胃と腸 48巻5号 (2013年5月)

特集 炎症性腸疾患 2013

序説

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はじめに 本誌増刊号のテーマとして炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)が取り上げられるのは,1997年以来である.その間,IBDでは基礎研究のみならず,診断と治療の面でも驚くべき進歩がみられた.すなわち,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)やCrohn病(Crohn's disease ; CD)の遺伝的要因,環境因子,あるいは粘膜免疫調節機構の解析が進み,新しい治療の道が開かれた.また,診断面では小腸内視鏡の普及により,小腸病変の特徴が明らかとなった.さらに,白血球除去療法,免疫調節薬,抗TNF-α療法などの新規治療法の有効性も明らかとなり,治療選択肢が拡がったことも周知されている.一方,IBDの診療においては,従来から積み重ねられてきたX線・内視鏡所見や病理所見の特徴を理解しておくべきことは言うまでもない.従来の診断学の成果と最近の進歩が本号では取り上げられ,網羅的に提示される. 近年,IBD患者数の増加は顕著であり,疫学上の特徴と,今後の展望についても知識が必要である.本邦のIBD疫学は充実している.その理由は,厚生労働省の疫学調査と診療上の診療費援助制度のためである.軽症例まで広く援助の恩恵にあずかっているため,症例数の増加はさらに拍車がかかっている.しかし,IBDが難治性疾患であることもあり,紹介を受ける専門施設の数は十分とは言えず,診療は大変混雑している.さらに,IBD専門施設でない施設でも,IBD患者の診療に当たることが増えている.そのIBD診療手順はガイドライン1)~3)などに学べるが,軽症や中等症の治療が成功しない場合には専門施設での診療が必要となる.すなわち,専門的知識が必要な生物学的製剤や免疫抑制剤は時に強い副作用があるため専門医との相談ののちに導入することが望ましい.

主題 炎症性腸疾患の疫学・病因

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炎症性腸疾患〔IBD ; 潰瘍性大腸炎(UC),Crohn病(CD)〕は,難病・特定疾患に指定されており,患者は認定を受ける際に臨床調査個人票を提出する.臨床調査個人票の電子化データを用いた疫学指標の算出は,問題点はあるものの例数が多く,重要と考えられる.本稿では,臨床調査個人票を用いて有病率や患者特性を集計し海外と比較した.年齢調整有病率(10万人当たり)はUC 84.5,CD 26.3(2009年)であり,以前と比較して増加している.有病率は,アジアや途上国では増加しており,原因として生活様式の近代化や診断技術の進歩,死亡率の低下などの要因が考えられる.一方,欧米での有病率はプラトーに達したとの報告もあり,日本での動向に注意が必要である.

炎症性腸疾患の病因 安藤 朗
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炎症性腸疾患(IBD)は,遺伝的素因と環境因子の相互作用の結果,腸内細菌や食事抗原に対して,過剰な免疫応答が惹起され発症に至る.日本では,ここ数十年間にIBD患者が爆発的に増加した.日本人の遺伝的素因の変化は考えられず,腸内細菌をはじめとする環境因子の変化が,患者数の増加に関与していると推測される.本稿では,腸内細菌叢,自然免疫,獲得免疫とIBDの病態の関連について解説する.

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近年,炎症性腸疾患(IBD)におけるゲノム研究が進み,約160の関連遺伝子領域が同定された.しかしながら,人種差や環境の違いにより疾患関連遺伝子の影響度が異なることも明らかになっており,IBDの遺伝的要因に関する複雑な病態が改めて浮き彫りになっている.一方で,断片的とはいえ同定されたIBD関連遺伝子から新たなdisease pathwayを想定することが可能となり,病態解明の糸口や治療のターゲットになっている.さらに,遺伝子多型からみたIBDの発症,自然史,あるいは治療反応性の予測も試みられている.

