脊椎脊髄ジャーナル 29巻5号 (2016年5月)

特集 さまざまな基礎疾患・病態を有する症例に対する脊椎固定術

特集にあたって 花北 順哉
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 近代の脊椎・脊髄外科を手術手技の観点から捉えてみると,手術用顕微鏡下に行う繊細かつ正確な除圧操作を遂行し得る能力と,各種内固定器具を適切に使いこなせる力量を兼ね備えた者が最も優れた外科医であり,この両者を実施し得る所が最も優れた施設であると思う.このような外科医になるべく,また,このような施設をつくり上げるべく日々努めてはきたが,「いまだ道遠し」の感が強い.

 今回の特集では,この要求される2つの課題のうち,後者の脊椎固定術を取り上げた.側弯症を対象に開発された内固定器具による脊柱矯正固定術は,その後,外傷・腫瘍症例のみならず,脊椎変性疾患に対しても順次適応が広げられてきた.今日では脊椎手術の重要な手技となっており,その手術成績もかなりの程度,満足のいくものとなってきている.しかしながら,今回の特集で取り上げたテーマは「いわゆる一筋縄ではいかない」さまざまな病態を有する患者群に対する脊椎固定術である.その背景となる病態としては「透析患者」「骨粗鬆症」「脳性麻痺・Parkinson病」「関節リウマチ」「DISH/ASH」「小児・ダウン症候群」である.

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はじめに

 腰椎透析脊椎症の手術成績は短期的には良好であるが,中期的には成績不良例が増加し,決して満足できるものではない.そこで本稿では,透析患者の腰椎病変の病態,手術法について述べるとともに,治療上の問題点について触れる.手術療法については,過去24年における当院での術式の変遷を振り返り,最近の手術術式を述べる.

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はじめに

 高齢化社会を迎え,骨粗鬆症による骨折を治療する機会が急増した.骨粗鬆症性椎体骨折は保存的治療で良好な経過が得られる症例が多いが,一部の症例では高度の椎体圧潰変形や偽関節に陥ることがある.偽関節のリスクファクターとして,後壁損傷や高齢者,軽微な外傷による骨折などが報告されている8).また,骨粗鬆症性椎体骨折のうち遷延治癒になる症例は14%という報告があり5),骨癒合が得られないことにより頑固な背部痛や遅発性の神経障害をきたすため,生活の質は著しく損なわれる2).こうした難治症例に対する外科的治療は,諸家によりさまざまな工夫が報告されているものの,いまだ問題点が多い.骨脆弱性のためinstrumentationによる固定力に限界があり,どの術式においてもある程度のスクリューのルースニングや矯正損失,また固定周囲に近接した新たな続発性椎体骨折を発症する4,6,7,9).また,高齢者に対する手術のために併存症への対応が必要になることが多く,ときによっては手術侵襲が深刻な全身的合併症を起こし得る.そのため,本疾患に対する術式には,良好な脊柱の再建と,高齢者への手術侵襲のバランスが重要である.骨粗鬆症が原因の骨折がその後の患者の生存率にマイナスに影響することが過去に報告されているが1),椎体骨折後偽関節に対して手術を施行された患者の生命予後については報告がない.

 本稿では,①当科で骨粗鬆症性椎体骨折後偽関節に対して手術を受けた患者の生命予後と,②術後の矯正損失(平均観察期間33カ月)ならびに臨床症状への影響,③矯正損失のリスクファクター,について検討し,文献学的検証を加えて考察した.

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はじめに

 Parkinson病とアテトーゼ型脳性麻痺は,筋緊張異常と姿勢保持異常により,重大な脊椎障害を合併するリスクの高い疾患である.手術を行った場合に,早期もしくは遅発性に合併症をきたしやすい点で共通している.しかし,手術適応や手術範囲,手術方法にコンセンサスがなく,いまだ脊椎外科医泣かせの疾患である.本稿では,自験例と文献的考察から,両疾患に対する脊椎固定術の適応とその問題点を解説する.筆頭著者は脳性麻痺の頸椎手術に携わる機会が多く,共同著者はParkinson病の胸腰椎病変に挑んできた立場から,それぞれの苦い経験を踏まえた症例を提示し,両疾患に対するインストゥルメンテーション手術について今後の課題を提起したい.

