脊椎脊髄ジャーナル 32巻2号 (2019年2月)

特集 腰やお尻の痛み—非腰椎性腰殿部痛の診断と治療

特集にあたって 高安 正和
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 脊椎脊髄外科疾患を扱う医師にとって,腰殿部痛を訴える患者さんを診察する機会は多い.しかし,MRI,CTをはじめとする画像診断の進歩により腰椎疾患の診断は比較的容易となったが,腰椎疾患が否定された場合には患者さんの対応に苦慮することがある.一方,腰痛に悩む患者さんの実に約8割以上が原因の特定されない非特異的腰痛であるともいわれており,いったんこの診断が下されると脊椎脊髄外科医の関心は薄れ,患者さんは行き場に困ってしまうことも多い.ところが,画像診断から腰椎疾患が否定された非腰椎性腰殿部痛のうち,臨床症状や圧痛点などから診断が比較的容易な疾患群が存在する.今回取り上げた梨状筋症候群,仙腸関節障害,殿皮神経障害などが代表的である.また,画像上,腰椎に何らかの所見を認めるものの,患者の現在の症状と今ひとつ合わない場合にも,こういった疾患群の合併を考慮することで説明可能なことがある.これらの疾患は従来,脊椎脊髄外科医にはあまり注目されてこなかったが,最近,村上ら,井須ら,青田らのグループから積極的に報告され,再び注目されるようになってきた.これらの疾患では,手術治療まで必要となることは比較的少なく,適切な診断を下しブロック治療や運動療法などを行うことにより,多くは腰殿部痛を軽快させることが可能である.先に述べた腰椎疾患との合併が疑われる症例においても,先に非腰椎疾患に対して低侵襲な治療を行ったうえで,効果が不十分な場合に腰椎手術を行うことで良好な成績を得ることもよく経験する.そこで,今回の特集では,非腰椎性腰殿部痛について鑑別すべき疾患の診断と治療について,それぞれの専門家に記述いただくこととした.本特集は脊椎脊髄外科医のみではなく,腰殿部痛の患者さんに関わることのある医師や医療者にとってたいへん役立つものと確信している.

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はじめに

 「腰痛診療ガイドライン2012」21)によれば,腰痛の85%は原因が特定できない腰痛に分類されており,腰痛の日常診療では原因が特定できない腰痛をどのように治療していくかが重要なことである.古くから,仙腸関節障害3)や上殿皮神経障害13,23)による腰殿部痛は知られていたが,MRI,CTなどの画像診断の進歩により,これら画像診断ができない疾患については忘れられた腰痛となっていた.近年,村上ら19,20)が仙腸関節障害,井須らのグループ4,7,9,14〜16)や青田らのグループ10〜12)が殿皮神経障害(上殿皮神経障害,中殿皮神経障害)による腰殿部痛を報告し,再び注目されるようになってきた.本稿では,非腰椎性腰殿部痛を呈する殿皮神経障害(上殿皮神経障害,中殿皮神経障害)や仙腸関節障害などの腰殿部疾患の診断,治療を概説的に述べ,現時点での問題点についても言及する.

梨状筋症候群 尾鷲 和也
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はじめに

 殿部痛を生じさせる病態には画像診断が困難なものが少なくないが,梨状筋症候群(piriformis syndrome)もその代表的な病態の1つである.本病態は梨状筋によって坐骨神経が絞扼されて起こる症候群で,坐骨神経の刺激症状と軽い麻痺症状が生じるとされている12)

 1928年にYeoman19)が仙腸関節の炎症に起因する坐骨神経痛を報告したのが最初で,1947年にRobinson17)により梨状筋症候群という名称が初めて用いられた.このように病名は古くから知られ,殿部から下肢にかけての坐骨神経痛症状が生じる症候群として認識されてはいるものの,診断法が確立されておらず,本邦に限らず,欧米などにおいても積極的な治療が行われていないのが現状である3,7,18).複数の医療機関を受診しても診断がつかず,挙句の果てに精神科の受診を勧められ,途方に暮れている患者も全国にはいるはずである.

