胃と腸 35巻9号 (2000年8月)

今月の主題 薬剤性腸炎―最近の話題

序説

薬剤性腸炎―最近の話題 飯田 三雄
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 薬剤性腸炎とは,薬物の投与によって下痢,下血などの臨床症状が惹起され,腸管にびらんや潰瘍などの炎症性変化を生じる場合と定義される.起因薬剤としては抗生物質によるものが最も多く,その臨床像についてはずっと以前の本誌(18巻2号,1983)の主題にも取り上げられ周知のこととなっている.すなわち,抗生物質起因性腸炎は,非偽膜型(出血性腸炎)と偽膜型(偽膜性腸炎)に大別され,両型で臨床症状やX線および内視鏡所見が明らかに異なることが知られている.一方,近年,腸管出血性大腸菌(O157:H7)による出血性腸炎を代表とする種々の感染性腸炎や,種々の虚血性腸病変の臨床像が報告されており,日常臨床において抗生物質起因性腸炎との鑑別を要する症例に遭遇する機会も多い.このような状況をふまえ,本主題号では,抗生物質起因性腸炎を代表とする薬剤性腸炎の臨床像を再整理するとともに,その鑑別診断について言及される予定である.

 薬剤性腸炎の起因薬剤として,抗生物質以外に非ステロイド性抗炎症剤(nonsteroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs),抗癌剤,重金属製剤,免疫抑制剤,経口避妊薬などが知られているが,なかでもNSAIDsに起因した薬剤性腸炎の報告例が近年増加しつつある.その理由として,高齢化社会を反映しNSAIDsの使用頻度が増えたことと,大腸癌検診による便潜血検査の普及とともに全大腸内視鏡検査の頻度が増えたことなどが挙げられる.そこで本号は,NSAIDs起因性腸炎の臨床像を明らかにすることをもう1つの目的として企画された.

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要旨 薬剤性腸炎として偽膜性腸炎(PMC)と急性出血性腸炎(AHC)がよく知られている.PMCは複数の抗生物質を使用している高齢者に発生し,遠位大腸に偽膜の形成を特徴とする院内感染症で,Clostridium difficile(Cd)の異常増殖が原因とされる.病気の発生にはCd toxin A,Bの2種類が関与している.AHCはpenicillin製剤の投与により発生する近位大腸に後発する腸炎で原因は不明であるが,アレルギー説やShwartzman反応が原因として考えられている.一方,NSAIDsの使用の増加に伴い,近年,NSAIDs腸炎の報告が増加している。小腸・大腸の潰瘍形成,潰瘍性大腸炎やCrohn病の増悪,憩室からの出血・穿孔のほか,小腸に多発する膜様狭窄を生じることも知られている.腸管障害の発生機序としてNSAIDsによる腸管粘膜の透過性亢進により,胆汁,腸内細菌,他の化学物質が細胞内に侵入し,出血や潰瘍を生じることが原因として推測されている.薬剤の減量,プロドラッグの投与の他,sulfasalazineやmetronidazoleが治療として有効である.

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要旨 抗生物質起因性腸炎は偽膜型と非偽膜型に分類される.偽膜性大腸炎は重篤な疾患を有する高齢者に好発し,血便・腹痛はやや少なく,セフェム系・注射・多剤投与,C.difficile毒素陽性例が多い.非偽膜型ではⅠ(びまん出血)型は若年者に好発,血性下痢・腹痛が高率,原因疾患は感冒が多く,合成ペニシリン・内服・単剤投与が多い.Ⅱ(縦走潰瘍)型はセフェム系投与が多い以外はⅠ型に類似,Ⅲ(アフタ)型は年齢,症状,抗生物質の種類・投与経路,好発部位,C.difficile毒素陽性例の存在など偽膜性大腸炎に類似,Ⅳ(非特異)型は様々な病態のものが含まれ特徴的なものはない.鑑別診断は抗生物質投与の有無,便細菌学的所見が重要であるが内視鏡的には偽膜性大腸炎では潰瘍性大腸炎,クラミジア直腸炎,アメーバ赤痢,びまん出血型や縦走潰瘍型では虚血性大腸炎や腸管出血性大腸菌O157による腸炎,アフタ型や非特異型では各種感染性腸炎と鑑別を要する.

