JSES 内視鏡外科 3巻4号 (1998年8月発行)

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特集　心臓血管外科領域における内視鏡下手術

〔エディトリアル〕心臓血管外科領域における内視鏡下手術の現況尾本　良三 3巻4号 , 1998年8月 , pp.264-268

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低侵襲心臓手術と内視鏡下手術とのかかわり

　過去10年間にわたって，入院コストの削減，外科侵襲の軽減，美容的効果の3つを主な目的として低侵襲心臓外科手術（minimally invasive car-diac surgery）の研究が強力に進められてきた．低侵襲心臓手術をめざす方法には歴史的には大きな2つの流れから出発している．1つは体外循環を用いない手術術式（off-pump）で，主として冠動脈バイパス手術（CABG）に応用されてきた．もう1つは体外循環を用いるもので，内視鏡を最大限に利用する場合（video-assisted）とそうでない場合とがあるが，いずれにしろ手術創を小さくする努力がなされている．この場合は心内操作が可能であり，当然のことながらCABGのみならず弁膜症手術や上行大動脈手術，あるいは先天性心疾患の手術も可能となる．

　体外循環を用いない方法では，体外循環による血液ダメージの回避，ヘパリン化による出血傾向の回避，感染機会の軽減というメリットがある．当然のこととして，体外循環を用いないので手術時間が短縮され，在院日数は短縮し，かつコストも安くすむといわれている．ただこのことに関しては，本当に手術時間が短縮されるのかという疑問があるし，また心拍動下で行う吻合操作の困難さから，手術早期の吻合部狭窄の危険が高いのではないかとの反論もある．

内視鏡下小切開冠動脈バイパス術—ITA take downについて渡邊　剛 , 三崎　拓郎 , 湖東　慶樹 , 島津　親志 , 土肥　善郎 3巻4号 , 1998年8月 , pp.269-273

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　小切開冠動脈バイパス術（MIDCAB）が本邦に導入されて約3年が経過した．1996年から1998年5月までに当科でMIDCABを施行した70例のうち，42例に胸腔鏡下ITA剥離を行った．初期16例に電気メスによる剥離を，後期26例にハーモニックメスによる剥離を行った．直視下剥離convert率，ITA剥離完遂率，剥離時間につき検討した．剥離時間は初期20例では1本あたり84±29分，後期20例では39±12分と有意に時間が短縮した．グラフト採取の完遂率は97.6％，グラフト損傷1例（2.4％），正中切開へのconvert率0％であった．内視鏡下内胸動脈の剥離によりMIDCABにおけるグラフト選択の幅が大幅に拡大し，従来1枝病変に限られていた手術適応は多枝病変にも可能となった．

内視鏡支援下僧帽弁手術—Video-assisted Mitral Valve Surgery 四津　良平 , 申　範圭 , 前原　正明 , 川田　志明 , 又吉　徹 , 山田　達也 3巻4号 , 1998年8月 , pp.274-282

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　われわれが積極的に行っている低侵襲小切開心臓手術（minimally invasive cardiac sur—gery：MICS）のなかでも特に内視鏡支援下で行う僧帽弁手術（video-assisted mitral valve sur—gery）のMICSについて記した．慶應義塾大学医学部外科で，1998年5月までにMIDCABを除く50例にMICSを施行した．そのうち内視鏡支援下で行った僧帽弁の手術は22例である．手術成績は，手術死亡，遠隔死亡ともになく，内視鏡支援下でのMICSが有用であり，安全に施行できることが立証できた．これらのアプローチにより，患者のQOLの向上と迅速な社会復帰を促進し，入院期間の短縮，医療費の削減をはかることができる．これらの手術は，今後，工学的支援の進化に伴いより標準化されていくことが期待される．その1つにHeartport社のportaccess systemによるvideo-assistedの僧帽弁手術があり，今後の展開が期待される．このような低侵襲化による治療法は，医学的必然であると同時に社会的要請でもある．

内視鏡下心房中隔欠損症手術澤　芳樹 , 松田　暉 3巻4号 , 1998年8月 , pp.283-286

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　心房中隔欠損（ASD）に対する低侵襲心臓手術（MICS）は人工心肺が不可欠であり，低侵襲にも限界があるが，従来標準術式として取り入れられてきた胸骨正中切開を回避することには，美容上の問題も含め意義があることが報告されている．これに比し，体外循環下に胸骨切開法を回避する術式として，胸腔鏡下手術（VATS）がChangやShettyらによって報告されている．大腿動静脈からの送脱血による体外循環が必要であるが，持続冠灌流による心室細動下に，従来の手術道具や手術手技でも行える術式であり，空気抜きや止血も問題なく，すなわち従来の術式と同等な方法で同等の安全性とqualityのもとに行える手術であると考えられ，今後種々の疾患に応用されると考えられる．そこで，ASDに対するより低侵襲をめざした術式として，VATSおよびMICSによるASD閉鎖術について，その利点や問題点を今後の展望を含め言及する．

