JSES 内視鏡外科 3巻6号 (1998年12月)

特集 胸腔鏡・腹腔鏡による新しい診断へのアプローチ

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 今日,以前では考えられなかったほど多くの胸腔内,腹腔内病変に画像診断技術が応用され,われわれは多大の恩恵を受けるようになった.しかしCT,MRI,超音波診断など,これらはいずれも病変の正確な部位的,量的診断は与えてくれても,決定的な質的診断の提供については不可能なのが実情である.ここでいう質的診断とは肉眼像,さらに組織所見といった直接的な診断根拠を指すことから,上記のような画像による診断はあくまでも推測診断の範疇に属するものである.

 さて,従来より直接的な診断根拠を得るためには,何らかの方法による病変の組織採取が必要とされてきた.もちろん管腔臓器,例えば胃,食道,大腸のような消化管,あるいは気管,気管支といった気道内腔病変は内視鏡下の観察と生検が可能であるが,それ以外の実質病変については超音波ガイド下,透視下,その他の方法による組織生検を主体としてきた.しかしそれらは肉眼所見を介さない生検であり,その点では不確実性があり,また多大な危険性をともなうものでもあった.

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 種々の肺疾患診断において,胸腔鏡下手術が重要な役割を果たすようになってきた.従来の開胸術に比し,疼痛の軽減,術後肺機能低下の軽減,入院期間の短縮などの面から,胸腔鏡下手術の有用性が広く認識されている.肺疾患における胸腔鏡下手術の適応は,(1)肺腫瘤性病変に対する組織学的診断,(2)びまん性肺疾患の組織学的診断,(3)肺癌の病期診断の3つに大別される.本稿では,各々における胸腔鏡的アプローチの意義について,筆者らの成績を中心に述べた.

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 胸膜疾患に対する診断的アプローチとしての胸腔鏡は,従来からの診断方法である胸腔穿刺や経皮的胸膜生検に比べ患者への侵襲はむしろ増し,invasiveな検査に位置する.その施行は確固たる目的のもと慎重に行われるべきである.局所麻酔下での胸腔鏡では,ときに徐脈,低血圧,低酸素血症が出現するものの,検査中同モニターに注意を払えば問題なく施行できる.胸膜疾患の診断における胸腔鏡の最大の利点は,内視鏡下に胸腔を直接観察できることと,最も特徴的な病変を生検できることである.これらの利点は限局性の胸膜病変の場合や特殊染色などのために多量の検体を必要とする場合に発揮される.従来からの診断法にて確定診断に至らない胸膜炎は,胸腔鏡のよい適応である.また縦隔病変の一部においても,胸腔鏡がその診断に有用な場合が存在する.

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 婦人科領域における腹腔鏡診断法につき,当科で施行しているものを中心に概説する.近年,細径の光学視管と鉗子類が導入されてきた.従来の10mm径のものと比較して低侵襲であり,視野や明るさではやや劣るものの,腹腔内の観察や簡単な手術には十分対応できた.腹腔鏡超音波法は光学視管による直視下の観察に加え,対象物の内部構造も観察でき,より細かい診断が可能である.子宮筋腫や子宮奇形,子宮外妊娠の診断,治療に有効であった.最近,腹腔鏡下リンパ節生検の臨床応用が始まろうとしている.気腹により骨盤深部が広く展開し,開腹と遜色ない骨盤リンパ節の郭清が可能であった.

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 非触知精巣の部位診断には腹腔鏡検査が有用である.腹腔鏡検査のみで終了する症例が20%であり,また3歳以下の小児例が多いため,まず2〜3mmの細径腹腔鏡で腹腔内を観察するのがよい.ひき続き手術が必要な場合にも,最近ではそのまま腹腔鏡下に行われることが多くなっている.副腎腫瘍のほとんどは良性腫瘍であり,最近は無症候性の両側例を含む偶発腫瘍が増加している.したがって,今後は部分切除術の適応例が増すものと考えられる.その際,術中に超音波検査を行い,副腎静脈の温存が可能なことと腫瘍の残存がないことを確認することが必要である.

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 消化管疾患に対する内視鏡下診断は,主に疾患の質的診断と悪性腫瘍のstaging診断とに分けることができる.質的診断としては,特に消化管穿孔,腸管閉塞,癒着,炎症性腸疾患などの評価に有用である.内視鏡下のstaging診断は播種,リンパ節転移,肝転移などを評価するうえで従来の診断法に比べ確実性が高い.内視鏡下診断により不必要な試験開胸,試験開腹手術を減らすことができ,また急性腹症での手術時期の遅延を防ぐことができる.腹腔鏡下staging診断は本邦ではあまり受け入れられていないが,特に非治癒切除の可能性が高い患者に対しもっと積極的に導入すべきであり,そうすることによりいたずらに手術するのではなく,よりquality of lifeを考慮した治療方針をとることができると考える.

