JIM 4巻10号 (1994年10月発行)

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特集　抗菌薬選択の基準を確立する

抗菌薬選択の基本原則

抗菌薬療法における基礎的考え方喜舎場　朝和 4巻10号 , 1994年10月 , pp.872-876

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　■抗菌薬は使用量の増加に伴い効き目が悪くなるものなので，乱用してはならない．

　■概して弱毒菌は常在的で，易耐性獲得性で，昨今compromised hostの増加に伴い，これらの菌が病原性を発揮してくることが多い．

　■血管カテーテル，気管内挿管，尿道カテーテルなどの器具は，局所的にcompromised hostを作り出すので乱用してはならない．

　■感染病巣を見付けそこから検体を採取し，塗抹と培養を行い，起炎菌に対する目処をつけるように努め，できるだけ起炎菌に対して感受性が高く，しかも狭域スペクトルで副作用が少なく，安価な抗菌薬を選択する．

Key Articles 青木　眞 4巻10号 , 1994年10月 , pp.920

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　抗菌薬使用の原則を簡単に示すものはありそうで案外と見当たらない．特に抗菌薬の開発王国とでも言うべきわが国で参考になるものは非常に少ないのである．単純に「この菌にはこの抗菌薬が効く」といった機械的なin vitroの感受性データを組み合わせるだけで治療方法を論議するには，あまりに個々の感染症患者の病態は多彩である．同じ肺炎球菌による肺炎も，個々の患者がもつ病巣の大きさ，治療開始までの時間，基礎疾患など千差万別である．

　思うに日本の今までの抗菌薬の評価はあまりにもin vitroのデータに依存し過ぎており，本当の意味で臨床的な視点が疎かにされがちであったと思われる．抗菌薬使用の原則の確立はin vitroという特殊な環境における抗菌活性も考慮に入れつつ，やはり患者の病態全体をとらえたうえで初めて可能となると言える．そのような意味で正しい抗菌薬の使用には，正しい感染症の理解，起炎菌ごとに異なる感染症の病態の理解が不可欠となる．

日常診療での抗菌薬の使い方

皮膚細菌感染症天野　隆文 , 川名　誠司 4巻10号 , 1994年10月 , pp.878-879

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　■皮膚科領域の細菌感染症では，黄色ブドウ球菌，化膿レンサ球菌などの化膿球菌により惹起される膿皮症が大部分を占める．

　■一般の感染症と同様に膿皮症も菌の種類，毒力，侵入経路，病巣の深さ，および宿主の年齢，局所的ないしは全身的防御因子により，その病像が左右される．

髄膜炎申　貞雄 , 亀井　徹正 4巻10号 , 1994年10月 , pp.880-882

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　■起炎菌に対し感受性が高く，できるだけ狭域スペクトラムで，髄液移行の良好な抗菌薬を静注で投与する．

　■経過中，症候や徴候がよくなっても抗菌薬の量は減量せず，また静注から経口に変更することなく，full doseで終了まで投与する．

　■他の感染症と異なり，大量の抗菌薬を使用するので副作用をモニターする．

上気道感染症市瀬　裕一 , 楠本　洋 4巻10号 , 1994年10月 , pp.884-885

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　■急性上気道炎の90％はウイルスによるものである．

　■安静，保温，栄養，消炎鎮痛薬，鎮咳薬などの対症療法が先行する．

　■細菌感染が合併する時抗菌薬が選択され，ペニシリン系が第1選択，その他にマクロライド系，ミノサイクリンも選択される．

肺炎―市中感染の肺炎を中心に藤本　卓司 4巻10号 , 1994年10月 , pp.886-887

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　■市中感染の肺炎の原因は肺炎球菌，インフルエンザ桿菌，マイコプラズマで，70％以上を占める．

　■起炎菌の推定と抗菌薬の選択には，グラム染色は欠かせない．

　■患者の年齢や背景因子，肺炎の臨床像も，起炎菌推定の大きな手掛かりとなる．

　■第3世代セフェム，ニューキノロンは，たいていの場合第1選択とはならない．

急性下痢症藤井　俊志 , 柏木　征三郎 4巻10号 , 1994年10月 , pp.888-889

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　■クロラムフェニコール2gを1日4回に分けて服用．解熱後1gを分服．2週間投与．その後2週間経過観察．

　■オフロキサシン800mg，またはトスフロキサシン600mgを1日4回に分服．

　■経口投与不能の場合はクロラムフェニコールサクシネート1gを1日2回静注．

胆のう炎鈴木　洋司 4巻10号 , 1994年10月 , pp.890-891

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　■胆汁への移行のよいセフェム系抗菌薬，または広域ペニシリンが第1選択となる．

　■胆管閉塞がある時は抗菌薬の胆汁内移行が悪くなるので，抗菌力の強い抗菌薬を選ぶ．無効の時は胆のうドレナージを行う．

尿路感染症―膀胱炎を中心に朝日　俊彦 4巻10号 , 1994年10月 , pp.892-893

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　■抗菌薬の常用量を低目に設定する．

　■長期（2週間以上）に連用しない．

　■熟知した薬剤を第1選択にする．

性病―初期梅毒川久保　洋 4巻10号 , 1994年10月 , pp.894-895

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　■梅毒の第1選択薬はペニシリンG　（バイシリン錠）である．

