胃と腸 34巻5号 (1999年4月)

今月の主題 大腸腫瘍内視鏡的切除後の局所再発―腺腫・m癌を中心に

序説

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 大腸内視鏡を用いた腫瘍摘除が大流行している.大腸のポリペクトミーが行われだした1970年代を知る者にとっては,この進歩にはただ驚くばかりである.隆起型の病変ばかりでなく,扁平な大きな病変までも摘除の対象とされるようになってきた.この傾向が生じた理由として,そのような病変が増加していること,しかも低侵襲処置を考慮しなければならない高齢者に多く発生することが指摘できるが,何と言っても機器の高性能化に伴う若い内視鏡医たちの飽くなきチャレンジ精神に負うところが大きいと思われる.チャレンジには技術が伴わなければならないのは当然のことであるが,現状は必ずしも理想どおりに事は運んでいない.慎重な適応決定と自らの技術に対する評価を十分に行うことなく,気軽に内視鏡的摘除が試みられる結果,医療の現場では様々な問題が生じつつあるようである.今回,本号と次号の2回にわたって大腸腫瘍の内視鏡的摘除に関わる問題が主題に取り上げられたのも,この辺の背景を考慮してのことである,と理解している.

 大腸ポリープに対するポリペクトミー(ポリープ摘除)の第1の目的は,正しい組織学的診断のための摘除生検で,大多数の場合,この処置で治療も完結してしまうのがポリペクトミーの最大の特徴であった.しかし,内視鏡の性能向上によって,pit patternなどの観察により腫瘍の性状がより詳しく判定できるようになった結果,内視鏡的観察でほとんど組織レベルまでの診断を下し,治療として内視鏡的摘除が行われることが多くなってきている.この傾向は特に顆粒集簇型腫瘍のごとき,大きくて扁平な病変に対して顕薯に現れている.当然のことながら,これらの病変に対してはpiecemeal polypectomyの手法が多用されるので,腫瘍遺残による局所再発の問題が生じてくる.腫瘍を完全に取り除くことを外科では“摘除”1)と呼び,腫瘍の一部を取り除く場合を“切除”と呼ぶ.すなわち摘除生検と切除生検とははっきり区別して用いられている.したがって内視鏡的摘除がきちんと行われれば局所再発は起こりえないはずであり,内視鏡的切除が行われれば腫瘍が残っているので局所再発が起こって少しもおかしくはない.実は,編集会議の際に摘除か切除かについて十分な議論を尽くしていなかったので,“内視鏡的切除”の用語が用いられているが,その真意は摘除であることに間違いはない.日常的には切除と摘除がしばしば混同して同義語として用いられることがあることも事実であるが,本稿では“切除”ではなく“摘除”を用いることにした.

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要旨 内視鏡的に切除された大腸腺腫2,720病変と粘膜内(m)癌264病変のうち,6か月以上経過が観察されていたものは腺腫1,387病変(経過観察率51.0%)とm癌193病変(経過観察率73.1%)の計1,580病変であった.このうち切除時の内視鏡所見から初回治療が肉眼的に不完全切除と判断される14病変を除いた1,566病変(腺腫1,382病変,m癌184病変)を対象として,内視鏡切除後の局所遺残再発について検討した.遺残再発は腺腫4病変(0.3%),m癌7病変(3.8%)の計11病変(0.7%)に認められた.遺残再発例の肉眼型は,Ⅰs2病変,Ⅱa3病変,結節集簇様病変6病変で,Ⅰp型と陥凹を伴う表面型腫瘍には遺残再発はみられなかった.遺残再発例は全大腸に分布していたが,遺残再発率は直腸と盲腸において高かった.また,大きさ別にみた遺残再発率は30mm以上と30mm未満の病変との間に有意差が認められた(25.0%vs0.3%;p<0.001).更に,初回治療が3分割以上と2分割以下の病変での遺残再発率にも有意差が認められた(20.8%vs0.4%;p<0.001).以上から,腺腫,m癌における内視鏡的切除の適応は,大きさ30mm程度までの病変で,それ以上の病変は相対的適応とすべきであり,3分割以上となった病変ではその後の注意深い経過観察が必要である.初回経過観察は,遺残再発確認までの期間からみて,治療後6か月から1年以内に行い,少なくとも3年間程度は毎年経過観察が必要と考えられた.

