脊椎脊髄ジャーナル 29巻2号 (2016年2月)

特集 一般内科疾患に伴う脊髄障害

特集にあたって 園生 雅弘
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 脊椎脊髄疾患を扱う外科医にとって,症候が内科的疾患によるものではないかは,手術適応を間違えないうえでの非常に重要なポイントとなる.通常,神経内科医にコンサルトがなされるだろうが,ここで神経内科医も,たとえば,筋萎縮性側索硬化症(ALS)や多発性硬化症/視神経脊髄炎(MS/NMO)など,いわゆる通常神経内科疾患とされる疾患には十分詳しいと思われる.また,脊椎脊髄外科医のほうもこれらの有名な神経内科疾患については,今日一通りの知識を有しているであろう.しかし,膠原病性,栄養欠乏性,傍腫瘍性,その他,神経内科においても「一般内科的疾患」に分類される場合が多い種々の疾患に伴う脊髄障害は,神経内科医にとっても盲点となりやすい.本特集は,やや頻度としてはまれなそのような諸疾患に焦点をあて,神経内科医・外科医とも,これらの疾患の概要・臨床特徴を理解して,診断において見逃さないことを目的として企画した.

 取り上げた疾患は,Sjögren症候群,ANCA関連血管炎による脊髄梗塞,アトピー性脊髄炎,傍腫瘍性壊死性脊髄症などの,自己免疫ないしそれに準じる疾患,コモンな感染症である帯状疱疹他のウイルス性脊髄炎,診断治療とも難しい血管障害である脊髄梗塞,欠乏症による脊髄障害の代表である亜急性脊髄連合変性症(ビタミンB12・葉酸欠乏),内科と整形外科の境界領域という感じで実は結構コモンな疾患である偽痛風の一種であるcrowned dens症候群などである.それぞれ,これらの疾患を実際に症例報告等されており,経験豊富なエキスパートの方々にご執筆いただいた.自験例も提示されていて,参考となる.中でもアトピー性脊髄炎(atopic myelitis)は,共著である九州大学神経内科吉良潤一教授らが世界で最初に報告提唱した疾患であって,日本発の新しい疾患概念である.慢性に経過する例では脊髄腫瘍と間違えられることも多く,脊髄外科医も知っておくべき概念である.

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はじめに

 ウイルス感染に起因する脊髄症としては,帯状疱疹性脊髄炎(herpes zoster myelitis)4,12),単純ヘルペス脊髄炎11),HTLV-1 associated myelopathy(HAM)が知られている.このうち,帯状疱疹はしばしば水痘-帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化により生じる.神経合併症として脊髄炎が生じることがあり,ほかの急性脊髄症と鑑別を要する.単純ヘルペス脊髄炎はherpes simplex virus type 2(HSV2)によるものが多い11).HAMはHTLV-1ウイルス感染者の一部に生じる脊髄症で,緩徐進行性に痙性麻痺が生じる.本稿では,日常診療で最も遭遇する可能性のあるウイルス性脊髄炎として,VZV脊髄炎について症例を提示し,本邦報告例を中心に解説する.

脊髄梗塞 佐藤 慶史郎 , 内山 剛
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はじめに

 脊髄梗塞は,脊髄を支配する血管の血流障害により引き起こされる急性脊髄障害,脊髄実質の壊死である.急性脊髄障害の5〜8%,全脳卒中の1〜2%とまれな疾患である12).広い年齢層にみられるが,平均年齢は50〜60代とする報告が多い3,6,8〜11)

 日常診療において出会う機会は多くはないが,その診断,治療には難渋することがあり,重篤な後遺症を残す場合もあるため,その病態,診断,治療に関して述べる.

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はじめに

 整形外科疾患の診療に際しては,内科疾患に起因する神経障害との鑑別がしばしば問題となる.本稿で取り上げるSjögren症候群(Sjögren's syndrome:SS)は,膠原病の1つであり,主に外分泌腺の障害による諸症状を前景とする自己免疫疾患として理解されているが,さまざまな腺外症状を呈する3〜6,11,14〜16).中でも神経障害の合併頻度が高く,末梢神経系や脊髄を含む中枢神経系のいずれにも障害をきたすことが知られている3〜6,11,14〜16).さらに,この神経症状は特徴的な外分泌腺症状に先行して出現することも少なくない3〜6,11,14〜16).このため,神経内科のみならず,整形外科に受診する場合も想定される.以下,SSの概略について簡単に触れるとともに,整形外科疾患との鑑別を要するSSの脊髄障害について述べることにする.