主題 炎症性腸疾患の診断

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IBDが典型的な画像所見を示していればその診断は比較的容易であるが,典型的所見を欠く場合は診断に苦慮することが多く,様々な腸炎との鑑別が必要となる.診断困難な場合,慎重な経過観察によって初めて確定診断に至る例も少なくない.IBDと鑑別を要する腸炎のうち感染症以外の主要な疾患として,Crohn病(CD)との鑑別では,主に腸管Behçet病(BD)・単純性潰瘍,潰瘍性大腸炎,虚血性大腸炎,NSAID起因性腸病変(潰瘍型),collagenous colitisなどが挙げられる.UCとの鑑別では,主に腸管BD,CD,リンパ濾胞性直腸炎,NSAID起因性腸病変(大腸炎型),腸管アミロイドーシス,放射線性腸炎などが挙げられる.また,indeterminate colitisの定義として“UCとCDの所見が重複し”とあるが,具体的所見としてに統一されたものはなく,その診断は注意深く行わなければならない.本稿では,前述した疾患の画像を示しながら,IBDとの鑑別診断について述べる.

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潰瘍性大腸炎(UC)ではカンピロバクター腸炎,サルモネラ腸炎,アメーバ性大腸炎との鑑別が重要である.これらの感染性腸炎との鑑別では,内視鏡的鑑別診断に加えて詳しい問診が重要であり,必ず便培養検査を行う.Crohn病(CD)ではエルシニア腸炎や腸結核との鑑別が重要である.腸結核とCDの鑑別では,内視鏡所見に加えクォンティフェロン検査や胸部CT検査が補助診断として重要である.炎症性腸疾患(IBD)の増悪因子としてClostridium difficile(C. difficile)感染症とサイトメガロウイルス(CMV)感染症の合併が問題となっている.IBDに合併したC. difficile感染症は増悪因子のみではなく予後不良の因子である.IBDでは偽膜形成することが少なく内視鏡像で診断することが難しい.UCに合併したCMV感染症はUCの重症化や難治化に関与している.内視鏡像は重症UCの像とほぼ同じであり,内視鏡像のみでの診断は難しいため,CMV抗原測定,組織学的検査,粘膜CMV-DNA検査などを行う.

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炎症性腸疾患(IBD)の腸管外合併症を明らかにすることを目的としてアンケート調査を施行した.アンケートは九州全域の33施設から回答が得られ,母数はCrohn病(CD)2,227例,潰瘍性大腸炎(UC)3,499例であった.腸管外合併症の有病率はCDで43.9%,UCで28.9%であり,UCに比較してCDが多かった.臓器系統別の腸管外合併症有病率はCD,UCとも肝・胆道系,皮膚・粘膜系,筋骨格系が多く,その内訳ではCDは口腔内アフタ(6.2%),関節炎・関節症(5.5%),膵炎・高アミラーゼ血症(5.4%),胆石症(4.6%)が多く,結節性紅斑(1.5%),尿路結石(1.7%)が続いた.UCでは関節炎・関節症(4.9%),膵炎・高アミラーゼ血症(2.9%)が多く,口腔内アフタ(1.9%),胆石症(1.3%),尿路結石(0.9%)が続いた.なお,CD,UCとも精神・神経障害が約3%に認められた.

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炎症性疾患は多彩な肉眼像を呈するため鑑別診断が困難なことがしばしばある.診断を行ううえで,肉眼像や組織像から推定することが重要である.潰瘍性大腸炎(UC)の肉眼像の基本単位は,(1) 連続性の褐色調粘膜,(2) 不整顆粒状粘膜,(3) びらんや小潰瘍の多発,(4) 偽ポリポーシスである.それらに対応した組織像は,(1) basal plasmacytosisを伴うびまん性慢性活動性炎症,(2) 陰窩膿瘍による粘膜深部の陰窩の破壊,(3) 粘膜全層性破壊による溝状潰瘍,(4) 潰瘍による多発性島状残存粘膜である.Crohn病(CD)の肉眼像の基本単位は,(1) アフタ,(2) 小潰瘍・地図状潰瘍,(3) 縦走潰瘍,(4) 敷石像・炎症性ポリポーシスであり,それらに対応した組織像は,(1) リンパ濾胞での活動性炎症(しばしば肉芽腫を伴う),(2) 限局性の高度の炎症と粘膜破壊によるfissuring ulcer,(3) 縦走配列した潰瘍,(4) 不連続性潰瘍による過形成性変化を伴う多発性島状粘膜である.また,下部消化管のみならず上部消化管病変の特徴の理解も重要である.CDではfocally enhanced gastritisが特徴的組織所見で,UCでは大腸病変と同様の像を示す.

