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3人に1人が癌で死ぬ時代になった今,癌の克服は国民的課題である.多くの癌は早期に発見されれば手術によって治癒可能であるが,進行癌の約半数はいわゆる根治的手術を行っても再発は不可避であるという現実がある.再発に対する対策の1つは抗癌剤投与であるが,その効果は常に腫瘍縮小を基準にして判定されてきた.縮小なくして延命なし"が従来の抗癌剤治療の基本的テーゼであったのである.しかし,延命に結びつくほどの縮小がみられる抗癌剤は,特に消化器癌においてはむしろ少ないのが現実である,それならば,抗癌剤の将来には希望はないのだろうか?
本書の主題であるdormancy therapyはこの疑問に対する答えを見事に用意してくれている.prolonged NC,time to progression(TTP)など耳新しい言葉が出てくるが,これらはすべて"縮小なくして延命なし"に対するアンチテーゼであり,その概念がわかりやすい図表と実験結果によって解説されている.腫瘍が縮小しなくても(NC),延命効果が得られれば治療としての効果を評価すべきであるし,増殖までの時間(TTP)を延長することができれば,腫瘍縮小の有無にかかわらず治療効果を評価すべきであるという著者の主張は,誠に的を射たものであり,長年にわたり腫瘍学に携わってきた,優れた臨床家にして初めて言えることである.強力な抗癌剤を服用しても,しょせん完治が望めない以上,dormancy therapyで癌と共存し,QOLを保ちつつできるだけ長く生きるという,患者中心のこの新しい治療法はもっと広く検証されるべきであろう.抗癌剤だけではなく,血管新生阻害剤,アポトーシス誘導剤など,dormancy ther. apyに利用できる新しい手法が続々と登場してきたお蔭で,この新治療法は更に現実的なものになってきた.
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