産婦人科の実際 73巻6号 (2024年6月発行)

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特集　産婦人科医が知っておきたい　プレコンセプションケアの最前線Ⅱ

企画者のことば堤　治 73巻6号 , 2024年6月

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厚生労働省の令和5（2023）年6月の人口動態調査によると，令和4（2022）年の出生数は史上最低の77,0747人，合計特殊出生率は1.26で史上最低レベルであった。別の調査では，夫婦の理想とする子どもの数は2ないし2.5と報告されるなか，少子化が進むのはなぜであろう。

1．生殖医療でのプレコンセプションケア川井　清考 , 勝又　翔子 , 小宮　顕 73巻6号 , 2024年6月 , pp.529-533

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近年，晩婚化・晩産化の傾向に伴い，プレコンセプションケアの重要性が高まっている。これに応え，当生殖医療施設ではプレコンセプションケア外来を開設した。妊活を開始しているが妊娠に至らず，不妊治療の可能性を検討しているカップルには，この外来の需要が集まっている。この外来を利用することで，不妊検査や治療について理解を深め，妊娠しない場合には適切な時期に通院を開始することができ，結果として妊娠に至るまでの期間の短縮が期待される。また，妊活中であっても，体調管理や栄養に関する知識が不足していることが多く，この点においてプレコンセプション期のカップルへの啓発活動が急務であることが明らかとなった。

2．子宮頸がんとプレコンセプションケア今野　良 73巻6号 , 2024年6月 , pp.535-543

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プレコンセプションケアにおいて，子宮頸がん予防は重要な課題であり，1次予防であるHPVワクチンと2次予防である子宮頸がん検診の2つがある。HPVワクチンついては，種類の違いではなく，いかに未接種者をなくすか，という点に尽きる。キャッチアップ接種は対象者のいまだ10％にしか実施されておらず，厳しい状況にある。子宮頸がん検診は，2024年度からHPV検査が国の指針に正式に取り上げられた。両者への理解と普及を強く願う。

3．性感染症とプレコンセプションケア高橋　幸子 73巻6号 , 2024年6月 , pp.545-549

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性感染症予防の性教育はプレコンセプションケアそのものである。性感染症とその予防方法を理解し，自分の未来の選択肢を守るための方法として行動できることは，妊娠を見据えた素晴らしいことである。性行動を開始するまでに性教育を学ぶ機会が保障されることが望ましい。妊娠中に感染がある場合には適切な治療が行われる。しかし，若い頃には無防備な性行動をしていた人も，人生のある時点から妊娠を希望するということは多々ある。妊娠を目指したその瞬間からできるプレコンセプションケアを，ともに支えていきたい。

4．子宮内膜機能に関するプレコンセプションケアと展望福井　大和 , 廣田　泰 73巻6号 , 2024年6月 , pp.551-556

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プレコンセプションケアは妊娠前の女性やカップルへの様々な形の介入により健康状態を改善し，短期的・長期的に，母子の健康を改善することを目的としている。現時点では子宮内膜機能に関するプレコンセプションケアは確立されてはいないが，子宮内膜受容能にかかわる子宮内膜ポリープや子宮筋腫に対しては適切なフォロー，症状に応じた外科的治療介入，子宮腺筋症に対しては早期発見，ホルモン療法が勧められる。また，慢性子宮内膜炎，子宮内フローラなどの不妊症との関連が示唆されている項目についても理解しておく必要があるだろう。

5．卵巣機能とプレコンセプションケア岩澤　卓也 , 藤嶋　明子 , 白澤　弘光 , 寺田　幸弘 73巻6号 , 2024年6月 , pp.557-562

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出生後から卵胞数は減少し，加齢とともに卵子の染色体異常が増えることで妊娠率は低下し，流産率は上昇する。プレコンセプションケアとして年齢によるこれらの変化を知ることは，適切な時期に妊娠を希望するライフプランを立てるのに役立つ。喫煙や肥満は卵子の質を低下させ，過度な体重減少は卵胞発育・排卵障害をきたす。生活習慣は女性の健康だけでなく，卵巣機能にも影響を与える。化学療法，放射線療法は早発卵巣不全のリスクがある場合は妊孕性温存療法の適応となる。生殖補助医療で頻用されている抗ミュラー管ホルモン検査の解釈についても触れ，プレコンセプションケアで押さえておくべき卵巣機能の変化について概説する。

