胃と腸 35巻8号 (2000年7月)

今月の主題 多発大腸癌

序説

多発大腸癌 牛尾 恭輔
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 最近,多発大腸癌の重要性が,これまでに増して述べられている.そこで多発大腸癌が課題として,取り上げられた背景について述べてみたい.まず,第51回の大腸癌研究会(1999年,当番世話人:下山孝先生)が神戸市で開催された.そのときの主題の1つとして,「大腸多発癌(異時性・同時性)の検討」が取り上げられ,その中で多発癌に付随して重複癌の演題も多く提出された.しかしその際,大腸癌取扱い規約に多発癌や重複癌の定義が,記載されていないので,統計などの対応と処理に苦慮したとの問題が提起された.

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要旨 遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)を除く大腸多発癌の発生頻度は約4%であった.単発癌に比べ,同時性多発癌は男性に多い傾向が認められた.また多発癌症例にHNPCCの特徴である若年発症の傾向や右側結腸癌が多発する傾向が認められ,一部の多発癌に臨床診断基準を満たしていないHNPCC症例が混在することが示唆された.同時性多発癌は,単発癌に比べ予後不良傾向が認められた.異時性多発癌の初発癌から第2癌,あるいは第2癌から第3癌までの発生間隔を検討してみると,前回手術から2~3年目と8~9年目にピークを認め,2峰性の分布を示し,第1のピークに含まれる症例には前回手術時の見落とし例があることが示された.

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要旨 本邦においても大腸癌の罹患率は増加傾向にあり,その対策は重要である.その発生原因に関わるとみられる危険因子の検討は様々な分野の研究者により試みられてきた.癌の発生はその成因を環境要因と遺伝的要因に大別すると理解しやすい.大腸癌の危険因子を考える上でも,遺伝的素因は軽視できない.癌に罹患しやすい素因を生まれながらに備えている個人や癌患者が集積する家系が認められ,その頻度は数%に達する.一般に遺伝的要因を背景にした癌高危険群を見いだす臨床的指標としては,①若年発症,②多発傾向,③家族集積性が挙げられるが,大腸癌の場合は右側大腸癌も重要な兆候と考えられ,更に腫瘍の遺伝子不安定性検査の結果も重要視する必要がある.これらの兆候をもつ大腸癌患者は遺伝的要因を背景にもつことが推測され,その血縁者は高危険群として認識される.これら高危険群を的確に同定し,癌対策を進めることは意義あることと考える.

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要旨 1984年1月から1999年12月までの15年問に当院で発見された大腸多発癌309例を対象に大腸多発癌の臨床的特徴と注腸検査における大腸多発癌診断能の実態について検討を行った.①大腸多発癌の個々の病変は直腸およびS状結腸に多いが病変は広く大腸全体に分布していた.②XP(-)病変の特徴は無茎性病変,10mm以下の病変,右側結腸病変などであった.③第1癌が進行癌の場合,狭窄で口側の検査ができなかったり,前処置不良となり注腸検査の精度が低下し病変が見逃される危険性が高い.また,第1癌発見による油断が異時性大腸多発癌の原因となった症例もみられた.④自験例の同時性2重癌を対象とした大腸検査法の正診率は注腸検査75.3%,内視鏡検査93.3%,併用98.9%であった.注腸検査を大腸多発癌の診断に用いる場合,見逃しの原因をよく理解した上で撮影や読影を行い,疑わしきは積極的に内視鏡検査を併用すべきである.そして,同時性大腸多発癌の見逃しは異時性大腸多発癌の原因となり,発見が遅れると予後に大きな影響を及ぼすので第1癌を発見したら第2癌の存在を念頭に置いた詳細な術前検査と術後の厳重な経過観察が必要である.

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要旨 多発大腸癌を同時性,異時性に分類して臨床的側面から検討を行った.対象は過去14年間で当科にて経験した多発大腸癌468病変,同時性多発癌134症例295病変,異時性多発癌64症例173病変であった.同時性,異時性ともに全体として肉眼形態,腫瘍径,占拠部位においては明確な差を認めなかったが,異時性において第2病変以降にLST,陥凹型病変の比率が上昇した.病理組織像において異時性癌ではm癌の比率が同時性よりも高かった.また異時性の進行癌例は4症例5病変が存在した.第1病変の発見から進行癌の出現までの期間は平均39.4か月であった.その背景因子を考察するとLSTや陥凹型病変の介在が示唆され,進行癌の発育進展を考察する上でも興味深いと考えられた.

