胃と腸 54巻3号 (2019年3月)

今月の主題 咽頭・食道内視鏡拡大観察の基本と最新知見

序説

  • 文献概要を表示

はじめに

 咽頭・食道領域に限らず,拡大内視鏡診断学は日本が世界をリードしている.海外では内視鏡を“生検を採取し”,“EMR(endoscopic mucosal resection)を行う”道具と考えており,診断を行う道具とは考えていない.この結果,拡大内視鏡は,ほとんど普及していない.

  • 文献概要を表示

要旨●咽頭・食道領域の拡大内視鏡診断に際して理解しておくことが望ましい病理学的事項をまとめた.上皮内扁平上皮癌の最表層部では乳頭内毛細血管の変化が主たる役割を担っており,上皮下毛細血管の変化は軽度であるが,進展に伴う表層部の脱落が進むと乳頭が消失して上皮下毛細血管を基盤とした血管が表層から視認されるようになる.粘膜下層深部浸潤癌の間質増生に伴い出現する血管は,細径のものから太径のものまでさまざまである.表面(上皮内癌成分)の脱落の程度と壁深達度には相関があるが,表層が保たれたまま深部浸潤を示す病変や,壁深達度の浅い病変でもびらん,炎症により表層の脱落が目立つ病変もあり,その場合には拡大内視鏡所見と壁深達度に乖離が生じる.Barrett食道腺癌における内視鏡診断困難例は,①背景粘膜の要素,すなわち背景円柱上皮粘膜において表面構造不整がみられること,②腫瘍側の要素,すなわち低異型度腫瘍の存在と非腫瘍成分の被覆の複合によると考えられる.

  • 文献概要を表示

要旨●咽頭表在癌を発見し低侵襲の内視鏡治療を行えることは,臓器機能の温存やQOLの観点から意義深い.このためには拡大内視鏡診断が欠かせない.拾い上げは非拡大観察での色調の変化などをもとに行い,引き続いて拡大観察で確信を得る.鑑別すべき疾患にリンパ濾胞や乳頭腫,異型上皮などがあるが,血管像をよく観察することで概ね鑑別可能である.拡大内視鏡診断は日本食道学会分類を用いて行われているが,深達度診断において有用かどうかはこれからの課題である.観察時の出血を来さない工夫,弱拡大〜中拡大での観察などを心がけることで,診断の精度が向上するものと考えられる.

  • 文献概要を表示

要旨●食道扁平上皮癌における拡大内視鏡診断の最大のポイントはいかに深達度診断に寄与するかである.まずは質のよい画像を得ることが基本であり,空気量や病変のポジショニングを変化させつつ丁寧に病変を扱い,倍率を徐々に上げるなどの工夫が必要である.次にJES分類の典型的血管所見を十分理解し,感度・特異度が非常に高いB1血管以外,特にB2血管領域に着目し診断を行うべきである.しかし,B2血管にはvariationが多いことが課題であるが,最近,提唱されたB2i血管やpT1b-SM2癌の所見としての隆起型+B2血管,B2血管の領域性が有用である可能性があり,今後のさらなる検討が必要である.

  • 文献概要を表示

要旨●食道扁平上皮癌のJES Type B2を“非ループ状の血管を3本以上認めた領域”と定義するとJES Type B2の頻度は32.9%で,正診率は72.4%であった.JES Type B2がT1a-MM/T1b-SM1の指標とすると,PPVは24.0%と低かった.JES Type B2をB2-AVA,B2-Inflammation,B2-Narrow,B2-Broadと亜分類すると,B2-BroadのみがT1a-MM以深の指標として有用で,この場合の正診率は91.4%,PPVは70.6%まで改善した.JES Type B2にはバリエーションが存在し,AVAを構成する血管(B2-AVA)や炎症を示唆する血管(B2-Inflammation)は深達度診断に寄与せず,それ以外のJES Type B2(B2-Narrow/B2-Broad)は領域の大きさが癌深達度に関連している可能性が示唆された.

