胃と腸 50巻12号 (2015年11月)

今月の主題 胃底腺型胃癌

序説

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はじめに

 胃底腺型胃癌は,2007年にTsukamotoら1)が“gastric adenocarcinoma with chief cell differentiation”として1例報告したのが最初であり,その後筆者が収集した10例をUeyamaら2)が通常型高分化腺癌との比較を含めた臨床病理学的解析を行い,“gastric adenocarcinoma of fundic gland type(chief cell predominant type)”という名称で2010年に新しい疾患概念として提唱した.この論文をThe American Journal of Surgical Pathologyに投稿準備中にさらに発見・収集された新しい症例27例を本誌でも発表したことで3),本邦ではこの疾患概念が広く普及し,各施設で次々と発見されるようになった.

 胃底腺型胃癌は,当初は低異型度・低悪性度の腫瘍として報告したが,その後の症例の集積により,多彩な細胞分化を示した高悪性度のもの4)や高異型度のもの5)も発見されてきており,胃底腺型胃癌をもう一度見直し,再分類する必要性が生じてきた.

 また,筆者ら6)〜10)はその遺伝子異常の解析も進めており,少しずつではあるが,発生あるいは進展に寄与する因子が判明しているが,未だ十分解明されたとは言い難い.

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要旨●当院にて経験した腫瘍細胞が胃底腺への分化を示す18症例21病変を用い,病理組織学的,免疫組織化学的,および臨床病理学的特徴を検討した.その結果,胃底腺への分化を示す胃癌は胃底腺型胃癌と胃底腺粘膜型胃癌に大別された.腫瘍を構成する細胞がpepsinogen I優位に陽性の病変を主細胞優位型,MUC6が優位に陽性の病変を副細胞優位型,そしてpepsinogen IとMUC6が同等に陽性の病変を主・副細胞混合型と仮に定義すると,胃底腺型胃癌は主細胞優位型が15病変中9病変と最も多いが,胃底腺粘膜型胃癌では,6病変中副細胞優位型2病変と主・副細胞混合型3病変がほとんどを占めていた.平均腫瘍径は胃底腺型胃癌(2.9mm)と比較し胃底腺粘膜型胃癌(6.5mm)が大きい傾向にあり,また胃底腺粘膜型胃癌は全病変pT1b1(SM1)であった.以上の結果より,主細胞優位の病変は粘膜中層から深層にかけて緩徐に増殖し,比較的小さい病変が多いが,主細胞に加え副細胞や腺窩上皮など多方向への分化を有する病変は比較的速く増殖し,かつ大きく発育すると推測された.

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要旨●胃底腺型胃癌は胃底腺粘膜に発生する主に低異型度な分化型腫瘍で主細胞への分化が明瞭なものを指す.この腫瘍の臨床病理学的特徴を深く理解することを目的として,胃底腺粘膜の増殖・分化と化生,また,同じ胃底腺粘膜に発生する腫瘍様病変と低異型度腫瘍の病理学的特徴について解説する.胃底腺細胞は腺頸部より表層の腺窩上皮,深部方向の頸部粘液細胞,壁細胞,主細胞と内分泌細胞から構成される.頸部粘液細胞は主細胞の前駆細胞である.化生としては偽幽門腺化生,幽門腺化生と完全型腸上皮化生が発生する.これらの正常・化生組織を基盤として,腫瘍様病変としては腺窩上皮型過形成性ポリープ,胃底腺ポリープ,過誤腫性内反性ポリープ(粘膜下異所性胃腺)が,低異型度腫瘍としては腺窩上皮型腫瘍,胃底腺ポリープに伴う腺窩上皮型腫瘍,胃型腺腫(幽門腺腺腫),カルチノイドと低異型度小腸型腺癌が発生し,実際的あるいは概念的に胃底腺型胃癌の鑑別診断の対象となりうる.

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要旨●最近9年間に当センターで内視鏡的ないし外科的に切除された胃癌1,305例の中で,UeyamaとYaoらの診断基準を満たし,胃底腺型胃癌と診断した9例(0.7%)を対象とし,その臨床病理学的所見をX線造影・内視鏡所見を中心に遡及的に検討した.9例の年齢は平均69.2歳で,男性8例,女性1例であった.9例は全例で臨床的H. pylori感染診断は陰性であり,5例(55.6%)は萎縮のないH. pylori未感染胃,4例(44.4%)は木村・竹本分類C-2以上の萎縮性変化を認め,既感染に該当した.9病変中8病変はUM領域に位置し,粘膜下腫瘍(SMT)様隆起や平坦ないし陥凹型の形態で,粘膜集中像を認めなかった.内視鏡的に病変は褪色調を呈し,表面に血管透見像を伴っていた.EUSでは隆起型,陥凹型の双方で腫瘍直下の粘膜深層から粘膜下層にhypoechoic lesionを認め,胃底腺型胃癌の特徴的所見である可能性が示唆された.胃底腺型胃癌はH. pylori未感染胃に発生した分化型胃癌の半数以上を占めており,今後,H. pylori感染率の自然低下が予想される中で,そのX線造影,内視鏡的特徴を念頭に置くことは重要と考えた.

