Coffee Break
「見る」の周辺 2.地と図
長廻 紘
pp.1450-1451
発行日 2015年10月25日
Published Date 2015/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403200457
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なんであれこの世に単独で存在する事物はない.もの(図)は必ずなにか(地)の中にある.地があってはじめてものは,図として知覚される.知覚される図はいつでも地のなかに在る.地球のような巨大な物だって宇宙のなかに,宇宙という地があるから在る.癌は胃や腸などの臓器という地があるから在る.
地図は地と図,全体の輪郭(地)とその中に記された地名(図)からなる.全体という地があるからそこに記されている図である地名が意味を持ってくる.白紙にただ東京と記されていては地図の用をなさない.白紙では日本という地のことを分かりようがないので,そこに書かれた東京も意味をなさない.全体という地についての理解があって初めてそこにある特別なものである図に注意が行く.地があって図が活(い)きてある.地というものが成立するためには,まずそれを構成する個々のものが,自分自身を限定する独立的なもの(図)であるとともに,全体という地と親和性のあるものでなければならない.全体的統一が無ければ部分的個物の独立はないし,その逆もまた真でなければならない.生命なくして環境というものはないが,環境なくして生命はない.病気は生命の中にある.生きているということは病気予備ないし待機状態にあることである.
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