　■投与量は通常1日120万ないし240万単位（分3）で，1カ月内服させる．

　■TPHAは治癒後も長期間陽性であり，治癒の目安にならない．

夜間当直時の抗菌薬の使い方遠藤　和郎 4巻10号 , 1994年10月 , pp.896-897

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　■病歴と身体所見から，重症度を素早く的確に把握する．

　■まず感染臓器を見付け，臨床背景と塗抹検査に基づいて起炎菌を想定する．

　■起炎菌の目処が立たない時は，取りあえず広域抗菌薬を開始し，培養判明後その結果をよく吟味し，より有効かつ狭域抗菌薬へ変更する．

管の入っている患者（instrumentation）―中心静脈カテーテル感染症細谷　寿也 4巻10号 , 1994年10月 , pp.898-900

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　■Instrumentation―体内への異物留置の機会は医学の進歩とともに増加し，臨床的にはそれに伴う感染症の併発が問題の1つとなっている．

　■気管チューブ・尿道カテーテルなど多くの異物留置に伴う感染症があるが，中でもIVHカテーテルに伴うものは，ベッドサイドの管理状況や宿主状態により比較的短期間で敗血症を併発し得る．

抗菌薬をめぐる問題点

一般医が知っておきたい検体採取・検体保存の知識―血液培養と喀痰培養について平良　恵貴 4巻10号 , 1994年10月 , pp.902-903

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　■血液培養の採血時は，術者の手指と穿刺部位の皮膚消毒を十分に行う．

　■血液分注量は培地量の1／10程度が適量である．

　■喀痰検体は冷蔵庫に保存する．

　■医師は迅速な起炎菌推定のため喀痰塗抹染色と鏡検技術を身に付けて欲しい．

　■医師は可能な範囲で検査方法の概要を知っていて欲しい．

わが国の抗菌薬問題のbreakthroughを求めて松村　理司 4巻10号 , 1994年10月 , pp.904-907

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■最新で高価な抗菌薬の多量使用は，わが国の臨床現場にきちんとした感染症学や臨床薬理学が浸透していないことの反映であって，決してその逆ではない．どうすればよいだろうか？

Grand Rounds

長期にわたり肺感染症がcontrolできずMRSAが出現した症例青木　眞 , 大山　優 , 黒須　いくみ , 鈴木　富雄 , 松村　理司 4巻10号 , 1994年10月 , pp.908-916

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　「抗菌薬選択の基準を確立する」という本特集の締めくくりに，MRSA感染症の症例を検討します．抗菌薬の使い方をめぐって，必要な臨床の論理と知識を，読者と共に検討したいと思います．

JIMデータ

医師は細菌検査をどの程度利用しているか？―細菌検査の利用に関する全国自治体病院アンケート調査藤本　卓司 4巻10号 , 1994年10月 , pp.917-919

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　MRSAに代表される多剤耐性菌や院内感染の発生の背景には，抗菌薬の不適切な使用が関与していると言われている^1）．適切な抗菌薬を選択するためには，細菌検査から得られる情報をより早く，しかも十分に利用する必要がある．

　培養の最終報告には，通常3日から4日必要であるが，グラム染色やコロニーの性状などについての情報は，検査開始の当日，あるいは翌日には得ることができる．

忘れられない患者さんに学ぶ

庶民の死斎藤　芳雄 4巻10号 , 1994年10月 , pp.871

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　そのジイさんとの出会いは，私が新潟県にきて1年ほどたったころだった．20年以上も前のことである．雪が消えかけた3月末のことだったと思う．70歳過ぎの，そのジイさんが診察室に入ってきた．ふだんは別のドクターにみてもらっている糖尿病の患者さんだ．経口の血糖降下薬を1錠飲んでいた．

　雪の多いこの地方では，当時，年寄りは冬場，病院に来ないで，薬だけ処方されていることが多かった．そのジイさんも，12月ごろ診察に来たきりで，その日まで薬だけもらっていたのである．

Tips

マグネシウムと心筋梗塞溝渕　和久 4巻10号 , 1994年10月 , pp.921

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●Tips　（海外文献）連載に当たって●

　最新の海外文献から，特にプライマリケア医に有用な文献を選んで紹介していきます．訳者コメントを付記します．

総合外来

肺外結核の臨床―透析との関連松山　公彦 4巻10号 , 1994年10月 , pp.922-923

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　■感染症の原因としてまだ結核の存在を無視することはできない．胸部X線で浸潤像をみる場合，比較的容易に鑑別にあがるものだが，肺外結核（J1）の場合，診断治療に難儀することが多い．

成人病健診結果表をパソコンで作る布谷　隆治 4巻10号 , 1994年10月 , pp.924-925

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　■医療機器はより高くより高度になったが，パソコン機器はより安く，よりわかりやすくなった．