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要旨 NSAID起因性腸疾患の診断は,既存の腸疾患が否定され,発症や経過からNSAIDとの関連が明瞭であることを基準とした.男性13例,女性10例を診断した.その臨床的特徴として,NSAID短期投与例(1か月未満)では,下血を主症状とし,病変は回盲弁や終末回腸に多く,浅い略円形潰瘍で多発し,易出血性のことが多い.噴出性の出血を認めた3例にクリップによる止血が効果的であった.発症はNSAID服用後最短で3日後に出現していた.長期投与例(1か月以上)では,腹痛や下痢,出血などを繰り返していたが診断されていなかったものが多く,略円形潰瘍のほか狭窄を伴うものがみられた.NSAID起因性腸病変の診断はその特徴を知り,可能性を疑うことが大切である.

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要旨 3年間に経験した下部消化管病変のうち,抗生物質非投与かつ非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)の投与歴が明らかで,薬剤の中止により病変の改善が確認できた16例の臨床像と大腸病変の経過を検討した.①3例はカルボン酸,プロピオン酸,エノール酸ないし合剤の内服で発症した出血性大腸炎あるいはアフタ性腸炎で,薬剤中止後早期に消失した.②3例はカルボン酸,プロピオン酸ないしエノール酸系薬剤内服中に終末回腸のアフタ性病変ないし浮腫像を認め,薬剤の中止で改善した.③10例は酢酸系ないしプロピオン酸系薬剤の投与中に発見された単発性ないし正常粘膜が介在する多発潰瘍で,瘢痕を残して治癒し,1例では膜様の輪状狭窄に至っていた.以上より,NSAIDs起因性大腸病変は原因薬剤や臨床像から腸炎型と潰瘍型に分類可能で,後者は分類不能の潰瘍性病変や基礎疾患に関連した腸病変に含まれてきた可能性が示唆された.

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要旨 非ステロイド系抗炎症剤(non-steroidal anti-inflammatory drug;NSAID)起因性腸炎16例について,臨床像から潰瘍型(10例),大腸炎型(3例),終末回腸炎型(3例)に分類し,生検組織像の特徴を解析した.また,外科的に切除されたNSAID起因性小腸横隔膜症1例の組織像も併せて解析した.組織学的に,非特異性炎型(潰瘍型9例,終末回腸炎型3例),虚血性腸炎型(潰瘍型1例),出血性腸炎型(大腸炎型2例),好酸球性腸炎型(大腸炎型1例)に大別された.横隔膜症が非特異性炎型(潰瘍型)に1例含まれており,小腸横隔膜症との組織学的類似性より横隔膜症は潰瘍型の治癒過程における特殊型であると思われた.非特異性炎型では潰瘍周囲の粘膜上皮の障害と炎症の程度は軽度であるにもかかわらず核分裂やアポトーシス小体が散見されるという特徴的な像を呈し,潰瘍発生にアポトーシスが重要な役割を果たしていることが示唆された.各病理組織型とも基本的像は異なるが一部重複する部分もあり,それぞれの発生機序の違いとともにそれらの多様性も示唆された.

