胃と腸 39巻2号 (2004年2月)

今月の主題 Crohn 病経過例における新しい治療の位置づけ

序説

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 Crohn 病は,消化管のあらゆる部位を侵す難治性の慢性肉芽腫性疾患であり,全国疫学調査や特定疾患医療受給者数から推定した患者数は近年漸増傾向にある.20歳前後の若い成人に好発することから早急に治療法の確立が望まれるところであるが,原因不明のため根治的治療はいまだ確立されていない.したがって,急性増悪期における一般状態の改善と病勢の緩解,および,できるだけ長期間通常の社会生活を送らせることが治療の目標となっている.

 従来,本症の活動期には,栄養療法(完全静脈栄養あるいは経腸栄養)が第一選択の治療法として用いられ,栄養療法のみで緩解に導入できない場合,副腎皮質ホルモン,salazosulfapyridine,mesalazine,metronidazole,免疫抑制剤などの薬物療法が併用されてきた.しかし,これらの治療が十分に奏効しない症例も少なくない.しかも,治療の基本となる栄養療法は通常の食事を制限するため生活の質(QOL)を著しく損なう.このような状態を打破するため,副作用の少ない新しい治療法の出現が待たれていた.そこで登場したのが,2002年6月より保険適用となった抗 TNF-α抗体療法(infliximab)である.本特集は,infliximab を中心とした Crohn 病の新しい治療法の位置づけを,主として形態学的な側面から検討し論じていただくという主旨で企画された.

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要旨 Crohn病に対する治療は,日本では栄養療法が第一選択となっているが,欧米では薬物療法が主であり,今現在様々な薬物に対する臨床試験が進行中である.従来は5-ASA製剤,ステロイド,免疫抑制剤等がCrohn病の治療に主に使用されていたが,現在TNFを標的とした治療の研究が目覚しく進歩し,臨床応用されている.だが一方では,抗TNF-α抗体療法も,中和抗体の出現やコストの面等,様々な問題を残していると言える.ここでは,Crohn病に対する従来の治療薬,新しく実用化された治療薬,また現在研究段階の治療薬に分類し,主要な論文に基づいて,臨床試験成績と主な問題点について解説した.

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要旨 Crohn病(CD)に対する在宅経腸栄養療法(HEN)の長期の治療効果,特に腸管合併症への進展阻止における HEN の有用性を,薬物療法主体の治療例と比較した.対象は初診時非手術で5年以上経過観察可能であったCDの中で,画像診断による腸管病変の評価を複数回行った80例である.対象のうちHEN主体の治療を行ったN群(51例)と,薬物療法主体のD群(29例)で,新たな腸管合併症への進展阻止における治療効果を比較した.N群の腸管合併症への進展率は17%で,D群の45%より有意に低率であった(p<0.01).なお病変部位別では,小腸病変に対する治療効果が優れていた.臨床経過の面では,患者年あたりの平均入院回数はN群0.14回,D群0.22回,平均手術回数は各々0.07回と0.13回で,ともにN群のほうが低頻度であった.以上の成績より,HENを主体とした内科的治療の継続は,Crohn病の腸管合併症への進展阻止や外科手術の回避に有用であると考える.

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要旨 抗TNF-α抗体(infliximab)を投与したCrohn病35例(男性27例,女性8例,平均年齢は32.3歳)を対象として,infliximab投与前後の注腸X線,小腸X線,そして,大腸内視鏡所見の変化を検討した.対象とした病変は潰瘍性病変で,瘻孔形成8例で,初期病変2例を含んでいた.臨床症状の推移をIOIBDスコアでみると,infliximab投与後,急速に減少し,その値は4~6週後から徐々に元の値に戻った.CRP値も IOIBDスコアと同じ推移を示した.呈示した症例から,縦走潰瘍は短期間に幅の広い瘢痕となる治癒傾向を示した.その際の腸管の狭細化,短縮は著明ではなかった.投与前から小腸に著明な狭窄のあった1例ではイレウスに移行した.大腸,回腸吻合部・皮膚瘻の1例は治癒したが,直腸・膀胱瘻の1例では,いったん治癒したが,2年半後に再発した.腸管・腸管瘻の4例,直腸・腟瘻の2例は治癒しなかった.初期病変の2例ではアフタはinfliximab投与後消失し,経過を観察している.infliximab投与前後の形態的所見を追求することは,この薬剤の効果を知る上で,また,適応を決める上でも,大切なことである.