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潰瘍性大腸炎(UC)の診療は内科的治療の飛躍的進歩によって,より緻密さが要求されるようになってきている.大腸内視鏡検査は,UC診療の基軸となるもので,鑑別診断,重症度や罹患部位の把握,合併症の診断などに有用である.検査施行に当たっては,前処置や挿入部位など様々な事項を症例に応じ,臨機応変に行い,必要な情報を的確に入手する.image enhanced endoscopy(IEE)や分子イメージングは,この分野にさらなる進化を将来もたらす可能性がある.

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Crohn病(CD)の診断および病変評価において,形態学的所見は極めて重要である.X線検査は内視鏡検査と比べると,局所所見,特に小病変の描出能は劣るが,全体像の把握や管外性の情報を知るには有用な検査法である.本稿では,CDの診断,治療方針決定および治療評価におけるX線検査の使用方法や注意点を中心に概説した.

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Crohn病(CD)の内視鏡的特徴は,その自然史の中でいわゆる初期の病変であるアフタ様潰瘍(病変)が不整形潰瘍になり,さらにそれらが縦列傾向を示し,癒合して典型的な“縦走潰瘍”,“敷石像(敷石様外観)”に進展すると考えられている.さらに狭窄,瘻孔,膿瘍などの腸管合併症へと進行し,外科的治療が必要となる症例も多い.近年の内視鏡機器の進歩と診断技術が向上によりCDに対してより正確な診断と治療が可能となった.

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Crohn病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)は原因不明の慢性炎症性腸疾患(IBD)であり,CDでは口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に炎症性変化を認め,上部消化管病変の出現頻度も高い.一方,UCは大腸に限局して炎症が起こるとされており,上部消化管病変の出現頻度は低い.CDの上部消化管病変として,特徴的なものは,胃の竹の節状外観であり,その他に前庭部びらん,胃潰瘍,十二指腸のnotch様陥凹などがみられる.UCにおいては胃・十二指腸の多発びらんやアフタ,潰瘍,顆粒状変化など大腸にみられるUC病変に類似した所見を認める.各所見の観察には色素撒布が有用である.治療としてはプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの通常の潰瘍治療薬は無効な場合が多く,原疾患の治療が効果的である.

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自験例Crohn病(CD)患者の73.6%(129例中95例)に肛門部病変がみられた.最も多かったのは痔瘻・肛門周囲膿瘍であり,76.8%を占めた.次いで裂肛36.8%,浮腫状skin tag 32.6%,肛門狭窄20.0%の順であった.Hughes分類ではprimary lesion 38.9%,secondary lesion 47.4%,incidental lesion 5.3%,primary lesionとsecondary lesionの合併8.4%であった.CDの肛門部病変は多発性,複雑性などの特徴があり,苦痛を与えないよう配慮すれば丁寧な視診,直腸指診,および内視鏡検査でその多くが診断可能である.痛みがある場合は麻酔下に行う必要があり,仙骨硬膜外麻酔が有用である.痔瘻・肛門周囲膿瘍の診断には肛門括約筋など解剖学的構造物との関係がよくわかるジャックナイフ位でのMRIが有用である.

