胃と腸 39巻3号 (2004年3月)

今月の主題 胃MALTリンパ腫―除菌治療後の経過と予後

序説

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胃悪性リンパ腫の最近の動向

 MALTリンパ腫(mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma)は,リンパ節外の粘膜関連リンパ装置を母地として発生する低悪性度のB細胞悪性リンパ腫として1983年,Isaacsonら1)によって報告された.

 病理組織学的には,胚中心細胞に類似したcentrocyte-like cellのびまん性浸潤,粘膜上皮の腫瘍細胞による破壊像(lymphoepithelial lesion),モノクローナルな形質細胞の浸潤,リンパ濾胞の残存などが特徴的である.

 当初,MALTリンパ腫はlow-grade MALTリンパ腫とhigh-grade MALTリンパ腫に分けられていたが,新WHO分類ではextranodal marginal zone B cell lymphoma of MALT type(low-grade B cell lymphoma of MALT type)に分類され,MALT リンパ腫はlow-gradeのみを指し,high-gradeがびまん性に増殖し濾胞構造を持たないものはMALTリンパ腫とは言わずDLBL(diffuse large B cell lymphoma)with areas of marginal zone/MALT type lymphomaと呼ぶようになっている.

 その表面マーカーはCD5,10,23陰性で,CD19,20,21陽性,Bcl2陽性であることがわかっている.また,わが国より報告された2)3)t(11;18)転座によるAPI2/MALT1キメラ遺伝子は重要であり,MALTリンパ腫の約50%,胃MALTリンパ腫の10~20%にこの転座がみられる.本転座を有する症例は多臓器多発例が多く,Helicobacter pylori(H. pylori)除菌に抵抗性であるが,いわゆる high-grade MALTリンパ腫やDLBLにはほとんど存在しない.ゆえに除菌抵抗性の指標であると同時に悪性化しないマーカーの可能性が指摘されている.

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要旨 胃原発B細胞性リンパ腫322例(低悪性度MALTリンパ腫186例,diffuse large B-cell lymphoma(DLBL)82例,DLBL併存MALTリンパ腫54例)を対象として治療法と予後の関連を遡及的に解析し,このうちH.pylori除菌を行った96例については長期経過および除菌無効例に対する二次治療の効果を検討した.胃温存治療群(除菌,放射線または化学療法;n=100)は外科切除群(n=222)より高い全生存率を示したが,非増悪率に差はなく,多変量解析では,治療法の違いは予後に影響しなかった.除菌により55例(57%)で完全寛解が得られ,経過中に4例(7%)で一時的に組織学的再燃を認めた.除菌無効例のうち34例に二次治療(cyclophosphamide経口単剤化学療法11例,放射線療法9例,CHOP化学療法10例,胃切除4例)を行い,29例(85%)で完全寛解に導入できた.これらの結果より,胃B細胞性リンパ腫の治療には胃温存治療が望ましく,除菌無効例に対しては組織型と病期に応じて,化学療法または放射線療法を追加することにより良好な予後が期待できると考えられた.

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要旨 H.pylori除菌療法を施行した胃MALTリンパ腫の長期経過と予後について,内視鏡像を中心に,自験例をもとに概説した.除菌療法奏功例では内視鏡像の改善を認め,除菌後1年以内には病理組織学的にも約90%の症例でCRと判定された.CR症例では病変のあった部位は萎縮様褪色粘膜へと変化し,この変化はCR判定後3年以上の経過観察においてもほとんど消失することなく持続していた.組織学的にも,消失した固有胃腺はわずかながら回復はするものの,周囲粘膜と全く同程度までに回復する症例はほとんどなかった.一方,除菌無効例はほとんどがH.pylori陰性かつAPI2-MALT1キメラ遺伝子陽性例であった.このような症例に対しては放射線療法が有効であったが,3年以上の無治療経過観察でも病変の増悪を認めないものもあり,今後さらなる症例の集積が必要であると考えられた.

