脊椎脊髄ジャーナル 29巻3号 (2016年3月)

特集 仙腸関節の基礎と臨床

特集にあたって 徳橋 泰明
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 今月号の特集は,「仙腸関節の基礎と臨床」です.仙腸関節は,仙骨の両側外側部と腸骨が接して形成されている関節です.近年,この仙腸関節が2つの理由で注目されるようになりました.

 1つには仙腸関節の機能障害による痛みについてです.仙腸関節に関連する痛みについては,現在なお議論が絶えません.最近,非特異的腰痛が見直され,同じ非特異的腰痛でもその原因は異なり,非特異的腰痛の中にこの仙腸関節由来の痛みがあることが判明し,しかも決して少なくないとされています.仙腸関節に起因する痛みの大部分は機能障害であるため,画像による診断は困難です.そのため,確定診断には仙腸関節ブロックによる症状の軽快をもってすることが臨床上多いとされています.しかし,仙腸関節に起因する痛み,仙腸関節機能障害については,非特異的腰痛全般と同様に科学的視点からの研究が少ないのが現状です.本特集では,この方面で長年研究をなされてきた日本仙腸関節研究会の先生方に診断,診断のピットフォール,そして治療についてご執筆いただきました.また,AKA-博田法(これに関連する講演会を開催するといつも超満員でした)についても長年携わっていらっしゃいました片田重彦先生にお願いして,その概略についてご執筆いただきました.また,欧米ではこの仙腸関節痛の治療目的で長年固定術が行われてきましたが,日本での手術成績の報告は少ないのが現状です.そこで,村上栄一先生に平均10年弱の長期術後成績をご紹介いただきました.

仙腸関節の解剖 矢吹 省司
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はじめに

 仙腸関節とは,仙骨の両側外側部と腸骨が接して形成されている関節のことを指す1,7).仙腸関節は,前方の滑膜関節部分と後方の強靭な骨間仙腸靭帯,後仙腸靭帯による靭帯結合部分で構成される.また,関節の前方は前仙腸靭帯で補強されている(図1)1,4).仙腸関節の前方は関節包で被われているが,後方はしばしば関節包が未発達,あるいは欠損し,骨間仙腸靭帯が後方の境界になっている1)

仙腸関節痛の診断 小澤 浩司
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はじめに

 仙腸関節に起因する痛みにはさまざまな病因がある.強直性脊椎炎などの仙骨部の炎症性疾患,感染,腫瘍,外傷,腰仙椎固定術後などの医原性,婦人科,泌尿器科疾患の関連痛などが仙腸関節部の痛みを引き起こす.妊娠,分娩,出産後には,女性ホルモンの影響で骨盤輪が不安定になり,仙腸関節痛を高頻度で生じる.仙腸関節は滑膜関節であり,痛風や偽痛風で痛みを出すことがある.本稿では,上記のような明らかな原因疾患がなく,画像検査で軽度の関節症性変化が認められるだけかまったく異常がない仙腸関節由来の痛みを仙腸関節痛として,その診断について述べる.

 仙腸関節は仙骨と腸骨からなる可動関節で脊柱と骨盤を結合する.関節のわずかな動き(2〜4度)は,仙骨の前方と後方への回旋時(nutation,counter-nutation)に生じる.仙腸関節を動かす筋肉はないため,関節の動きは腰椎-骨盤-股関節複合体の動きに伴い生じる.たとえば,股関節屈曲が腰椎前弯の減少と仙骨の後方回旋を引き起こし,腰椎の伸展が仙骨の前方回旋を引き起こす.仙腸関節の軟骨下骨,関節包や周囲の靭帯群には,侵害受容性感覚神経が富んでおり,発痛の原因になると考えられている24)

 国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)は,仙腸関節痛を仙腸関節に起因する痛みと定義し,画像検査で異常がみられる関節炎,関節症などは除いている.症状は下肢の関連痛の有無を問わず仙腸関節領域に感じられる痛みとしている.病因ははっきりしないが,仙腸関節自体のなんらかの構造的な瑕疵,もしくは関節に過度の力がかかった結果,関節靭帯に過大なストレスがかかったことによると推定している11)

