JIM 6巻9号 (1996年9月)

特集 中毒―一般医はこうして対応する

中毒診療updates 山下 衛
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 ■神経ガスや青酸ガスは,古くからテロリズムなどに使われる可能性が指摘されていた.サリンは,世界ではじめて松本市と東京都の地下鉄で使われ大惨事となった.

 ■青酸ガスは,含窒素化合物が燃焼すると発生することが明らかにされており,最近,住宅や家財の窒素を含む合成剤の割合が増加していることから問題となっている.

 ■防水スプレー吸入による中毒事故が1991~1992年にかけて多数発生した.

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腸管出血性大腸菌E.Coli O157:H7感染症とは

 E.Coli O157:H7は1~5%の頻度で牛の腸内に存在し,肉(特に挽き肉)に混入して,それらを不十分な加熱調理のままで食べることや二次的にこの菌で汚染された飲食物を摂取することによって感染が起こる.この菌の産生するVerotoxinは出血性結腸炎を起こし,また腸から血中に入って諸臓器の血管内皮を傷害することによって,溶血性尿毒症症候群(HUS:細血管障害性溶血性貧血,血小板減少症,腎機能不全)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP:HUS+中枢神経症状)を約6%の例で合併しうる.まれに脳梗塞,脳出血,結腸壊死,穿孔,膵炎などを合併することがある.

中毒情報を入手する 新谷 茂
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 ■中毒情報を文献学的に効率よく収集するには,インターネットやJICST (日本科学技術情報センター)の検索システムでMedlarやIndex Medicusなどの2次資料を利用する方法がある.しかし緊急を要する場合にはPoisindexやJP-M―TOX (いずれもCD-ROM版で,後者は日本中毒情報センター販売)の利用がベターである.これらはパソコンで起因物質別に極めて迅速・簡単に目的の事項が検索できる.とくにJP-M―TOXは国内商品情報が豊富で,しかも商品情報から主要成分情報データベースへの転換がPoisindexに比べて容易にできるように工夫されている.

 ■極めて緊急を要する場合には,(財)日本中毒情報センター(JPIC)に電話で直接問い合わせれば,目的の事項を速やかに聴取できる.必要ならば目的事項の文字情報がファクシミリでも入手可能である.

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 ■急性中毒の治療に際して,中毒物質が不明な場合,また中毒起因物質に特異的な中毒症状のない場合が少なくなく,困惑させられる場合が多い.このような場合,バイタルサインも含めた確定診断へのアプローチがきわめて重要である.

 ■初療では,総合的に患者や周囲状況を検討し,推定起因物質で患者の身体所見を説明できるか否かを常に念頭に置き,生命を維持することを第一に考え,合併症対策も含めた対症療法,毒物の排除に努めなければならない.

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 ■乳児は,生後5カ月を過ぎると何でも口に持っていくようになり,昨日までできなかったことが今日はできるようになる.例えば,昨日までできなかったつかまり立ちをして,こたつの上のタバコを口に入れる.保護者がこの発達過程を十分認識していないために誤飲が発生する.

 ■乳幼児の誤飲は中毒を起こす危険性は低い.

 ■わが国の乳児の誤飲の発生頻度は世界的にみて異常に高く,畳での生活様式が関与していると考えられている。

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 ■中毒患者の初療において一番簡便な重症度評価は意識状態である.

 ■中にはパラコート中毒のように意識清明でも予後不良なものもあるので要注意である.

 ■初療のポイントは中毒物質の同定,服用時間,服用量を早急に把握することである.

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 原因物質別に臨床症状,初期治療,解毒拮抗薬,予後説明などについてチェックリストにした.収録項目は実際に中毒が発生したものを中心に選定し,50音順に記載した.その他の中毒情報は,本号の「中毒情報を入手する」を参照されたい.

Key Articles 山下 衛
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 中毒患者を目の前にして,すぐに使えるリファレンスとしては以下を挙げる.

1.日野原重明,他(監修).今日の治療指針,1996年版,p107-121,医学書院,1996

中毒物質と治療のpitfall

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 ■まず患者の全身状態を把握し,必要ならば気道を確保し,徹底的に胃洗浄することが治療の基本.