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要旨 患者は57歳,男性.23年前より慢性腎不全のため維持透析を受けていた.1997年2月より頭痛と関節痛が出現し,isopropylantipyrineとphenacetin含有解熱鎮痛剤を連日内服中,下血と著明な貧血を認め緊急入院となった.大腸内視鏡検査では盲腸に辺縁明瞭な不整形潰瘍と小潰瘍を認めた.生検では特異的な炎症像や腫瘍性変化は認められず,細菌学的検査でも腸管感染症は否定的であった.薬剤起因性大腸潰瘍を疑い内服を中止したところ,約4か月の経過で潰瘍は瘢痕化した.しかし,1年後関節痛のため同剤を内服中に,回盲弁近傍の潰瘍が再発し,薬剤の中止1か月後にはほぼ瘢痕化した.以上の経過から,本例における盲腸の潰瘍性病変は解熱鎮痛剤に起因した可能性が強く示唆された.

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要旨 NSAIDs坐薬による直腸潰瘍の2例を経験した.〔症例1〕は坐薬使用後9日目に少量の下血で発症し,直腸の中部下部に出血性びらん・表層性の不整形潰瘍が多発するAGML様の病変を認めた.〔症例2〕は坐薬開始後,次第に下痢を生じ,約7か月の間に貧血が進行し便潜血テストも陽性のため内視鏡が施行され直腸に狭窄を伴う慢性潰瘍が認められた.NSAIDs坐薬起因性の直腸潰瘍に関する報告はまれであるが,実際は内視鏡が施行されず診断されていない症例も多いと想定される.〔症例2〕の経験からNSAIDs坐薬使用の際はその後も注意深く経過観察し,下血がなくとも下痢や貧血の進行を認めた場合は迅速な直腸の内視鏡検査が必要と考えられた.

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要旨 〔症例1〕は41歳,男性.S状結腸癌肝転移術後.肝再発に対して肝動注リザーバーよりmitomycin-Cおよびスフェレックス(微小デンプン)を間歇動注したところ十二指腸球部から下行脚にかけて広範なA1 stageの縦走性潰瘍を認めた.プロトンポンプ阻害剤を8週間投与したがH1 stageまでの回復にとどまった.〔症例2〕は56歳,女性.盲腸癌肝転移に対して右半結腸切除術,肝動注リザーバー留置術施行.肝動注リザーバーより5-FUおよびcisplatinを間歇動注したところ十二指腸下行脚に広範で浅いA1stage潰瘍を認めた.〔症例3〕は58歳,男性.盲腸癌肝転移に対して右半結腸切除術,肝部分切除肝動注リザーバー留置術を施行.肝動注リザーバーより5-FUおよびmitomycin-Cを間歇動注したところ,胃前庭部後壁から十二指腸球部にかけて広範囲なびらん性変化を伴うA1stageの潰瘍を認めた.プロトンポンプ阻害剤を6週間投与したが,H2 stageまでの回復にとどまった.抗癌剤による潰瘍の特徴としては,①潰瘍範囲が広区域で,②急激な変化で潰瘍面を形成し,③治癒段階では潰瘍の中心部は肉芽性の変化が強く,また,④治癒段階では潰瘍周囲面での再生上皮性の変化に乏しかった.

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要旨 患者は55歳,女性.主訴は下痢.子宮頸癌に対し,第3腰椎の高さの大動脈内に留置したカテーテルよりcisplatin(CDDP)と5-fluorouracil(5-FU)の持続動注療法後97日目より下痢が出現した.5-FUの総投与量は10.75gであった.大腸内視鏡検査および臨床経過より,5-FUに起因する大腸炎と診断した。絶食,中心静脈栄養,抗生剤投与を行ったが難治性で大腸炎は軽快せず,横行結腸に人工肛門を造設し,下痢は改善した.5-FUの持続動注療法中に下痢を認めた場合には,大腸炎の発症に留意する必要があると考えられる.

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 〔患者〕 56歳,女性.

 〔主訴〕 感冒様症状の後,下血に気付き当院を受診.注腸造影検査の結果,特に異常所見は指摘されなかった.数日後の上部消化管内視鏡検査で異常を指摘され,精査加療目的で入院した.入院時身体所見,臨床検査所見に異常は認められなかった.