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炎症性腸疾患(IBD)の診療において,超音波やCTは,単に内視鏡やX線造影の代替法にとどまらず,貫壁性,さらには壁外の変化も把握することが可能なことから,その初期診断,活動性評価,合併症の診断などに有用である.比較的新しい技術としては,造影超音波による微細血流の評価,エラストグラフィーによる病変の硬度の評価などが挙げられ,CTではわかりやすい表示法としてのCT colonography(CTC)などが注目されている.IBDの治療法が進歩し,治療に対する概念も変化しつつある中で,病変局所の活動性評価は従来に増して重要となっているが,頻回に経過観察を要する本疾患においては,今後超音波やCTなどの苦痛の少ない検査法の活用が期待される.

主題 炎症性腸疾患の治療

潰瘍性大腸炎の治療指針 上野 文昭
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潰瘍性大腸炎(UC)は複雑な病態を有する疾患で,診断名だけで治療ができるわけではない.活動期には病変範囲と重症度を把握し,それに応じた治療法を選択して速やかな寛解導入を図る.寛解期には再燃予防を目的とした治療を長期にわたって行う.治療法の選択に当たっては,各治療法の病態に応じたエビデンスを知ることが第1歩であり,さらに安全性,経済性と患者の観点を加味した治療計画が必要である.進歩の著しい分野であるため,新しい知見が少なくない.最新情報に無批判に飛びつくのではなく,新しい知見を含めた最良の治療法を模索し,個々の患者に対する適否を判断する姿勢が肝要である.

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本邦におけるCrohn病(CD)治療指針は,現在に至るまで30年近くにわたり改定が繰り返されてきた.専門家によるコンセンサスを主体としつつ,年々新しい知見を加味した改定がなされており,実地医家がCD患者を診療するに当たり基盤となるものである.CDに対する治療は,診断時や活動期の寛解導入を目的にしたものと,寛解維持を目的にしたものとに大きく分けられる.本邦ではいずれの病期においても栄養療法の併用が推奨されている.欧米では軽視されがちであるが,本邦を中心としてその有用性が報告されている.

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潰瘍性大腸炎(UC)とCrohn病(CD)の治療には種々の選択肢が存在する.重症例やステロイド依存性,抵抗性など難治性には血球成分除去療法(CAP),インフリキシマブ,タクロリムスなどがこの10年間に保険適用となった.そのなかでもCAPは安全に使用することが可能で,特に集中治療により重症例や難治性の患者に対してよい結果が報告されている.これまでのGMA,LCAP療法の結果から解析すると,よい反応を示す症例の特徴は,(1) 初発症例,(2) ステロイド未使用例,(3) 罹病期間が短いなどである.ステロイド使用以前にこの治療法が実施されることが望ましい.重篤な副作用が認められないだけに寛解導入療法としてCAP療法の果たす役割は大きい.

免疫調節薬・抗TNF-α療法 鈴木 康夫
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炎症性腸疾患(IBD)における難治症例の寛解導入と長期寛解維持を目的に投与されてきた薬剤として免疫調節薬(IM)があり,主にアザチオプリン(AZA)/6-メルカプトプリン(6-MP)が用いられてきたが,その有効性は十分とは言えなかった.新規薬剤である抗TNF-α抗体インフリキシマブ(IFX)/アダリムマブ(ADA)はIM投与で改善を認めない症例に対しても有効性を発揮し,現在ではIBD治療の中心的薬剤として広く用いられている.しかし,抗TNF-α抗体療法においては投与中効果減弱を来す2次無効症例が出現するなど,今後解決しなければならない課題も明らかになってきた.それら課題の対処法として抗TNF-α抗体製剤にIMを併用する療法が有効とされているが,重篤な副作用発現の危険性もあり,併用療法の有効性と適切な実施法に関し,今後も慎重かつ詳細な検討が望まれる.

