とびら
重力とあそぶ
辻 清張
1
1福井県こども療育センター
pp.1
発行日 2013年1月15日
Published Date 2013/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551104164
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理学療法士になってちょうど30年になる.この拙論掲載はそのご褒美といったところか.私が臨床に出たころは神経生理学的アプローチ全盛期で,“何かのお墨付きをもっていないと理学療法士にあらず”的な風潮があった.良く言えば業界に向上心や昂揚感といったエネルギーが集積しており,悪く言えば身の丈以上の驕りが存在していた気がする.それはそれで心地よかった.
1970年代,脳性麻痺は治るか? といった議論が世界的に巻き起こっている一方で,新生児科領域では肺サーファクタント補充療法が確立し,低出生体重児の救命率が飛躍的に向上し始めたことを,私も含め当時の理学療法士は認識していなかったように思う.1985年からNICU(新生児特定集中治療室)とかかわりをもち,その後20年で1,000例を超える赤ちゃんと出会ったが,エビデンスを問われると頭を抱えてしまう.パラメータが多すぎるゆえに,早期理学療法の効果を声高らかに語るには無理がある.今も昔も赤ちゃんとその家族の笑顔に癒されるのみで,医療側から何が提供できたかはなはだ自信がない.自信がないどころか赤ちゃんからは学ぶことばかりだ.運動発達は,無重力の世界から重力にさらされた環境下に放り出されたときから始まる.要は重力とどう付き合うかである.
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