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要旨 内視鏡的切除(ER)後に経過観察しえた径10mm以上の大腸腫瘍232例314病変(腺腫176病変,m癌121病変,sm1癌17病変)を対象に,切除断端からみた遺残再発のリスク,再発の実態とその治療経過について検討した.局所再発は12病変にみられ,切除断端陰性の病変には再発はなく,全例,断端不明もしくは陽性であった.切除法でみると粘膜切除術において腫瘍径20mm以上で断端陰性例は減少したが,ポリペクトミーでは腫瘍径と切除断端には相関は認めなかった.再発病変における初回の肉眼型は結節集簇型6病変,Ⅱa3病変,Ⅰs(p)3病変であった,また一括切除例の局所再発は0.8%と低率で,再発病変の83.3%(10/12病変)が分割切除であった.再発病変の11病変は12か月以内に発見され,また11病変に対し追加治療(再ER3病変,焼灼5病変,外科手術3病変)を行い,全例完全治癒を得た.以上から,遺残再発のリスクは,①20mm以上の病変に対する粘膜切除術,②分割切除,③表面型あるいは結節集簇型腫瘍であり,これらの病変に対して厳重な経過観察が必要であると考えられた.

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要旨 内視鏡的に切除した20mm以上の無茎性大腸腺腫あるいはm癌で,6か月以上の間隔をおいて経過観察を行った34病変34例を対象として,切除の実際と経過を検討した.一括切除は14病変に施行され,切除腫瘍径は平均24.9mmであった。切除断端部のhot biopsyによる追加焼灼は14病変中3病変(21%)に用いられた.一方,分割切除は20病変に施行され,切除腫瘍径は平均36.1mmであった.hot biopsyによる追加焼灼は20病変中12病変(60%)に用いられた.局所再発例は2例でいずれも分割切除例であり,2チャンネル操作を併用していた.再発率は34病変全体では5.9%(2/34)であり,分割切除例20病変では10%(2/20)であった.再発例のうち,1例は追加焼灼で治癒し以後再発なく経過した.他の1例では内視鏡的切除の際に穿通が生じ10か月後に進行癌が再発した.大腸大型無茎性腫瘍に対する内視鏡的切除例では,切除断面の直後観察と短期間隔での追跡観察が再発の防止および対策,更に治癒への導入に重要である.

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要旨 内視鏡治療における根治度判定は経過観察で再燃の有無を検討するか,病理診断でなされるのが一般的であるが,分割切除となったEPMRでは,病理学的には断端陽性として扱われているのが現状である.われわれは内視鏡的に切除局所の評価が重要と考え,拡大内視鏡を用いて腫瘍の遺残判定にpit pattern診断を導入することの有用性について検討を行った.その結果,腫瘍径25mm以上で6か月経過観察された病変のうち,内視鏡的遺残(-)群(34病変)では,再発率は14.7%で,拡大内視鏡を用いたものは11.5%であるのに対し,通常観察は25%と再発率が高い傾向にあった.また病理学的に断端の判断が困難なEPMRを行った病変(52病変)において,内視鏡的に遺残が認められない群では7.7%に再発を認めたが,通常観察群での再発率14.3%に対し,拡大内視鏡観察群では6.3%と低値を示した.以上のことから,切除局所の評価としてpit pattern診断を導入することが有用であると結論する.

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要旨 EMR直後に内視鏡的には遺残なしと判定され,6か月以上経過観察された大腸粘膜内腫瘍性病変233病変(腺腫137病変,癌96病変)を対象として,組織学的所見と実体顕微鏡所見により摘除標本側面断端の腫瘍組織の有無別に局所再発率を比較し,更に大きさとの関係についても検討した.側面断端陰性(A-margin)では局所再発は認めず(0/180),側面断端陽性(P-margin)の9.4%(5/53)に局所再発を認めた.したがって,EMR直後,内視鏡的に遺残を認めなくても側面断端に組織学的,実体顕微鏡的に腫瘍組織の存在する病変は局所再発の可能性があり,慎重な経過観察が必要である.また,完全摘除の期待できる大きさは20mmまでであると考えられた.

