胃と腸 54巻4号 (2019年4月)

今月の主題 知っておきたい小腸疾患

序説

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はじめに

 小腸(空腸・回腸)は全長5〜7mの長さを有し,上・下部消化管では観察が困難である.また,小腸腫瘍が消化管腫瘍全体の1〜2%程度と比較的まれである1)ことも相まって,以前は“暗黒大陸”と称されてきた.しかし,バルーン小腸内視鏡(balloon endoscopy ; BE)2),カプセル内視鏡(capsule endoscopy ; CE)の開発・改良により全小腸の観察が可能となり,多くの疾患における病態の解明が飛躍的に進んできた.これらは現在では日常診療には欠かせない重要な検査手技となっており,それらの用い方はエビデンスに基づき「小腸内視鏡診療ガイドライン」3)にまとめられている.

 これまでに本誌でも小腸疾患の特集が既に数多く組まれており,2000年以降だけでも,①36巻7号(2001年)「小腸腫瘍—分類と画像所見」,②40巻4号(2005年)「消化管の出血性疾患2005」,③40巻11号(2005年)「小腸内視鏡検査法の進歩」,④41巻12号(2006年)「小腸疾患診療の新たな展開」,⑤43巻4号(2008年)「小腸疾患2008」,⑥44巻6号(2009年)「小腸疾患—小病変の診断と治療の進歩」,⑦45巻3号(2010年)「出血性小腸疾患—内視鏡診断・治療の最前線」,⑧48巻4号(2013年)「カプセル内視鏡の現状と展望」,⑨49巻9号(2014年)「小腸潰瘍の鑑別診断」,⑩53巻6号(2018年)「小腸出血性疾患の診断と治療—最近の進歩」と,小腸疾患への取り組みが盛んに行われてきた.このような状況を背景として,小腸疾患の診断と治療について,現時点における新しい知見を整理し理解を深めておくことは日常臨床においても極めて重要と考えられ,本号は企画された(小腸出血性疾患については2018年に既に取り上げられているため,本号では一部のみ取り上げた).

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要旨●小腸においても奇形・先天異常,炎症性疾患,腫瘍(上皮性,非上皮性),腫瘍様病変など種々の疾患が存在するが,小腸病変自体の頻度が比較的低い.特にまれな疾患では鑑別診断がしばしば困難である.小腸疾患の診断においては,まずは疾患の病理学的分類を理解し,それぞれの疾患の病態と組織学的特徴,および生検の有用性を知っておく必要がある.本稿では,小腸疾患の基礎的知識に加えて,重要な疾患やまれな疾患について病理学的特徴を中心に概説する.

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要旨●原発性小腸癌および転移性小腸腫瘍は比較的まれであるが,最近では原因不明の消化管出血として診断される機会が増加している.小腸癌はさまざまな肉眼形態を呈するため他の小腸腫瘍との鑑別診断が重要であるが,カプセル内視鏡検査やバルーン内視鏡検査のみならず,従来のX線造影検査,造影CT検査など他の診断法と組み合わせながら効率よく検査を進めていく必要がある.特にバルーン内視鏡下生検は確定診断に有用である.しかしながら,原発性小腸癌はいまだ他臓器転移や腹膜播種に伴う進行した状態で発見されることが多く,今後さらなる早期診断法の確立および病態の解明が課題である.

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要旨●消化管は悪性リンパ腫の好発部位であり,肉眼型は多彩である.悪性リンパ腫の確定診断には,生検または外科的切除標本における病理組織学的診断が必要である.消化管の中でも,小腸は診断が最も困難な部位であり,CTやPET-CTなどのモダリティーでは小腸悪性リンパ腫の検出は困難な場合が多く,カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡を用いた小腸精査を積極的に行うべきである.また腸管悪性リンパ腫と良性リンパ濾胞過形成の鑑別には積極的にNBI拡大観察を併用し,血管網減少や不整血管出現などの特徴的所見を拾い上げることが,リンパ腫の小病変の診断に有用である.

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要旨●小腸において粘膜下腫瘍様隆起の形態を呈する腫瘍性・腫瘍様病変として,GIST,脂肪腫,IFP,異所性膵,NET,Meckel憩室内翻症,リンパ管腫,pyogenic granuloma,血管性病変(Dieulafoy's lesion/AVM)を取り上げ,自験例と過去の報告に基づいて,各病変の形態的特徴と鑑別診断を概説した.これらの鑑別には,病変の頂部のみならず基部を含めた病変表面性状・色調の確認と管外性発育傾向の有無の確認が重要である.また,顕性出血例においては,pyogenic granulomaと血管性病変の可能性を念頭に置く必要がある.