 筆者は脊椎外科を専門としているが,2001年に腰椎MRIが正常で安静時痛を伴う頑固な右坐骨神経痛症状の50歳女性例に遭遇して以来,本疾患に関心を払うようになり,その結果,本症の頻度は決してまれではないと確信するに至った.本稿では,自験手術例を中心に本疾患の疫学,病態,診断,治療などについて文献的考察も加えて記載する.

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今,欧米が仙腸関節に注目

 近年,新たな仙腸関節固定術が開発されており,特にSI-Bone社のiFuse implantシステムは,2009〜2017年までに欧米を中心に32,000例以上に施行され,北米脊椎外科学会(NASS)の推奨手術になっている.後側方からの仙腸関節固定術は簡便なうえ,成績もよいことから,世界中に普及してきている.また,2015年に第1回国際仙腸関節手術会議(ICSJS)がドイツで開催され,2018年の2月に米国で第3回が開催されるなど,仙腸関節の痛みに対する認識が徐々に世界に広がってきている.

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はじめに

 殿皮神経は上殿皮神経(superior cluneal nerve:SCN),中殿皮神経(middle cluneal nerve:MCN),および下殿皮神経(inferior cluneal nerve:ICN)から構成され,それぞれに神経障害が起こり得る.繰り返す尻餅などの外傷の後に発症しやすいICN障害はまれであるが4),SCNとMCNの絞扼性神経障害は頻度が高い1,3,7,8)

 1930〜60年代にかけて殿皮神経と腰痛を関連づける報告は散見される.諸富14)は脊椎過敏症や筋・筋膜性腰痛の病態に筋膜を貫通する皮神経が関連すると考えていた.Strongら15)や高山ら16)はSCN・MCN遮断術の有効性を報告した.1990年代に入り,SCNの絞扼性障害がMaigneら12,13)により報告された.しかし,われわれの手術経験,あるいは解剖で得た知見はMaigneらの報告とはいくつかの点で相違がある.本稿では,現時点でのSCN絞扼に関するわれわれの考え方を述べる.

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はじめに

 腰痛診療ガイドライン2012によると,腰痛の85%は原因が特定できない非特異的腰痛に分類されている.われわれはこのような原因が特定できない腰痛に関して,仙腸関節障害や上・中殿皮神経障害,中殿筋障害,梨状筋症候群などの腰椎周辺疾患に着目して治療を行ってきた2,3,7,10).上殿皮神経障害をはじめ,これらの腰椎周辺疾患についてさまざまな報告がされてきているが,中殿皮神経障害に関する報告はいまだ少ない.1957年にStrongら12)は30例,39側の腰殿部痛を起こした上・中殿皮神経の遮断術を報告しているが,57%の症例で鼠径部痛もしくは下肢痛を認め,手術により80%の症例で症状が改善した.30例中5例にあったS1-2領域の下肢症状に関しては,中殿皮神経遮断術で改善したと記載されている.その後長い間,渉猟し得る範囲では文献的な報告はみられず,近年になって2016年にAotaら1)が中殿皮神経の剝離術により腰殿部痛が改善した症例を報告し,2018年にわれわれもParkinson病に合併した中殿皮神経障害の症例報告4),および11例13側の中殿皮神経障害例に対する中殿皮神経剝離術の詳細な外科手技と,その治療成績を報告した8).本稿では,われわれの経験をもとに,中殿皮神経障害の臨床的な特徴や診断,治療について解説する.

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はじめに

 腰椎周辺には傍脊柱筋などの筋肉や末梢神経,骨盤などさまざまな組織や臓器があり,これらが原因となる腰椎周辺疾患により腰痛や殿部痛をきたすことがある.腰椎周辺疾患は的確な診断と治療により改善が得られるものの,画像での診断が困難であることから,往々にして非特異的腰痛として扱われている場合がある.近年われわれは,これら腰椎周辺疾患に注目し,積極的に介入することで良好な治療成績を収め報告してきた5,10,19).本稿では,腰椎周辺疾患の1つである中殿筋障害に対する診断および治療について概説し,中殿筋障害に関する最新の文献をレビューする.

