胃と腸 50巻11号 (2015年10月)

今月の主題 血管炎による消化管病変

序説

血管炎の消化管病変 平田 一郎
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はじめに

 血管炎は全身のさまざまな血管壁に炎症を来す疾患で,その多くは原因不明の希少難治疾患である.本症は,血管の炎症に起因する全身症候(炎症所見)と臓器の虚血や出血に伴う局所症候から成る多彩な病態を呈する.全身症候として原因不明の高熱(38℃以上のスパイク熱が多い),全身倦怠感,体重減少などがあり,局所症候は罹患血管の大きさや罹患臓器によりさまざまで,高血圧,血尿・蛋白尿などの腎機能障害,狭心症,心筋梗塞,咳・血痰などの呼吸器症状,紫斑,皮膚潰瘍,知覚異常,筋痛・関節痛,消化管出血・腹痛・下痢,消化管潰瘍などが挙げられる.

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要旨●血管炎による消化管病変の病理組織学的特徴と鑑別の要点について言及した.血管炎を原因とする腸病変には,原疾患が血管炎である原発性血管炎と全身疾患に血管炎が合併する二次性血管炎とがある.血管炎による消化管病変を疑う場合には,血管炎の分布,罹患血管径や動静脈の区別,浸潤する炎症細胞の種類,肉芽腫の有無に加えて,フィブリノイド変性や炎症細胞浸潤がみられる急性期,肉芽形成期,治癒瘢痕期などの血管炎の時相にも留意して組織診断を行う.しかし,これらの組織像のみでは鑑別は困難であり,臨床像,画像所見,肉眼像を加味して総合的な診断を行うことが肝要である.

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要旨●腹部症状を呈したIgA血管炎(旧病名:Henoch-Schönlein紫斑病)15例の臨床像と罹患部位を検討した.15例中3例(20%)で腹部症状が紫斑出現に先行していた.罹患部位は十二指腸が13例(87%),小腸が14例(93%)と高率であった.次に,IgA血管炎8例の十二指腸・小腸の内視鏡所見を比較すると,十二指腸下行脚にびらん・潰瘍を認めた5例では小腸にもびらん・潰瘍が確認されたが,3例では十二指腸と小腸で潰瘍周囲の発赤・浮腫の様相が異なり,病変形成における時相の差異が推測された.また,1例では空腸に黒色〜灰白色調の潰瘍底を有する全周性潰瘍を伴い,難治の経過をたどった.IgA血管炎の小腸病変は十二指腸病変と臨床経過や重症度が異なる場合もあるため,小腸病変の内視鏡評価は必須と考えられた.

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要旨●好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の消化管病変の特徴を明らかにするために,自験10例のX線・内視鏡所見を遡及的に検討した.平均年齢53.2歳,男性7例,女性3例であった.食道・胃に明らかな病変を認めなかったが,小腸潰瘍を5例(十二指腸2例,空腸・回腸2例,終末回腸1例)に認めた.大腸病変は10例全例に認められ,特に遠位大腸優位に病変が好発していた(p=0.015).小腸・大腸病変は多発し,周囲に発赤を伴うびらん・潰瘍が病変の主体であった.以上より,本症の消化管病変の特徴は,遠位大腸を中心としたびらん・潰瘍性病変,および小腸潰瘍と考えられた.

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要旨●顕微鏡的多発血管炎(MPA)と多発血管炎性肉芽腫症(GPA)(以前のWegener肉芽種症)はANCA関連血管炎と呼ばれており,小型血管に炎症を来す全身性の疾患である.時に消化管病変を合併し,内視鏡所見では浮腫,縦走傾向のあるびらん,潰瘍などを認めることが多い.しかし生検で血管炎の所見を得る確率は低いため,全身的な検索が重要である.

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要旨●結節性多発動脈炎(PAN)の消化管病変の過去10年間の本邦報告32例の臨床病理学的特徴を概説する.新しい診断基準が発表され,PANの定義が変更された.近年,消化管症状から発症・診断されるPAN症例が増加している.PANの消化管病変の発生機序は粘膜下の全層性血管炎によるもので,(1)閉塞性血管炎による虚血性病変と(2)動脈瘤破裂や潰瘍形成による出血性病変の2つに分けられる.消化管の内視鏡生検から診断されることは非常に困難であるため,PANの診断基準に基づき行い,皮膚・神経生検や血管造影の所見も合わせて診断する.