6．子宮内膜症とプレコンセプションケア浦田　陽子 , 原田　美由紀 73巻6号 , 2024年6月 , pp.563-568

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子宮内膜症は生殖可能年齢の10～15％に認め，月経困難症といった症状以外に，不妊や悪性化のリスクがあり，卵巣機能や周産期合併症に関連がある。卵巣子宮内膜症性囊胞の手術は卵巣機能を低下させるリスクがあり，術後再発は高頻度である。そのため，プレコンセプションケアの観点からは症状コントロールにはホルモン治療を積極的に行い，手術時期については患者のライフプランに合わせた綿密な計画が必要となる。

7．多囊胞性卵巣症候群とプレコンセプションケア坂本　美和 , 関沢　明彦 73巻6号 , 2024年6月 , pp.569-571

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多囊胞性卵巣症候群（PCOS）は女性の8～13％にみられ，月経不順・不妊・男性化・肥満などを伴う症候群である^1）。女性のライフステージにより管理，治療が異なり，挙児希望の際には医療介入が必要になることも予想される。プレコンセプションケアにより患者に妊娠，出産に向けて知識を深めてもらい，自身のライフプランに合うような管理，治療を行うことが理想的と考えられる。

8．栄養代謝とプレコンセプションケア横山　真紀 , 杉山　隆 73巻6号 , 2024年6月 , pp.573-578

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妊娠前の良好な栄養状態は，妊娠により増大するエネルギー需要を満たし，妊娠経過や胎児発育，そして出生後の児の健全な発育のために極めて重要な要素である。わが国では，生殖年齢女性の肥満，やせ双方が課題となっている。また，葉酸や鉄などの微量栄養素不足も懸念される。「妊娠前から始める妊産婦のための食生活指針」などを参考に，バランスのよい食事をとり，妊娠前にやせや肥満を解消して適正体重を維持することが肝要である。また，葉酸や鉄を多く含む食品の摂取を心がけ，特に葉酸は児の神経管閉鎖障害予防のために積極的にサプリメントを活用し，1日400μgの摂取が推奨される。

9．ウイルス感染症とプレコンセプションケア相澤（小峯）　志保子 , 早川　智 73巻6号 , 2024年6月 , pp.579-582

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妊娠中にウイルスに感染した場合，非妊時と比べて重症化しやすい。また，感染症のなかには胎盤や産道，母乳を介し母子感染を起こすものもある。すべてのウイルス感染症に対し，妊娠前に対策をすることは不可能であるが，有効なワクチンがある場合には接種が推奨される。特に弱毒生ワクチンは妊娠中の接種ができないため，妊娠前の接種が勧められる。持続感染するウイルスに感染している場合には，妊娠前のウイルス量のコントロールが重要である。本稿では，プレコンセプションケアの観点からこれらのウイルス感染症について概説する。

10．卵子凍結とプレコンセプションケア菊地　盤 73巻6号 , 2024年6月 , pp.583-588

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近年，少子化対策として注目されている卵子凍結だが，筆者が指揮した世界初の地方自治体が助成するプロジェクトの結果から，その使用率が低いため，卵子凍結自体の少子化対策としての効果は限られるかもしれない。しかし，卵子凍結をきっかけに妊娠時期を検討し，凍結卵子を使用せずに妊娠・出産に至った参加者もいたことから，計画的な卵子凍結の提案と費用補助はある程度有益であると思われた。将来の妊娠を考え，卵子凍結を検討しなければならない女性が問題なのではなく，そのプレッシャーを女性のみに押し付けているこの社会自体の問題である。プレコンセプションケアはそのような社会全体に対して行うべきであり，社会こそが変わるべきであろう。