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はじめに

 関節リウマチ(RA)において頸椎は高頻度に障害され,さまざまなタイプの頸椎病変を生じる.このRA頸椎病変は,一般的には上位頸椎部での環椎横靭帯の破綻による環軸椎前方亜脱臼(AAS)に始まり,その後非整復性AASや垂直性亜脱臼(VS)へと進行するとともに,中下位頸椎部では軸椎下亜脱臼(SAS)を生じ,神経障害を起こす4,19).これらのRA頸椎病変に対する外科的治療に関しては,環軸関節固定法や後頭骨頸椎間固定術などの手技やその臨床成績についてさまざまな報告がなされている2,5,6,15,28).しかし,主にムチランス型RAにみられるAAS+VS+SASのような全頸椎に病変を生じた重症例(重度破壊性頸椎病変と称する)に対するまとまった治療報告や長期成績の報告は少ない3,16,29)

 本稿では,われわれが行ってきたRA重度破壊性頸椎病変に対する後頭骨-胸椎間固定術の変遷と長期経過について述べていきたい.

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はじめに

 小児,とりわけ非外傷性乳幼児頭蓋頸椎移行部(craniovertebral junction:CVJ)病変の症例数は限られている.その中でも頭蓋頸椎不安定性を伴い,固定術が必要となる症例はきわめてまれである.対象となる疾患は成人と異なり,何らかの発生的要因を背景としたCVJ骨奇形に合併することが多い.骨奇形の発生そのものも,全身骨代謝性疾患に由来する場合があり,原疾患に関する正確な情報が必要となる.骨奇形の外科解剖理解のためには,複雑なCVJの発生学的解剖の知識が不可欠になる.

 小児においては,成人における手術適応基準・手術経験が直接応用できないことも少なくない.骨脆弱性・未熟性(サイズ・骨化強度など),さらには奇形性脊椎異常を伴うため整復が困難なことが多く,成人における固定術の標準であるspinal instrumentationの適応となる症例は限られてくる.そのため,小児,とりわけ乳幼児においては古典的な移植骨とケーブルによる後方固定術の占める割合が高くなる.必然的にHalo外固定術の併用が必要となることが多くなるが,ここにもまた小児特有の合併症・問題点が存在する.

 本稿では,自験例をもとに小児CVJ病変に対する頭蓋頸椎後方固定術につき,小児例特有の問題点を中心に記述する.

ダウン症候群 高橋 立夫 , 須崎 法幸
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はじめに

 筆者は1989〜2016年の間,名古屋医療センターにて脊椎・脊髄外科を中心に診療してきた.小児例も幸いにも長期間(最長26年)のフォローアップができたが,本稿では,患児およびご両親とともに苦労をして治療してきたことがよかったか否かも含め報告し,今後の治療に役立てればと思われる.

 小児例でもとりわけ,常染色体異常が原因といわれているダウン症候群(Down syndrome:DS)に合併した頭蓋頸椎移行部骨奇形の環軸椎脱臼(atlantoaxial dislocation:AAD)の治療について報告する.

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はじめに—diffuse idiopathic skeletal hyperostosis

 1950年,Forestierとその弟子であるRotés-Querolにより,“senile ankylosing vertebral hyperostosis”として報告された骨増殖症は,その後に脊椎のみならず全身に発症し得ることが知られたため,1976年にResnickとNiwayamaにより“diffuse idiopathic skeletal hyperostosis(DISH)”として提唱された.Forestier以降,同様の報告例はあったものの,Resnickらの報告はそれまでの報告と異なり,以下に示す診断基準を提示したことで明瞭な病態として認識され,現在でも多くの論文で引用されている.診断基準は,①“flowing”と形容される石灰化または骨化を少なくとも4つの連続した椎体で認めること,②罹患領域で,椎間板腔が比較的保たれていて,vacuum現象や椎体辺縁の骨硬化などの椎間板変性を示唆する所見を認めないこと,③仙腸関節部でのerosion,硬化,骨癒合を認めないこと,のすべての条件を満たすことが必要である.本邦では,現在でも強直性脊椎骨増殖症(ankylosing spinal hyperostosis:ASH)として呼ばれることがあるが,Pubmedによる検索では1990年以降でタイトルにASHとして記載された英語論文は3本のみであり,いずれも日本人の著者によるものである.2000年以降,英文ではDISHもしくは強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)を含めてankylosing spinal disorder(ASD)として報告されることが圧倒的に多く,本稿ではDISHに統一して記載を行う.