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要旨●全身性エリテマトーデス(SLE)の消化管病変としてループス腸炎と蛋白漏出性胃腸症(PLE)があり,前者は虚血性腸炎型と多発潰瘍型に分類される.虚血性腸炎型は小腸の広範な浮腫を特徴とするのに対し,多発潰瘍型では直腸やS状結腸に打ち抜き状潰瘍が多発し,しばしば穿孔を合併する.PLEのX線造影像および内視鏡所見は軽微であるが,時にびらんや小潰瘍を伴う.一方,SLEの上部消化管病変として,血管炎に起因した胃十二指腸潰瘍の報告もある.これらの消化管病変が初発症状や予後不良因子となることがあるので,本症の消化管病変を熟知することは重要である.

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要旨●IgA血管炎(IgA vasculitis ; IgAV)は,消化管に起こることが多く,特に小腸病変が多いとされているが,その詳細は不明な部分が多い.今回,当院で行った13例13回の初回カプセル内視鏡検査を検討した.カプセル内視鏡所見は,発赤と発赤斑(intestinal purpura),びらん,および潰瘍に分類でき,発赤と発赤斑(intestinal purpura)の頻度が高く,広範に認められることが多いことから,IgAVに特徴的な所見であると考えられた.今回の検討は少数例であり,今後さらなる症例の蓄積が必要である.

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要旨●患者は88歳,男性.主訴は下腹部痛.腹部造影CTにて腸閉塞と診断され入院加療となった.腸閉塞改善後の小腸X線造影検査では終末回腸に腸間膜付着対側を中心とする偏側性変形,偽憩室様変化を,小腸内視鏡検査では縦走から一部輪走する浅い潰瘍,狭小化を認めた.大腸内視鏡検査では盲腸には不整形の浅い潰瘍,回盲弁と上行結腸には輪状潰瘍を認めた.生検による病理組織学的検査,その他の培養,血液検査でも確定診断には至らなかったが,経口摂取後も腸閉塞症状を繰り返していたため回盲部切除術を施行した.病理組織学的所見は粘膜下層に存在する小型から中型の動脈周囲に,多核巨細胞を含む炎症細胞浸潤と肉芽腫様病変を認め,内弾性板の変性や断裂の所見も認められた.頭部症状がなく側頭動脈生検は施行していないが,年齢,赤沈値の亢進,巨細胞性動脈炎(GCA)に特徴的な病理組織像から,腸管に限局したnon-cranial GCAと診断した.GCAの消化管病変の報告は極めてまれであり,その特徴を明らかにするにはさらなる症例の蓄積に基づく検討を要する.

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要旨●患者は63歳,女性.10年前に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症〔Churg-Strauss症候群(CSS)〕に対し加療歴がある.腹痛,下痢を主訴に来院した.上下部内視鏡検査,腹部造影CT検査では腹痛の原因を指摘できなかったが,CSSの小腸病変を疑い小腸カプセル内視鏡検査を施行したところ,上部空腸を中心に全周性に境界明瞭な辺縁発赤を伴う潰瘍とびらんの多発を認め,腹痛の原因と思われた.プレドニゾロンの用量を50mg/dayに変更することで腹痛は速やかに軽快し,小腸カプセル内視鏡検査がCSSの消化管病変の診断に大変有用であった.

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要旨●患者は40歳代,男性.腹痛を主訴に受診し,炎症反応高値と尿蛋白・尿潜血陽性を認め入院となった.腹部CT検査で終末回腸に限局した腸管壁の肥厚がみられた.大腸内視鏡検査では,終末回腸に限局して輪状病変の多発と浮腫がみられた.輪状病変は潰瘍とうろこ模様で構成されていた.小腸の生検組織では血管炎に合致する所見であった.急速進行性糸球体腎炎の合併があり,顕微鏡的多発血管炎(MPA)と診断した.プレドニゾロン(PSL)40mg/dayに加えて,シクロホスファミド(CPA)50mgの隔日投与にて軽快した.MPAは多くの臓器を冒し,消化器症状もみられるが,小腸病変を内視鏡的に観察された報告は自験例を含めて3例と少なく,いまだ内視鏡診断は確立していない.小腸に輪状病変や帯状潰瘍を認めた場合,頻度は低いがMPAを含む抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎を鑑別に入れる必要がある.

