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臨床10年目に入り,L4/5椎間関節の形成不全とL3/4癒合によりL4のすべりとL4/5の狭窄が生じ,右下肢筋力低下と重度間欠性跛行を来した.鎮痛薬や神経根ブロックにて一時的な症状緩和を図ってきたが,日常生活に支障を来し始め,仕事では6分間歩行試験中に患者さんの歩行スピードや耐久性に自分自身がついていけなくなってしまった.症状改善のために手術を受けることを決心し,腰椎すべり症に対する全身麻酔下での6時間以上の手術(椎体固定術)を受けた.その入院中に読んでいたコナン・ドイルによる「ボヘミアの醜聞」という物語のなかに「You see, but you do not observe. The distinction is clear.」1)という記載があり,この言葉が下記のことを考えるきっかけになった.
麻酔が切れ始め覚醒すると,手術室の明かりがまぶしく,痰が絡んでいるのに咳がしにくく息苦しさを感じた.その直後,吸引,抜管が行われ,すぐに咳ができ呼吸が少し楽になった.しばらくの間は声がかすれ,飲水ができず,術後3時間は酸素マスク5L/分の使用が必要であったため,口の中がカラカラの状態であった.効果的な咳嗽ができない原因の1つの咳嗽の第3相(圧縮)の人工気道による声門閉鎖不足とはこのことかと,身をもって実感した.術後翌日は,事前に採型していた硬性コルセット装着下にて離床許可が出ていたが,強い創部痛のため寝返りもままならず,1日ベッドから離れられなかった.また術後初めて歩いたときには,トレンデレンブルグ跛行が生じ思うように歩けず,「これからどうなるんだろう」という不安と情けなさ,悔しさでいっぱいになり,忘れられない体験となった.
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