 DISHは全身的な非炎症性の疾患であり,その骨化形態は腱や靭帯,関節包が骨に接着するenthesisに発症することが特徴とされる.現在までにその原因の特定はできていないが,大血管を避けて骨化が進展することから力学因子13,18),COL6A1などの遺伝子因子16),ビタミンA,合成レチノイドやetretinateなどの薬剤・環境因子2,3),糖尿病などの代謝性疾患との関連6)が指摘されている.また,性別では女性よりも男性に多いとの報告が多い5,19,20).Weinfeldら19)は,University of Minnesota Hospitalにて撮影した1,363人の胸部X線を用いてDISHの有無を検討した.その結果,50歳以上の男性では25%,50歳以上の女性では15%にDISHが認められ,最も多くみられるのは白人系であり,アフリカ系アメリカ人,ネイティブアメリカン,アジア人ではその頻度が少なかったことを報告している.人種による差があることは,韓国からの報告でもみられる.Kimら5)は3,595人の胸部X線写真側面像を調査し,有病率が2.9%であったことから西欧諸国からの報告19,20)(17〜25%)と比較してアジア人では有病率が低く,人種間の違いが発症に影響している可能性を示唆している.

Nomade

名馬か? 伯楽か? 高相 晶士
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 一体自分は子どものころから何になりたかったのだろう?

 今さらながら,よく考える.子どものころは絵が大好きで画家になるつもりであった.有名な展覧会のジュニア部門で何度か入選し,将来は本気で芸術家になる気でいた.しかし,現実はそれほど容易なものではなく,指導者にはあまり自分の作品は気に入られることがなく,自分は才能がないのだと思うようになった(今思うと,ひょっとしたらその指導者が見る眼がなかったのかもしれない……??).次に興味があったのは,スポーツの中でも格闘技であった.空手に時間を割くことが多かった.やがて花に興味をもつようになり,この趣味は今でも続いている.そして,祖母の死をきっかけに医師になりたいと思うようになった.

Case Study 脊椎脊髄疾患—神経内科医の眼・7

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はじめに

 腹部(季肋部や下腹部)の圧痛と背部肩甲部のしびれは,ともに胸腹部の内臓由来がまず疑われ,(いろいろな施設で)何度もあれこれ検査されて,それらしくないと次に脊髄神経根症(radiculopathy)や体幹ニューロパチー(本シリーズ第3回参照)が鑑別に挙がることがある.さらにそれも否定されると,単なる局所の問題か心因性とされて見捨てられてしまう.これらが内臓由来でない場合に,共通の機序をもつ疾患概念があり,それらは脊椎脊髄疾患を担当する医師には是非知っておいてもらいたい事柄である.同様の機序で生じる一側腰部の感覚脱失についても解説する.

症例から学ぶ:画像診断トレーニング・第36回

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症例

 症例:30歳代,男性.

 主訴:歩行障害,背部痛.

 病歴:1カ月前より首から背中にかけての痛みがあった.2週間前から歩きにくさを感じ,数日前より歩行障害,後頸部〜背部痛の増強がみられたため当院を受診し,MRIが撮像された.発熱は認めない.

 職業歴:風俗店(受付/事務),外国人の出入り多数(本人談).

 血液検査:WBC 5,800/μl,RBC 442×104/μ,Hb 12.5g/dl,Plt 16.4×104l,ESR 15mm,CRP 0.8mg/dl

問題

 1.頸椎MRIの所見は?

 2.診断は?

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
29巻5号 (2016年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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