脊椎脊髄ジャーナル 29巻6号 (2016年6月)

特集 骨癒合の基礎と臨床

特集にあたって 谷 諭
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 今から25年近く前の話ですが,St. Louisで,spine surgeryのトレーニングの一環として,当時出たばかりと思われる某社のケージを用いたPLIFが紹介されました.そのケージを手に取り,「これを椎間スペースに入れちゃうのか……」とちょっと戸惑いながら挿入したことを思い出します.当時,少なくとも日本の多くの神経外科医(整形外科医も)は手に取ったことがなかったものかと思います.入れるのは少々気を使うけれど,これまでよりも強力な初期固定が得られることは間違いないことは理解できました.しかし,その講義の最中に何回となく発せられたメッセージは,“bone is gold standard”でした.その強力な初期固定を得るためのごついケージを眺めているとき,そこに至るまでのPLFなどをはじめとする脊椎固定における骨癒合率を上げるための先達の整形外科の先生方のご苦労・アーカイブズを思い出しました.

 それから日が経っても,脊椎外科の基本的エッセンスは変わることはありません.神経外科医の僕ではありますが,ここで言いたいことは,決してfusion surgeryの勧めということではなく,骨格系の再建を熟知せず脊椎手術を行うことは望ましいことではないということです.そのような意図から,あらためて総論的に脊椎外科における骨癒合の基礎と臨床という話題を企画した次第です.

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はじめに

 200数個からなるヒトの骨は,水生動物が陸生動物へと進化を遂げた時期に,重力に拮抗し個体を支える支持組織として,またカルシウムの出納に関わる貯蔵庫としての機能を獲得した.長らく骨は運動器官やカルシウム代謝に関与するホルモン標的器官としてのみ認識されてきた.しかし,近年の分子生物学の発展とともに,骨自体がホルモンを産生し生体の恒常性の維持に寄与する内分泌器官としての側面や造血幹細胞の維持に関与し血球分化に寄与する造血器官としての側面など多彩な役割が明らかとなってきた7,17).骨は,常にリモデリングが営まれており,ヒトでは1年間で約10%の骨が入れ替わるといわれている21).リモデリングは,骨表面に存在する骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収,さらに骨の深部に埋め込まれた骨細胞の相互作用により制御されている.本稿では,骨の代謝に関わるこれらの細胞たちに焦点を当て,近年明らかとなりつつある新しい知見も含めて概説したい.

骨折の治癒過程 中島 新 , 山崎 正志
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はじめに

 運動器疾患を扱う整形外科において,筋骨格系の外傷は日常診療において最も頻繁に遭遇する疾患である.米国では毎年約3,300万人が筋骨格系の外傷を負うといわれており,これは米国民100人あたり13.8回の頻度にあたる.この中でおよそ620万件が骨折によるものである44).骨折治療の基本は整復と固定であり,手術方法や固定材料の開発など近年の整形外科学および材料工学の進歩によって,多くは満足のいく結果を得ることが可能になった.しかしながら,今なお5〜10%に遷延治癒や偽関節に至る成績不良例が存在することも事実である36)

 骨折治癒過程は,損傷した骨組織が機械的負荷に耐え得る強度を回復するための複雑な生理反応である.骨がほかの組織と大きく異なるのは,損傷を受けてもほとんど瘢痕を残すことなく再生できるという点である.これは,治癒過程の異なったステージにおいて必要な細胞群がオートクライン,パラクラインに特定の細胞内情報伝達を行い,細胞分化,基質合成などの一連の生物学的反応が精巧な制御の下に行われているからである.しかしながら,ある病態ではこの一連の生物学的イベントが円滑に進行しないために遷延治癒や偽関節に至ると考えられる.以上のことから,安定した骨折治療法の確立には手術方法や固定材料の開発だけでは不十分であり,細胞生物学,分子生物学の面から治癒過程に出現する一連の生物学的イベントを理解しておくことが重要である.