11．男性のプレコンセプションケア小堀　善友 73巻6号 , 2024年6月 , pp.589-594

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プレコンセプションケアの目標は，若い世代の男性と女性がより健康になり，質の高い生活を通じて，健全な妊娠・出産のチャンスを増やし，次世代の子どもたちをも健康にしていくことである。そのためには，母親となる女性のみならず，父親となる男性の参画が必須である。思春期からの生（性）活習慣は男性の性機能や生殖機能に大きくかかわってくる。そのため，プレコンセプションケアを通じて健康的な生活を目指していき，パートナーと支えあいながら豊かなライフプランを立てていくことが重要である。

シリーズで学ぶ最新知識

障がいがある女性と産婦人科医療―配慮を必要とする女性をどうサポートするか？　第3回　障がいによって生じる婦人科疾患橋本　洋之 73巻6号 , 2024年6月 , pp.595-599

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障がいの有無にかかわらず，二次性徴，月経初来，月経不順，月経前症候群，閉経など，女性としてのライフステージに伴う徴候は同じように認められるが，一部障がいの特性によって異なる徴候を認めることがあるため注意が必要である。最近は，月経困難症，月経前症候群，更年期症状に対しての治療方法が確立されつつある一方で，障がい者本人は訴えることが困難であり，家族や支援者は，月経に伴う困難さについて気づかない可能性がある。月経に関連する知識を提供し，症状の訴えを見落とさないように気をつける必要がある。

今日の話題

進行・再発子宮がん終末期症例をチームで支えた緩和ケアを顧みて寒河江　悟 , 齊藤　学 , 佐藤　奈菜香 , 清水　亜由美 , 藤井　美穂 , 宮口　智美 , 糸田　隆大 , 竹原　崇皓 , 今井　杏 , 田畑　美幸 , 三浦　理恵 , 山本　幸子 , 菊地　真里 , 福田　智子 , 吉住　典子 , 乙坂　美香 , 濱田　卓弥 73巻6号 , 2024年6月 , pp.601-609

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子宮内膜癌は比較的予後良好な疾患とされてはいるが，進行再発症例の予後は極めて不良である。最近子宮がん（癌肉腫を含む）終末期症例を5例経験し，緩和ケアチームとして介入するなかで，それぞれの役割の再確認とその知識・技術の向上に何が問題点かを検討した。また終末期の問題点をベストサポーティブケア（BSC），アドバンスドケアプラニング（ACP），エンドオブライフケア（EOL-C），の観点で症例ごとに整理し，全体としてのコミュニケーション（意思疎通）の状況も検討した。これらを通じて患者・医療者間でのコミュニケーションの重要性ならびに信頼関係の構築が，これからの緩和ケアに重要であることをあらためて確認できた。また緩和ケアチームにおけるそれぞれの役割を実践して得られた経験を活かし，さらなる研鑽をいかに個人的にも組織的にも環境的にも推し進めるかを考える必要性を痛感した。

海外文献から

Pretermでの妊娠高血圧腎症高リスク群における妊娠24～28週でのアスピリン中止について大分大学医学部産婦人科 73巻6号 , 2024年6月 , pp.610-610

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PGT-Aを受けた凍結融解胚移植において高い生児出生率は正常なBMIと関連する大分大学医学部産婦人科 73巻6号 , 2024年6月 , pp.610-610

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臨床経験

妊娠高血圧症候群合併妊婦における硫酸マグネシウム使用による出血量の検討入江　惇太 , 布出　実紗 , 大門　篤史 , 永昜　洋子 , 藤田　太輔 , 大道　正英 73巻6号 , 2024年6月 , pp.611-615

