろう(そのような人は往々にして変態と呼ばれる)。女性との出会いという文脈で深刻なハンディをかかえた障害者の需要も結構あるらしく、それに鑑みて障害者割引が実施されているという。必ずしもモテない奴のための代替品というわけではない。
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