消化管病理基礎講座

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 はじめに

 切除標本の肉眼像と組織所見の対比,切除標本と臨床画像の対比から臨床画像と組織所見とを対応することができ,その結果,病変の拡がり,深達度,組織型などを臨床画像から推定することが可能になる.正確な肉眼診断は治療方針を決定していくうえでも重要である.食道癌は組織型の大部分が扁平上皮癌であり,病変の範囲はヨード染色を用いて比較的正確に判定できる.深達度診断も進行癌がほとんどであった時代には大きな問題ではなかったが,表在癌の発見が増加するにつれてより正確な診断がなされるようになった.そして,侵襲の少ない内視鏡的切除が治療方法の一選択肢となるにいたり,深達度亜分類に基づいたより詳細な肉眼診断が必要とされるようになってきている.

 食道癌の肉眼診断を正確なものとするために切除標本の肉眼像と組織所見の対比を行い,基本的な所見の捉え方,読み方について解説した.表在癌を中心としたが,いずれの組織型も扁平上皮癌である.まれな組織型の病変については症例報告として様々な論文が出されていることから,それらを参照されたい,組織所見を見るためには食道正常組織についての理解が必要であるが,解剖書などを見ておいていただきたい.粘膜が重層扁平上皮であること,粘膜上皮と粘膜筋板との間に粘膜固有層があること,粘膜下層に食道固有腺が存在することなどが他の消化管と異なる点である.また,詳細な対比を行うためには切除標本の記録,切り出し方に注意を払う必要があるが,それについては既に本誌で解説したので省略した1)

「胃と腸」―私の意見

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 筆者が小学生のころ,スキーが好きな時期があった.ある日,若いころスキー選手だったという父親が筆者に新しいスキー板を買ってきた.それは身長の2倍もあるプロスキーヤーが使用するものであった.“これを自由に操るようになれば,オリンピックに出れる”と父は言った.残念ながら筆者は逆にスキー板に操られた.リフト待ちの集団に追突した後,スキーが大嫌いになった.それ以来,スキー靴を履くことはなかった.

 大腸内視鏡検査で財を成した権威者の一部は“せっかくcolonoscopeを買うのなら,total colonoscopyのできる長い内視鏡を買いましょう”,“修練して短時間で盲腸まで入れなければならない”とか“このスコープを自由に使えるようになってこそ一流の内視鏡医である”とかよく言う.昔聞いた言葉に似ている.高い理想の下に購入されたが,結局使用されなくなったcolonoscopeの存在は少なくないであろう.たまたま成功した者が,成功した後に現在の自分でも越えられないような高いハードルを掲げ,理想論を言うことは勝手である.だが,内視鏡検査はスポーツや競技ではない.内視鏡医の絶対的不足状態を鑑みれば,大腸内視鏡検査はそのような高いハードルでは困るのである.プライマリーケアの医師がsigmoidoscopyを簡単にできるようになればストーマの患者は激減するであろう.sigmoidoscopyで観察される範囲は上皮性腫瘍の頻度が高く,注腸X線で見逃しが多い部位である.その意味から米国では看護婦にsigmoidoscopyを行う資格を与え,需要に応えている.しかし,全く未熟な者が行えば,それなりの危険性を伴うことが危惧される.腫瘍発見数に相関して穿孔数も増えたというのであれば,大腸内視鏡は“諸刃の剣”となってしまう.大腸内視鏡検査による穿孔は毎日1人以上,日本のどこかで生じていると推定され1),その部位のほとんどはS状結腸であることから,無闇にsigmoidoscopyを普及させることはできない.その問題をクリアすべく開発されたsigmoidoscopeがCF-SV(オリンパス社)2)である.通常の大腸壁は3cm2/kg以上で穿孔する3)が,このCF-SVはいくら強く押してもその域に達しない4).すなわち,何らかの原因で腸管が非常に脆弱していない限りにおいて穿孔は生じえない.先端径が9.6mmと細く柔軟に設計されており,他のスコープに比して著しく痛みを抑制して下行結腸まで挿入できる.すなわち,挿入痛による過換気症候群は生じえない.また,腸管過伸展による迷走神経反射,低血圧の発生を抑制しうる.このスコープは特別に挿入法を修練する必要はなく,管腔が見えれば進み,見えなくなれば引くという単純な動作を繰り返すだけで挿入される1).腸管の走行のまま挿入されるため,シャフトの有効長は103cmで通常のsigmoidoscopeよりやや長い.初心者の場合,この安全なスコープで大腸内視鏡に慣れた後に余裕があれば長いスコープにチャレンジしてもよかろう.ちなみに筆者はtotal colonoscopyもこのスコープで行っている.下行結腸より深部への挿入には若干の技術が必要であるが,ここでは割愛する。正直に言うと,現在,筆者はCF-SVがなければ大腸内視鏡検査は億劫な状況となってしまった.いったん,オートマチック車に慣れた後にマニュアル車を運転できないような感覚に近い.

