胃と腸 50巻10号 (2015年9月)

今月の主題 狭窄を来す大腸疾患─診断のプロセスを含めて

序説

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はじめに

 本号のテーマ「狭窄を来す大腸疾患」は,第15回臨床消化器病研究会(2014年)での主題のひとつであったが,その時の司会を担当したのが鶴田修先生(久留米大学医学部消化器病センター),二村聡先生(福岡大学医学部病理学講座)と小生であった.演題募集の段階から大変示唆に富む症例が多数集まり,本会終了後のアンケート調査でもX線診断学を見つめ直す内容として大変好評であったことから,改めて本誌で企画された経緯がある.

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要旨●大腸に狭窄を来す症例は多く,それら疾患の鑑別診断は極めて重要である.内視鏡検査が隆盛を極めている現在,診断と鑑別診断のほとんどは内視鏡検査単独で完遂することが多い.一方,狭窄を伴う大腸疾患では,内視鏡検査の診断能は狭窄による視野制限のため低下し,内視鏡検査単独では原因疾患の鑑別診断に苦慮することが多い.内視鏡が通過しない場合や狭窄部を含む病変近傍の粘膜面がほとんど正常粘膜で覆われている場合,狭窄を伴う大腸疾患の正確な診断には,内視鏡検査に加えて注腸X線造影検査や超音波内視鏡検査(EUS),CT検査を含めた総合的なアプローチが必要である.注腸X線造影検査は狭窄を伴う腫瘍性病変よりも炎症性腸疾患の診断において有用性が高く,その際に,(1)病変の部位(疾患による好発部位),(2)病変の形態(点,線,面),(3)腸管における病変の位置(結腸紐との位置関係),(4)病変の分布(縦走配列か,横走配列か),の画像所見を分析することで,かなりの炎症性腸疾患の絞り込みと診断が可能となる.

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要旨●狭窄を来す大腸疾患の診断は,(1)基礎疾患や既往歴などを含めた臨床像,(2)発症部位,(3)内視鏡的所見を考慮することで,ある程度可能である.しかし,高度の狭窄病変では,全体像を観察することは困難であるため各種のモダリティ(内視鏡,X線造影,EUS,CT,MRIなど)を併用して相補的に行う必要がある.本稿では狭窄を来す大腸疾患の診断の体系とプロセスについて実際の画像所見を提示しながら,解説する.

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要旨●今日では大腸疾患のほとんどが内視鏡を用いて診断されているが,狭窄性病変の診断は例外で,他の画像診断法を活用して診断する必要がある.特に,腸管外に主座を有する病変の評価にはCT検査やMRI検査が,腸管自体の変化を捉えるには注腸X線造影検査が有用である.狭窄部にみられる所見は,(1)隆起を伴う狭窄,(2)潰瘍を伴う狭窄,(3)びらんを伴う狭窄,(4)これらがみられない狭窄に大別されるが,(4)の診断が最も難しい.本稿ではそれぞれの所見に対応する疾患の特徴とともに,鑑別の要点について述べた.

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要旨●大腸狭窄の原因疾患は,病理学総論の立場から,腫瘍性と非腫瘍性に大別される.これらの鑑別診断には,病理形態学的所見の他,さまざまな臨床情報が必要である.したがって,臨床医と病理医は緊密な連携および十分な意思疎通・意見交換が不可欠である.

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症例

 患 者:65歳,女性.

 主 訴:腹痛.

 現病歴:2013年7月上旬より腹痛が出現し,近医にて内視鏡検査を施行され,上行結腸に全周性の狭窄を指摘され,当院へ紹介され受診となった.

 身体所見:身長157.3cm,体重68kg,血圧107/57mmHg,脈拍86/min,体温36.8℃.腹部は平坦で右季肋部に軽度の圧痛を認めた.腫瘤は触知せず,腸音は正常であった.

 血液検査所見:WBC 6,200/μl,Hb 13.8g/dl,CRP 0.09mg/dl.腫瘍マーカーはCEA 4.7ng/ml,CA19-9 33.6U/mlと正常範囲内であった.

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症例

 患 者:80歳代,女性.

 主 訴:腹痛,食思不振.

 既往歴:十二指腸潰瘍,虫垂切除術,高血圧.