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要旨 大腸腫瘍の内視鏡的治療後経過観察例2,287例を対象として,サーベイランスにより発見された腺腫と癌の特徴と局所再発例について検討し,以下の結果を得た.腺腫,癌とも初回治療時腫瘍の個数が多い群,70歳以上,大腸癌の既往を有する症例で発見率が高い.癌はサーベイランス例の91例(4.0%)98病変に発見された.その内訳は早期癌88病変(m癌72病変,sm癌16病変),進行癌10病変である.発見時期は初回治療後5年以内が90%を占めた.腺腫,m癌とも局所再発が各々13例,12例みられ,いずれの手技においても局所再発があった.特に,EMRの分割摘除例に9.0%と多かった.局所再発は平均約1年で発見され,内視鏡的治療で治癒可能なものが多かった.

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 1.粘膜切除の適応と実際の方法

 一般的な粘膜切除の適応は表面型腫瘍,側方発育型腫瘍,腺腫を含まない早期癌とされている.われわれは有茎性以外の比較的大きい腫瘍はすべて粘膜切除を選択している.

 粘膜切除にはインジゴカルミン加HSEを局注している.色素のため腫瘍の範囲が明確になり,範囲の誤診による残存を防ぐことが可能である.また側方断端の残存も内視鏡的に確認が容易となる.また,深部には局注した色素を確認でき,深部断端陰性の判断も可能となる.分割切除の場合はHSEでは潰瘍が縮むため残存腫瘍が十分に確認できないときがあり,分割切除になりそうな場合は色素加生理食塩水を局注に用いている.

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 消化管腫瘍の内視鏡治療例における根治度判定は,①切除局所における腫瘍遺残の有無の内視鏡的評価,②切除標本の肉眼的および実体顕微鏡的な側方断端評価,③病理組織学的な深部断端および側方断端の評価ならびに組織型,深達度,1y,v因子などの検索,④切除後の局所再発および転移に対する経過観察の4点を基本として行われていることが多いと考える.ここでは,切除された病変が大腸の腺腫・m癌(sm癌ではない)と限定した場合の根治度判定に関し,上記①から④についての私見を述べる.

 ①については,胃癌などと異なる大腸上皮性腫瘍の特徴の1つとして,腫瘍辺縁が内視鏡,特に色素内視鏡によって明瞭に識別できない症例は極めて少なく,また周囲にskip lesionを伴うことは通常ないという点が挙げられる.したがって,多くの症例においては,①のみで側方断端の判定が可能と考える.内視鏡的切除方法によって若干の相違はあるが,この際,最も重要なことは切除後に切除局所を十分洗浄することである.切除辺縁に残った粘液・血液や撒布色素,およびそれらの凝固物質をきれいに除去する.われわれは,50ccシリンジに充塡したガスコン水を直接鉗子チャンネルからフラッシュしている.そのうえで,色調や粘膜面の性状の違いから腫瘍の遺残の有無を観察する.スネアリングに伴ううっ血などのために発赤調を呈していたりして判定が困難であったり,EPMR(endoscopic piecemeal mucosal resection)やEMR症例においては,インジゴカルミンを撒布し,正常pitか腫瘍性pitかを観察し,遺残の有無を確認する.拡大内視鏡観察がより確実と思うが,この確認を目的とした場合は,ほとんどの症例で通常内視鏡+画像強調+色素撒布でpitの確認は可能と考えている.腫瘍遺残がみられた場合は追加内視鏡切除を原則とするが,遺残がごく少量であったり,遺残か否かまぎらわしい場合はhot biopsyするか凝固子で凝固する.正常粘膜部を含んだ範囲で十分な凝固が加えられれば側方断端は一応陰性と判断するが,後述する④における経過観察期間を短く持つ.

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 1.はじめに

 われわれの施設の大腸腺腫・m癌に対する内視鏡的摘除(endoscopic resection;ER)の根治度判定とその手順は,ポリペクトミーと内視鏡的粘膜摘除(endoscopic mucosal resection;EMR)で異なるため,まず,ERの方法と選択を簡単に説明したうえで,水平断端からみた根治度判定を治療法別に記述する.