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 はじめに

 peppermintoilの主成分1-メントールは,下部消化管に直接作用し,平滑筋の弛緩作用を有することが知られている1).今回,大腸内視鏡時に腸管内に局所投与し鎮痙剤としての有用性と安全性を検討した.

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要旨 患者は66歳の男性.特に自覚症状はなく,胃集団検診を受けたところ噴門部の隆起性病変を指摘され当センターを受診.上部消化管内視鏡検査では,噴門部小彎側に厚い白苔を伴った大きさ約4cmの半球状の隆起性病変を認め,水洗すると表面は結節状であったが正常粘膜に近い構造が保たれていた.ヨード染色では隆起は全体的に不染を示していたが,扁平上皮の存在を示唆する濃染粘膜が島状に認められた.またヨード不染帯は,口側の食道粘膜に一部連続しており,食道粘膜との関連が示唆された.隆起表面の生検で扁平上皮癌が検出された.胃精密X線検査では,病変は表面結節状の亜有茎性の半球状隆起で,食道側から1本の太いひだの引き込みがみられた.切除標本の病理組織学的検討から,食道扁平上皮癌が噴門部を中心に1p型に発育進展した病変と診断された.

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要旨 直腸原発MALTリンパ腫の1切除例を経験した.患者は48歳の女性.主訴は下血.下部消化管内視鏡検査で肛門縁から5cmの部に隆起性病変を認め,生検にてMALTリンパ腫が疑われ,低位前方切除,D2リンパ節郭清を施行した.組織学的にはcentrocyte-like cellの浸潤増殖を認め,MALTリンパ腫と診断した.腫瘍細胞は壁全層性に外膜結合織まで達し,直腸傍リンパ節に転移を認めた.MALTリンパ腫は長期間局所にとどまり予後良好と言われているが,壁深達度が固有筋層を越えて深く浸潤している場合には,リンパ節転移の可能性もあり,QOLを考慮しながらも進行直腸癌に準じたリンパ節郭清を伴う切除を選択すべきと思われた.

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要旨 患者は54歳,女性.1年前より腹痛発作を繰り返していたが,1998年4月7日高度の腹痛が出現し当院受診.腹部CTにて高度腹水貯溜と小腸の高度の全周性浮腫像を認めたため緊急開腹を施行した.開腹時所見では,Treitz靭帯から約50cmの部分より220cmの長さにわたり著明な腸管の充血および腫脹を認めたが,穿孔および狭窄はなく腸切除は行わなかった.血清学的に抗核抗体強陽性,低補体価,抗二本鎖DNA抗体高値,白血球減少,日光過敏症よりSLE(systemic lupus erythematosus>と診断した.術後経過は良好であったため,ステロイド投与をせずに経過観察していたが,5月9日,突然腹痛を訴えたため,腹部CTおよび注腸X線を施行し,下腸間膜動脈灌流領域の虚血性大腸炎と診断された.SLEに伴う虚血性腸炎の合併は比較的まれであるが,一般的な虚血性腸炎とは発生部位・経過が異なることより,SLEの病態と直接関連したものと考えられた.