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はじめに

 血管炎は1994年のChapel Hill Consensus Conference(CHCC1994)にて血管炎径と抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic autoantibody:ANCA)による分類が提唱された10).2012年の改訂により,小型血管炎はANCA関連血管炎と免疫複合体血管炎の2つに分類され,前者は顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA),多発血管炎性肉芽腫症(granulomatous polyangiitis:GPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatous polyangiitis:EGPA)に分類されるようになった11).ANCA関連血管炎は全身臓器に及ぶが,腎・肺・末梢神経などが障害される頻度が高い一方,中枢神経病変はまれとされている9,23).実際,ANCA関連血管炎の中枢神経病変についての報告は比較的少なく,あってもほとんどの場合,臨床経過や合併症からANCAとの関連が結論づけられており,病理学的観点からの検討は乏しい.本稿では,ANCA関連血管炎における中枢神経病変,特に脊髄に病理学的に血管炎を認めた自験例を中心に解説する.

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はじめに

 中枢神経系が自己免疫機序により障害されることは,よく知られている.中でも最も頻度の高い多発性硬化症は,中枢神経髄鞘抗原を標的とした代表的な自己免疫疾患と考えられている.一方,外界に対して堅く閉ざされている中枢神経系が,アレルギー機転により障害されるとは従来考えられていなかった.しかし,1997年にアトピー性皮膚炎と高IgE血症をもつ成人で,四肢の異常感覚(じんじん感)を主徴とする頸髄炎症例がアトピー性脊髄炎(atopic myelitis:AM)として報告され4),アトピー性疾患と脊髄炎との関連性が初めて指摘された.2000年に第1回全国臨床疫学調査7),2006年には第2回2)が行われ,国内に本疾患が広く存在することが明らかとなった.その後,海外からも症例が報告されている10,11).2012年にはIsobeら1)が感度・特異度の高い診断基準を公表し(表1),本邦では2015年7月1日より「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づく「指定難病」に選定されている.AMの疾患概念の確立は比較的新しく,病態解明とそれに基づいた新規治療法の開発が社会的に強く求められている.本稿では,AMの臨床的特徴について概説するとともに,病態解明に向けたモデル動物による最新の研究についても取り上げる.

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概 念

 傍腫瘍性壊死性脊髄症(paraneoplastic necrotizing myelopathy)は,担がん患者に急性に対麻痺,感覚障害,尿閉が出現した症例で,剖検によって脊髄の壊死が確認されるも,その直接の原因が病理組織学的にも不明であった場合に診断される.本症では,合併した悪性腫瘍の遠隔効果(remote effect)により脊髄壊死をきたすと考えられており,傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome:PNS)の一型である.免疫療法が有効であったとの記載も散見されるが著効例はなく,合併した悪性腫瘍のみならず脊髄症が原因となり,ほぼ全例が早期に死亡する.悪性腫瘍で治療中の患者に合併発症した場合が多く,潜在がんとの合併は少ない.

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はじめに

 亜急性脊髄連合変性症(subacute combined degeneration of the spinal cord:SCD)は,ビタミンB12(cobalamin)の欠乏が主な病因で,脊髄後索・側索の白質主体に髄鞘崩壊や軸索脱落などの変性を生じ,亜急性に感覚性運動失調や痙性対麻痺を呈する疾患である.SCD発症における葉酸欠乏の役割については不詳である.これまで後天的な葉酸欠乏や先天性葉酸欠乏症でのSCDの発症例が散見されるが10),現在では,葉酸の単独欠乏でのSCDの発症は疑問視されている3,26).本稿では,ビタミンB12欠乏症によるSCDを中心に概述する.

Crowned dens症候群 榎本 博之
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はじめに

 髄膜炎を疑わなければならない症候として,急性の発熱を伴う頸部痛は重要である.しかしながら,ほかの臨床所見,画像所見,髄液検査などにより髄膜炎が除外された状態での鑑別診断において苦慮する症例がある.その1つとして,表題のcrowned dens症候群(CDS)が挙げられる.CDSは偽痛風の臨床型の1つであり,環軸関節の偽痛風発作とされている.本疾患は,特に高齢者における発熱を伴う頸部痛の原因疾患として念頭に置いておくことが重要と考えられるため,ここに概説し,自験例を提示する.

