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2004年1月の早期胃癌研究会は,1月21日(水)に一ツ橋ホールで開催された.司会は武藤徹一郎(癌研究会附属病院)が担当した.
〔第1例〕 25歳,男性.アメーバ赤痢と鑑別困難であった腸チフス・パラチフス(症例提供:大阪医科大学第2内科 村野実之).
発熱・CRP上昇,海外渡航歴から感染性腸炎が疑われ,その鑑別診断が問題となった症例である.
松井(福岡大学筑紫病院消化器科)はX線上,下行結腸を中心とする不均一な浅い潰瘍性病変が主体で,回盲部,上行結腸にはより軽度な病変が存在すると読影.回腸末端病変を除けばアメーバ赤痢が最も疑わしいが他の感染性腸炎も考慮すると診断した.丸山(早期胃癌検診協会)はX線の読影法として腸管変形にも注意を払うべきであり,注腸造影の読み方の基本を忘れてはいけないという貴重な発言を行った.
内視鏡所見の読影も松井が行い,びまん性のびらん,白苔を伴う浅い潰瘍からなる全大腸炎で回腸末端にも同様の所見があり,後者を除けばアメーバ赤痢に合致すると述べた(Fig. 1).多田(多田消化器クリニック)は内視鏡所見としてCampylobacter,Yersiniaは考えられず回腸炎以外はアメーバ赤痢を支持すると述べた.司会者(武藤)からアメーバ赤痢としては白苔がきれいすぎ,洗浄で簡単に取れすぎはしないかとの発言があった.
江頭(大阪医科大学病理)は生検上にアメーバ病原体は見つからず(PAS染色),びらん辺縁のリンパ濾胞形成を囲む多核白血球中心の急性炎症所見から,感染性腸炎は確かであるが,それ以上の診断は困難と述べた.しかし,渡辺(新潟大学分子・診断病理)はリンパ濾胞周囲にチフス細胞が存在しており,回腸末端のパイエル板腫大を考慮すると,腸チフスの診断は可能であると指摘した.アメーバ赤痢を疑うならもっと多くの生検を潰瘍辺縁から採取すべきであるとの指摘もあった(多田・武藤).
最後に提示された経過表によれば本症は確証のないままアメーバ赤痢として抗生物質が投与され,完治しないまま経過中に便と血液からパラチフスAが検出され診断が確定した.パラチフスの下部大腸病変の報告はないそうである.なお,感染性腸炎の診断時における画像診断の位置づけについて,種々の反省点が指摘された.
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