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欧文目次

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 癌を専門とする医師にとって“転移を制する者は癌を制す”とはよく知られた言葉である.転移の代表はリンパ行性転移と血行性転移であり,後者で最も多いのが肝転移であることもよく知られた事実である.転移にはこの二大本流が存在するにもかかわらず,なぜか拡大郭清によるリンパ節転移へのアプローチが従来からの主流であり,肝転移に対するアプローチは後塵を拝していたように思う.切除可能な症例が決して多くはなかっただけでなく,転移機構の研究手法も限られたものであったのが,肝転移の研究に勢いがなかった主たる理由であろう.

 ところが,最近の分子生物学的研究の発展のおかげで,にわかに肝転移機構の研究は花形の1つになった.反対にリンパ節転移のほうはどうなっているのと叫びたいほどの違い方である.本書は磨伊正義教授を中心に,清木元治教授,高橋豊助教授が協力者となり,ほとんどが金沢大学の関係者で執筆された,肝転移に関する好著である.著者も序文に記しているように,肝転移に焦点を絞った成書は日本では類をみない.誠に時宜に合った名著と言うべきであろう.

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 本書はこれから医療を始める研修医,第一線の医療に携わっておられる大病院の医師から開業医の先生方を始め,大学病院で先端医療と同時に医学教育に携わっているわれわれも含めて,つまり医師として医療に従事しているすべての方々に読むことをお薦めしたい貴重な書である.著者の古川俊治氏は1987年に慶應義塾大学医学部を卒業した後,文学部(1993年),法学部(1996年)も卒業し,司法試験に合格して弁護士資格を取得されている.現在,慶応大学の消化器外科で腹腔鏡手術やロボット手術などの先端的な医療に取り組むかたわら,弁護士としても活躍しておられる.2000年4月に開催された第100回日本外科学会総会において,北島政樹会長は慶応病院と川崎市立病院を結んでtele-surgeryによる遠隔地医療を実践してわれわれを感嘆させたが,古川氏はその法的問題について詳細に解説された.外科医にして弁護士であるという日本では希有で貴重な存在である.

 現在,連日のようにマスコミは医療ミスを報じている.そのようなミスを防止するために各病院ではヒヤリハットレポートなどを作成して,業務管理の上からリスクマネジメントに力を入れている.それと同時に,医事紛争を避けるためには日々進歩を続ける医療において,現時点の水準にかなった医療を提供することが重要で,これが本書のタイトルであるクオリティ・アシュアランスの概念である.アメリカではリスクマネジメントとクオリティ・アシュアランスは重視されていて,各州の医師資格更新のための講習会には10%含まれることになっているという.

