特集 自分を傷つける行為が止まらない人―医療者はどう捉え、かかわればいいのか
—[特集にあたって]—この分野の援助者は、知恵とスキルを共有し、仲間を作る必要がある
松本 俊彦
1,2
1国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部
2国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所自殺予防総合対策センター
pp.540-544
発行日 2015年11月15日
Published Date 2015/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200145
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今、地域で困っているのは……
精神科臨床では、「やめられない、止まらない」という病態を示す患者と遭遇することが稀ならずあります。それはアルコールや薬物といった精神作用物質の使用の場合もありますし、ギャンブルや買い物、食べ吐き、リストカット、万引き、さらには性的問題などさまざまです。こうした問題行動は、通常、「嗜癖」という言葉で一括されますが、長期的には自らの健康や人間関係、あるいは社会的な立場に致命的な結果をもたらす危険性が高い、という意味では自己破壊的行動と捉えることもできるでしょう。
最近十数年のうちに、診察室のなかでこうした病態と遭遇することはずいぶんと多くなりました。実際、地域の保健所で開催される事例検討会に参加するたびに痛感するのは、今日、地域精神保健の現場で援助者が苦慮しているのは、統合失調症や双極性障害といった「疾患」ではないということです。地域が困っている問題の多くは、むしろ自己破壊的で嗜癖的な「問題行動」なのです。もしもこうした問題行動を呈する患者を、すべからく「うちでは引き受けられません」と断る精神科病院があるとすれば、そのような病院は、これからの時代、淘汰されていくことでしょう。
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