 内服歴:1983年より健康増進目的に野草(山梔子,ウコン)を内服していた.

 現病歴:2007年8月ごろより1日3行の軟便や下痢,時に右腹痛を自覚していた.

 2008年2月中旬に大腸検査を施行し,腸間膜静脈硬化症と診断された.原因物質として,クチナシの実(山梔子)が考えられたため,生薬(山梔子)の内服中止を指示した.2012年6月中旬,食思不振と腹部膨満感を自覚し,外来を再診した.血液検査で,炎症反応上昇を認めた.主治医の指示に従わず,初診後から継続して山梔子を内服していることが判明した.腸間膜静脈硬化症の増悪を疑い,精査加療目的に入院加療となる.

 身体所見:身長144.6cm,体重41.5kg.血圧116/70mmHg,脈拍60回/min・整.眼球結膜は黄疸なし.眼瞼結膜は貧血なし.胸部は心音・呼吸音に異常なし.腹部は平坦,軟,下腹部に軽度圧痛あり.

 入院時検査所見:Table 1に示す.

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症例

 患 者:43歳,女性.

 主 訴:下血.

 現病歴:3経妊2経産.子宮内膜症に対して近医婦人科に通院中であった.2013年2月ころから下血を認め,2月中旬に前医を受診した.注腸X線造影検査にて直腸に腫瘤性病変を認めたが,下部消化管内視鏡検査では確定診断に至らず経過観察となっていた.その後,当院婦人科にてチョコレート囊胞に対する術前精査加療目的で4月初旬に当科へ紹介され受診となった.

 既往歴:30歳ころ子宮内膜症・チョコレート囊胞.34歳チョコレート囊胞加療(アルコール固定術).36歳帝王切開.

 内服薬:酸化マグネシウム660mg/day.

 家族歴:特記事項なし.

 生活歴:喫煙歴および飲酒歴なし.

 理学・身体所見:身長153cm,体重51.5kg,血圧110/80mmHg,脈拍70/min(整).体温36.2℃,呼吸数14回/min,SpO2 99%(room air).眼瞼結膜やや蒼白,眼球結膜黄染なし.胸部は心音・呼吸音に異常なし.腹部は平坦,軟,圧痛なし.筋性防御なし,反跳痛なし.下腹部正中に手術痕(+).表在リンパ節触知せず.

 神経学的所見:異常所見なし.浮腫なし.

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症例

 患 者:77歳,女性.

 主 訴:排便異常.

 既往歴:高血圧症,慢性関節リウマチ,Sjögren症候群,虫垂炎手術(10歳代),胆石手術(60歳代).

 現病歴:2013年1月ころより便が出にくくなった.6月に他医で総胆管結石にて加療の際に左上腹部腫瘤を触知したため,腹部超音波,腹部CT検査,およびMRIを受けるも異常を指摘されず経過観察となっていた.2013年12月に精査目的で当センターを受診した.

 現 症:身長146cm,体重45kg,体温36.0℃,血圧128/68mmHg,腹部は軟,左上腹部にピンポン球大の腫瘤を触知した.

 検査所見:軽度のLDHとALP上昇が認められた.

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症例

 患 者:50歳代,男性.

 主 訴:発熱・下腹部痛.

 既往歴:1996年に胆石症に対して胆囊摘出術.

 生活歴:喫煙歴は胆囊摘出時まで喫煙(40本/day).飲酒歴はビール 500ml/day.

 現病歴:発熱・下腹部痛を主訴に前医を受診し,下部消化管内視鏡検査を施行したところS状結腸に全周性の狭窄を認め,当科へ紹介され受診となった.

 現 症:身長166.0cm,体重80kg.腹部は心窩部正中に手術痕を認めた.平坦・軟で左下腹部に軽度の圧痛を認めた.

 初診時血液検査所見(Table 1):炎症反応の上昇と,軽度腫瘍マーカーの上昇を認めた.

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症例

 患 者:46歳,女性.

 主 訴:便秘.

 既往歴・家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:約3年前から便秘症状が出現した.次第に排便が2日に1行の兎糞状便となったため,近医にて緩下剤の処方を受け,消化管検査目的にて当科外来を受診した.