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要旨●胃底腺型胃癌25例,27病変の臨床像と内視鏡像を検討した.性別は男性16例で,年齢は44歳〜84歳,平均65歳であった.H. pylori感染は58.3%で陰性で,病変発生部位は全例背景粘膜に萎縮のないU,M領域であった.肉眼型は0-IIa型が12病変,0-IIb型が9病変,0-IIc型が4病変であった.粘膜切除標本による病変径は1〜20mm,平均5.6mmと小病変が多かった.内視鏡的所見の特徴としては,白色調で表層血管の増生拡張が目立つ例が多く,健常表層粘膜の直下に腫瘍が存在する上皮下腫瘍と呼ぶべき形態を呈していた.

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要旨●胃底腺型胃癌の通常内視鏡所見について検討した.胃底腺型胃癌の典型例はH. pylori感染の有無にかかわらず,萎縮性変化のない胃底腺粘膜に発生し,褪色調,粘膜下腫瘍(SMT)様の隆起性病変,樹枝状の拡張血管を呈する.また,胃底腺型胃癌の中には病変内に限局する色素沈着を伴うものが存在し,病理組織では腫瘍腺管内に好酸性物質が貯留しており,その内部には褐色調の微細顆粒状沈着物を認め,色素沈着の原因と考えられた.この色素沈着は胃底腺型胃癌の特徴のひとつである可能性があり,胃底腺粘膜内の限局する色素沈着に注目することにより,胃底腺型胃癌の早期発見の契機になる可能性が考えられた.

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要旨●筆者らが提唱した胃癌の組織亜型・胃底腺型胃癌(GA-FG-CCP)のNBI併用拡大内視鏡検査を含む内視鏡診断体系について検討した.当院で胃底腺型胃癌と診断された23症例を対象に白色光通常観察での特徴について検討し,その中でNBI併用拡大内視鏡検査を施行し病理組織像との対比が可能であった13症例を対象にNBI併用拡大観察での特徴について検討した.白色光通常観察での内視鏡的特徴は,①粘膜下腫瘍様病変,②褪色調,③樹枝状の拡張血管,④背景粘膜の萎縮性変化なしであった.肉眼形態では隆起型と平坦・陥凹型に分類され,肉眼型と色調による特徴を理解する必要がある.VS classification systemを用いたNBI併用拡大内視鏡では,肉眼形態にかかわらず,①明瞭なDL(demarcation line)なし,②腺開口部の開大,③窩間部の開大,④irregularityに乏しい微小血管が高率に観察され,これらの所見は胃底腺型胃癌の発生母地,発育進展形式によって形成される所見であるが,腫瘍に修飾された所見と考えると診断に有用となる可能性がある.また,白色光通常観察と同様に肉眼型による特徴も理解する必要がある.胃底腺型胃癌はまれな腫瘍であり,一般的には内視鏡診断は困難であると考えられているが,典型的な症例では診断につながる特徴的な所見を呈しており,白色光通常観察とNBI併用拡大観察での特徴を認識することが診断に有用である.さらに,胃底腺粘膜型胃癌などの表層に腫瘍が露出している胃底腺型胃癌の亜型の存在が明らかになり,今後の検討次第ではタイプによって胃底腺型胃癌特有の所見を見い出すことが可能であると考えられる.今後はこれらの内視鏡診断体系をもとに症例を蓄積し,胃底腺型胃癌の肉眼型や異型度,細胞分化による分類を含むさらなる詳細な内視鏡診断に関する検討が必要である.