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要旨 胃MALTリンパ腫の病態はt(11;18)(q21;q21)転座(API2-MALT1キメラ遺伝子)の有無と除菌療法に対する反応性で3群(A,B,C群)に分類される.A群はAPI2-MALT1陰性でresponderの群,B群はAPI2-MALT1陰性でnon-responderの群,C群はAPI2-MALT1陽性でnon-responderの群である.その特徴は,A群はH.pylori陽性・深達度はSMまで・臨床病期がI期であり,長期にわたり再発を認めない.B群は深達度MP以深・臨床病期II1期以上・diffuse large B-cell lymphoma成分を有する例が多く,肉眼型は隆起型が目立つ.C群はH.pylori陰性・臨床病期II1期以上の例が多く,diffuse large B-cell lymphoma成分は認めず,肉眼型はcobblestone粘膜が特徴的である.API2-MALT1の検索とEUSによる進展度診断は除菌の反応性を予測する有用な手段である.

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要旨 胃MALTリンパ腫は,大部分の症例ではHelicobacter pylori(H.pylori)と深い関係があり,これを除菌することによって寛解に至る.一方,MALTリンパ腫に特異性の高い染色体異常としてt(11;18)(q21;q21)が見い出され,これによるfusion geneとしてAPI2-MALT1の存在が認められる.興味深いことに,この異常を示す胃MALTリンパ腫は除菌抵抗性であり,また,H.pyloriの認められない症例のほとんどにt(11;18)(q21;q21)がみられることが明らかになってきた.さらに,H.pyloriが証明されるが除菌に抵抗性の症例もあり,それがどのような機構によるのか,今後の検討を要する点である.MALTリンパ腫の疾患概念が市民権を得たのは,大体ここ10年であるが,その間に,当初均一に思えた胃MALTリンパ腫には少なくとも3群があることが判明してきた.このことは,どのような治療方針を選択するかという臨床的にも重要な問題を提起している.

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要旨 胃MALTリンパ腫のH.pylori除菌療法後の長期経過を検討し,二次治療への移行を早期に判断すべき症例の選別,経過観察例でのサーベイランスについて検討した.除菌療法を受けた80例中,H.pylori陽性68例での奏効率は75%であるのに対し,陰性12例では8%であり早期に二次治療への移行を判断すべきと考えられた.2年以上の経過観察例のうちH.pylori陽性54例では39例がCRに至り,6か月以内にCR inに至った症例は47%,24か月以内では92%であった.内視鏡所見の改善は97%の症例で認められた.H.pylori陽性例ではNCでも内視鏡的改善が認められれば長期の経過観察が可能であると考えられた.

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要旨 胃MALTリンパ腫のH.pylori除菌療法が無効の場合,まずAPI2-MALT1遺伝子の有無を確認する.本遺伝子陽性の場合は早急に治療する必要はなく,場合によっては経過観察もありうるが,一般的には放射線療法,化学療法,手術療法のいずれかを行う.一方API2-MALT1遺伝子陰性の場合は,治療後慎重に経過観察し,不変あるいは増大傾向がみられれば迅速に放射線療法,化学療法,手術療法のいずれか,場合によってコンビネーション治療を行う.特に本遺伝子陰性例の中には,除菌療法終了後急速に悪化する例がみられるので,治療直後は厳重な経過観察が必要である.全体として最近特に放射線療法で手術療法と変わらない良好な成績が得られており期待がもたれている.

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要旨 73 歳,男性.近医での上部消化管内視鏡検査にて,胃印環細胞癌を疑われ,当院を紹介受診した.当院での再検では胃体部から前庭部にかけて浅いびらんと粘膜の凹凸不整を認め,生検にて低悪性度胃MALTリンパ腫と診断された.Helicobacter pylori(H. pylori)感染は陽性で,API2-MALT1 遺伝子異常を認めなかったため,除菌療法を施行した.除菌療法終了6週後に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,H. pyloriは陰性化し,病変部の大部分の粘膜は平滑,褪色調となっていたが,胃角小彎後壁に不整形の潰瘍性病変の出現を認め,同部からの生検にてdiffuse large B-cell lymphomaと診断された.放射線化学療法施行後,完全寛解となり,経過観察中である.

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 〔患 者〕 71歳,男性.主訴は軟便および腹部膨満感.高血圧などで井上内科で加療中,1998年4月より軟便,腹部膨満感が出現し,免疫学的便潜血反応も陽性であったため,当科で同年5月12日大腸内視鏡検査を施行した.S状結腸に群発する大腸憩室を認めた.スコープ挿入に難渋し,患者が強く疼痛を訴えたため,細径電子スコープに切り替えて全結腸を観察したが深部結腸に異常を認めなかった.直腸に扁平隆起を認めたのでEMRを施行したが,偶発症を起こしたため保存的に加療後,経過観察のため透視・内視鏡検査を行っていた.