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はじめに

 仙腸関節由来の痛みの大部分は,関節の微小な不適合による機能障害(仙腸関節障害)が原因であると考えられている1).この関節の微小な不適合は,現時点では画像所見として捉えることができないため,仙腸関節ブロックによる効果が診断の唯一の根拠となる8)

 一方で,仙腸関節の画像上の変性所見は腰殿部痛のない例にも認め,症状との関連は乏しいといわれ7,11),また,CTによる仙腸関節痛の診断の感度,特異度は低いと考えられている6).しかし,これまで仙腸関節痛の診断方法が確立していなかったために,症状と画像所見の関連を捉えられなかった可能性がある.腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアによる神経症状と同様に,臨床症候と画像所見の関連性を見出すことが肝要である.

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はじめに

 仙腸関節は,起立位にて脊柱から両下肢へと荷重を伝達,分散させるため,静的・動的に多大な負荷がかかる.仙腸関節は周囲に強固な靭帯を有するため,可動性に乏しく,荷重関節と比べ疼痛の原因となることは少ないが,さまざまな病態生理学的因子により障害が出現する.仙腸関節の神経支配は1857年にRüdingerが報告して以来さまざまな報告があるが,主に第1〜3仙骨神経で支配されている.さらに,第5腰神経,第4仙骨神経の支配もあり,幅広い神経支配を受けている5,10).そのため,仙腸関節が障害されると腰臀部痛・仙腸関節部痛だけでなく,鼠径部・大腿・下腿・坐骨部などへの関連痛も出現し,腰椎疾患と鑑別を要し,診断に難渋することがある.仙腸関節由来の腰痛は3.5〜30%と報告され,腰痛の原因が悪性腫瘍である場合は0.7%とさらに少ない1,9).本稿では,仙骨およびその周辺に発生した腫瘍性病変を見逃さないために,仙腸関節痛におけるレッドフラッグについて述べる.

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はじめに

 腰痛,下肢痛は,さまざまな要因から発生し原因不明なものが大多数を占め,脊椎以外の発生源も数多く存在している13).神経学的および画像所見で脊椎に明確な原因が見当たらず,あるいは多少の所見があっても手術を含めた脊椎治療で効果が得られず,難治性の慢性痛に至る症例をしばしば経験する.脊椎脊髄外科分野の診断,治療技術の進歩は目覚ましいが,未解決の領域として,脊椎および脊髄・神経根に由来しない腰痛,下肢痛の存在を認識せざるを得ない.村上らは,その一因として仙腸関節障害の関与に着目し,精力的な研究を続けている16〜21).本稿では,仙腸関節障害由来の腰痛,下肢痛に対する治療の流れ,特に高周波熱凝固術の有効性について解説する.

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はじめに

 原因不明とされてきた急性,慢性腰痛および随伴下肢痛の正体が仙腸関節機能障害であったと判明したのは,関節運動学的アプローチ-博田法(以下,AKA-博田法)がこれらを治療可能にしたからである.本稿ではその歴史的推移,新たな概念,診断技術,決定的なエビデンスについて述べる.

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はじめに

 骨盤輪は仙骨と両側の腸骨により構成され,その安定性は前方の恥骨結合と後方の靭帯群(前後の仙腸靭帯,仙棘靭帯,仙結節靭帯,腸腰靭帯)によって与えられている.骨盤後方部の破綻は骨盤輪の不安定性を生じるため,内固定が必要である8).骨盤輪骨折で仙腸関節が損傷される場合は,前後方向の圧迫力による仙腸関節離開,側方からの圧迫力による仙腸関節脱臼骨折および垂直剪断力による仙腸関節脱臼あるいは脱臼骨折である.骨折を伴わない仙腸関節脱臼は,解剖学的整復が得られない場合には機能的予後が不良である3,6).一方,骨折を伴う場合は,純粋な脱臼に比較し機能的予後がよい2).これは,骨性癒合が得られた場合のほうが,靭帯の瘢痕形成よりも安定性が得られるからであると推測される1).しかし,純粋な脱臼では骨性強直が得られたからといって機能的予後がよくなるわけではなく4),完全な整復を得ることが重要である.ただ,解剖学的整復が獲得できた症例の中にも,疼痛が残存して機能予後が不良となる症例も少なくないことも認識する必要がある5)