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要旨 同時性多発癌66症例の臨床病理学的特徴を,単発大腸癌(進行癌83症例,早期癌195症例)と比較した.多発癌では,年齢には差はなかったが,性差では男性に多かった.発生部位は,多発癌は左側優位であり左側同側発生が最も多かった.組織学的には多発癌での腺腫の共存(腺腫内癌)の頻度が高く,その組織発生におけるadenoma-carcinoma sequenceの関与の重要性が示唆された.また,p53遺伝子異常による解析により,すべての症例で同一症例内の個々の病変のp53遺伝子は変異の有無あるいは変異の存在部位が異なっており,大腸における多発癌は多中心性発生が主体であると考えられた.

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要旨 過去38年間に当センターで内視鏡的治療例,外科的治療例および非切除例の大腸癌(腺癌)3,149例3,542病変について異時性多発大腸癌を検討した.異時性多発大腸癌は2.4%に認め,平均年齢は62.1歳,男女比は1.88:1であった.進行癌+早期癌の組み合わせが最も多くみられた.占拠部位は,第1癌の口側に発現する傾向があり,特に右半結腸に多くみられた.発現間隔は,平均6年で1~26年の長きにわたっていた.発現期間の分布をみると,3年未満の比較的早期と5年以上の2峰性を示していた.3年未満のものは見逃しの可能性を否定できず,3年以上のものを異時性と定義することを提案したい.また,術後の経過検査は必要であるが,5年以上経過しても全大腸,特に右半結腸に重点を置いた定期的な検査が必要である.

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要旨 1985年4月から1999年2月までの期間に当センターおよび関連施設にて切除された異時性多発癌62症例,164病変を対象とし,隆起型(Ip,Isp,Is),表面隆起型(Ⅱa,Ⅱa+dep),LST(laterally spreading tumor),陥凹型(Ⅱc,Ⅱc+Ⅱa,Ⅱa+Ⅱc,Is+Ⅱc),進行癌に分けて検討した.対象症例中の陥凹型の割合は25.8%と極めて高く,第2癌以降の浸潤癌における陥凹型の割合も29.4%と極めて高かった.陥凹型の異時性多発は25%と高頻度に見られた.第1癌が進行癌であるものを除いて第2癌以降に進行癌がみられたものは,陥凹型群では0,非陥凹型群では3病変認められた.したがって進行癌の予防を目的として検査,摘除を行う以上,隆起型癌ばかりでなく陥凹型癌の存在を十分に念頭におく必要があると思われた.

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要旨 多発大腸癌の遺伝子学的特徴を明らかにするために,K-ras,p53を含む17番染色体短腕(17p)のLOH(loss of heterozygosity),18番染色体長腕(18q)のLOH,ゲノムの不安定性の指標であるMSI(microsatellite instability)について解析した.多発大腸癌では,K-ras遺伝子の変異が12.0%と一般大腸癌で報告されているもの(40~70%)よりも低く,p53遺伝子の変異は単発癌と多発癌で差がなかった.MSIは同時性多発癌で4.2%,単発癌で6.7%と差はなく,異時性多発癌で25.0%と高率であった.以上の結果から,多発大腸癌は単発大腸癌と比較して,K-ras遺伝子の変異が関与していないものが多く含まれている可能性が示唆された.また,MSIの結果から,多発癌の中でも同時性多発癌はHNPCC(hereditary nonpolyposis colorectal cancer)との関連性は低いが,異時性多発癌の中にはHNPCCが含まれている可能性が高いと考えられた.

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要旨 患者は65歳,男性.癌家族歴はない.18年前に盲腸癌にて右側結腸切除術を受けている.今回,血便と貧血症状が出現し精査を行ったところ,胃1病変ならびに横行結腸1病変,S状結腸1病変,直腸2病変を認めた.胃部分切除術,横行結腸切除術,骨盤内臓器全摘術により治癒切除となった.同時性5多重癌のうち胃も含む3病変について切除標本病理組織検査にてmucinous omponentを認めた.

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要旨 直腸進行癌術後のサーベイランスで発見された異時性早期横行結腸癌の1例を経験した.本症例は第2癌がⅡc型で組織型が印環細胞癌を主体とすること,第1癌が23歳時,第2癌が26歳時と若年性に発症したこと,microsatellite instability(MSI)の解析では検索した8領域のうち第1癌が5領域,第2癌が6領域と高率に陽性であること,K-ras,p53の変異解析はいずれも野生型であることなどの特徴を有していた.本症例はまれな例ではあるが,その臨床病理学的所見は,多発大腸癌のリスク要因を解明するにあたり示唆に富む症例であると考えられる.