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要旨●2007年9月〜2015年3月までに内視鏡的・外科的に切除した早期胃癌852病変のうち,病理組織学的に胃底腺型胃癌あるいは胃底腺粘膜型胃癌と診断され,NBI併用拡大内視鏡を施行した病変を抽出した.これらの6病変の通常内視鏡・NBI併用拡大内視鏡所見の特徴を詳細に検討した.胃底腺型胃癌においては,上山ら4)が既に報告した所見と大差なかったが,胃底腺粘膜型胃癌においては,既報と異なる特徴的なNBI併用拡大内視鏡所見を認めた.胃底腺粘膜型の2例においては,明瞭なDLが同定され,その内側にirregular MV patternかつ/またはirregular MS patternを認めた.すなわち,VS classificationによる癌の診断基準を満たしていた.本研究により,胃底腺粘膜型胃癌は,胃底腺型胃癌と異なる通常内視鏡・NBI併用拡大内視鏡所見を呈することが初めて明らかになった.

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要旨●胃底腺型胃癌のβ-catenin核内標識率は浸潤に伴い増加し,胃底腺ポリープ,通常型胃癌より高く,Wnt/β-cateninシグナル伝達系関連遺伝子の変異はAXIN2(27%),CTNNB1(15%),PPP2R1A(9%)と胃底腺ポリープや通常型胃癌より高率で,さらに同伝達系関連のSFRP1,APC,AXIN2遺伝子のメチル化率(67〜89%)も胃底腺ポリープより高い.また,胃底腺型胃癌(粘膜下層浸潤癌)ではGNAS遺伝子変異(19%),Kras遺伝子変異(8%)を認めるが,胃底腺ポリープや通常型胃癌ではほとんどみられない.以上から,胃底腺型胃癌の発育進展には胃底腺ポリープや通常型胃癌とは異なるWnt系およびGTP結合蛋白関連シグナル伝達系の活性化が関与すると考えられる.

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要旨●患者は62歳,男性.検診目的に施行した上部消化管内視鏡検査で胃癌の診断を受け,精査加療目的に入院となった.通常光観察で胃体下部小彎後壁寄りに20mm大の陥凹型病変を認めた.H. pyloriは陰性であったが,背景粘膜は萎縮化生性変化を認め,H. pylori自然消退例の可能性が示唆された.NBI拡大観察を用いたVS classification systemでirregular microvascular pattern plus relatively regular microsurface pattern with a demarcation lineと診断し,粘膜下層浅層までの浸潤にとどまった分化型早期胃癌0-IIc型と判断した.ESDによる一括切除を施行し,胃底腺に類似した腫瘍腺管から成る高分化型腺癌の所見を認めた.免疫染色にてpepsinogen Iが陽性かつ胃型の粘液形質発現を認め,胃底腺型胃癌と診断した.腫瘍細胞は予想外に陥凹局面の外側にまで進展を認めた.また,脈管侵襲が目立ってみられたため,腹腔鏡下胃全摘術およびD2郭清を追加施行した.その結果,漿膜下組織への脈管侵襲が確認された.最終的にT3N0M0,Stage IIAの進行胃癌であった.

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要旨●患者は40歳代,男性.胃角部後壁の進行胃癌治療目的に当科へ紹介となった.当科での上部消化管内視鏡検査では既知の病変に加えて,胃噴門部後壁に10mm大の周囲になだらかな隆起を伴う褪色調陥凹性病変を認めた.胃噴門部病変は2回の生検でGroup 2の結果であり,診断的治療目的にESDを施行した.病理組織学的所見では,胃底腺粘膜深層に管状腺癌の増殖を認め,多病巣性に腫瘍の粘膜下層への浸潤を認めた.免疫染色を追加したところ,MUC5AC(+),MUC6(+),MUC2(−),CD10(−)で胃型の粘液形質を有していたが,pepsinogen IおよびH/K- ATPaseはごく一部で陽性にすぎなかった.本症例において,HE染色像は胃底腺型胃癌(主細胞優位型)に類似していたものの,免疫染色像からは腺窩上皮や粘液腺への分化が主体の腫瘍と考えられた.

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要旨●患者は59歳,女性.心窩部不快感を主訴に上部消化管内視鏡検査を受けたところ,胃体中部大彎に40mm大の急峻な立ち上がりの辺縁隆起を伴う潰瘍性病変を認め,悪性リンパ腫が疑われた.潰瘍辺縁からの生検組織には非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が多数認められた.全身検索を行ったが,肺や眼などにはサルコイドーシスを疑う所見を認めず,結核,梅毒,Crohn病の所見も認めなかった.以上から特発性肉芽腫性胃炎と診断したが,Helicobacter pyloriは陰性であった.前医より開始されたPPIの投与のみで病変は治癒,瘢痕化し,病理組織学的にも肉芽腫は消退した.