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 慢性肝疾患の診断を主体とした腹腔鏡診断学はすでに半世紀の歴史をもち,学問的に集大成されつつある、また,表面のみしか観察できない欠点も超音波検査の応用により克服されている.技術の発達から腹腔鏡そのものや周辺機器の発展は今後も続こうが,これまでの業績を大きく凌駕する診断面での進捗は期待しにくい.かかる状況下での今日的腹腔鏡の意義を問えば,腹腔鏡下外科手術の導入により外科医が腹腔鏡診断の技術をも合わせて獲得した点である.これまでの学問的蓄積を取り込めば,特に悪性疾患のstage診断に威力を発揮すると考えられる.そこで,腹腔鏡診断学を概観するとともに,悪性疾患のなかでも特に膵癌における腹腔鏡の臨床応用について述べた.

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 泌尿器科領域での腹腔鏡下手術として代表的な手術は,(1)良性腎疾患に対する腎摘除術,(2)腎癌に対する腹腔鏡下腎摘除術,(3)良性副腎腫瘍に対する副腎摘出術,(4)前立腺癌に対する骨盤内リンパ節郭清などが挙げられる.以下,各手術方法別にトロッカーの留置方法について述べる.

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 開腹による虫垂炎手術症例156例の炎症所見,入院期間,合併症について検討したところ,穿孔性虫垂炎では有意に入院期間が長く,創感染,腹腔内膿瘍の頻度が高かった.この予備研究の結論から,腹腔鏡下手術の小さい創,広い視野と良好な洗浄性が有効と考え,対象を重症虫垂炎に限定し,腹腔鏡下手術5例と開腹手術5例の臨床経過と医療費を比較した.腹腔鏡下手術では,ドレーン抜去期間,術後入院期間が有意に短く,創感染などの合併症もなく,quality of lifeに優れていた.医療費については,腹腔鏡下手術では入院料は有意に低額であったが,手術料は高額であり,総医療費としては差はなかった.重症虫垂炎に対しては,腹腔鏡下手術が臨床的に有用と考えられた.

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 われわれは疝痛発作を繰り返す胆嚢腺筋症の妊婦に対し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.症例は29歳,女性で,妊娠後早期から右季肋部痛を認め,近医にて胆石症,胆嚢炎と診断され,当院に紹介され入院となった.保存的療法で経過をみるも改善せず,経口摂取もできない状態となったため,妊娠26週に手術を施行した.手術は全身麻酔下に,炭酸ガス気腹法を用いて行った.術中,母子ともに異常は認めなかった.術後軽度の子宮収縮を認めたが胎児に異常はなく,退院後妊娠40週で健常男児を出産した.近年,妊婦に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した報告がみられるようになり,妊婦に対しても安全に行える術式であることが示唆された.

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 大腸粘膜下腫瘍の術前診断にて腹腔鏡補助下結腸部分切除を行い,腸管子宮内膜症と判明した1例を経験した.患者は33歳,経産婦で,不定期な下痢と体重減少を主訴に来院し,S状結腸に2cm径の粘膜下腫瘍が見いだされた.症状と腫瘍との関連は不明であったが,各種検査にても確定診断に至らず,悪性腫瘍の可能性を否定できないため腹腔鏡補助下に切除した.術後経過は良好で,下痢は消失し体重増加をみた.結果的にminimal accessで診断確定とともに治癒せしめ得ただけでなく,骨盤腔の十分な観察から他に同様の病変がないことを確認できた.大腸粘膜下腫瘍に対する内視鏡下手術の有用性を示す好例と考え,文献的考察とともに報告した.

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 PTCDの合併症として,PTCDチューブの逸脱はしばしば手術が必要となる.今回われわれは,PTCDチューブ逸脱により腹膜炎をきたしたため,腹腔鏡下手術によりチューブの再挿入と腹腔ドレナージを施行し,良好な術後経過を得た症例を経験したので報告する.症例は80歳,女性で,手術不能胆嚢癌による閉塞性黄疸のためPTCDを施行したが,チューブ逸脱のため腹膜炎となった.腹腔鏡下手術により肝表面の穴から鉗子によりチューブを肝内胆管へ再挿入するとともに,腹腔内を洗浄後,ドレーンを3本留置した.術後経過は良好であり,今回のような症例では腹腔鏡下手術が有用と思われた.

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基本情報

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JSES 内視鏡外科
3巻6号 (1998年12月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1341-7266 日本内視鏡外科学会

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