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要旨 患者は68歳,女性.血便を主訴に当センターを初診した.注腸X線および大腸内視鏡査を施行したところ,上行結腸肝彎曲部に大きさ約20mmのⅡa+Ⅱc様病変を認めた.立ち上がりは緊満感のある正常粘膜で覆われ,中央部には厚い白苔が付着した深い陥凹を認め,深達度ss以深の進行癌と術前診断した.更にそのすぐ肛門側に大きさ15mmのⅡa病変を認めた.表面は平坦で凹凸不整や明らかな陥凹面を有さず深達度mの早期癌と診断した.また,上行結腸のほぼ中央部に大きさ9mmで表面が顆粒状を呈する可動性良好な隆起性病変を認めた.明らかな浸潤癌の所見はなく腺腫ないしは粘膜内癌と診断した.以上から多発大腸癌の診断で右半結腸切除術を施行した.Ⅱa+Ⅱc様病変は深達度ssの粘液癌,Ⅱa病変は深達度mの高分化腺癌,上行結腸中央部の病変は,粘液結節を形成し深達度sm3まで浸潤した中分化腺癌であった.病理組織学的には粘液結節を有する2つの癌と表面型m癌の同時三重多発癌であったが,上行結腸中央部の病変はre-trospectiveな検討でも深達度sm3の診断は困難であった.癌の深達度診断および発育進展を考えるうえで興味ある症例と思われ報告した.

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要旨 40歳未満の異時性多発大腸癌の1例を報告した.患者は,30歳時,便秘,黒色便を主訴に来院.横行結腸に2型進行大腸癌を認め,右半結腸切除術施行,以後1年間隔の注腸X線検査で経過観察されていた.35歳時,直腸にIsp病変を指摘され,早期大腸癌(粘膜内癌)の診断のもと内視鏡的切除術を施行された.本症例は若年発症,異時多発,第1癌が右側大腸,第1度近親者が大腸癌であることより,遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)を強く疑い遺伝子検索を行った.その結果,第1,2癌とも高頻度のマイクロサテライト領域の不安定性とTGF-βRII遺伝子の変異を認めた.以上の結果より本症例がHNPCCである可能性は極めて高いと思われた.本症例は,第1癌発症の時点からHNPCCを疑い,慎重な経過観察をすることにより,第2癌を早期発見し内視鏡的治療しえた症例と思われた.

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要旨 患者は75歳,男性.1996年9月,便通異常を主訴に近医受診.大腸内視鏡検査(CF)にて上行結腸にポリープを指摘され,当院紹介となる.当院のCFにて,上行結腸に13×10mmのⅡa+Ⅱcと,近傍に13mmのⅡa(LST-NG)を認めた.また,横行結腸にも,12mmのⅡa(LST-NG)を認めた.横行結腸のⅡaに対しては,ポリペクトミーが施行されたが,上行結腸のⅡa+Ⅱcは,sm massiveと診断し,同年10月11日,上行結腸切除術が行われた.病理結果は,Ⅱa+Ⅱcは高分化腺癌(sm2,ly0,v0,n0)であり,近傍のⅡaも高分化腺癌(m,ly0,v0),更にポリペクトミーされた横行結腸肝彎曲部のIlaも高分化腺癌(m,ly0,v0)であった.また,術後9か月に行われたCFで,横行結腸に12mm大のⅡaを認め,EMRを施行したところ,高分化腺癌(m,ly0,v0)であった.更に,術後2年1か月後に行われたCFにて横行結腸に10mm大のⅡaを認め,EMRにて,高分化腺癌(m,ly0,v0)の診断を得た.以上,同時,異時性に5つの大腸癌の発生を認めた症例を経験した.いずれも肉眼型は表面型であり,発生部位は右側結腸に限局していた.

学会印象記

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 第59回日本消化器内視鏡学会総会は京都府立医科大学第3内科教授・加嶋敬会長のもと,2000年5月29日から31日の3日間,緑豊かな洛北の地,宝が池の国立京都国際会館において開催された.21世紀を目前にした2000年は時代の大きな節目の年でもあり,今回の学会のテーマ「Patient-Oriented Endoscopy-21世紀に向かって」に即して,真に患者のためになる消化器内視鏡学を,医療機器の開発と技術の習得・普及から内視鏡を用いた分子生物学的診断に至るまで,幅広い視野に立った構成により本総会は行われた.学術集会はすがすがしい五月晴れに恵まれた2日間に圧縮され,15セッションの主題演題,国際シンポジウム,612題の一般演題と大変盛りだくさんの内容であった.その中でも,筆者自身が拝聴した上部消化管に関する発表中心に,その印象を述べたいと思う.