 〔大腸内視鏡所見〕 1998年11月16日に細径電子スコープにて施行した全大腸内視鏡検査でS状結腸憩室の間に,深いひだに隠れて表面型腫瘍を発見した(Fig.1a).腫瘍はスコープの挿入時には発見できず,抜去時にスコープが病変の肛門側のひだを押し下げるときのみ観察されるが,スコープのコントロールが極めて困難で,病変に色素をかけるのがやっとであった.腫瘍は軽度発赤調を呈する表面隆起型で,色素内視鏡では辺縁にわずかに正常粘膜を認め,表面は微細顆粒状で一部に不整陥凹を認めた(Fig.1b, c).全体がなだらかに隆起していることから,sm癌と診断した.

早期胃癌研究会

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 2003年11月の早期胃癌研究会は,11月19日(水)に一ツ橋ホールで開催された.司会は渕上忠彦(松山赤十字病院消化器科)と細川治(福井県立病院外科)が担当した.ミニレクチャーは松田圭二(帝京大学外科)が「腹腔鏡下大腸手術の実際」と題して行った.

 〔第1例〕 35歳,女性.腸管子宮内膜症(症例提供:福井県済生会病院外科 宗本義則).

 主訴は便秘,便潜血陽性.清水(大阪鉄道病院消化器内科)が内視鏡を読影した.S状結腸に発赤の強い頭部が分様した隆起性病変があり,基部ははれぼったいが健常粘膜で覆われている.境界明瞭であるが,発赤し粘液の分泌があり,炎症性の隆起または部位から見て粘膜面に露出した子宮内膜症が鑑別に挙がる.X線(Fig.1)も清水が読影した.一側変形の限局した病変で炎症は考えられない.表面の結節状隆起は炎症であっても良いがひきつれがあり柔らかい病変で,通常の粘膜下腫瘍また癌を含めた上皮性腫瘍は考え難い.転移性腫瘍にしては収束像がない.内視鏡と同様に子宮内膜症しか鑑別に浮かばない.多田(多田消化器クリニック)は虫垂炎,卵巣を含めた他臓器からの炎症の波及も考慮すべきだとコメントした.出題者からCTでは周辺臓器に異常所見なし.狭窄症状強いため手術した.

 病理は海崎(福井県立病院病理)が説明した.ひきつれを伴う柔らかいSMT(submucosal tumor)様隆起で頂部に結節状隆起の集簇がある.割面ではSMT様隆起の下の部分は粘膜下層から漿膜下層には線維の増生を伴う白色調の変化があり,正常の上皮が頂部近くまで覆い頂部は赤色調でびらん化している.ポリープ状隆起の表面はびらん化し肉芽組織を伴っている.組織学的に子宮内膜症と診断した.生検では非特異的炎症と診断していたが見直すと診断可能であった.鬼島(東海大学病態診断病理)は診断は同じで,粘膜内に顆粒状に大量に露出してくる症例は珍しいとコメントした.隆起表面が結節状を呈したまれな形態の腸管子宮内膜症の1例であった.

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 2003年12月の早期胃癌研究会は12月17日(水)に一ツ橋ホールで開催され,西元寺克禮(北里大学内科)と田中信治(広島大学光学医療診療部)が司会を担当した.なお,ミニレクチャーは「透視画像で見る胃X線精密検査手技」という題で馬場保昌(早期胃癌検診協会中央診療所)が行った.

 〔第1例〕 54歳,男性.0-IIc型早期食道癌(症例提供:川崎医科大学内科学食道・胃腸科 清水香代子).

 読影は小沢(わたり病院消化器科)がX線・内視鏡とも担当した.X線ではLt領域に約1cm大の長円形のバリウム斑があり,陥凹内は凹凸不整,周辺隆起を伴う.陥凹内の凹凸不整でまず癌を疑うべきであるが,鑑別診断としてはサイトメガロウイルス感染などを挙げた.癌としては一部smに入ったもので,0-IIcと考えて良いと読影した.小山(佐久総合病院胃腸科)はsm massive,0-III,細井(霞ヶ浦成人病研究事業団)はsm massiveは考え難いとコメントした.内視鏡では陥凹底に凹凸不整,発赤が強く,弧の変形も認められることより,sm massiveで良いというのが小沢の読影であった(Fig.1).