　■成人病健診結果表をパソコンで作ったので参考に供したい．

総合外来　当直医読本

抗菌薬投与にて症状増悪した咽頭痛主訴の患者奥村　徹 , 高須　伸克 4巻10号 , 1994年10月 , pp.926-927

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　■咽頭痛は極めてありふれた主訴です．EBウイルス感染による伝染性単核球症（infectious mononuoleosis）も咽頭痛を来す疾患の1つですが，抗菌薬投与により症状の増悪を引き起こすことがあります．抗菌薬を使用するに当たっては咽頭痛＝上気道炎症状＝かぜ＝抗菌薬の予防投与という単純な思考での安易な使用を避け，その適応を症例ごとに検討する習慣を身に付けておくことが大切です．

和漢診療ケーススタディ　主訴からのアプローチ・4

腰痛安藤　親男 , 後藤　敏 , 土佐　寛順 , 田中　伸明 , 川俣　博嗣 , 寺澤　捷年 4巻10号 , 1994年10月 , pp.929-933

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和漢診療の基本的な考え方

■瘀血と水毒

　寺澤　漢方の場合には，生体は気（vital energy）・血（赤色の液体）・水（無色の液体）の3つがうまく循環しながら恒常性を保っていると考えます．そして血のめぐりが滞ったのが瘀血（おけつ）という病態で，例えば臍の脇に圧痛点が出てきます．水の滞りというのは，生体の中で水分の吸収と排泄，あるいは今日的にいえば細胞内の水の量，細胞間質の水の量，循環血液量のようなものの中にdisbalanceが生じること．つまりどこかにedemaが起こるとか，あるいは逆に脱水状態になってしまうといったことは水が失調したということで水毒（すいどく）というわけです．

　土佐　痛みも漢方では例えば脊髄根のあたりの，目に見えない浮腫のような状態を想定し水毒と考えます．そういうのが良くなる可能性もあるわけです．

リアルタイムの内科診療・12

研修医のカルテ（1）高橋　治樹 , 関谷　信絵 4巻10号 , 1994年10月 , pp.934-937

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　言葉は話される．文法を意識もしないで話される．

　プロブレムリストは書かれる．

　主治医の言葉として書かれてしまう．

Palliative Medicineを日常診療に活用しよう・11

Quality of Lifeの評価（2）武田　文和 4巻10号 , 1994年10月 , pp.938-942

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■測定法（測定手段）のデザイン（図2～4）

　QOLを主観的で時間変動的な日常生活を表す指標と定義するなら，量的評価への道が開ける．これを行うためには2つの手段を開発することが不可欠となる．ひとつはデータを供給する測定手段であり，もうひとつは評価の道筋を整える実験デザイン，実施方法，分析方法である．

　測定手段とは通常質問表であるが，QOLについての患者の見解を引き出すことを目的としている．そのためには，患者にとって重要な問題を明確で的確な方法で質問しなければならない．これらは広範に及び，1つ1つの領域は"factors"（要因）から成るが，その要因を引き出す過程は手段としての質問表の価値や適切さを決めるという点で大切であり，簡潔さと包括性の間のバランスをとることが重要である．2週間という短い期間に質問を繰り返す場合もあることを考慮すると，何もかも詰め込んだ長い質問表では患者にうるさがれてしまうことになる．解決策として"core＋module"（核心項目＋部分項目）方式が開発された．一般的な質問項目を核心に置き，それに病気ごとの特殊な部分項目を加えて補う方法である．部分項目では，特別に関心ある各領域において詳細な質問をする．

一般医のための画像診断セミナー

小腸・大腸の超音波検査法湯浅　肇 , 井出　満 4巻10号 , 1994年10月 , pp.944-948

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　■小腸，大腸の走行の原則を超音波的に理解する（大腸は比較的原則的な走行をしているので同定を試みる）．

　■まず，今見ている腸管が小腸なのか大腸なのかを区別する．

　■腸管の走行をできるだけ連続して追跡するように心掛ける．

　■腸管の走行がわかりにくかったり，ガスにじゃまされる場合，腹部単純写真（臥位）と対比して超音波検査を行うとわかることがある．

イラストレイテッド臨床基本手技

骨髄穿刺・生検法小橋　良太郎 4巻10号 , 1994年10月 , pp.950-951

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　■両手技は血液疾患の診断だけでなく，全身性の疾患の診断にも必要なことがあり，プライマリケア医師はできれば両方に精通することが望ましい．大切なことは患者に痛み，恐怖心を与えず本法を施行できる能力を養うことである．

■手技習得に必要な経験例数：穿刺10例，生検5例

臨床医の産業医活動・6

かかりつけ産業医林田　一男 4巻10号 , 1994年10月 , pp.952-953

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　最近の職場における労働衛生関係の話題は多彩であり，その対応は流動的である．医学的な視野から見ても，少しずつ改革が進んでいるようである．しかし職場のドクターの考え方や対応の仕方も変化しなければならない状況下にある．

　労働安全衛生法による産業医が発足して20数年たった今，日本医師会の熱心な努力が実を結びつつある現在，産業医の活動も，1つの転換期にあると考えられる．

基本情報

JIM
4巻10号
(1994年10月発行)

電子版ISSN：1882-1197 印刷版ISSN：0917-138X 医学書院

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