 なお,stalk(茎)を含めて摘除されるⅠp型とm癌の脈管侵襲陽性例などの特殊例は省略する.

 また,ER直後の治療の完成度を決める内視鏡局所所見(完全摘除,不完全摘除,判定不能)と摘除組織の回収状況(完全回収,不完全回収,回収不能)を示す用語および摘除標本の取り扱いは,「大腸癌取扱い規約」1)に準じる.

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 大腸の内視鏡的粘膜切除術(EMR)の適応は,臨床的には術前の深達度診断と患者背景で決定される.本号では,腺腫とm癌における局所再発が主題であるので,深達度は除外し病変の大きさからみた根治度についてわれわれの考え方を述べる.

 EMRによる局所治療効果の判定基準として,臨床的には切除時ないしその直後の内視鏡および生検所見,切除標本における実体顕微鏡や組織学的な断端の評価,および生検を含めた経過観察が挙げられる.一括切除可能な小病変に関しては,前2者で根治度の評価は可能と考えている.大きな病変では分割切除となり切除標本の再構築が困難であるため,断端の評価が不可能となることが多い.したがって,われわれは分割切除となった症例に対しては,切除後1週間以内に大腸内視鏡検査を施行している.

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 内視鏡的切除を行い腺腫ないしm癌と最終診断された病変の治癒判定の問題は,現在は,特殊な場合を除外すれば,さほど重要ではないと筆者は考える.特殊な場合とは,大きな絨毛状腺腫(villous adenoma),ないしはその類似病変を分割切除した場合である.

 本稿の執筆を依頼された方々の多くは,主として,内視鏡的切除の技術的な面を強調されるであろうから,筆者は,その予測とは視点を変えて,特に若い読者層に過去のデータを提示し,そこから得られる教訓めいたものを強調しようと思う.

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 近年,大腸表面型腫瘍の報告,内視鏡的粘膜切除術(EMR)の普及とともに,大きな隆起型・表面型腫瘍の内視鏡切除へと適応が拡大し,積極的に内視鏡切除が行われるようになってきた.しかし,大きい病変になるとm癌までの病変とはいえ,少なからず遺残もあり,治療の根治性において慎重な取り扱いを要する.われわれは当施設で1990年7月から1998年9月までの間に,20mm以上で,内視鏡切除された大腸腫瘍のうち十分に検討可能であった腺腫42例・m癌38例に関して遺残再発を検討した.腫瘍径と遺残再発率に関しては,20~24mmで14.0%,25~29mmで23.8%,30mm以上で12.5%と明らかな相関性が得られなかった.処置の手技に関しては,一括でポリペクトミー・EMRされた病変の遺残再発率が8.8%であったのに対して,分割でポリペクトミー・EMRされた病変の遺残再発率が34.8%と有意に高かった(Fig.1a~e).また,切除標本の側方断端と遺残再発の検討では,側方断端が陰性であった病変の遺残再発率は2.4%であったのに対し,側方断端が不明または陽性であった病変の遺残再発率は30.8%と有意に高かった.すなわち,遺残再発の危険因子としては腫瘍径の大きさよりは,分割切除例・切除標本の側方断端陽性例が重要である.

