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はじめに
個人的な話で申し訳ありませんが,大学・大学院の教員をしているせいか,「研究がしたいんだけど,“統計”がわからない」という声を聞いたり,「研究がしたいので“統計”を教えてください」という相談を受けることが少なくありません.やはり「研究」には「統計」が欠かせない要素のようです.そこでそうした“統計”を勉強しようとして関係書籍を開いてみても,数式が並んでいてなかなかわかりにくかったり,結局どうすればよいのかがわからなかったりするのではないでしょうか.
では,このいわゆる「統計」とは一体何なのでしょうか.本稿を始めるにあたって,少しだけ「統計」や「統計学」について考えてみたいと思います.統計学は記述統計学と推測統計学(あるいは推計学)というものに分けられます.記述統計学とは,対象となる集団を観察した結果として得られたデータから,その集団の状態をより少ない数値に集約して表現する学問,あるいは手順のことです.対して推測統計学とは,対象となる集団全体(「母集団」)を観察するのではなく,全体から抽出した「標本」から全体の性質を推測しようとする学問,あるいは手順のことです.われわれが研究で「統計」と呼んでいるものは,この推測統計学を指すことが一般的です.
例えば,ある理学療法介入による動的バランス能力の向上効果を検証するために,30名の地域在住高齢者にその理学療法を3週間実施したとします.そして3週間の理学療法の前後でファンクショナル・リーチを測定した結果,理学療法実施前に比べて理学療法実施後のほうが平均で14.7cm延長したことが明らかとなりました(例1,表1).この研究で言いたいことは,今回の被験者30名だけにこの理学療法による動的バランス能力の向上効果があったことでしょうか.たぶん,そうではないはずです.この研究では,被験者の30名だけではなく,地域在住高齢者であれば誰に対してもその理学療法を実施すれば,動的バランス能力が向上することを言いたいのではないでしょうか.このとき,被験者の30名は地域在住高齢者全体を母集団とした標本で,その標本から母集団全体を推測する手段が推測統計学,つまりわれわれが「統計」と呼んでいるものなのです.
本稿では,この推測統計学のうち基礎的なものに絞り,統計手法を選ぶ手順を4つのステップに分けて解説していきます.さらに,統計手法の選択手順で考えた知識を用いて,収集したデータの記載方法についても解説します.
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