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要旨●非特異性多発性小腸潰瘍症は,まれな難治性の小腸潰瘍症である.その実態は,プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1遺伝子の機能喪失変異に伴う常染色体劣性遺伝病であり,プロスタグランジン関連腸症の一つであることが解明された.回腸を中心に多発する,輪走ないし斜走する比較的浅い開放性潰瘍や非対称性の変形を特徴とするが,胃や十二指腸にも病変を認めることがある.臨床経過や特徴的な消化管画像所見に加え,消化管外徴候の評価や遺伝子検査も本症の診断に重要である.

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要旨●腸管Behçet病ないし単純性潰瘍と臨床診断した18例の臨床像と腸病変を遡及的に検討した.2例でトリソミー8が陽性であり,いずれも単純性潰瘍と診断されていた.全例で回盲部に打ち抜き潰瘍を認め,回腸病変を伴っていた.トリソミー8陽性例では回盲部に打ち抜き様潰瘍が多発していたのに対し,ほかの16例中8例では終末回腸に下掘れ潰瘍が認められた.トリソミー8陽性2例とトリソミー8陰性16例中3例で空腸潰瘍が認められた.以上よりトリソミー8陽性小腸病変と腸管Behçet病・単純性潰瘍の分布に差異がある可能性が示唆された.

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要旨●自験サイトメガロウイルス(CMV)小腸炎7例の臨床像と内視鏡像についてCMV大腸炎53例と比較して検討した.罹患部位は空腸1例,回腸6例であった.CMV小腸炎は,CMV大腸炎に比べて絶対的免疫不全の割合が高い傾向がみられた.CMV小腸炎の臨床症状は出血と腹痛が多く,CMV大腸炎では出血と下痢が多かった.大量出血と穿孔の割合は,CMV大腸炎に比べてCMV小腸炎が多い傾向がみられた.CMV小腸炎の緊急手術率は43%であり,CMV大腸炎の9%に比べて高率であった.CMV小腸病変は,輪状傾向潰瘍と不整形潰瘍が多く,CMV大腸病変で多い類円形潰瘍は少なかった.CMV小腸炎と鑑別が必要な疾患として,腸結核,NSAIDs起因性腸炎,血管炎,腸管Behçet病などがある.

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要旨●セリアック病は,グルテンの経口摂取を契機に発症する自己免疫疾患で,本邦では非常にまれであるものの,絨毛の萎縮を来す疾患を鑑別する際に知っておくべき疾病である.特徴的な内視鏡所見として,十二指腸や小腸にモザイクパターン,溝状の陥凹,貝柱状外観(scalloping),顆粒状・結節状粘膜,Kerckring皺襞の減少・消失,血管透見像の出現,多発びらんなどを認める.病理組織学的所見が確定診断に必須であり,絨毛の萎縮と表層上皮内へのリンパ球浸潤などの特徴的所見により診断する.絨毛の萎縮の程度は平坦化・鈍化・消失などの段階があり,Marsh分類で評価される.本稿では,セリアック病の血清学的検査所見,特徴的な画像所見や病理組織学的所見について,絨毛の萎縮を来す他の鑑別疾患を交え概説する.

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要旨●家族性地中海熱(FMF)は,腹部,胸部などに漿膜炎による疼痛を伴う周期性発熱を特徴とする遺伝性自己炎症疾患である.FMFで消化管粘膜障害を呈することはまれとされてきたが,近年,炎症性腸疾患に類似した消化管病変を合併した症例の報告が散見される.一方で,FMFの小腸病変についての報告はいまだ限られている.本稿では,FMFの小腸病変に関する報告例をまとめ,その内視鏡像について論じる.FMF患者に認められた小腸病変は,アフタ,びらん,潰瘍,浮腫などが多くを占めていたが,FMFの小腸病変の内視鏡的特徴を明らかするためには,さらなる症例の集積が必要である.

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要旨●小腸リンパ管拡張症は小腸リンパ管の狭窄・閉塞もしくはリンパ管内圧の上昇に伴い粘膜,粘膜下層のリンパ管が拡張し,蛋白質や脂肪などが末梢のリンパ管から腸管内腔へ漏出する蛋白漏出性胃腸症の代表的疾患である.リンパ管拡張とそれに伴った臨床的な障害を認めた際に診断に至る.蛋白漏出性胃腸症を来しているかの診断も重要である.小腸内視鏡検査において,①粘膜所見が白色絨毛,散布性白点を有する白色絨毛群と,②異常なし,もしくは軽度絨毛腫大を認める非白色絨毛群の2つのタイプに分けられ,それらは治療の反応性が異なり非白色絨毛群で効果が高い傾向がある.治療は,栄養療法が中心であり,根本的で著効する治療法は現在まで認めない.薬剤療法が一部有効である.予後では経過中の日和見感染に注意が必要である.