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潰瘍性大腸炎に対する外科治療としては,疾患根治性と肛門機能の保持を兼ね備えたIPAAが標準手術として確立されており,全身状態,病態,治療薬剤を考慮して,手術のタイミングを誤らないことが重要である.自験例の検討では,緊急手術例は21.9%で中毒性巨大結腸症が最も重篤な合併症と思われた.時代的に手術症例を比較すると,新しい治療薬の普及とともに,ステロイド剤強力治療ならびに投与量は減少し,緊急手術例の減少をもたらしていた.安定した状態での手術例の増加は,より安全な形での切除・再建例の増加につながっていた.今後は,高齢者に対する適切な内科的治療の選択および手術適応基準を明らかにすることが求められるだろう.また,増加している癌化例に対してはcolitic cancerの特徴を考慮したサーベイランス法の工夫が必要と考える.

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Crohn病(CD)の外科治療は,腸管病変と肛門病変に分けられる.腸管病変の治療の原則は,最小限の切除+狭窄形成術である.腸管病変は,適切な時期に手術を行い,術後再燃予防に努めるべきである.抗TNF-α抗体製剤の術後再燃予防についての報告が増加しているが,長期的な経過に関しては今後の検討課題である.肛門病変に対する手術は,膿瘍のドレナージ+seton法が原則である.肛門病変に対する抗TNF-α抗体製剤の有効性も多く報告されているが,直腸狭窄を合併している症例に対する有効性は十分ではない.また,発癌症例が増加しており,難治性の直腸肛門病変患者に対する直腸切断術の見極めが重要である.

主題 炎症性腸疾患の経過

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Crohn病(CD)は初期には腸管の炎症を認めるのみであるが,経過とともに狭窄・瘻孔・穿孔などの合併症を来し,腸管切除を余儀なくされる進行性の疾患である.従来の内科治療では,このようなCDの長期経過を改善することは困難とされてきた.しかし,抗TNF-α抗体製剤の登場により,高いレベルでの寛解維持を達成することが可能となった.なかでも,CD発症初期からの免疫調節薬や抗TNF-α抗体製剤の導入により,高度の腸管障害への進展を予防すれば,本症の自然経過を変えうることが証明されつつあり,腸管障害の側面からみたCDの長期予後は今後改善される可能性が高い.

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潰瘍性大腸炎(UC)に対する昨今の内科的治療の進歩は目覚ましく,重症例の割合や要入院加療率は低下傾向を示している.また,治療の目標として臨床症状の改善のみならず,内視鏡的粘膜治癒を目指すことで,長期の寛解維持,さらに手術率の減少が得られている.罹患範囲は,必ずしも発症時の範囲で維持されるわけではなく,長期経過中に少なからず口側進展を認める.一方,長期罹患例における癌・dysplasiaの合併による手術例が増加している.UCの生命予後は良好とされるが,癌・dysplasiaを早期に発見するためにサーベイランス内視鏡検査が重要である.

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潰瘍性大腸炎(UC)の術後の排便機能は概ね良好であり,QOLは術前と比べて同等以上であるとする報告が多い.その一方で,UCの術後には,回腸囊炎をはじめとした特徴的な晩期合併症を生じることがある.また,現在では選択される頻度は低いが,結腸全摘・回腸直腸吻合術を行った症例では,残存直腸の炎症再燃や癌化が問題となる.これらのUCの特徴を十分理解したうえで診療に当たる必要がある.厚生労働省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班からは,回腸囊炎診断基準,回腸囊炎治療指針などが報告されており,UCの術後症例を診療する際の参考としたい.

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潰瘍性大腸炎(UC)の長期経過例に癌合併率が高いことが知られており,定期的な内視鏡サーベイランスが必要である.しかし,炎症をもつ粘膜に発生するため,早期発見は容易ではない.したがって,欧米のガイドラインは多数の盲目的生検によるサーベイランスを推奨してきたが,有効性は得られていない.UCに合併する大腸癌およびdysplasiaの早期発見のためには,それらの内視鏡像の再検討を通じ,初期病変の特徴をよく理解する必要がある.サーベイランスの効率を高めるためには高危険群をセレクトし,色素内視鏡を併用した精密な内視鏡観察が求められている.癌・dysplasiaの早期発見への取り組みとともにさらに重要なことは,癌発生予防のための粘膜治癒を目標とした適切な内科治療である.

