脊椎脊髄ジャーナル 32巻3号 (2019年3月)

特集 上位頸椎疾患に対するアプローチ—病態・診断・治療

特集にあたって 田口 敏彦
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 本特集では,上位頸椎疾患に対するアプローチをテーマとしました.ここでは,上位頸椎の病変を,後頭骨から環椎,軸椎に生じる病変として,関節リウマチ(RA)に関連する上位頸椎病変は25巻1号で特集が組まれたので,今回はRAを除く疾患について,その病態・診断・治療を特集しています.

 上位頸椎の情報を画像診断により得ることは,MRIの出現までは容易ではありませんでした.MRIの普及により比較的容易に上位頸椎の情報を得ることができるようになりましたが,中下位頸椎疾患に対するアプローチとは異なる対応が必要です.

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はじめに

 ここでは上位頸椎を,C2/3椎間板を含め,これより頭側で,斜台下端までと定義する.表 1には頭蓋頸椎移行部手術の筆者の経験を示す.大きく除圧術と固定術に分類されるが,大半は後方からのアプローチである5.6).上位頸椎硬膜内病変では,脊髄の前方病変であっても硬膜内の比較的広いスペースを活用することで,多くは後方,あるいは後側方からの到達が可能である.一方,硬膜外・脊髄前方病変に対しては前方からのアプローチが必要となる8).本稿では,病態や診断はほかに譲ることとし,主に各種手術アプローチの適応と手術の留意点について述べる.上位頸椎前方進入法としては,図 1に示す4種のアプローチが代表的である.それぞれの上位頸椎前方進入法では,進入経路に咽頭をはじめ頸動脈,椎骨動脈などの重要な組織があるため特別な配慮が必要となり,手術適応は十分に絞り込むことが大切である.①病変により神経症状を呈すること,②最大整復位においても画像上,脊髄の前方からの圧迫が解除されないこと,③腫瘍などの進行性に増大する病変,などが手術適応を考慮する条件となる.ただし,不安定性に伴う歯突起後方偽腫瘍では固定することで病変の縮小が期待できるため,早期の除圧が必要な場合を除き後方固定が優先される.

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はじめに

 インストゥルメンテーション手術に伴う椎骨動脈(vertebral artery:VA)損傷は重篤な結果を招くことがある.上位頸椎は,その形態が特殊で,個人差が大きく,変異が多いため,VA損傷に関しても中下位頸椎とは異なった注意が必要であるが,まずはその特殊な解剖の理解が必須である.重複する部分も多いが,次号(4月特大号「傍脊柱筋の機能解剖学,姿勢制御と手術アプローチ」)の拙著「頭蓋頸椎移行部後方の局所解剖とアプローチ」を併せ読んでいただけると幸いである7)

上位頸椎外傷 前田 健
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環椎破裂骨折(Jefferson fracture)

[1]病態

 1920年にJeffersonが損傷病態について初めて報告して以来,環椎の破裂骨折に対してJefferson骨折名称が使われるようになった.環椎の前弓と後弓の両者が骨折し,側塊がしばしば外側に転位する骨折型である.強力な軸圧によって環椎側塊が後頭顆と軸椎外側関節間で挟撃されると,環椎側塊は外側のほうが厚みがあるため左右外側方向にストレスが加わり,その結果力学的弱点である前弓と後弓が骨折,離開する.骨折は脊柱管が開大する方向に転位するため,単独では脊髄損傷を起こすことはきわめてまれである.ただし,頸椎他部位の骨折,脱臼などと合併して生じることも多い.強い頸部痛があり,斜頸位をとったり両手で頭を支える行為などはこの部の損傷を疑うべきである.

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はじめに

 脊髄腫瘍の分布が,長さに関連して胸髄レベルに多いことが一般的知識である.髄内ならびに髄外(硬膜内)腫瘍が上位頸髄に起こることは少ないと一般的には記載されているが6),実際には意外に多い.筆者の経験のシリーズでは,髄内腫瘍325件のうちの40件(12%)がC1,C2のレベルに発生したものであり,硬膜内髄外腫瘍313例のうち46例(15%)がC1ならびにC2の高位の腫瘍であった.本稿では,髄内腫瘍ならびに髄外腫瘍(神経鞘腫,髄膜腫)について,この部位における神経機能解剖学的特殊性,あるいは血管解剖との関連で注意すべきこと,腫瘍の特徴的な発育パターン,アプローチの選択,手術施行上の注意などについて解説する.ほかの脊椎脊髄レベルと同様,上位頸椎にも解剖上の特色があり,また脊髄の神経機能解剖的な特色もあり,外科医として腫瘍を扱うためには知っていることが必要である.