 ■患者の状態が落ち着いたら,どのような薬物を摂取したのか,情報収集に努める.

急性アルコール中毒 松永 伸一
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 ■急性アルコール中毒は意識障害である.

 ■意識障害の原因として他の疾患が潜んでいる可能性を忘れない.

 ■バイタルサインの確認を怠らない.

 ■重症例では呼吸抑制,嘔吐後の誤嚥に注意する.

シンナー中毒 郡山 一明
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 ■「シンナー中毒≠トルエン中毒」.

 シンナーにはトルエンの他,酢酸エチルやメタノールが含まれている.液相成分比でトルエン60%,メタノール10数%の一般的な市販シンナーを気化させると気相成分比はトルエン10数%,メタノール60%となり液相濃度との逆転が起こる.

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 ■小児のたばこ誤飲は中毒症状があっても一過性で治療の対象となることはまれである.

 ■たばこ誤飲の量が1本未満(吸殻2~3本未満)と判断し,症状がないか,あっても嘔吐だけなら胃洗浄,活性炭投与は不必要である.経過を観察するだけでよい.

一酸化炭素中毒 赤間 洋一
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 ■一酸化炭素中毒は密閉した場所で,炭素化合物の不完全燃焼ガスを吸入することにより発生する.

 ■本症の治療は一刻も早く一酸化炭素を洗い出すことにあり,高圧酸素療法が良い適応となる.

 ■重症例では脳浮腫対策が重要であり,間欠型の発症にも注意を要する.

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 ■急性中毒を起こす農薬は極めて多種類にわたるが患者の申告と臨床症状でその多くは診断できる.原因薬物と臨床病態から治療法が選択され予後も推定できることが多いので詳細な問診と観察が重要である.

麻薬・覚醒剤中毒 木本 正英
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 ■薬物乱用による急性中毒の治療は,致死的な合併症を念頭に置いて進めなければならない.

 わが国では,法的に規制されている薬剤の内,乱用されているものの大半を占めるのが覚醒剤で,救急医療の現場でもしばしば遭遇する.重篤な合併症も報告されており,過高熱(J1),急性循環不全を合併し急激な経過で死亡することもある.

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 ■中毒患者は原因物質を推定し得る症状を呈するとは限らないし,事故,自殺,他殺の鑑別も容易でない.また,中毒が原因で別の事故が発生することもあれば,誤って内因死とされてしまうことさえある.誤診しないように.

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 ■一般家庭用品は毒性の低いものが多いが,誰でも容易に手にはいるため,自殺企図などに用いられやすく,また,乳幼児・小児の誤飲事故も多い.初期対応のポイントとしては,まずは薬剤の種類を鑑別し,危険度の判定(高次病院へ転送したほうがいいか)を決定すること,次に適切な応急処置を行うことである.この場合,遅発性の合併症に注意を払う必要がある.また,安易に吐かせてはいけない.

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 ■誤飲した物質の毒性情報を個人のパソコンでいつでも検索できる.

 ■各医師の経験した症例を収集・解析し,その結果を臨床の場にフィードバックし,毒性情報検索だけでなく,誤飲防止の指導にも活用できるシステム作成を目指す.

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 ■乳幼児の誤飲事故が多い.

 ■電池が消化管内で停滞した場合は組織の障害が起こる.特に食道内は危険である.

 ■自然排泄も多い.

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 ■北米(アメリカ,カナダ)での毒物・薬物中毒への対応は各州・郡の主要都市に存在するPoison Control Center (PCC)を中心に極めて組織的にすすめられている.どのPCCも,その運営形態はほぼ同じなので,筆者のいるトロント(カナダ)に限って簡単に紹介してみたい.

毒蛇咬症 島津 盛一
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■必ずしも毒は注入されない.Don't be panic!

■咬傷=汚染創としての処置を基本通りにまず行うこと.

■他の咬症との違いは頻回かつ十分な経過観察を行うこと.