 初診時現症:体温36.0℃,脈拍62/min,血圧118/56mmHg.意識清明で眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄疸なし.腹部は平坦・軟で,疼痛・圧痛なし.排便回数は1〜2日に1行,普通便(緩下剤使用).

 血液生化学検査所見(Table 1):貧血や炎症所見を認めなかった.腫瘍マーカーについてはCA125 48U/ml(<35.0)と軽度上昇していた.

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症例

 患 者:50歳代,男性.

 主 訴:下腹部痛,下血.

 既往歴,生活歴,家族歴:特記事項なし.

 職業歴:タクシー運転手.

 現病歴:2004年10月下旬,交通事故(運転中,運転手から見て右方向よりトラックに衝突)のため,胸腹部を強く殴打し,近医に救急搬送された.右血気胸に対し加療を受けていたが,呼吸状態が増悪し,当院救命センターに転院した.肺塞栓症と診断し,人工呼吸器管理,抗凝固療法を開始した.転院3日後(受傷後26日目),右大腿部の裂創から膝関節にかけて巨大皮下血腫が出現した.その後,ショック状態となり,急性腎不全を併発した.昇圧剤投与,輸血,持続血液濾過透析療法などの全身管理によりショックから離脱した.12月下旬(受傷後55日目),下腹部痛と下血を認め当科に紹介された.

 初診時現症:身長184cm,体重73kg.血圧154/98mmHg,脈拍90/min,体温37.2℃.眼瞼結膜に貧血あり,眼球結膜に黄疸なし.心音・呼吸音は正常,腹部は平坦・軟,腸雑音は軽度亢進,左下腹部に圧痛を認めた.腹膜刺激徴候は認めなかった.

 血液検査所見:血算では,小球性低色素性貧血(RBC 269万/μl,Hb 9.2g/dl,Ht 29.2%)を示し,生化学検査ではCRP値が軽度に上昇(1.3g/dl)していた.サイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)感染は,CMV IgG 342mg/dl,IgM 0.51mg/dlと既感染パターンであったが,CMV抗原はC7-HRP法で2/50,000個であった.

 便培養:Pseudomonas aeruginosaがごく少量同定された.

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症例

 患 者:60歳代,女性.

 主 訴:便通障害,貧血.

 既往歴:特記すべき事項なし.

 家族歴:特記すべき事項なし.

 現病歴:便通障害と貧血を主訴に受診した前医で下部消化管内視鏡検査と注腸X線造影検査が施行され,上行結腸と横行結腸に壁外浸潤を疑わせる伸展不良所見が指摘された.精査加療目的に当科を紹介され受診した.

 現 症:右側腹部に腫瘤を触知.表在リンパ節は触知せず.

 来院時血液検査所見:貧血と炎症反応上昇を認め,CEA,CA19-9,AFPは正常値であったが,slL2R 1,570U/ml,CA125 356U/mlと上昇を認めた.

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要旨●患者は78歳,男性.主訴は胃部不快感.近医での胃X線造影検査にて胃粘膜下腫瘍を疑われ,当院を紹介され受診となった.上部消化管内視鏡検査にて,胃体中下部大彎に50mm大の発赤調の粗大顆粒状粘膜に覆われた粘膜下腫瘍様の半球状隆起性病変と,その肛門側に,同様に発赤顆粒状を呈した陥凹性病変を認めた.生検でMALTリンパ腫と診断され,全身精査にてLugano国際分類I期と診断した.血清抗体法でH. pylori陽性であり,一次治療として除菌療法を行った.3か月後にはいったん腫瘍の縮小を認めたが,除菌から半年後には再増大を認め,除菌抵抗性と判断し,二次治療として放射線療法を行った.放射線療法1年後には,胃病変の消失を認め,現在まで無再発生存中である.胃MALTリンパ腫の肉眼所見は,多彩であることが特徴であるが,本症例は粘膜下腫瘍様の大きな隆起所見と早期胃癌(0-IIc)類似の陥凹所見が併存した,まれな症例であると思われた.