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要旨●50歳代,男性.4年前から持続する慢性下痢にて近医を受診し,γグロブリン高値,M蛋白陽性,補体の低下があり,当院膠原病内科の検査ではIgG 4,778mg/dl,IgG4 2,910mg/dlと高値だった.経過中に腹痛で当院救急外来へ受診して入院した.慢性下痢に加え,CTにて近位小腸の壁肥厚があり,上・下部消化管内視鏡検査,経口ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行したところ,空腸,回腸の生検でIgG陽性形質細胞中のIgG4陽性細胞の割合が6割以上とIgG4関連疾患の定義を満たす病理所見が得られた.本症例は診断後ステロイド治療にて速やかに寛解した.慢性下痢を呈する症例ではIgG4関連疾患も鑑別に挙がると考えられた.

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要旨●高度の小腸腫瘤性病変を伴い,予後不良の経過をたどったMEITL(monomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma)の2例を提示した.[症例1]60歳代,男性.体重減少と腹部膨満感を主訴に受診した.小腸X線造影検査では,空腸の全周性潰瘍性病変に加えて十二指腸から上部空腸のKerckring皺襞はびまん性に肥厚していた.上部消化管内視鏡検査では,十二指腸下行部は粗糙粘膜を呈していた.病理組織学的にMEITLと診断され,化学療法と自家幹細胞移植を行ったが8か月後に永眠された.[症例2]60歳代,女性.主訴は腹痛と発熱.小腸X線造影検査で高度に囊状拡張した上部空腸の全周性病変は,内視鏡検査では耳介様周堤を伴った全周性の潰瘍性病変として観察された.消化管穿孔により緊急手術が施行され,病理組織学的にMEITLと診断された.術後化学療法を行うも6か月後に永眠された.

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 これまで「胃と腸」誌に記載した論文はいずれも気合を入れて記載した.そのため,「私の一論文」というのはあるが,「私の一冊」を推挙するのは,困難であった.

 そんなある日の「胃と腸」編集委員会で,医学書院の担当編集者から8月に発売する「胃と腸」誌の販売実績がほかの月より少ないとおうかがいした.編集委員会で「暑い夏に冷房が効いた部屋で読者が手に取り気楽に読むことができる主題を考えてみてはどうか」と言う意見が出た.私は,骨のある論文にも執着があった.しかし,同時に,長年困っていることがあった.それは,消化管画像診断の症例検討の研究会(例えば,早期胃癌研究会など)の際,私はしばしば座長を務めることがある.私は必ず,他施設から提示する予定の症例についてプレゼンテーションに用いるスライドを取り寄せて過不足や内容のチェックを行っている.その際,消化管画像診断のためのプレゼンテーションのために,この項目が不足しているなど,内容ではなく,形式を訂正するのに時間や労力を費やしうんざりしていたところであった.そこで,「消化管画像をプレゼンテーションするために,どの項目が必要で,なぜそれが必要かを示した主題を臓器ごとに記載した号は,従来の『胃と腸』とは異なるが,読者のためになるのではないか」と提案した.即座に編集委員の一人である小野裕之先生が賛成してくれたことを覚えている.従来の「胃と腸」と異なった企画であり,チャレンジであった.出版後,8月のジンクスを破り,ほかの号に負けない販売数となり,しかも時が経っても,継続して購入され続けている.消化管画像プレゼンテーションを作成する場合,この号に記載した論文に準じてくれるように依頼すればよくなり,私たちも助かり,もちろん,購入した読者にも役に立つことを今は実感している.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 蔵原 晃一
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 今世紀初頭のカプセル内視鏡とバルーン内視鏡の導入によって小腸への内視鏡的アプローチが可能となり,小腸疾患の存在診断は容易となったが,質的診断に苦慮することが少なくない.その背景に,小腸は上部消化管や大腸と比較して,腫瘍性病変の中で上皮性腫瘍に比べて粘膜下腫瘍の割合が高いこと,腫瘍性病変に比べて非腫瘍性病変の頻度が高いこと,などが挙げられる.本特集号「知っておきたい小腸疾患」は,小腸疾患診療における質的診断のスキルアップを目標として企画された.本特集号では,十二指腸を除く空腸・回腸の腫瘍性病変と非腫瘍性病変のそれぞれにおいて,鑑別診断の鍵となる疾患を,近年,新しい知見が得られつつある話題の疾患を含め,取り上げた.各疾患の病理組織学的所見と内視鏡所見に精通したい.

 まず,序説の斉藤論文では,小腸疾患の分類と鑑別診断が総説としてまとめられた.腫瘍性病変と非腫瘍性病変に分類し,各疾患のX線・内視鏡診断におけるチェックポイントと読影手順が記載された.本序説を熟読のうえ,主題へと読み進めたい.

基本情報

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胃と腸
54巻4号 (2019年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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