内視鏡下動脈管遮断術前原　正明 , 古梶　清和 , 山下　行雄 , 納賀　克彦 , 大上　正裕 3巻4号 , 1998年8月 , pp.287-291

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　完全内視鏡下動脈管遮断術を1992年7月から1997年12月までの間に13例に対して行い，良好な結果を得た．対象は女児10例，男児3例で，年齢は1.7〜14.1歳（平均5.6歳），体重は10.0〜38.0kg（平均18.2kg），すべて動脈管開存症単独例である．左胸壁の小孔より内視鏡と手術器具を導入し，動脈管を剥離，露出し，チタニウムクリップにて動脈管を完全遮断した．術後合併症は，術後7日目に完全回復した軽度の嗄声を1例に認めただけであった，低侵襲のため回復が早く，術後平均3.8日目に退院した．術後観察期間は平均36.9か月で，残存短絡も全例に認めていない．本法は，クリッピング可能な動脈管に対する低侵襲の優れた治療法と考えられる．

内視鏡下大伏在静脈グラフト採取法許　俊鋭 , 金子　公一 , 錦織　吉宏 , 北條　浩 , 尾本　良三 3巻4号 , 1998年8月 , pp.292-298

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　冠動脈バイパス手術（以下，CABG）症例における大伏在静脈グラフト（以下，SVG）採取を小さな皮膚切開で行う目的で，新しい内視鏡下SVG採取法（Saitama-Olympus Tech—nique）を開発した．本手術手技の有効性を検討する目的で，44名のCABG症例と1名の大腿動脈—膝窩動脈バイパス症例において内視鏡下でSVGを採取した．男性42例，女性3例で，平均年齢は59±11歳であった．1例を除いて44例で大伏在静脈採取に成功し，採取時間は平均53±16分であった．平均皮膚切開数は2.4±0.5か所，採取したSVGの長さは平均42±12cmであった．44例の平均冠動脈バイパス数は3.4±1.0か所で，左内胸動脈（IMA）グラフトは38例で併用した．平均手術時間は270±52分で同じ手術チームの手術時間と比較して有意差はなかった．軽度の皮膚切開創周囲の発赤腫脹が2例でみられたが，1か月以内に消失した．1か月から31か月の経過観察期間で遠隔期合併症はみられず，本手術手技は創部痛の軽減と美容上の効果から患者にとって有利と考えられ，Saitama-Olympus Techniqueは臨床的に有効な内視鏡下手術手技と考えられた．

血管外科領域における内視鏡下手術内野　敬 , 石丸　新 3巻4号 , 1998年8月 , pp.299-304

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　近年，血管外科領域においても低侵襲手術として内視鏡下手術が行われるようになってきた．動脈系では，血行再建を伴わない動脈瘤の結紮切除術が行われ，大動脈—大腿動脈バイパスや腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術も動物実験から臨床に応用されるほどに発展してきた．静脈系では，一次性静脈瘤における筋膜下交通枝切離術や，深部静脈弁不全に対する内視鏡下手術が行われている．また，四肢末梢動脈閉塞による指尖潰瘍や壊死をきたした症例に対して，胸部あるいは腰部交感神経節切除術が行われている．内視鏡下手術は低侵襲で手術時間や入院日数も短く，合併症も軽度であることから，内視鏡下手術専用器械の開発により，将来的に従来の手術に代わり得る可能性もあると考えられる．

手術テクニック

肺門部血管の露出と処理淺村　尚生 3巻4号 , 1998年8月 , pp.305-308

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　胸腔鏡下肺葉切除術（video-assisted lob-ectomy）は開発途上の技術であり，したがって術式としての評価も確定しておらず，適応についても議論が多いとことろである．すなわち，“標準的な”手技や手順も未だ存在していないと考えてよい．胸腔鏡下肺葉切除術は，通常1つの小開胸創（“mini-thoracotomy”，“utility thoracotomy”）と2〜3か所のポートによって行われる．肺門に対する操作は主としてこの小開胸創から行われるので，固定された肺門へのアプローチは小開胸創からのほぼ1つの方向に限定されると考えてよい．また，小開胸創から行える手術器具の動きにも当然大きな可動制限が存在する．肋骨を開排して肋間腔を開大することは通常行わないので，肋骨の走行方向には器械はかなり自由に動きうるが，これと直交する頭尾側方向には，鉗子の先端を開くといったごく単純な動作も困難である．

　胸腔鏡下肺葉切除術の施行については，これらの制約を前提として手順，方法を組み立てなければならない．その中でも，肺門部の処理は最も技術的に困難な部分である．ここでは，肺門部の血管処理は，気管支の処理と独立して論じることができないので，気管支の処理についても併せて記載する．