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はじめに

 20世紀の初頭にはGoldthwaitら9)が仙腸関節と腰下肢痛との関連を指摘し,仙腸関節固定術も行われていた.しかし,1934年Mixterら15)が椎間板の突出により神経痛が生じると発表して以来,坐骨神経痛を含む腰下肢痛の原因が腰椎の椎間板に求められ,仙腸関節はあまり注目されなくなった.その背景には,可動域が少なく不動関節に近い仙腸関節が腰痛の発痛源にはなり難いとの認識があったと思われる.しかし,近年幾多の報告で,仙腸関節が腰臀部痛や,鼠径部から下肢,足にも症状を出すことが指摘され3,6,27),仙腸関節後方の靭帯群には侵害受容器の存在が確認された24).仙腸関節が腰痛の発痛源の1つであると認識されつつある.

 人類が四足歩行から二足歩行に進化する中で,骨盤への負荷は比べものにならないほど増大し,負荷に対応するために骨盤の形が大きく変化した10).骨盤を構成する仙腸関節は上半身の負荷をしっかりと支えると同時に,下肢からの衝撃も緩和する役割を,わずかな可動域で対応している.そのため,不意の動作や,反復する負荷に対応できない場合には,微小な関節の不適合が生じて,関節の機能障害(仙腸関節障害)を容易に起こし得る.また,関節炎などの関節腔内の炎症による痛みも存在する.

 これらの痛みに対して,安静,ベルトによる固定,鎮痛剤の内服,理学療法,仙腸関節ブロックなどの保存療法が行われる.しかし,保存療法で改善しない場合には,最終的に仙腸関節の固定術が選択される.これまで多くの後方固定術2,13,30),側方固定術8,28),あるいは前方固定術1,21,22)が試みられてきたが,十分な成果は得られていない.近年,後方からのDIANA法(distraction interference arthrodesis with neurovascular anticipation)5)や側方からのiFuse implant systemが開発されて,欧米で多くの患者に行われ,良好な成績が報告されている23).しかし,いまだ短期成績であり,長期の成績が待たれる.われわれは後方法,側方法では関節面の十分な関節掻爬,骨移植は困難と考え,直視下で関節の操作を行う前方固定術を中心に行ってきた18).5年以上経過した手術症例の成績を検討した.

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はじめに

 近年,さまざまな腰椎疾患に腰椎固定や腰仙椎固定が行われているが,腰椎固定術後に腰殿部痛や下肢痛・しびれ感が遺残したり,新たに出現してその治療に難渋することがある.一般に,腰椎固定術後の腰殿部痛は,腸骨の採骨部痛や,implantのゆるみ,隣接椎間障害,除圧範囲や固定範囲の不足などと捉えられ,軽症の場合には放置されていることもしばしばみられる.腸骨からの採骨をせず局所切除骨のみで脊椎固定術を行うようになってからも同様な症状の出現を経験して仙腸関節痛の可能性も考え,仙腸関節ブロックを行ってみたところ劇的に症状が改善した例を幾度か経験した.以来,腰椎固定術後の腰殿部痛や下肢痛,しびれ感に関する仙腸関節の関与について調査し,その発現頻度や固定椎間数,仙椎までの固定の有無との関連を検討してこれまで報告してきた16,17)

 また,最近,成人脊柱変形の治療で,矢状面バランスの獲得のために仙腸関節を貫くS2 alar iliac screw(S2 AI)1,2,3,15)を用いる固定術が多くなり,これによる仙腸関節障害も懸念されている.今回,S2 AIによる腸骨までの固定と術後仙腸関節痛の発現頻度の検討も加え,これまで得られた知見とともに報告する.