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はじめに

 環軸椎回旋位固定(atlantoaxial rotatory fixation:AARF)は,環軸関節(C1-2関節)が回旋変形した位置で固定され,有痛性斜頸を呈する疾患である.好発年齢は幼児期〜学童期であり,軽微な外傷,上気道感染,歯科口腔外科や耳鼻咽喉科領域の手術などを契機に発症するが,誘因なく発症することもある.AARFは一般に消炎鎮痛剤投与,頸椎カラー固定,Glisson牽引などの保存治療が有効で,治療予後良好であることが多い.しかしながら,再発を繰り返す症例や通常の保存治療では整復不能な症例もある.これらに対しては,Ishiiらにより提唱されたリモデリング療法が第一に推奨される8,9,11).多くの難治症例もリモデリング療法で対応が可能となり,近年観血的治療を要することはまれである.これまで陳旧性AARFについては,主にC1-2関節の病態に焦点が絞られてきたが,筆者らは陳旧性AARF例において環椎後頭関節(Oc-C1関節)での代償性の回旋変形とそれに伴うOc-C1関節の関節変形がAARFの難治化要因であることを報告した10,13).すなわち,AARF例においてはOc-C1関節の状態も併せて評価する必要があり,Oc-C1関節病変を伴う場合には,後頭骨環軸椎回旋位固定(occipitoatlantoaxial rotatory fixation:OAARF)として治療方針を検討する必要がある.本稿では,AARFの鑑別診断,急性期および慢性期のAARFの治療,Oc-C1関節の病変を伴うOAARFの治療について概説する.

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はじめに

 脊髄内に空洞が形成される病理所見を初めて報告したのは,1546年のEstienneであった.その後,1827年にOllivier d'Angersは著書の中でこの疾患をsyringomyeliaと記載している.一方で,Hans Chiariは菱脳の形成異常を報告し,これを4型に分類した.現在ではその臨床症状や発生機序の違いから,脊髄髄膜瘤の合併のないものをⅠ型,あるものをⅡ型として2型に分類することが一般的となっている.脊髄空洞症とChiari奇形との関係を初めて指摘したのは,1888年のChiariであり,本症が手術により治療可能なものであることを報告したのは1957年のGardnerであった1).これ以降,脊髄空洞症は注目されるようになり,その発症機序に関して多くの研究者が独自の説を発表していった.大きく分けて第四脳室のobex(閂)において開存した中心管から脊髄内に髄液が流入するといった説(Gardner説6〜8),Williams説29,30))と,脊髄の血管周囲腔または後根進入部から髄液が脊髄実質内に浸入するといった説(Ball & Dayan説3),Oldfield説23))であるが,いずれも十分に空洞の発生を説明しきれてはおらず,定説には至っていないのが現状である.脊髄空洞症はChiari奇形だけでなく,外傷や出血,くも膜炎やくも膜囊胞などでも発生することが知られている.これらに共通することはいずれもくも膜下腔の髄液流通障害を伴っていることであり,流通障害が解除されれば空洞が縮小することは知られている.しかし,空洞内の液体がどのような機序でどのような経路をたどり脊髄内に貯留するのかについては,いまだ十分に解明されていない.

 したがって,本症の治療戦略として,空洞によりすでにダメージを負った脊髄神経の回復は難しいとしても,いかに慢性進行性に悪化し得る状態から継続的に離脱できるかが重要である.つまり,いかに髄液流通障害を解除し,空洞症を増悪させずに縮小したままに維持できるかがコンセプトとなる.そうすることで,神経症状の改善もしくは進行の停止を目指せる.本稿では,ChiariⅠ型奇形による脊髄空洞症の病態,診断について概説し,小脳扁桃下垂から生じる個々の症例に応じた治療について,これまでの経験をもとに述べたい.

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はじめに

 ダウン症候群(Down syndrome,以下ダウン症)は,John Langdon Downにより1866年に初めて報告された.本症は21番染色体のトリソミーが原因とされ,中枢神経系,循環器系,消化管系など全身に特徴的な症状を発症する.ダウン症の出生頻度は母体年齢と相関があり,概ね25歳で1,000人に1人,35歳で300人に1人,40歳で100人に1人である.ダウン症の整形外科領域の問題は関節弛緩性とされており,本稿では環軸椎不安定症についての病態・診断・治療について概説する.