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要旨●患者は40歳代,女性.便潜血陽性のため大腸内視鏡検査を受け,当科へ紹介され,受診となった.注腸X線造影検査および大腸内視鏡検査で,盲腸に表面平滑な隆起性病変を認め,広基性の基部から階段状,同心円状に先細りの形態を示していた.虫垂腫瘍による虫垂重積と診断し,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.虫垂と盲腸の筋層が肥厚し,内部に層状に虫垂粘膜を認め虫垂重積の状態であった.肥厚した筋層と漿膜下層内に子宮内膜間質に囲まれた子宮内膜腺を認め,虫垂子宮内膜症を原因として虫垂重積を来した病変であった.腸管子宮内膜症による虫垂重積は比較的まれで,術前診断は困難であるが,虫垂重積に特徴的な画像所見を呈しており,ここに報告する.

消化管組織病理入門講座・14

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はじめに

 消化管ポリープとは内腔に向かって隆起した病変を指し,全体の形状から有茎性,無茎性,広基性あるいは山田分類*1 I〜IV型などに分類されている.質的には上皮性病変と非上皮性病変,あるいは非腫瘍性病変(腫瘍様病変)と腫瘍性病変(良性・悪性)に分類することができる.本稿では,比較的頻度の高い上皮性の胃良性上皮性ポリープ(腫瘍様病変と腫瘍)の成り立ちと典型的な組織像について概説する.

早期胃癌研究会

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 第54回「胃と腸」大会は2015年5月28日(木)に名古屋観光ホテル 3階「那古」で開催された.司会は赤松泰次(地方独立行政法人長野県立病院機構長野県立須坂病院内視鏡センター)と丸山保彦(藤枝市立総合病院消化器内科),病理は海崎泰治(福井県立病院病理診断科),和田了(順天堂大学医学部附属静岡病院病理診断科)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,二村聡(福岡大学医学部病理学講座)が「臨床医が知っておくべき病理 第2弾 全消化管:消化管に発生するリンパ腫(前編)—消化管リンパ組織の正常構造を中心に」と題して行った.

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 われわれの見る世界は地と図からなると前回述べた.全体が地で,そこで注意を引くものが図である.地のなかの何に注目すべきかは地のことが分かっていないと難しい.広い地に関する深い理解がないと図は見えてこない.臓器という地がよく分かったうえで図(病変)が浮かび上がってきて診断が成り立つ.内視鏡で見るとき,胃粘膜という地はそのままではノッペラ坊であるが,ある部分が「オヤ,他と違うぞ」という印象を与え,図として浮かび上がってくる.最初に赤い斑点と見えたものが図となって,ビランとか癌であるといった判断・診断が下される.色は地から浮き出て図となる,色は診断につながるという意味で重要である.

 あるのは赤い斑点という知覚だけで,いつ誰が見るかというその知覚の生々しさはその時だけの一期一会的なものである.体験される感覚の生々しさは,しかし,実在しているわけではない.事実とは対象の知覚(実在)と感覚という体験(非実在)の全体である.赤い斑点に気づいたら(注目),その周辺を注意する.そうすると,癌の場合は特有の辺縁像が見えてくる.不安定な色よりも安定している形の方がより客観性を有する.IIcの診断の場合,主観のなかで赤いという不安定な色より,ヤセ・太まり・虫食いなどといった安定した形のほうが診断をひきよせる.さらに,注意したもの(赤い斑点)に注力すること(色素やヨードを撒く,生検を行うなど)で診断は完成に近づく.病変が小さくなればなるほど形の変化も小さくなり,遂に移ろいやすい色の変化だけになる.だから,小さい病変の肉眼診断は難しくなる.その色もなくなり図のない地だけの胃粘膜となると,注意を引かず診断もできなくなる.

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欧文目次

第22回「白壁賞」論文募集

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 長浜 隆司
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 胃底腺型胃癌は,新しい組織型の胃癌として2010年にUeyama,八尾らによって提唱された新しい疾患概念である.その頻度はまれで本号の矢板論文でも対象期間中の胃癌の中でわずかに0.7%である.Helicobacter pylori(HP)感染と無関係とされ,HP感染率の低下傾向とともに,HP未感染胃にも発症する胃癌としてその臨床的重要性は増しつつあり,まだまだ症例の集積は少ないものの現時点での臨床病理学的特徴,発育進展を明らかにするために本号が企画された.

 まず序文では胃底腺型胃癌の提唱者である八尾が胃底腺型胃癌の疾患概念の確立,その後の新知見発見の経緯を執筆した.本疾患の発見と概念確立に至る経緯は非常に興味深い.

基本情報

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胃と腸
50巻12号 (2015年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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