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要旨 Crohn病30例に対するinfliximabの効果を臨床的活動指数(CDAI)および痔瘻と腸管・皮膚瘻について解析し,18例では活動性病変(敷石像,縦走潰瘍,小潰瘍・アフタ様病変,裂溝)と腸管合併症(狭窄,内瘻)に対する効果を検討した.8例では完全静脈栄養療法の効果と比較した.① 初回投与2週後にCDAIは有意に低下した.②8週以内の活動性腸病変に対する有効率は敷石像で100%,縦走潰瘍で100%,小潰瘍・アフタ様病変で75% であったが,8週以降の縦走潰瘍に対する有効率は33%と低下した.腸管合併症のうち内瘻に対する有効率は8週後までは100%であったが,その後は40%に低下した.③ 活動性病変に対して完全静脈栄養と infliximabの効果に明らかな違いはなかったが,内瘻の改善率は前者で0%,infliximabで100%であった.以上から,infliximabはCrohn病の臨床的活動性のみならず活動性病変と内瘻に有効であるが,その効果は短期間にとどまると考えられた.

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要旨 Crohn 病に対する少量の免疫抑制剤の治療効果を検討した.対象は当院において免疫抑制剤を投与した Crohn 病患者の109例であり,治療効果の判定は長期経過が追跡可能な76例で行った.治療目的別では緩解維持37.3%,ステロイド減量・離脱目的では63.6% の有効率を示した.さらに,腸切除術後に緩解維持療法を目的に免疫抑制剤を投与した症例19例と非投与症例32例の比較では,再手術率,1年以内・2年以内の早期再燃率はともに免疫抑制剤投与群で低かった.投与量は6-mercaptopurine30mg/日,azathioprine50mg/日の少量投与であるが,有効性は欧米からの報告と遜色はないと思われた.副作用は109例中14例(12.8%)にみられた.内訳は骨髄抑制7例,消化器症状3例,脱毛3例,頭痛1例であり,いずれも投与中止により症状の改善,検査値の正常化が得られ,重篤なものはなかった.免疫抑制剤の少量投与の緩解維持およびステロイド減量・離脱における有用性と安全性が確認された.

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要旨 背景と目的 ; 白血球系細胞除去療法(cytapheresis;CAP)は,副腎皮質ステロイド剤などの従来法が奏功しない難治性潰瘍性大腸炎の追加的治療法と位置づけられている.本研究では,Crohn病(CD)に対する CAPの治療効果をみることを目的とした.対象と方法;栄養療法を主体とする従来型治療法に抵抗性がある活動期CD患者9例に行われた11回のCAPを対象とした.CAPは,成分栄養療法や経静脈栄養療法(TPN)などの従来法と併用され週1回,合計5~7回体外循環後治療が施行され,その効果をみた.治療効果の評価は,臨床像(CDAIと合併する肛門部病変などの他覚所見)と腸管病変の画像所見の2項目で行った.結果;①CDAIなどの臨床所見は9例11回の治療中,5例7回(63.6%)で明らかな改善がみられた.しかし,4例(36.4%)では臨床所見が改善しなかった.②画像所見は7例9回の治療で評価された.そのうち4例6回(66.7%)の治療で改善がみられた.4例では臨床所見と同時に画像所見が改善しなかった.したがって,CAPは4例で無効であった.病型をみると大腸型では有効性が高く(85.7%),小腸病変が優位の例では有効性が低かった(25.0%).結論;CAPは栄養療法などに不応の活動期CDに対して有効性が高く,臨床的有効率は治療回数でみると63.6%(7回/11回)であった.しかも安全であることから,今後従来型治療に対し難治の例で,特に大腸型に試みるべき治療法と考えられた.

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要旨 Crohn病に対する腹腔鏡下手術の現状とその適応について述べる.現在,教室では待機手術となる症例に対しては全例,腹腔鏡下手術を施行している.これまでに64名のCrohn病患者に対し,75回腹腔鏡下手術を施行した.開腹術への移行率は9.3%であった.回盲部の狭窄型,回腸回腸瘻の症例で,初回手術,再手術ともに腹腔鏡下手術の最もよい適応である.回腸回腸瘻以外の瘻孔・膿瘍を有する症例にも腹腔鏡下手術は安全に施行可能であるが,開腹手術への移行率は比較的高い.

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要旨 患者は27歳,女性.6年前に小腸大腸型Crohn病と診断され,今回は痔瘻に対する抗TNF-α抗体療法目的で入院となった.入院前から心窩部不快感が持続し,上部消化管内視鏡検査を施行したところ,前庭部に多発するアフタ様病変が認められた.大腸内視鏡検査では,終末回腸に活動性縦走潰瘍を認めた.抗TNF-α抗体を投与すると,痔瘻の改善,肛門部痛の消失,回腸縦走潰瘍の瘢痕化とともに心窩部不快感も消失した.抗体投与4週後に再度上部消化管内視鏡検査を行ったところ,前庭部の多発アフタ様病変は完全に消失していた.Crohn病における胃アフタ様病変は比較的遭遇する機会の多い病態であるが発症機序に関する検討はない.自験例は,胃アフタ様病変の発症にTNF-αが直接的に関与することを示唆する興味深い症例と考えられた.