Crowned dens syndrome(CDS) 戸口 淳
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はじめに

 Crowned dens syndrome(CDS)の多くは高齢者に発症し,急性の頸部痛を主訴とする症候群である.その病態は,歯突起周囲組織へのピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate dihydrate:CPPD)結晶の沈着によるとされているが,不明な点も多い.しかし,本疾患概念の普及に伴い,近年報告例は増加してきている.今回われわれは当院で経験した症例の特徴から局所型・全身型の2型に分類し,臨床像,血液生化学検査,画像所見を検討したので報告する.

環軸椎変形性関節症 大田 秀樹
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はじめに

 後頸部および後頭部痛を主訴に来院される患者の多くは,変形性頸椎症の診断のもとに非ステロイド性消炎鎮痛剤,プレガバリンなどの投与や物理療法,硬膜外ブロックなどが漫然と行われている.痛みの原因が特定できないか,または特定しようとしていないことに理由があると思われる.C2/3以下のいわゆる変形性頸椎症はこのような保存療法にて改善することがほとんどである.しかし,環軸椎関節は変形性変化が起こるとその治療はきわめて難治性となり,しばしば手術療法を要する.その理由として,環軸関節には重たい頭部が直接加重され,可動域も大きく,滑膜関節であり炎症を起こしやすいためと考えられる.

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 腰痛は国民愁訴で第1位を占める慢性疾患であるにもかかわらず,その発症機序や病態の理解,解明は不十分であり,治療を含む腰痛の診療すべては必ずしも科学的に構成されたものではない.その結果,治療成績は停滞し,腰痛の治療成績に向上は認められていない——これは,本邦の腰痛研究の第一人者としてこの分野を牽引されてきた菊地臣一先生が編集された成書「腰痛(第2版)」において先生が示された腰痛診療に対するご認識である.かつては85%が非特異的腰痛といわれていた腰痛の病態も,昨今の最新研究ではその割合は30%程度まで低下したといわれている.しかし,それでもなお,現代社会におけるめざましい近代化と医療技術の発展の速度と比較すれば,やはりその全容が見えるようになるにはまだまだ時間を要するであろう.見えないものを見えるようにする,そして理解を進める,そのためには自分とはまったく立場や視点の違うモノ・人や考え方が集まり,融合していくことが非常に重要である.特に人工知能(AI)やロボット技術の進歩が加速し人智に近づこうとしている現代では特に重要であり,その速度は指数関数的に飛躍し留まるところを知らない.しかし,根底にあるのはやはりそれを進め,支える「ヒト」である.

 個人的なことにはなるが,私は医学の道を歩む前は某国立大学の工学部でエンジニア系研究者として消化器外科領域のロボティクスや脳神経外科領域の脳腫瘍ナビゲーションシステムに関する研究を行っていた.工学研究に従事していた西暦2000年前後の当時,80MHz(GHzではない)のCPUが「公道を走るF1マシン」と呼ばれ(通常の一般的なPCは当時33MHz程度が主流であった),さらに500MHz(今でいえば0.5GHz)のCPUを抱いたPCが「業界最速」と謳われていた.さらに,500MB(GBではない)のハードディスクが大容量としてもてはやされていた時代であり,1GBのハードディスクは一般人には手の届かない高嶺の花の存在だった.今からみればスマートフォン以下,貧弱と呼ばざるを得ないこれらのシステムを使って1つのプログラムを書き,いざコンピュータが計算実行するのに一昼夜を要したこともある.夜まで眠い目をこすってプログラムを作成し,実行ボタンを押して翌朝に無事に終了することを期待して帰宅するのだが,翌朝研究室にやってきた私を待ち構えているのは,非情にも冷酷にエラーメッセージを表示して停止したままのディスプレイであった.しばらく固まりながら絶望とむなしさであふれそうになる涙を拭いつつ自分の書いたプログラムを見直してプログラムを修正(デバッグ)した.そして,学位論文提出前は研究室の床に寝袋で寝泊まりするのが常であった.先輩方がそうしているのを目の当たりにして,自分はそうなるものか,と思っていた自分がその姿を後輩にそのまま伝承していたのである.結局,最終的に前に進むにはやはりヒトの力が重要なのだ.

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脊椎脊髄ジャーナル
32巻3号 (2019年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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