 加嶋教授の「臨床における消化管運動機能検査の役割一現況と将来」と題する会長講演は,医局を代表して発表させて頂きますという教授のお言葉どおり,医局のデータに基づいて上部消化管運動・胆道運動・下部消化管運動の機能検査および消化管疾患の病態を基礎と臨床の両面からわかりやすく見事に明らかにされ,大変勉強になった.

消化管病理基礎講座

胃癌の肉眼形態と組織像 滝澤 登一郎
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はじめに

 胃癌の肉眼形態と組織像の関係は,胃癌取扱い規約に記載されている肉眼分類と組織型分類の対応の問題であるが,焦点を明確にするためには大腸癌の肉眼組織分類と比較することが重要である.胃癌と大腸癌の肉眼分類で異なる点は,大腸癌において表在型I型が有茎性(Ip),亜有茎性(Isp),無茎性(Is)の3型に細分類されている点である.有茎性のポリープ癌は表在大腸癌の代表的な肉眼型の1つであるが,胃においては有茎性のポリープ癌は比較的まれで,I型を亜分類する必要性がないのである.これに対して組織型分類は,大腸癌では腺癌が高分化,中分化,低分化型の3型に分類されているだけであるが,胃癌では,乳頭腺癌と管状腺癌が区別されており,更に低分化腺癌が充実型と非充実型に分類されている.胃癌における腺癌の細分類の必要性は癌の生物学的態度も含めて,多数症例の観察から帰納的に導かれた結果である.したがって,胃癌の肉眼形態と組織像の関係を概説する際には,胃という臓器固有の条件が肉眼像,組織像にどのように反映しているかが問題の中心になる.

早期胃癌研究会

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 2000年3月の早期胃癌研究会は3月15日(水)に東商ホールで開催された.司会は神津照雄(千葉大学医学部光学医療診療部)と渕上忠彦(松山赤十字病院消化器科)が担当した.ミニレクチャーは大倉康男(埼玉県立がんセンター臨床病理)が「胃型腺癌の生検診断と経過観察のあり方」と題して,スライドを使い,臨床と病理の接点について詳細なデータに基づきプレゼンテーションを行った.

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 2000年4月の早期胃癌研究会は4月26日(水),東商ホールで行われた.司会は長南明道(JR仙台病院消化器内視鏡センター)と今村哲理(札幌厚生病院消化器科)が担当した.ミニレクチャーは平田(大阪医科大学第2内科)が最近話題の硬度可変式大腸スコープの挿入法についてビデオを用いて詳しく解説し,興味深く拝聴した.

 〔第1例〕50歳,女性.深達度診断が興味深かった未分化型Ⅲ+Ⅱc様mp癌(症例提供:久留米大学第2内科中原慶太).

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要旨 患者は56歳,女性.20年来検診を受けているが異常を指摘されたことはない.1997年10月の検診を契機に上部消化管内視鏡検査で胃角対応大彎後壁に広い褪色調領域とこの後壁側辺縁に2か所の小さな不整形陥凹を指摘された.内視鏡的には前者の褪色域も癌浸潤の範囲と考えられたが,生検で癌細胞は証明されず,後者からのみ低分化腺癌が認められた.切除標本の病理組織学的検討では,癌の浸潤は辺縁の2つのⅡc領域にとどまっており,褪色域は胃底腺領域に孤立性に存在する斑状萎縮粘膜であった.現在のところ斑状萎縮粘膜は胃病変として広く認知されているとは言い難いが,その画像診断的特徴や発生機序の検討,更には早期胃癌などとの鑑別が必要と考えられた.

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要旨 患者は41歳の男性.黒色便を主訴に入院精査の結果,十二指腸球部後壁にだるま型の粘膜下腫瘍様隆起性病変を認めたが,組織学的には生検で確定診断不能であった.切除標本の組織像よりBrunner腺由来の腺腫または過形成と考えられたが,Ki-67染色で陽性細胞がほとんどみられなかったことから,Brunner腺過形成と診断された.特異な形態を示した原因として,腫瘍頂部の粘膜が刺激により欠損と再生を繰り返し,同部位での腫瘍増殖に影響を与えた可能性もあると思われた.