 病理は八尾(九州大学形態機能病理)が説明した.病変はX線,内視鏡と同様の肉眼像で高分化型扁平上皮癌,肉眼型はIIa+IIcで,一部sm浸潤を認めるとのことであった.X線,内視鏡と病理の深達度の違い,肉眼型について多くの議論があった.すなわちX線などの明瞭なバリウム斑などより臨床的には0-III,病理側は肉眼像より0-IIcという主張であった.

2004年1月の例会から 武藤 徹一郎
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 2004年1月の早期胃癌研究会は,1月21日(水)に一ツ橋ホールで開催された.司会は武藤徹一郎(癌研究会附属病院)が担当した.

 〔第1例〕 25歳,男性.アメーバ赤痢と鑑別困難であった腸チフス・パラチフス(症例提供:大阪医科大学第2内科 村野実之).

 発熱・CRP上昇,海外渡航歴から感染性腸炎が疑われ,その鑑別診断が問題となった症例である.

 松井(福岡大学筑紫病院消化器科)はX線上,下行結腸を中心とする不均一な浅い潰瘍性病変が主体で,回盲部,上行結腸にはより軽度な病変が存在すると読影.回腸末端病変を除けばアメーバ赤痢が最も疑わしいが他の感染性腸炎も考慮すると診断した.丸山(早期胃癌検診協会)はX線の読影法として腸管変形にも注意を払うべきであり,注腸造影の読み方の基本を忘れてはいけないという貴重な発言を行った.

 内視鏡所見の読影も松井が行い,びまん性のびらん,白苔を伴う浅い潰瘍からなる全大腸炎で回腸末端にも同様の所見があり,後者を除けばアメーバ赤痢に合致すると述べた(Fig.1).多田(多田消化器クリニック)は内視鏡所見としてCampylobacter,Yersiniaは考えられず回腸炎以外はアメーバ赤痢を支持すると述べた.司会者(武藤)からアメーバ赤痢としては白苔がきれいすぎ,洗浄で簡単に取れすぎはしないかとの発言があった.

 江頭(大阪医科大学病理)は生検上にアメーバ病原体は見つからず(PAS染色),びらん辺縁のリンパ濾胞形成を囲む多核白血球中心の急性炎症所見から,感染性腸炎は確かであるが,それ以上の診断は困難と述べた.しかし,渡辺(新潟大学分子・診断病理)はリンパ濾胞周囲にチフス細胞が存在しており,回腸末端のパイエル板腫大を考慮すると,腸チフスの診断は可能であると指摘した.アメーバ赤痢を疑うならもっと多くの生検を潰瘍辺縁から採取すべきであるとの指摘もあった(多田・武藤).

 最後に提示された経過表によれば本症は確証のないままアメーバ赤痢として抗生物質が投与され,完治しないまま経過中に便と血液からパラチフスAが検出され診断が確定した.パラチフスの下部大腸病変の報告はないそうである.なお,感染性腸炎の診断時における画像診断の位置づけについて,種々の反省点が指摘された.

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要旨 症例は60歳,男性.主訴は左頸部腫瘤.消化管の精査を目的に施行した大腸内視鏡検査で,下部直腸に大きさ20mmの黄色調を呈し表面に血管透見像を伴う有茎性病変と大きさ3mmの同性状の小隆起性病変を認め,多発する直腸カルチノイドと診断した.左頸部腫瘤は生検でschwannomaと診断された.進行直腸癌に準じた根治手術の適応と判断し,リンパ節郭清を含めた手術の必要性を十分に説明したが,患者および家族の希望により内視鏡的切除術を施行した.病理組織学的には2病変ともカルチノイド腫瘍であり,いずれも深達度smで脈管侵襲を認めなかった.有茎性を呈した直腸カルチノイドは比較的まれであり画像所見を中心に報告する.

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要旨 患者は48歳,女性.右下腹部痛を主訴に近医を受診.大腸内視鏡検査が施行され,直腸に隆起性病変を認め,精査・加療目的に当院紹介となる.注腸X腺検査,下部消化管内視鏡検査にて,Rsに大きさ約15mmのIs型病変を認めた.隆起の起始部は腫瘍粘膜で構成されていることからPG typeと判定した.病変の表面は分葉構造を呈し,表面粗であった.同部位に輪郭不明瞭なVI型pit patternを認めた.深達度sm massiveと診断し高位前方切除術施行.組織学的に腺腫を合併する細胞異型度の高い高分化型腺癌深達度sm2,ly0,v0,n1であり,腫瘍先進部において簇出像が認められた.