Nomade

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脳神経外科を始めた頃

 昭和57年2月,弘前大学5年生のベッドサイドティーチングのローテーションで,国立弘前病院の内科で臨床実習を行った.数日たった頃,内科に頭痛とめまいを訴え,嘔吐しながら七転八倒している患者が入院した.内科の先生では診断がつかず,脳神経外科にコンサルトすることになった.当時その病院にはCTがなく,神経学的診察と脳血管撮影を行って小脳出血と診断された.同日夜9時過ぎから開頭血腫除去術が行われ,緊急手術を最後まで見学して午前2時頃,降りしきる雪の中を歩いて下宿に帰ったことを今でも記憶している.翌日病院に行ってみると,その患者は,「すっかりよくなりました」とベッド上に笑顔で座っていた.当時はまだ病棟実習が始まったばかりで,浅はかな学生だった小生は,内科は診断する科,外科は手術する科と単純に思っていた.この小脳出血の患者の経験は,内科系にも外科系にも興味をもっていた小生に,脳神経外科は診断も手術も行える診療科だと思わせることになった.

 大学を卒業し横浜市立大学の脳神経外科で研修医をスタートさせることになったが,病棟に入院してくる患者さんはすでに外来で診断がついており,手術目的で入院してくることがほとんどであった.卒後3年目に入局し外来の初診を担当したが,飛び込みの初診患者は神経所見をとっても正常で,念のためCTをとっても異常がみつかることはほとんどなかった.その後,関連病院のローテーションで,「脳」外科医として頭部外傷や脳血管障害の診療に明け暮れたが,神経学的診察が役に立つのは,意識レベルの変化と,瞳孔不同や運動麻痺が右か左かのレベルが多かった.

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はじめに

 原発性脊髄発生末梢性(primitive neuroectodermal tumor:PNET)は,原発性脊髄腫瘍の約0.4%を占めるとされ28),きわめてまれである.そのため,確立された治療方法はない.われわれは,馬尾原発末梢性PNETと診断,治療した1例を経験したので報告する.

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 本書,『MISt手技における経皮的椎弓根スクリュー法』は日本で初めて経皮的椎弓根スクリュー(PPS)をターゲットとして記述された良書である.PPSはあまりに急速に発展したあまり,On-the-Job Trainingは精力的に行われているものの,知識としての教育が十分とはいえない状況にある.本書のように体系的に書かれたテキストは,多くの脊椎外科医が求めていたものである.さらに,脊椎外科医一人ひとりの臨床活動の位置づけと方向性を考える契機にもなるだろう.

 脊椎外科での低侵襲化は消化器外科や心臓外科などほかの外科領域と比べて早くはなかった.除圧から始まった脊椎内視鏡手術はラーニングカーブの急峻さが指摘されて,一気に広まったとはいえない経過をたどった.一方,遅れて導入されたPPSに代表される最小侵襲脊椎安定術(MISt)では大きな違いがあった.患者の高齢化と併存疾患のために低侵襲への要請が高くなり,MIStに最適化された専用器械・インストルメントが次々と開発されていった.すなわち,需要と供給両面からの追い風があった.そして,今回執筆しているトップランナーである脊椎外科医の方々の貢献によってMIStは急速に広まっていった.

Case Study 脊椎脊髄疾患—神経内科医の眼・6

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はじめに

 脊髄疾患の診断にあたって,しばしば頭部MRI所見が重要な手がかりになることがある.多発性硬化症や視神経脊髄炎はその代表的疾患であるが,今回紹介する患者でも頭部MRIが有用であった.

症例から学ぶ:画像診断トレーニング・第35回

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症例

 65歳,女性.

 主訴:右半身のしびれと巧緻障害.

 現病歴:数年の経過で次第に主訴が増悪してきた.特記すべき既往歴はない.

問題

 臨床所見と画像(図1)から原因疾患として正しいのはどれか.

 1)髄膜腫

 2)転移性腫瘍

 3)関節リウマチ

 4)アミロイド関節症

 5)歯突起後方偽腫瘍

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
29巻3号 (2016年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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