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2012年7月に,狭窄部での滞留予測目的のPillCam®パテンシーカプセルが保険収載されたことを契機に,カプセル内視鏡〔CE(PillCam® SB 2 plus)〕の適応がすべての小腸疾患に拡がり,従来禁忌であったCrohn病(CD)に対しても使用できるようになった.本稿ではPillCam®パテンシーカプセルの有用性や使用上の注意点,CDにおけるCEの臨床経験について述べる.

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炎症性腸疾患(IBD)患者の患者数の増加,治療法の多様化に対し,より簡便かつ詳細な画像検査法が求められている.近年のCT・MRIの進歩による腸管の詳細かつ3次元的な画像情報は,従来のX線造影・内視鏡検査との併用により詳細な病態診断を可能にしている.大腸癌を目的に使用されているCT colonography(CTC)の画像は,IBDの大腸病変の描出も可能であり臨床応用が期待される.Crohn病(CD)は腸管の粘膜病変だけではなく腸管壁・壁外の病変評価が重要であり,CT enterography/MR enterography(CTE/MRE)の“横断的”画像は,小腸病変の存在診断だけではなく炎症の程度の評価も可能にしており,治療方針の決定にも有用である.

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炎症性腸疾患(IBD)合併妊娠の管理は,海外のエビデンスをもとに,疾患コントロールと治療薬の安全性のバランスを考慮し決定する.IBDであるだけでは不妊率は増加せず,寛解期に妊娠したIBDの再燃率は,非妊娠者と同等である.IBD治療薬の多くは妊娠への悪影響を立証されておらず,IBD合併妊娠の最大の危険因子は疾患活動性とするのが,近年の海外における主流の考え方である.IBD患者では,早産,低出生体重,奇形など合併症の危険がわずかに増えるが,寛解期では増加せず,活動期で増加することから,母親の疾患活動性を良好にコントロールすることが,妊娠転帰を改善し望ましいと考えられる.

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海外における潰瘍性大腸炎やCrohn病などの炎症性腸疾患(IBD)患者では,長期の臨床経過に加え,免疫調節薬や抗TNF-α抗体などの使用により,リンパ増殖症のリスクの可能性が報告されている.しかし,中にはそれらを否定する報告もあり,議論のあるところであるが,わが国における実態は不明である.文献や厚生労働省難治性腸管障害調査研究班による全国アンケート調査の検討では,IBD患者におけるリンパ血液疾患増殖症の発症リスクは必ずしも高くはないが,今後の検討が必要であると思われる.

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和文目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

投稿規定

編集後記 松本 主之
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 本邦における潰瘍性大腸炎(UC)とCrohn病(CD)の有病率は増加の一途をたどっており,「胃と腸」誌においても,炎症性腸疾患(IBD)の特集が企画される機会は多い.ただし,増刊号として取り上げられるのは1997年以来16年ぶりとなる.この間,松井論文に示されているように,IBDの病態解明や治療に大きな進歩がみられており,up-to-dateな内容を組み入れた本号は前回の増刊号とは全く異なったものとなっている.

 桑原論文では個人調査票の解析結果が示され,人口10万人当たりUCは84.5,CDは26.3と極めて高い有病率が明らかとなった.一方,IBDの病因はいまだ明らかではないが,安藤論文では腸内細菌がその発生に重要であり,自然・獲得免疫の活性化に関与することが明示されている.また,浅野論文では,本邦IBD患者でも疾患感受性遺伝子に代表される遺伝的要因が明らかとなりつつことが示されている.腸内細菌叢や遺伝的背景の研究は,今後,治療標的の同定にも結びつく重要な領域であろう.

次号予告

基本情報

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胃と腸
48巻5号 (2013年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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