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要旨 患者は53歳,男性.胃透視ならびに内視鏡検査により胃体上部小彎前壁寄りに粘膜下腫瘍様隆起を指摘された.生検診断にて腺腫と診断されたが,高分化型腺癌を完全には否定できないため外科的切除が行われた.粘膜下腫瘍様隆起は主に粘膜層と連続する憩室様の嚢胞状組織で構成されており,嚢胞内には乳頭状あるいは腺管状に増殖する異型腺管が認められた.これら腫瘍の一部が粘膜陥凹から粘膜表面に露出していた.本例における異型腺管の細胞異型は軽度であり,幽門腺型腺腫と診断した.しかし軽度ではあるが構造異型を伴っていたことから,胃の多発性粘膜下異所性腺から発生した低異型度の幽門腺型腺癌の可能性も完全には否定できないと考えられた.

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要旨 患者は66歳,女性.自己健診目的で当院を受診.胃内視鏡検査では,幽門前庭部小彎後壁に3個のびらんを伴う横に長い,なだらかな立ち上がりの隆起性病変を認めた.内視鏡生検で大型異型リンパ球のびまん性増生がみられ,免疫染色の結果と合わせ胃原発diffuse large B-cell lymphomaと診断した.無治療で,初回内視鏡検査から約3週間後の術前内視鏡検査,X線検査では隆起性病変は,内部に小さな潰瘍と結節を伴う陥凹病変に形態変化を来した.初回内視鏡検査より約4週間後の幽門側胃切除標本では,大型異型リンパ球の浸潤は全くなく,Ul-IIの潰瘍とその周囲の瘢痕組織のみであった.Helicobacter pyloriは陽性であった.胃悪性リンパ腫が約1か月の間に病巣内の潰瘍化により自然脱落,消失したものと考えられた.

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要旨 患者は51歳,男性.便潜血反応陽性.大腸内視鏡検査にて,S状結腸に深い陥凹を有する約10mmのIIa+IIc型病変が認められた.拡大観察では,陥凹面はIIILおよびIIIs型pitで占められ,生検部位でVI pitが認められた.粘膜内病変と判断し内視鏡的粘膜切除を施行した.病理学的には高度異型腺腫を伴う高分化型腺癌で,陥凹部で粘膜下層側へ深く侵入する像が認められた.腫瘍腺管は粘膜筋板を押し下げるように発育し,先進部においても部分的に粘膜筋板が認められた.先進部周囲の間質は粘膜内のものと同様であり,desmoplastic reactionを伴っていなかった.以上より,本病変はinverted growthにより深い陥凹を示したが,本質的にはそのほとんどが粘膜内の病変と考えられた.

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要旨 患者は56歳,女性.喫煙歴は20本/日×30年,飲酒歴は日本酒2合/日×30年.内視鏡検査で,胸部中部食道に全周性で長径7cmにわたる発赤した浅い陥凹性病変を認めた.病変内の前壁~左壁側に粘膜下腫瘍様の〔隆起 A〕が存在し,その隆起の口側は表面が粗大結節状だが肛門側は平滑であった.後壁側にも〔陥凹内隆起 B〕が存在した.胸部下部食道には直径2cmのIIc病変を認めた.表層拡大型食道sm癌と診断し,食道亜全摘術を施行した.病理組織学的には前者は52×50mm,Ip+IIc型の扁平上皮癌でNo.7のリンパ節に転移を認めた.〔隆起 B〕でsm浸潤していたが,〔隆起 A〕は貯留嚢胞による隆起が主体で癌はsm1にとどまっていた.癌の上方発育により食道腺の導管が閉塞し貯留嚢胞が形成された可能性が示唆された.貯留嚢胞を合併した食道癌は世界で2例目である.