  • 文献概要を表示

要旨●食道表在癌は拡大内視鏡観察により質的診断と深達度診断を行うことが可能である.2012年に作成された日本食道学会分類の中で,B3血管は“B2血管の約3倍以上で血管径が60μmを超える不整な血管”,AVAはType B血管に囲まれた無血管領域,もしくは血管が粗な領域と定義され,共に深達度診断に重要な所見である.一方,不規則で細かい網状血管はType R血管と呼称され,低分化型扁平上皮癌,INFcの浸潤形式,特殊型を反映する.IPCLと同様に終末血管であるSECNは2010年に提唱された新しい知見で,日本食道学会分類を構成する特徴的な血管の成り立ちに関連することが示唆されている.今回SECNを含め,これらの血管所見の特徴と意義について概説した.

  • 文献概要を表示

要旨●本邦においてBarrett食道腺癌は依然まれであるが,GERDの罹患率上昇に伴い,今後,Barrett食道および腺癌の増加が憂慮されている.進行したBarrett食道腺癌の予後は不良であり,内視鏡検査による早期発見が重要である.本邦ではBarrett食道腺癌の大多数が内視鏡観察の難しい食道胃接合部に局在する.よって,その早期発見には通常観察のコツと拡大観察を駆使した高い内視鏡診断に習熟する必要がある.本稿では,筆者らの経験と国内外の臨床研究成果に基づいたBarrett腺癌の早期発見に肝要と思われる基本テクニックから,最近提唱された日本食道学会Barrett拡大内視鏡分類までを解説したい.

  • 文献概要を表示

要旨●ECSは細胞レベルまで拡大可能な超拡大内視鏡であり,2018年に上市された.扁平上皮の診断において3段階のType分類を提案し,効率的に癌を診断することが可能になった.核密度の上昇と核異型,核の腫大が確認されれば扁平上皮癌で(Type 3),生検診断省略可能である.扁平上皮癌のほかさまざまな食道炎(放射線性食道炎,胃食道逆流症など),Barrett粘膜(腸型粘膜の杯細胞,扁平上皮島),Barrett癌で病理組織を反映する特徴的な画像が得られた.食道に対するECS診断はoptical biopsyを実現し,生検診断省略を可能にする.

  • 文献概要を表示

要旨●食道癌は進行癌として診断されると予後が悪く,早期診断が重要である.近年,人工知能(AI)はディープラーニングを用いることにより医療の分野で非常に進歩した.筆者らは食道癌拾い上げ診断におけるAIの診断能を検証した.8,428枚の食道癌の内視鏡画像を用いてAIを教育し,別に準備した1,118枚の画像で検証した.AIは食道癌症例の98%を驚くほどの速さで検出することができ,10mm未満の7病変もすべて検出した.また98%の画像で表在癌と進行癌を判断することができた.偽陽性が多い,拡大観察については十分に検討されていないなどまだ課題はあるが,AI画像診断支援システムの臨床応用の可能性が示唆された.

  • 文献概要を表示

■誌上読影会の目的と方法

 食道拡大内視鏡観察の現状と問題点を明らかにするために誌上読影会を企画した.初級者・中級者・上級者各3名,計9名に,食道内視鏡画像(NBI拡大観察をメインに3〜4枚)の読影を依頼した.経験値の異なる3者に依頼したのは,同じ症例を見て読影が的中した・外れたかの成績を見るためではなく,経験の違いによる読影の着眼点の相違や陥りやすいピットフォール,さらには日本食道学会拡大内視鏡分類に基づく読影の均てん度や分類自体の問題点を探り出す意味合いをも込めている.

 読影結果は,メインの“主たる血管”,“深達度”は全9名分と,誌面の都合上,初級者・中級者・上級者の読影コメントを抜粋して掲載した.NBI拡大観察に主眼を置いて読影を依頼したが,通常観察も含めて総合的に判断し,診断を絞った読影医もいた.各症例の末尾には症例提供者による病理組織像の提示,病理担当による病理解説,そして拡大観察読影および病理組織学的所見を踏まえた総括を示している.

 読者も読影者になりきって,ぜひ提示画像を読影していただきたい.