基本手技シリーズ・4

トロッカーの挿入部位—腹腔鏡下手術の場合酒井　滋 , 山川　達郎 3巻4号 , 1998年8月 , pp.309-310

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　内視鏡下手術ではトロッカーの挿入部位により手術の難易が大きく影響される．それぞれの術式における定型的なトロッカーの挿入部位は文献などで示されているが，ここでは一般的な原則について述べる．

症例報告

食道癌手術において片手挿入腹腔鏡下手術により施行し得た胃管作製術の1例吉田　達也 , 竹下　公矢 , 井上　晴洋 , 本田　徹 , 河野　辰幸 3巻4号 , 1998年8月 , pp.311-316

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　現在，内視鏡下手術は複雑な操作を伴う手術に対しても応用されるようになってきている．われわれは，腹腔鏡下手術の新しい概念であるHALS（hand-assisted laparoscopic surgery）を臨床で食道癌手術の胃管作製術に導入し，完遂し得たので報告する．HALSとは，術者の片手を腹腔内に挿入して行う腹腔鏡下手術である．鉗子挿入だけの腹腔鏡下手術に比較して，鉗子（手）の可動域制限がなく，微妙な力の伝達を可能とし，触覚・温覚を有している．また，高度な運動能に加えて感覚をも有する内視鏡下手術である．HALSは，内視鏡下手術が発展過程にあり，roboticsが開発段階にある現在，有用であると思われた．

腹腔鏡下胆嚢摘出術後に発症した肺塞栓症の1例島田　謙 , 高橋　毅 , 古田　一徳 , 吉田　宗紀 , 比企　能樹 , 柿田　章 3巻4号 , 1998年8月 , pp.317-321

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　腹腔鏡下胆嚢摘出術後に発症した肺塞栓症の1例を経験した．症例は47歳，女性．腹腔鏡下胆嚢摘出術の23時間後に歩行時の眩量で発症した．症状は血圧低下と呼吸困難で，臨床検査上はSaO₂低下と，心電図所見としてSIQIIITIII,V1〜V3の陰性T波が特徴的であった．肺塞栓症を疑い，直ちに抗血栓療法を開始後，肺血流シンチで肺塞栓症と診断した．抗血栓療法の結果，術後21病日に退院した．腹腔鏡下胆嚢摘出術後に発症する肺塞栓症は，気腹下の腹腔内圧上昇と下肢静脈血還流障害による血栓形成が主要原因と考えられている．本症の確定診断には肺血流シンチや肺血管造影が必須であるが，救命のためには確定診断を待たず，早期に治療を開始することが肝要である．

鼠径ヘルニアに対するmesh-plug法による修復を腹腔内より観察した1例宮崎　恭介 , 道家　充 , 成田　吉明 , 樫村　暢一 , 松波　己 , 加藤　紘之 3巻4号 , 1998年8月 , pp.322-325

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　左再発内鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡で観察しつつmesh-plug法によるヘルニア修復術を行った1例を経験したので報告する．症例は78歳，男性．8年前，左内鼠径ヘルニアに対しBassini法を施行されている．今回は左鼠径部の膨隆と右季肋部痛にて当院を受診．左鼠径ヘルニア再発と胆嚢結石症の診断でmesh-plug法と腹腔鏡下胆嚢摘出術の同時手術を施行した．左鼠径部を腹腔鏡下に観察すると下腹壁動静脈と外側臍ひだとの間にヘルニア門を認め，同部位に外からplugを挿入するとヘルニア嚢は腹腔内に円錐形に突出した．Mesh-plug法はヘルニア嚢が腹腔内に円錐形に反転するため，同部位にかかる腹腔内圧を分散させる効果があり，この効果が再発防止に重要な役割を果たしていると考えられた．

私の工夫

LAP DISC（再気腹用腹壁ディスク）を使用した新しいハンドアシスト法腹腔鏡下手術下村　一之 , 石田　秀行 , 山田　博文 , 村田　宣夫 , 藤岡　正志 , 出月　康夫 3巻4号 , 1998年8月 , pp.326-331

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　腹腔鏡下手術は，2次元画像のもとでの遠隔操作というハンディキャップをもっている．これを改善する目的で，われわれはハンドアシスト法に用いる腹壁ディスク（LAP DISC）を開発した．この装置は，気腹を維持したままで術者の手を腹腔内に挿入し，術中の触診や，臓器の把持，牽引などを行うことができる．したがって，比較的標本の大きな手術，悪性疾患に対する手術，術中に出血などの合併症発生の可能性が比較的高い手術など，広い範囲の腹腔鏡下術式に応用が可能である．LAP DISCを用いたハンドアシスト法の腹腔鏡下手術は，これまでの腹腔鏡下手術術式の安全性，確実性の向上，手技の平易化，適応の拡大に大きく寄与する方法と考えられる．

基本情報

JSES 内視鏡外科
3巻4号
(1998年8月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1341-7266 日本内視鏡外科学会

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