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要旨●患者は60歳代前半,男性.嚥下時つかえ感に対しての食道X線造影検査,上部消化管内視鏡検査にて,多発性の食道憩室と不整食道粘膜を認めたため,食道壁内偽憩室症に合併した食道癌と診断し,食道癌治療目的に外科的切除術が施行された.手術標本を病理学的に詳細に検討してみると,憩室様構造は全部で88個あったが,食道腺導管の異常な拡張である食道壁内偽憩室症と呼べるものは20個のみで,それ以外の68個は粘膜筋板を欠損した仮性憩室であった.さらに仮性憩室周囲には異物性肉芽腫が散見され,縦走傾向の配置にある食道憩室と癌の局在に関連性が示唆され,癌の成り立ちを考えるうえで興味深い症例であった.

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要旨●患者は76歳の男性.主訴は下痢で,止痢剤にても改善を認めず当科に入院した.体重減少,著明な低蛋白血症を呈し,腹部造影CTで全小腸に浮腫性壁肥厚と散発性の腸間膜リンパ節腫大を認めた.上下部消化管内視鏡検査で,上十二指腸角から肛門側と終末回腸に,白色絨毛がびまん性に認められた.小腸カプセル内視鏡検査により,病変は全小腸に及ぶことを確認した.病変部の鉗子生検の病理組織学的所見は,粘膜固有層にPAS染色陽性で泡沫状のマクロファージがびまん性に多数集簇した像が特徴的であり,Whipple病と診断した.抗菌薬投与後1週間ほどで,下痢は消失した.約5か月の経過で,異常検査値は基準内に改善し,上部消化管内視鏡検査で,白色絨毛は消失した.

Coffee Break

「見る」の周辺 2.地と図 長廻 紘
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 なんであれこの世に単独で存在する事物はない.もの(図)は必ずなにか(地)の中にある.地があってはじめてものは,図として知覚される.知覚される図はいつでも地のなかに在る.地球のような巨大な物だって宇宙のなかに,宇宙という地があるから在る.癌は胃や腸などの臓器という地があるから在る.

 地図は地と図,全体の輪郭(地)とその中に記された地名(図)からなる.全体という地があるからそこに記されている図である地名が意味を持ってくる.白紙にただ東京と記されていては地図の用をなさない.白紙では日本という地のことを分かりようがないので,そこに書かれた東京も意味をなさない.全体という地についての理解があって初めてそこにある特別なものである図に注意が行く.地があって図が活(い)きてある.地というものが成立するためには,まずそれを構成する個々のものが,自分自身を限定する独立的なもの(図)であるとともに,全体という地と親和性のあるものでなければならない.全体的統一が無ければ部分的個物の独立はないし,その逆もまた真でなければならない.生命なくして環境というものはないが,環境なくして生命はない.病気は生命の中にある.生きているということは病気予備ないし待機状態にあることである.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

第22回「白壁賞」論文募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 蔵原 晃一
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 近年,カプセル内視鏡とバルーン内視鏡の普及によって小腸への内視鏡的アプローチが容易となり,診断の確定した血管炎症例において小腸病変を認めたとする報告が増加しつつある.また,小腸を含む消化管病変が血管炎の診断契機となったとする報告や消化管病変の合併症が生命予後を左右した報告なども散見されるが,その臨床的特徴はいまだ明らかでない.本号は,本誌では初めて“血管炎による消化管病変”をテーマに企画され,各血管炎の消化管病変に関する最新の知見を明らかにすることを目標とした.

 血管炎の分類・定義および名称には,従来,「Chapel Hill分類」(CHCC 1994)が広く用いられてきたが,2013年1月に新しい分類と定義から成る「CHCC 2012」が発表された.本号もこの「CHCC 2012」に準拠して構成されている.

基本情報

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胃と腸
50巻11号 (2015年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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