 骨組織が非常に高い再生能力をもつ理由として,基質内に細胞成長因子が豊富に蓄積されていることが考えられる.今から約50年前にUrist53)は移植骨の基質内に骨新生を誘導する因子があることを発見し,bone morphogenetic protein(BMP)と名づけた.その後,Wozneyら57)によってBMPファミリーのクローニングが行われ,現在までに約20種に及ぶヒトBMPファミリーに属するタンパク質が同定されている.さらに,骨基質にはBMPのほかにfibroblast growth factor(FGF),transforming growth factor-β(TGF-β),insulin-like growth factor(IGF)などの細胞成長因子が豊富に存在することが知られている.これらの細胞成長因子は免疫組織学的手法やin situ hybridizationなどの分子生物学的手法によって骨折治癒過程に発現していることが示されている5,7,22,34,42).近年,遺伝子工学の発達によって大量のタンパク精製が可能になると,BMPを中心に細胞成長因子を用いた骨折治癒促進の研究が盛んになった28).われわれも塩基性線維芽細胞増殖因子(basic FGF:bFGF)をラット大腿骨骨幹部骨折に局所投与し,その効果を検討した36,37)

 本稿では,これまでにわれわれが行ってきたbFGFによる骨折治癒への効果のほか,近年,強力な骨形成作用をもつペプチドとして骨粗鬆症治療で広く使われているヒト組み換え型副甲状腺ホルモン(recombinant human parathyroid hormone:rhPTH)による骨折治癒促進効果,また,遷延治癒,偽関節との関連が深い糖尿病における骨折治癒遷延のメカニズムを中心に,最近の骨折骨癒合研究について文献的考察を加えて解説する.

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はじめに

 自家骨移植は大きく分けて,腸骨による骨移植と,局所骨による骨移植に分けられる.しかし,移植骨の移植後の動向を詳細に調べた検討は少なく,特性を知ったうえでの骨移植を行うことが望ましいと考える.したがって,自家骨移植に関して,①自家腸骨移植と局所骨移植で差はあるか?,②椎体間移植骨の体積変化はどのようになっていくか,以上の2点を中心に報告する.

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はじめに

 本稿では,脊椎手術に必須である骨移植に関しての疼痛対策につき述べる.

 骨移植を必要とする手技は,近年人工生体材料の進歩などでその頻度は減少しているものの,やはり自家骨の重要性に変わりはない.しかし,採骨部の疼痛をはじめとし術後の合併症の問題は必ずしも解決していない.そこで,特に術後疼痛の対策につき,その手術方法のコツや注意点,硬膜外注入などの鎮痛薬の有用性を検討し述べる.

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はじめに—骨バンクとは

 本邦の骨バンク設立は1953年の天児らが嚆矢とされ,その歴史は意外と古い.しかしその後,残念ながら欧米とは異なり,本邦における骨バンクが発展しているとはいいがたい.

 1978年には北里大学の山本・糸満らにより本邦で初めて非生体ドナーから骨採取が行われた1)ものの,2000年になってやっと診療報酬の骨移植術に「自家骨以外」の項目が設定され,同種骨移植が法により認められた.これはあくまで手術手技料であり,同種骨の採取・処理・保存に関わる費用は算定できなかった.また,他施設からの依頼を受け供給(シッピング)した場合,その費用を請求することもできなかった.結局,同種骨摘出・処理・保存に関わる費用はバンクが負担せざるを得ない状況におかれていた.

 1997年に臓器移植法が制定され,本邦においても脳死から一部の臓器移植が可能となった.しかし,本人の意思確認が必須であったため,ドナーの数はきわめて少なく,臓器移植を推進するのではなく禁止する法律であるといった揶揄を受けていた.

 2010年に改正臓器移植法が制定され,7月に施行された.本人の意思確認が必須ではなくなり,家族の同意でドナーになることが可能となった.

 脳死後の臓器提供者が増加するということは,骨を含めた組織提供者が全国各地に増えることを意味している.このような社会のニーズに応えるべく,すなわち全国で発生する可能性のある骨提供者の意思を尊重すべく,日本整形外科学会は全国に骨摘出チームを編成すべきである.

 現状では,厚生労働省の委託を受け,日本組織移植学会は計9つの組織バンクを認定している.骨バンクとして認定されているのは北里大学病院骨バンク(神奈川県),熊本県骨バンク協会(熊本県)と東海骨バンク(愛知県)であるが,全国の同種骨供給ニーズをみた場合,バランスがとれていないことは明らかである.