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 2018年9月の早期胃癌研究会は9月19日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は田中(広島大学大学院医歯薬保健学研究科内視鏡医学),吉永(国立がん研究センター中央病院内視鏡科,病理は九嶋(滋賀医科大学臨床検査医学講座)が担当した.また,セッションの間に,2017年「胃と腸」賞の表彰式が執り行われた.

私の一冊

  • 文献概要を表示

 この特集号が出版されたのは,その数年前から工藤進英先生(当時 秋田赤十字病院外科,現 昭和大学横浜市北部病院教授)が胃癌同様の微小な平坦陥凹型大腸腫瘍を単施設から次々と報告され,微小な大腸腫瘍や早期大腸癌が注目を集め,学会でも頻繁にシンポジウムのテーマに取り上げられていた時であった.私は消化器医4年目で,松山赤十字病院胃腸センターにて工藤先生と交流の深い渕上忠彦部長(後年,同院院長)のご指導の下,大腸癌の診断に携わっていた.今日では大腸SM癌の深達度診断と言えば,まずは内視鏡検査,特にクリスタルバイオレット染色やNBI観察による拡大内視鏡検査>超音波内視鏡検査(EUS)≫注腸X線造影検査という施設が大半であろうが,当時の大腸内視鏡検査は操作性や画質の悪いファイバースコープから視認性の高い電子内視鏡への過渡期という時代で,当然ながら拡大内視鏡は市販されておらず,工藤先生の偉大な拡大内視鏡pit pattern診断学も切除標本で観察した実体顕微鏡での分類にすぎなかった.また,EUSも7.5MHzの専用機がやっと登場したころで,操作性も悪く深部大腸への挿入も困難で,一部の専門施設にしかなく一般臨床には普及していなかった.このような背景から,当時の大腸癌の診断はまずは注腸X線造影検査でスクリーニングし,病変があれば大腸内視鏡検査(注腸X線造影≧大腸内視鏡)という構図であり,X線造影検査と内視鏡検査(非拡大観察)は診断に不可欠な検査の両輪であった.このため,当時は実際の診療で早期大腸癌に遭遇するたびに,本号に掲載されている深達度診断を何度も読み直していた.なかでも,今は廃れつつある注腸X線診断に関しては,本号以前から確立されていた牛尾・丸山の側面像の変形所見に関する主題論文(坂谷論文)と,正面像の表面性状からみた深達度診断(渕上論文)について詳細に記載されている.思えば,わが師の渕上先生が本号論文執筆に際し,私に大腸癌のX線画像収集を依頼され,直にその読影に立ち会わせていただいたことが,その後の私の大腸X線診断学の基本となっている.今読み返してみても,X線深達度診断の王道としてなんら色褪せない内容であり,ぜひとも消化器内科に携わる若き医師には読んでいただきたい一冊である.また,今や拡大内視鏡全盛の時代となったが,“木を見て森を見ず”とならないように,拡大内視鏡も基本は通常内視鏡観察であることを忘れないでほしい.

--------------------

目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 海崎 泰治
  • 文献概要を表示

 平成最後の年,初頭を飾る3号連続企画,大腸,胃・十二指腸に続く最後の特集は「咽頭・食道内視鏡拡大観察の基本と最新知見」である.

 食道拡大内視鏡の最初の報告から40年以上の年月が経過した.この間に機器の開発やNBI(narrow band imaging)をはじめとする画像強調内視鏡の登場により,食道の拡大観察は一般臨床でも広く普及してきている.2011年には日本食道学会分類(JES分類)の提唱により,NBI拡大観察分類が統一され,簡便性,利便性の向上も得られるようになった.さらに最近ではendocytoscopyの市販化やAI診断などの研究により,さらに新しいステージの診断学が展開されていく可能性がある.今回の特集ではこのような流れを踏まえ,咽頭・食道内視鏡拡大観察の温故知新をテーマに据えて,“基本と最新知見”を示すことを目標とした.

基本情報

05362180.54.3.jpg
胃と腸
54巻3号 (2019年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
10月7日~10月13日
)