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栄養療法を中心とした従来の治療法の限界

 飯田(司会) 本日はお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます.「Crohn 病の新しい治療をめぐって」という座談会を始めさせていただきます.従来のCrohn病の治療は日本では特に栄養療法が中心で,うまくいかないときに,5-ASA(5-aminosalicylic acid),ステロイドや免疫抑制剤,metronidazoleなどの薬物が併用されるのが現状ですが,新しい infliximabという分子標的治療薬が2002年の6月から保険適用になりました.こういう新しい治療法の位置づけについてお話しいただくのが本日の趣旨です.初めに,栄養療法を中心とした従来の治療法のどこに一番問題があるのか,どこが治療の限界かをお話しください.

 斉藤(司会) 栄養療法で80~90%と高い緩解導入率は得られますが,再燃を予防するための緩解維持となると難しいのが現状です.complianceの問題等も含めて,いかがでしょう.

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 〔症 例〕 50歳,男性.

 〔主 訴〕 貧血.

 〔既 往 歴〕 過去に頻回の鼻出血を認めたことがあった.

 〔家 族 歴〕 母親に貧血.長女にも鼻出血の傾向があり,今回当科で Rendu-Osler-Weber 病と診断.

 〔現 病 歴〕 1997年ごろから労作時息切れを自覚していたが放置していた.1999年に健診で Hb5.8g/dl と高度の貧血を指摘され,近医受診.鉄剤投与で Hb11.4g/dl と改善したため経過を観察されていた.2002年7月下旬にふらつきが出現.貧血の増悪を認めたため,上部消化管内視鏡検査を施行.上部消化管に紅斑が多発し,当科に紹介され入院した.

 〔入院時現症〕 身長162.5cm,体重68kg,血圧118/68mmHg,脈拍72/分,整.眼瞼結膜に貧血なし.舌,口腔粘膜に小発赤斑を散見したが,全身の皮膚には特に異常所見は認めなかった.胸部聴診上に特に異常はなかった.

 〔入院時検査所見〕 前医で治療後のため,当院入院時には貧血は認められず,動静脈血液ガス分析にも異常はなかった.HLA タイピングで DR8は陽性であった.

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 〔患 者〕 49歳,女性.

 〔現 病 歴〕 2001年3月末より排便時出血を認め,近医受診された.直腸に隆起性病変を認めたため,精査加療目的にて当大学消化器病センター紹介受診となる.

 〔注腸造影所見〕 直腸(Rb)後壁に大きさ約7mm 大の隆起性病変が存在し,その中央に不整形のバリウム斑を認めた(Fig.1).側面像においては明らかな変形像は認めなかった(Fig.2).

 〔通常内視鏡所見〕 全体的に発赤調を呈し,中心に浅い陥凹を伴う Is 様の隆起性病変を認めた.緊満感,表面粗粘膜等の所見は認めなかった(Fig.3).

 〔色素内視鏡所見〕 インジゴカルミン撒布像では,通常内視鏡所見で認めた不整形の陥凹が明瞭となった.ひだ集中等の病変周囲部伸展不良所見は認めなかった(Fig.4).

 〔拡大内視鏡所見〕 0.075% ピオクタニン染色にて施行した.中心の浅い陥凹部は輪郭不明瞭な VI 型 pit とその一部に染色不良の部位を認めた(Fig.5).丈の高い隆起の部分は腺管密度の低下した IIIL 型 pit を認め,病変の肛門側の立ち上がりに II 型 pit を認めた(Fig.6).

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欧文目次

編集後記 田中 信治
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 Crohn 病に対する新しい治療の位置づけについて,形態診断学の進んでいる本邦でしかできない,“臨床経過が追えた症例で形態学的な側面から解析する"という企画が組まれ,座談会を含め非常に読みごたえのある特集号ができあがった.

 まず,笹田らによる文献 review で概略が示され,小林らが栄養療法が薬物療法よりも腸管外合併症進展阻止や外科手術回避に対して有用であるというデータを示している.患者の食生活などのQOLをどこまで考慮するかで栄養療法に関しては様々な考え方があるが,病態に応じて積極的に行うべき治療法であろう.次に,最近保険適応に通った抗TNF-α抗体(infliximab)の臨床成績が示され,その効果について,中野らは縦走潰瘍治癒過程で腸管の狭細化・短縮があまり顕著でない特徴を示し,松本らは臨床的活動性のみならず活動性病変や内瘻に有効であるもののその効果が短期間にとどまることを画像所見を示しながら詳しく解説している.また,岩男らは免疫抑制剤の臨床効果と安全性について述べ,松井らは白血球除去療法が小腸病変には有効性が低いが大腸病変には有効性が高いことを示し,Crohn 病に対する白血球除去療法の選択基準を示した.さらに,長谷川らによって,Crohn 病に対する腹腔鏡下手術の成績も述べられている.

基本情報

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胃と腸
39巻2号 (2004年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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