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 この度,金沢大学がん研究所外科の高橋豊博士による表記の著書が医学書院より刊行された.ソフトカバーの全172頁より成る著書である.著者が本書の最後に述べているように,表題の「Tumor Dormancy Therapy」はそのまま訳せば休眠ないし冬眠療法となろうが,著者は“癌との共存”を目的とした治療法と解説を加えている.筆者もこの著者の考え方に賛成である.後でも述べるが,21世紀には癌治療の最終に到達できる状態を"癌との平和共存"にあるものと考えるからである.第1章の始めでtumor dormancyという言葉の解説がなされ,第2章は「癌の生物学」,第3章に「癌化学療法の現況」,第4章に「なぜ今,tumor dormancyか?」,第5章に「Tumor dormancyを得るための治療」,そして最後に「癌との共存を目指して」という記述がなされている。tumor dormancyとは著者が述べるように,“腫瘍が長期間増殖せずに休止・静止している状態を示す”ことであり,第4章には,この概念の由って来たるところは“化学療法による縮小効果と延命期間とは相関するか?”,“なぜ縮小効果と延命期間は相関しないのか”にあると現在の癌治療における大きな問題点を解説している.筆者のこれまで学んできたところでも,たとえ新しい癌治療薬が現われても,これまでは,腫瘍縮小は延命効果につながらないことが示されたことが多い.しかし最近における癌治療薬の研究開発は,癌患者の延命に寄与し,かつQOLを損わないことに主目標が置かれていることを考えると,QOLが損われずに腫瘍増殖が進行しない状態(tumor dormancy)がもたらされる治療法は,新しい治療薬の開発の最終目標とも,ある面では合致するものであろう.著者は第4章の中にこれまでの臨床経験の中から,tumor dormancy therapyによる延命とその効果判定としてのTTP(time to progression;再発・再増殖を起こすまでの時間)の解説に,5'-DFUR(フルッロン),CPT-11(イリノテカン)の臨床例を解説し,prolonged NC(no change),つまりNCは,腫瘍増殖が休んでいる(dormant)状態で,これが延びる状態は有効例に入れるべきであると考えている.言葉が前後するが,第2章には癌転移・浸潤,発育速度が読みやすく解説され,第3章の化学療法の現況の解説を踏まえ,これが第4章のtumor domancyを考える基盤となっていることがわかる.更に,最近研究が盛んになっている新しい癌治療薬の研究(分子標的を含めて),再燃の遅延化が得られる治療が解説されているから,tumor dormancy状態を導くための治療法の考え方がこの章の記述で明確になると思われる.冒頭に述べたごとく,21世紀のある時期にもたらされると考えられる多くの癌治療の最終状態は,“癌との平和共存状態”と考えられるから,本書が刊行されたことは,時代を先取りしたとも言えるものであり,癌治療における重要な問題が解説されていると思う.この意味で誠に時宜を得た著書と思われるが,難を言えば,tumor dormancy therapyはまだ一般化した専門用語ではない.また海外でもこの言葉を用いた解説書が少ない状態である.筆者はもう少し表記に工夫をこらしたほうが良かったかもしれないと考えている.しかし,これまでに述べてきたごとく,まだ類書の少ない大切な話題を取り上げているから,癌治療に関心のある研究者,医師,その他の方々の大切な情報源の1つとなろう.

編集後記 三木 一正
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 薬剤性腸炎の起因薬剤としては抗生物質によるものが最も多いが,近年の高齢化社会を反映し,世界で一番多く処方されている消炎剤であるNSAIDsの使用頻度がわが国でも増えている.また,大腸癌検診による便潜血検査や全大腸内視鏡検査の普及とともに,NSAIDsに起因した薬剤性腸炎の報告例が増加しつつある.本号では,NSAIDs起因性腸炎の臨床像を明らかにするとともに,抗生物質起因性腸炎やそのほかの薬剤性腸炎の臨床像について,鑑別診断を含めて再整理した.なお“薬剤起因性”の診断基準として,①発症時(あるいは発症直前)に起因薬剤の投与がなされていること,②糞便あるいは生検組織の培養検査が施行され,感染性腸炎が否定されていること,③起因薬剤の投与中止のみで,臨床症状および画像所見(X線・内視鏡所見)の改善を認めていることの3条件を満足すること(飯田)とした.

 NSAIDs起因性大腸病変は潰瘍型と腸炎型に大別され,発生機序も異なる可能性が示唆されている(松本ら,八尾ら,飯田)が,両者の病態・発生機序の解明が待たれる.消化管検査に携わる消化器専門医だけでなく,一般内科医や整形外科医なども本症の存在と臨床像を熟知しておく必要があり,本号が1人でも多くの読者の明日からの診療に役立つことを期待したい.

基本情報

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胃と腸
35巻9号 (2000年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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