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要旨 患者は71歳,男性.約12年前より間欠的に腹痛を繰り返すため当院を受診した.経口小腸X線検査では中部小腸に口側腸管の拡張を伴う狭窄を認めた.ゾンデ法小腸X線検査では,狭窄部に一致して辺縁平滑な陰影欠損,偏側性の硬化像,および狭窄部の不整陰影斑を認めた.小腸腫瘍の診断下に開腹手術を行ったところ,術中内視鏡検査で上記X線所見に合致する所見が得られた.病理組織学的には腸間膜根部のリンパ節転移を伴う回腸カルチノイド腫瘍で漿膜下に浸潤していた.本邦では,カルチノイド腫瘍が中部小腸に発生することはまれと考えられるが,自験例はゾンデ法小腸X線検査と術中内視鏡検査でカルチノイドの所見を確認しえた貴重な症例と考えられた.

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欧文目次

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 3人に1人が癌で死ぬ時代になった今,癌の克服は国民的課題である.多くの癌は早期に発見されれば手術によって治癒可能であるが,進行癌の約半数はいわゆる根治的手術を行っても再発は不可避であるという現実がある.再発に対する対策の1つは抗癌剤投与であるが,その効果は常に腫瘍縮小を基準にして判定されてきた.縮小なくして延命なし"が従来の抗癌剤治療の基本的テーゼであったのである.しかし,延命に結びつくほどの縮小がみられる抗癌剤は,特に消化器癌においてはむしろ少ないのが現実である,それならば,抗癌剤の将来には希望はないのだろうか?

 本書の主題であるdormancy therapyはこの疑問に対する答えを見事に用意してくれている.prolonged NC,time to progression(TTP)など耳新しい言葉が出てくるが,これらはすべて"縮小なくして延命なし"に対するアンチテーゼであり,その概念がわかりやすい図表と実験結果によって解説されている.腫瘍が縮小しなくても(NC),延命効果が得られれば治療としての効果を評価すべきであるし,増殖までの時間(TTP)を延長することができれば,腫瘍縮小の有無にかかわらず治療効果を評価すべきであるという著者の主張は,誠に的を射たものであり,長年にわたり腫瘍学に携わってきた,優れた臨床家にして初めて言えることである.強力な抗癌剤を服用しても,しょせん完治が望めない以上,dormancy therapyで癌と共存し,QOLを保ちつつできるだけ長く生きるという,患者中心のこの新しい治療法はもっと広く検証されるべきであろう.抗癌剤だけではなく,血管新生阻害剤,アポトーシス誘導剤など,dormancy ther.apyに利用できる新しい手法が続々と登場してきたお蔭で,この新治療法は更に現実的なものになってきた.

編集後記 工藤 進英
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 大腸は多発癌の発生しやすい臓器である.したがって大腸癌を1個認めたときは同時性,異時性の大腸癌を見逃しのないように臨床的に対応する必要がある.治療後にも異時性多発癌の存在を十分に意識しながらfollow-upを行うことが肝要であり,今回の論文にても異時性癌の発生は2,3年の比較的早い時期と10年以降の遅い発生の2峰性があることが示されている.そのことは異時性多発癌には初回の見逃し例とclean colonからの新たな癌の新生の両者があろうことは想像に難くない.しかし一方において異時性多発癌では発育速度の速いde novo cancerの存在も無視できない.泉論文,今井論文に示されるように多発癌において早期癌の形態は表面型が多く,なかでも表面陥凹型の発生の意義が重要視される.過日,第51回大腸癌研究会が同テーマで行われたが,異時性癌症例で早期癌がなくすべて進行癌という施設も多くあった.陥凹型早期癌は臨床的に見逃されやすい形態でありX線や安易な内視鏡でのcheckは難しいことを示しているのかもしれない.表面型大腸癌は注意深い観察で発見されるものであり,大腸癌のhigh risk grorpである大腸癌術後症例ではこのような表面型,なかでも陥凹型を決して見逃さない臨床の姿勢が必要だろう.本号では形態,発生部位のほかにHNPCC,分子生物学的特徴など様々な観点から論じられたが,21世紀を目前に控え,現時点での通常の大腸癌の常識が今後どのように変わっていくのか,それを教えているようで興味深く読ませていただいた.

基本情報

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胃と腸
35巻8号 (2000年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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