■抗毒素血清は伝家の宝刀.「使用せず,時を逸せず」

フグ中毒 上嶋 権兵衛
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 ■フグ中毒は,神経興奮伝導を遮断するtetrodotoxin (TTX)が原因で呼吸筋麻痺により死亡する.フグの種類,季節により毒性が異なる.

 ■TTXはフグが産生するのではなく食物連鎖の産物である.養殖フグでは毒性がみられない.

トリカブト中毒 今 明秀
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 ■トリカブトは日本各地に分布している植物で全草が有毒である.自殺企図の他に山菜と誤食して発症する.加熱すると毒性は低いが,大量摂取では心室細動となる.

 ■摂取2時間以内に口腔内しびれが発症する.嘔吐例は,不整脈治療を必要とする.

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 ■アマトキシン含有キノコによる中毒は致死的となる可能性あり.

 ■アマトキシン中毒が疑われる場合は十分な初期治療を行う.

 ■長い潜伏期など特徴的な症状その他から本症を疑ったら,診断の確定が重要.診断が確定した場合には特異的治療とともに重症肝不全に準じた集中治療が必要.

JIM臨床画像コレクション

疥癬 宮地 良樹
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 疥癬はヒゼンダニによる感染性皮膚疾患である.昭和50年代にはSTD (sexually transmitted disease,性感染症)として注目されたが,最近ではむしろ病院や保育園,寮などの集団生活内での発生が社会問題化しつつある.最初の患者を早期診断し,適切に治療すれば病棟閉鎖などの事態は未然に防げるので,正しい知識が求められる.疥癬の特徴は,夜間激痒があること,指間,外陰部,腋窩などに紅色丘疹がみられるが,顔面や頭部にはないこと,家族,同胞や同室者に同症がみられることである.夜間掻痒が強くなるのは,ダニの動きが活発になるためである.確定診断には,検鏡でダニを証明することが必要であるが,写真のような指間の丘疹(とくに疥癬トンネル),陰のうのコリコリとした結節などは,十分に本症を疑う根拠となる.介助患者の多い老人病院などでは,いったん疥癬が蔓延すると根治し難いので,入院時に十分な問診と診察により疥癬をチェックしておく必要がある.すでに疥癬患者が発生している場合には,病室や寝具類を別にするとともに,医療従事者が媒介とならないように,介助のたびに手洗いを励行しなくてはならない.最近ではSTDなどのような直接的接触による感染により,寝具や医療従事者を介した間接的接触による場合のほうが多い.

 治療としては,10%クロタミトン軟膏やイオウ含有軟膏の全身外用,ムトウハップ浴などが一般的であるが,高齢者ではイオウ外用によるドライスキンに対するケアも必要となる.

漢方診療室

接触性皮膚炎の疑い 三潴 忠道
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 ■慢性疾患では複数の証が併存することも多い.治療は先表後裏(表証を先に治療),先急後緩(急性の証から治療)が原則である.慢性の証同士では,二方剤の合方(混ぜて用いる)あるいは併用(時間を離して服用する)により同時に治療を開始することがある.

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 ■動悸を訴えて来院した感染症の2例を経験したが,それぞれ心血管疾患を有していた.

 ■感染症の患者が,動悸を強く訴える時は,心血管疾患が隠れている場合があり,注意が必要である.

一人でできるEvidence-Based Medicine・1

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連載にあたって

 Evidence-Based Medicineとは,臨床研究(J1)の結果に基づいて診断治療を行っていこうという臨床上の疑問解決の一手法である1)2).この手法という面を強調しながら,一人勤務の診療所医師でこのEvidence-Based Medicineを実践できることを目標に解説していく.

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 「人生80年」という本格的な高齢社会の到来により,高齢者の生活の質(QOL)の向上は急を要する社会問題となっている.特に女性においては,閉経というイベントを契機とするエストロゲンが消退してから過ごす期間は30有余年にもなってきたため,その対応策としてのホルモン補充療法(HRT)が行われつつある.欧米に遅れること約20年,本邦においてもここ5年くらい前からHRTが脚光を浴びている.今やマスコミにも取り上げられて,女性性の回復ばかりでなく,各種の退行期疾患に対して万能薬のような扱いまでされるなど,HRTは更年期医療のキーワードの1つとなっている.