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要旨●患者は69歳,男性.悪性貧血の診断にて近医でビタミンB12の筋肉注射治療を受けていた.スクリーニングの上部内視鏡検査を施行したところ,胃体上部大彎に0-IIa+IIc様病変を認め,精査加療目的で当院を紹介され,受診となった.上部消化管内視鏡検査では,胃体上部大彎に境界明瞭な陥凹を有する立ち上がり急峻な10mm大の発赤調0-IIa+IIc様隆起性病変を認めた.生検ではGroup 1であり,診断的治療目的にESDを施行した.病理組織学的所見では,比較的均一な円形の核を持つ腫瘍細胞が索状,シート状に増殖する古典的カルチノイドであった.また,腫瘍周囲には増殖性のECMはみられず,A型胃炎を背景に発生したsporadicカルチノイドの可能性が示唆された.

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要旨●患者は76歳,男性.腹部膨満感,食欲不振を主訴に前医を受診した.高度の炎症反応を伴う左側結腸の腸管壁肥厚から腸間膜脂肪織炎が疑われた.プレドニゾロン全身投与を含む保存的治療で症状はいったん改善したが,4か月後に再燃を来したため当科へ紹介され,受診となった.大腸内視鏡検査では,腸管浮腫に加えて縦走・帯状潰瘍を認めた.さらに血管造影検査では下腸間膜静脈が描出されず,下腸間膜静脈閉塞の所見と考えられた.発症から6か月後には大腸狭窄へと進行したため,外科的切除を行った.病理組織学的に粘膜下層の浮腫と血管増生・蛇行を認めるものの血管炎の所見はなかった.以上より,下腸間膜静脈閉塞に起因した虚血性大腸炎と考えられた.

Coffee Break

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「見る」の周辺 序

 内視鏡医にかぎらずすべての医師がいやすべての人間が必ず分かっているべきと確信する「見る」ことに関して書いてきました.書くことは兼好法師が喝破した如く,膨れた肚をスカッとさせることです.それと同時に腹ならぬ頭に溜っていたよしなしごとを外へ追い出し頭をからっぽにすることでもあります.空になってサッパリするかというとそうではなく,どこかからその空所に何かが入り込んできて埋めて行きます.埋めるものは理の当然として前にあったものより深いところから湧いてくる内容のことがあります.一般論としても謎は解決されたら終わりということではなく必ず新しい謎を呼び出すものです.空いたところへ新しいものが入るということを繰り返しついに誰も届かなかったところへたどり着く.これはあらゆる知的営為に付随します.また,下らないことを書いてしまったということは活字にならなければ気付かないものです.そういうわけで発表の場を与えて下さった「胃と腸」に感謝いたします.日本で最も知的レベルの高い集団である「胃と腸」の読者に読んでいただくのは光栄であるのと同時に,責任を痛感いたします.

 見るに関しても終わることなく想が湧くようになり,続けさせていただいています.短い限られた紙面ですので,論理の飛躍があって読みづらいかもしれません.お許しください.若(くなくてもよ)い読者にお勧めしたいのは,なにかが,必ずしも学問上のことでなくても,思い浮かんだらメモに残しあとで文章にして解決してゆくことです.文にすると,その人にとっての最終地点まで届くものです.メモの大部分は真の智と関係のない博学と同じで,下らない鉄屑であったと判明するのですが稀に金鉱につながる砂金もあるものです.鉄は捨て,金は育てて金鉱にまで至れます.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 鶴田 修
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 「狭窄を来す大腸疾患」には日常臨床においてよく遭遇するが,機器・診断学の進歩の著しい内視鏡検査でも狭窄部を通過しない場合は得られる情報が少なく,確定診断まで行きつくには注腸X線造影検査,腹部エコー,CT-scan,超音波内視鏡,MRI検査など内視鏡以外の検査が必要であることは多くの臨床医が理解するところである.しかし,昨年(2014年)ある研究会で「狭窄を来す大腸疾患」というテーマで症例検討を行ったところ,内視鏡も含めたさまざまな検査法による症例提示が役立ったと大変好評であったため,本誌でも同じテーマで研究会よりさらに内容を深めて診断プロセスにまで言及した1冊を作成しようということになり,本号が特集された.

 序説では内視鏡検査の超専門家である山野が狭窄性病変の診断における内視鏡検査の弱点を素直に認め,本号特集の目的を解説し,内視鏡以外の検査による診断への期待を述べている.

基本情報

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胃と腸
50巻10号 (2015年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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