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妊娠高血圧症候群（HDP）は全妊娠の約7％に生じる妊娠合併症であり，重症例に対して子癇発作予防に硫酸マグネシウム（MgSO4）製剤の使用が推奨されている。一方で，MgSO4製剤は子宮収縮抑制作用も知られており，分娩時のMgSO4製剤使用による出血量の増加が懸念される。当院で経腟分娩となった単胎HDP合併妊婦72例を対象に，分娩時のMgSO4製剤使用の有無による出血量について検討した。HDP患者に対するMgSO4製剤の使用により分娩時出血量は有意な増加を認めず，有害事象の増加も認めなかった。このことからHDP妊婦へのMgSO4製剤の積極的な投与が検討される。

症例

卵管間質部妊娠の腹腔鏡下卵管角部切開術後に生じた異所性妊娠存続症に対する化学療法の1例 -―メトトレキサートの効果と投与法の考察― 津田　洋之介 , 城　道久 , 福田　奈穂 , 鈴木　裕紀子 , 苔原　つばさ , 二木　ひとみ , 河谷　春那 , 大木　規義 , 𠮷田　茂樹 73巻6号 , 2024年6月 , pp.617-622

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卵管間質部妊娠への腹腔鏡下卵管角部切開術後に異所性妊娠存続症（PEP）と診断し，メトトレキサート（MTX）単回投与が無効で連続投与に変更後，術後8カ月でβhCGが陰性化した1例を経験した。31歳2産，右卵管間質部妊娠と診断し腹腔鏡下右卵管角部切開術を実施した。術後17日でβhCGが再上昇しPEPと診断した。MTX単回投与でβhCGが下降せず，説明と同意のうえで連続投与へ変更すると下降した。βhCGが100 mIU/ml未満でMTXは終了し，術後8カ月で陰性化した。間質部妊娠の卵管角部切開術後のPEPで単回投与法が無効でも連続投与の有効例がある。

臍帯肉眼所見から早期診断しえた新生児真菌感染症の3例寺本　麻友子 , 磯村　直美 , 内田　季之 , 伊東　宏晃 73巻6号 , 2024年6月 , pp.623-629

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臍帯白斑はカンジダによる子宮内感染を起こした臍帯に特異的に認められる所見である^1）。妊娠中の外陰腟カンジダ症は珍しくはないが，カンジダによる子宮内感染はまれで早産児に多く，発症すると児に重篤な症状を引き起こす。今回，分娩後臍帯白斑を確認した3症例を経験した。1例目は先天性皮膚カンジダ症，2例目は先天性全身性カンジダ症，3例目は無症状であった。3症例すべての児に抗真菌薬の投与を行った。早産では予防的に抗真菌薬を投与することもあるが，娩出時に胎盤を確認し臍帯白斑から早期に子宮内カンジダ感染の診断を行うことで治療が必要な児への加療を早期に開始できる可能性がある。

腹腔鏡手術中に偶然発見された高分化乳頭状中皮腫（WDPMT）の1例堂園　渓 , 菊池　友明 , 久保谷　託也 , 東　眞 , 酒井　謙 , 小山　典宏 , 小林　陽一 73巻6号 , 2024年6月 , pp.631-635

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高分化乳頭状中皮腫（WDPMT）は主に女性の腹膜に発生する良性～低悪性度のまれな腫瘍で，予後良好であることが多いが，悪性転化により中皮腫へ移行する症例もまれにある。また特徴的な画像所見がなく術前に診断されることは極めてまれであり，腹部手術のなかでも特に婦人科手術において偶然発見されることが多い。術中に腹膜病変を発見した場合には積極的に生検を行い，腹膜由来の疾患の診断を行うことが重要である。

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目次 73巻6号 , 2024年6月

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読者アンケート 73巻6号 , 2024年6月 , pp.572-572

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バックナンバーご案内 73巻6号 , 2024年6月 , pp.616-616

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投稿規定 73巻6号 , 2024年6月 , pp.630-630

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次号目次 73巻6号 , 2024年6月 , pp.636-636

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基本情報

産婦人科の実際
73巻6号
(2024年6月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0558-4728 金原出版

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