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はじめに

 非特異的腰痛の頻度については,2001年にThe New England Journal of Medicineに発表されたDeyoらの論文1)では80%程度と報告されており,頻度の非常に高い臨床的概念である.しかし,その概念・病態については,いまだ明確でない点が多いのが現状である.腰痛の症状と単純X線所見が必ずしも相関しないことは,以前から認識されていた事実である.すなわち,単純X線所見やMRIなどの画像所見があまり診断の役に立たないような腰痛症を非特異的腰痛と分類してきた経緯があり,下肢症状を有するような腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症,重篤な脊椎病変の可能性(重度骨粗鬆症,腰椎圧迫骨折,腫瘍,感染,炎症性疾患,先天奇形など)を除外したものを総じて非特異的腰痛としてきたのである.腰痛症診断において,こうした簡単に時間をかけずに診断可能な画像診断などを重視してきたことが,非特異的腰痛をめぐる諸問題を生じさせてきた根底にあるように感じている.しかし,これも「非特異的腰痛:non-specific low back pain」という用語そのものが,欧米のプライマリーケア医により提唱されてきた概念であることを考えると,致し方がないとも考えられる.プライマリーケア医における腰痛症診療では,red flagsを除外することが最優先課題であると考えられるし,それ以外の腰痛に関しては,彼らにとってはある程度似通った運動療法や薬物治療となるため,詳細な確定診断を急ぐ必要性が乏しかったのではないかと思われる.

 そういった意味では軽視されがちな非特異的腰痛であるが,わが国の腰痛症診療を考えると,多くの腰痛症患者はこの非特異的腰痛にて病院を受診し,適切な治療を希望されているわけである.したがって,こうした腰痛に関してもまた正確な診断を行い,引き続く適切な治療を行う必要があるのである.また,医療保険システムの違いが大きいとはいえ,本邦ではこうした腰痛症患者に対してはじめから専門医である整形外科医院やクリニックで診療を行っているという診療上の大きなメリットがある.本稿では,わが国における腰痛症診断の実態調査として山口県腰痛study3)のデータを示しながら,非特異的腰痛のわが国の現状について報告する.また,丁寧な診察や問診などの重要性について述べるとともに,診断に基づく適切な腰痛症治療の可能性について示していきたいと考えている.

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 当科では1996年に,日本の中ではいち早くナビゲーションシステム(StealthStationTM)を脊椎手術に導入しました.手順としてはまず,術前に1.25mmスライスで脊柱CTを撮影し,DICOMデータとしてCD-Rに保存します.ナビゲーションのプランニング用PCにこの画像情報を読み込み,手術予定の椎骨に挿入するスクリュー径と長さを計測します.手術では棘突起にリファレンスフレームを設置し,レジストレーションを行うことでコンピュータ上の画像情報と術野における椎骨の位置関係を一致させます.レジストレーション後は術者が術野内で示す部位と方向が,コンピュータ上でリアルタイムに確認できます.

 私は1998年に大学に戻り,このナビゲーションを使った手術を上司の先生から教わりました.当時はリウマチ頸椎の患者が多く,変形し脆弱で小さなリウマチ患者の頸椎に椎弓根スクリューを挿入することは危険性を伴いました.ナビゲーションを使うことでリウマチ頸椎再建手術をより安全で正確な手術にできないかと考え,ナビゲーション支援下で椎弓根スクリューを挿入する手術の症例を重ね,2007年にEuropean Spine Journalに報告しました.その後,頸椎のナビゲーション支援手術について経験を重ねてpaperを出してまいりました(World Neurosurg 2010,Asian Spine J 2012,Eur Spine J 2014,Asian Spine J 2014,Spine J 2016,Asian Spine J 2016,Eur Spine J 2017,Spine J 2017).

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適応疾患

 腫瘍脊椎骨全摘術(total en bloc spondylectomy:TES)の適応となり得る疾患は,脊椎の悪性腫瘍(原発性および転移性),aggressiveな良性腫瘍(骨巨細胞腫や症候性血管腫など)である.転移性脊椎腫瘍では,腎細胞癌,甲状腺癌,乳癌,肺癌がTESの適応となることが多い.特に腎癌や甲状腺癌の脊椎転移は放射線療法に抵抗性であるため,たとえ肺転移があったとしても,脊椎転移が単発の場合にはガイドラインでも根治的切除が推奨されている.

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
32巻2号 (2019年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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