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要旨 患者は27歳,男性.ひだ集中を伴う胃カルチノイド(15mm,sm3)で,術前画像診断上,興味ある形態を示した症例である.胃カルチノイドは一般的に隆起を主体とした形態を示すものが多いとされているが,本症例は明らかなひだ集中を伴い,ひだ先端の肥大・融合や幅の狭い溝状の陥凹局面を形成しており,早期胃癌に比較的類似した肉眼形態を呈していた.臨床的に高ガストリン血症を伴わない散発性のtype IIIカルチノイドと術前診断し,早期胃癌に準じた胃切除術を選択した.病変の総合的な成り立ちについて対比分析した結果,胃カルチノイドが粘膜深層~粘膜下層主体に筋板を破壊しながら線維形成反応を伴い発育増殖していた.また,腫瘍の分布が特異的で,主病巣近傍に微小カルチノイド巣が存在しており,いくつかの小さな腫瘍が集合しこのような形態が形成された可能性も示唆された.リンパ管侵襲が目立ちリンパ節転移を伴っていたことから,日常臨床においてtype IIIカルチノイドは,術前診断や治療法の選択にあたって注意が必要と思われ報告する.

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要旨 上腹部痛を主訴として来院した71歳女性に胃潰瘍と2cm大の食道粘膜下腫瘍(SMT)が発見された.SMT頂部のびらんからの生検で低分化型扁平上皮癌が証明され,SMTとともに内視鏡的に切除した.切除標本の病理組織学的検索により,食道顆粒細胞腫の表面に存在する0-IIc型早期癌が証明された.食道顆粒細胞腫は,その上皮にpseudoepitheliomatous hyperplasiaと呼ばれる過形成を生じ,扁平上皮癌と誤診されることがある.本症例もその可能性を考慮したが,免疫組織学的にp53,Ki-67が陽性となり,食道癌と診断した.食道顆粒細胞腫はpseudoepitheliomatous hyperplasiaの可能性に十分配慮しつつ,慎重な診断,治療が必要であると考えられた.

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 「消化管病理基礎講座(12)消化管疾患の肉眼所見に関する用語」(胃と腸 36巻10号:1303-1306,2001)の「島状粘膜残存」の項目で,IIc内の島状粘膜に関連して“聖域”が解説されていないのは,理解に苦しむものである.

 IIc内で,多くは中心部に非癌粘膜が存在するのはどうしてか,1950年代には不明だった.私も1959年,早期胃癌の病理を検討した際に,潰瘍を伴った症例で潰瘍辺縁に再生粘膜を80.6%(29/36)に認めていた1)が,この再生粘膜が潰瘍の瘢痕化により,島状再生粘膜―すなわち“聖域”になることは,当時,悪性サイクルの考えがまだ検討されていなかった時期で,理解できなかった.胃潰瘍の良性サイクルに準じて,IIc内の胃潰瘍の再燃,瘢痕が悪性サイクルとして臨床的に検討されはじめた時期に,村上忠重先生が1966年「潰瘍瘢痕癌中心部に存在する非癌性再生腺腔について」2)を報告し,IIc内の非癌粘膜が胃潰瘍瘢痕部の再生粘膜によるものであって,当時,ベトナム戦争でアメリカ空軍による北爆で,首都ハノイが聖域として爆撃を免れていたことに関連して“聖域”と名付けられた.村上先生のご指摘とユニークな命名に深く感銘を受けた思い出がある3)

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欧文目次

編集後記 大谷 吉秀
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 MALT リンパ腫の概念が Isaacson らによって確立してから 20年,さらに胃 MALT リンパ腫に対する HP 除菌効果の報告から 10 年が経過した.ついに昨年,胃 MALT リンパ腫は,胃・十二指腸潰瘍と同等の HP 除菌治療が推奨される疾患として,日本ヘリコバクター学会のガイドラインに位置づけられた.まさに胃 MALT リンパ腫は外科の手を離れ,胃温存治療の対象となった.本号では,MALT リンパ腫治療の経験が豊富な施設から除菌治療後の長期経過と予後に関する貴重な成績をまとめていただき,大変濃い内容になった.HP 陽性群の奏効率は 75 %,NC でも内視鏡所見の改善があれば,長期の経過観察が可能との報告には勇気づけられる(江口論文).また,API2-MALT1 遺伝子解析により,胃 MALT リンパ腫は 3 種類に分類され,除菌治療が有効な群とそうでない群が色分けされたのは興味深い(中村論文,吉野論文).しかしながら,やっと市民権を得た胃 MALT リンパ腫が,均一な疾患群でないことが判明してきた(吉野論文)のも事実である.現在どこまでが明らかにされ,問題点は何か,胃 MALT リンパ腫の奥深さを感じとっていただければ,企画の担当者として幸いである.今後,除菌無効例に対する治療戦略が重要になるが,従来からの手術と放射線療法,化学療法の比較に注目したい.

基本情報

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胃と腸
39巻3号 (2004年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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