 確かにHRTは,更年期障害と呼ばれる不定愁訴を改善することは周知であり,骨粗鬆症,高脂血症,虚血性心疾患をはじめとする退行期疾患,さらには最近アルツハイマー病にまで効果があるとの報告がなされるなど,有用性が高いことには疑問の余地はない.しかし,一方で女性ホルモン剤による癌のリスクに関してはいまだ明確な結論が出てはいない.1995年米国でHRT施行者の乳癌発生の相対危険度(リスク)が未施行者の約1.4倍であるとの報告があり,新聞でも取り上げられたことは記憶に新しい.HRTによる癌のリスクの増加について最近の報告をまとめると以下のようになる.

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 甲状腺髄様癌は家族性と散発性とに分けられる.家族性には,いわゆる家族性髄様癌(familial medullary thyroid carcinoma,FMTC)と,多発性内分泌腺腫症(multiple endocrine neoplasia,MEN)の2A,2B型の一分症である場合とが含まれる.従来,家族性髄様癌の家系調査は,甲状腺腫の有無と血中CEA,カルシトニンの測定により判定されていた.

 最近,家族性髄様癌はRET癌遺伝子のアミノ酸置換を伴う点突然変異に起因することが明らかとなった.MEN 2AとFMTCでの変異は,Codon 609,611,618,620,634の細胞外ドメインでシステインに富む領域に,MEN 2Bの変異は細胞内部チロシンキナーゼドメインのCondo 918に集中していることが証明された.欧米では,MEN 2A,2Bの家系調査を行い,血中CEA,カルシトニンの上昇がなくとも,RET癌遺伝子の変異の認められるものに甲状腺状腺切除を行い,全例に微小な髄様癌あるいはC細胞の過形成が認められたと報告されている.今後このような遺伝子診断が増えていくことが予想される.しかし,MEN 2AとFMTCが同じ変異を有すること,散発性髄様癌の症例でも,MEN 2Bと同じ変異が約1/3で検出されることなど,変異RET遺伝子だけでは疾患の表現型の違いを説明できない問題も残っている.

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 1995年11月16日付けのNew England Journal of MedicineにWOSスタディ(West of Scotland Coronary Prevention Study)が報告された.

 これは,心筋梗塞の既往がない高コレステロール血症男性患者を対象として,プラバスタチンによる冠動脈疾患の抑制効果を検討したものである.本試験では,対象者(45~64歳,血清コレステロール値;272±23mg/dl)6,595名を,プラバスタチン投与群(40mg/日)とプラセボ群に無作為に割り付け,平均4.9年間追跡調査した.その結果,プラバスタチン投与により血清コレステロール値が20%,LDLコレステロール値が26%低下し,非致死性心筋梗塞が31%減少,冠動脈疾患死が28%減少し,総死亡率も22%低下した.

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 胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome:MAS)は,成熟新生児の肺合併症で死亡率が高い.胎便で汚染された羊水が肺内に吸引され,肺胞上皮を損傷することで発症する.一見して他の合併症(心疾患や頭蓋内出血)のない成熟児が,分娩後急速に呼吸障害を示して死亡するので,両親は医療上の不手際があったのではないか,と不信感を抱くことが多い.

 胎児は子宮内で低酸素状態(intrauterine asphyxia)に遭遇すると脱糞し,これが分娩時に肺内へ吸収されるわけだから,intrauterine asphyxiaを起こさぬように妊婦管理を行い,また万一胎便排出による羊水混濁が起こったとしても,分娩直後に口鼻を拭い,あるいは喉頭展開下に気道から胎便を除去してしまえばMASはブロックできる,と素人は考える.しかし事情はそれほど単純ではない.

基本情報

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JIM
6巻9号 (1996年9月)
電子版ISSN:1882-1197 印刷版ISSN:0917-138X 医学書院

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