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はじめに

 脊椎・脊髄外科の治療では,脊椎固定術は避けて通れない主要な手術法の1つである.脊椎固定術に際しては,従来から行われている自家骨移植が安全で骨誘導能にも優れており,ゴールドスタンダードである.しかし,採骨に伴う手術侵襲の増加,採骨部の諸問題(疼痛,骨折,神経麻痺,血腫,感染など),採取できる形や量に制限があるなど,いくつかの短所も挙げられる.同種骨は骨誘導能があり,量的な制限もないため,応用範囲が広く,欧米では頻用されている.本邦でも徐々に広まりつつあるが,いまだ供給の環境が整備されていないため,限られた施設でしか利用されていないのが現状であろう.一方,人工骨は安全性が担保されており,入手がきわめて容易である.また,用途に応じてさまざまな種類〔βリン酸三カルシウム(β-TCP)orハイドロキシアパタイト(HAp),顆粒体orブロック体,多孔体or緻密体など〕を選択できるといった利点を有している.近年では,pedicle screwやcageなどimplantの進歩により,移植骨自体に求められる力学的強度や骨癒合に要する時間に対する要求は以前より余裕がもてるようになったため,人工骨がより使用しやすくなっている.今後,minimally invasive spine stabilization(MISt)やLLIF(OLIFやXLIFなど)などの低侵襲手術が盛んになるにつれ,人工骨の利用頻度も増えていくものと推察される.

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はじめに

 骨再生治療は一般的に,骨の自己再生能力で治癒が困難である外傷後・腫瘍切除後の広範囲骨欠損や偽関節を対象としている.一方,脊椎分野における骨再生は,病的に生じた脊柱不安定性の治療(脊椎すべり症など)および変形治療目的の手術により生じる脊柱不安定性を早期に骨癒合させ安定させることを目的としている.広範囲の骨欠損症例が少ないことと,介在している関節面や椎間板腔を骨組織で癒合させることを目的としていることが特徴である.骨形成量が多くないことから骨を造るという観点からのハードルはそれほど高くないが,周囲に神経組織などがあるため骨形成過程で生じる副作用をいかにコントロールするかが課題となっている.脊椎固定術の件数は人工膝関節や人工股関節手術を上回る頻度で増加していること,健康寿命の延伸や低侵襲手術の進歩により,骨質および骨形成能が低下した高齢者を対象とする頻度が増えていることから,骨癒合不全や偽関節によるQOL低下やインプラント折損による再固定手術などを抑制するため骨再生治療の脊椎領域への応用のニーズは高まっている.また,脊椎固定術における偽関節率は10〜20%と報告され,危険因子として報告される高齢,喫煙,糖尿,女性などはまさに腰椎すべり症や脊柱変形の治療対象となる患者像と一致する.自家骨・同種骨・人工骨による骨癒合・骨再生は他稿に譲り,本稿では生物学的な骨再生の現状および将来につき述べたい.

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 脊椎脊髄領域において,診断や手術を含めた治療は飛躍的に向上し,かつては治療が難しかった疾患に対しても適切な診断や治療を行えることは脊椎脊髄病医冥利に尽きる.一方,患者数の増加とともに専門性も高まり,脊椎脊髄疾患に関わる医師はますます忙しくなっている.その中で,世間では物事の“質”に敏感になってきており,今年も自動車燃費の品質問題や,産地偽装に伴う食品や製品の“質”に関する問題が世間を賑わせている.“医療の質”を問う声も当然高まっており,説明義務違反や医療過誤に対する細心の注意はもちろん,良質な医療提供のために医師が果たすべき責任は,さらに大きくなっているのが現状である.

 病院の医療の質向上のために,“病院機能評価”がある.平成9年4月(奇しくも私が研修医1年目に),日本医療機能評価機構が病院機能評価の事業を開始した.病院機能評価は,病院が組織的に医療を提供するための基本的な活動(機能)が,適切に実施されているかどうかを評価する仕組みであり,評価の結果明らかになった課題に対し,病院が改善に取り組むことで,医療の質向上を図るものである.当院の病院機能評価更新にあたり臨床分野の病院リーダーを拝命し,約1年半,審査前の準備を経験したので,脊椎脊髄外科医の視点を交え紹介したいと思う.

Case Study 脊椎脊髄疾患—神経内科医の眼・8

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はじめに

 顔の半分が赤くなるとか半分だけ汗をかく/かかないという訴えがあるとき,皆さんはどのように考えますか? 体質ですか? 気のせいですか? 自律神経,すなわち血管運動神経や発汗神経に関係がありそうと考えますか? 脊椎脊髄と無関係ですか?

症例から学ぶ:画像診断トレーニング・第37回

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症例

 2歳2カ月,女児.

 1カ月前より走らなくなり,右側に沈むような歩き方をするようになった.

 骨盤部単純X線写真(図1a),骨盤部MRI STIR(図1b,c),腰椎MRI T1強調像(図1d),T2強調像(図1e)を示す.

問題

 最も考えられる診断はどれか.

 1)Langerhans細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)

 2)白血病

 3)転移性骨腫瘍

 4)多発性骨髄腫

 5)Ewing肉腫

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
29巻6号 (2016年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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