Nomade

画像診断の現状と展望 平井 俊範
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 放射線科は画像診断,核医学,画像誘導治療,放射線治療の4つを担当している.その中で画像診断,特にCT・MRIの読影が大きなウエイトを占めるが,その数は年々増加している.これは画像診断機器の性能が向上し短時間に広範囲の撮像が可能となったこと,画像診断の進歩により画像診断法が多様化・高度化したこと,医療経済の変化に伴う病院経営への放射線科医の貢献(画像管理加算Ⅱ取得による診療報酬の増加)などが関与している.実際,以前と比べて画像診断の症例数が明らかに増加している.これは放射線科医にとっては診療や病院への貢献ができ喜ばしいことであるが,日常の仕事量が増加し疲弊することにもなる.どこの施設でも放射線科医はこの二面性による悩みを抱えていることが現状であろう.この状態はもう限界に達してきていることは明らかで,ここでその打開策を考えてみたい.

 まず,最も重要なこととしてマンパワーを増やさなければならない.さまざまな統計から,本邦の放射線科医は欧米と比べ少なく,1人あたりの読影数は欧米の放射線科医と比べ明らかに多いことが示されている.本邦では放射線科医の絶対数が不足しており,この点を最優先課題として学会を挙げて取り組むべきである.1人でも多く放射線科の道に進んでもらうために,放射線科の指導医は放射線科の魅力を十分にアピールする必要がある.講義などで学生に放射線科は何をやっていると思うと聞くと,ほとんどの学生から「レントゲン」などの答えが返ってくる.放射線科が何をやっているのかまったく認識されておらず,いかに興味が低いかがわかる.学生に対するアピールは将来放射線科を選択してもらうために最も重要と思われ,画像診断,核医学,画像誘導治療,放射線治療が臨床にどのように役立っているかを魅力的に丁寧に教え,興味をもってもらわなければならない.

イラストレイテッド・サージェリー 手術編Ⅱ-86

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はじめに

 開放性二分脊椎(spina bifida aperta)は,神経管閉鎖不全症(neural tube defect)のうち正常皮膚が欠損しているものをさす.脊髄髄膜瘤(myelomeningocele),脊髄披裂(myeloschisis)も基本的に同じ病態であるが,neural placode(中心管を形成せず背側が開いた脊髄)が,くも膜下腔の拡大とともに囊状に突出した状態を脊髄髄膜瘤(図1),突出していない状態を脊髄披裂という.病変の大きさや高位,脊椎の奇形や後弯の程度,ほかの脊髄奇形合併などのため,病態は幅があり単純ではない.それぞれの症例に即した対応が必要であるが,本稿では典型例の手術手技を述べたい.修復術は二分脊椎診療の出発点として重要であるが, 生涯にわたる脳神経外科サポート(水頭症,再係留,脊髄空洞),ならびに他診療科連携(排尿・排便障害,下肢麻痺・変形,脊柱変形,褥瘡)も劣らず大切である.

修復術の目的,適応,時期

 感染予防,神経損傷予防,係留解除が目的である.ほかに治療困難で生命維持できない重度の合併疾患をもたない限り,全例治療対象である.生後48〜72時間以内の手術が推奨される.

Case Study 脊椎脊髄疾患—神経内科医の眼・5

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はじめに

 タイトルの「馬のしっぽ」とはもちろん馬尾のことであり,「竹のような脊柱」とは強直性脊椎炎のことである.この洒落たタイトルは,最近のある症例報告8)から借用したものである.この2つの事柄の関係は,まれながら以前から知られているが,脊椎の専門家(脊椎外科医,整形外科医,脳神経外科医,神経放射線科医)においてさえ周知されているか疑問であるし,筆者を含む神経内科医にはほとんど知られていないと思われる.そこで,タイトル通りの内容ではないが,この件に関心をもつきっかけになった症例を紹介し,その後に強直性脊椎炎の神経合併症について述べる.

症例から学ぶ:画像診断トレーニング・第34回

症例:81歳,男性 福田 国彦
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症例

 81歳,男性.

 主訴:腰痛と両側下肢への放散痛.

 検査所見:血液所見に特記すべき異常はなく,赤沈は正常でCRP反応も陰性である.

問題

 腰椎の画像(図1)について正しいのはどれか.

 1)棘突起骨折がある

 2)棘間滑液包炎がある

 3)急性期圧迫骨折がある

 4)化膿性脊椎椎間板炎がある

 5)Modic type骨髄信号異常がある

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編集後記

基本情報

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脊椎脊髄ジャーナル
29巻2号 (2016年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0914-4412 三輪書店

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