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 内視鏡的切除後の根治度は,①切除局所の評価,および②切除標本の評価から判定されるのが一般的である.大腸腫瘍(今回は腺腫,m癌を対象としているので,以下,垂直断端は陰性で,深達度および異型度は組織学的に確定していることを前提として述べる)の内視鏡的切除の場合,実際の臨床の場では②よりもむしろ①のほうに重きを置くべきであると思われる.というのは,大腸腫瘍の主な発育進展様式であるadenoma-carcinoma sequenceにより,担癌腫瘍であっても辺縁は腺腫成分であることが多く,その場合,切除標本の水平断端が陽性でも標本上少なくとも癌腫成分の残存はないことが確認できることが多い.また,いわゆるburn effectにより残存した腺腫成分の脱落がかなり期待できるからである.しかし,burn effectの程度は様々で,水平断端陽性例,特に癌腫(成分)の陽性例は当然局所再発の可能性を考慮しなければならない.そういった意味で②に絶対性はなく,①としての“その後の経過観察”が非常に重要であると考えられる.当科では,内視鏡的切除治療後,1年前後以内にfollow-up内視鏡検査を施行することを原則としている.そして,切除標本上で癌腫存在の有無,癌腫(成分)の水平断端の有無を確認し,それに基づいて経過観察の期間を更に短く設定している.しかし,腺腫(成分)の水平断端の有無は,経過観察期間を短くする因子として扱っていない.また,近年,大腸腫瘍の内視鏡的切除治療の適応拡大に伴い,以前は内視鏡的には治療不可能であったいわゆる結節集簇様病変あるいは広基性腫瘍に属する比較的大きな腫瘍が積極的に内視鏡的に切除されるようになった.その反面,大きな腫瘍ほど分割切除になることが多く,治療後の局所再発が高率であることも指摘されている.分割切除の場合,切除標本の再構築が困難になることがあり,標本上の評価も難しいことがある.当科では,切除粘膜径が2.0cm前後以上の腫瘍は,担癌率が高いことも考慮し,一括切除,分割切除を問わず経過観察の期間を短く設定している.

 現在当科で行っている内視鏡的切除治療後の切除標本の評価,それに基づく経過観察,および根治度判定についてFig.1に示した,癌腫(成分)の水平断端陽性例は,follow-up内視鏡検査時に全例瘢痕部から生検することを原則としている.他は内視鏡的に明らかに局所再発がないと判断できれば,必ずしも生検は必要としない.

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 わが“忘れられない症例”は,何と言っても,わが生涯に経験した内視鏡による数々のいたましい偶発症症例である.なかでも,消化管の穿孔例やERCPによる膵壊死例は,もう内視鏡からすっかり離れてしまおうかと思ったほど,受けた打撃が大きかった.

 そんな事故の症例は,沖中内科時代,当時の硬性の気管支鏡・食道鏡の大家として有名であった慶應義塾大学の小野穣客員教授に,受講料さえ教室から出してもらって,一人で心細く思いながら,慶應に講習を受けに通ったとき,ボランティアの女子学生の急性cocaine中毒―もちろん局所麻酔―に遭遇したことから,この種の体験が始まった.上記の硬性鏡を購入してもらって,当時は結核の研究グループに所属していて,結核菌の培養をやらされていたが,教室で.一人で硬性内視鏡の検査を始めた.おっかなびっくりでやる検査だから,初めはろくに病変を観察する能力などなかった.それから,常岡健二先生に軟性胃鏡を教わり,胃カメラもやりだし,のちには東京医科歯科大学の稲葉英造先生に川島式の硬性胃鏡を習いに通った.両胃鏡を比較すると,改めて軟性胃鏡の持つ安全性を体得したが,Hirschowitzのファイバースコープ時代に入って,優れた国産ファイバースコープの完成に多少は努力するとともに,このスコープまた内視鏡による医原病と無縁ではないと知った.前投薬は別として,内視鏡先端に一定の硬性部があるかぎり,消化管の穿孔はごくまれながら起こりうるものである.食道穿孔の後の肋間筋を写した写真など,幸いに,その後お目にかからないが,食道穿孔即手術でなくてもよいことも教わった.それにしても,教授回診のたびに,皮下気腫の患者の膨れた顔を見ることは,誠につらく申し訳ないものである.

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患者〕66歳,男性.主訴:なし(便潜血陽性).既往歴:19歳時に虫垂切除術.65歳から気管支炎で伊藤医院(札幌市)にときどき通院,服薬中.家族歴:特記事項なし.現病歴:1997年10月,同医院での便潜血検査陽性のため,1997年11月7日当科初診.11月17日の大腸内視鏡検査で病変を認め,同年12月3日入院となった.入院時現症および検査には免疫学的便潜血検査陽性以外異常を認めなかった.

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 本誌33巻9号に掲載されました主題症例(1279-1285頁)の題名について,気になる点がありましたので私見を述べさせていただきます.

 Fig.2a,b,3a~c,4a,bはアフタ様大腸炎ではなく,リンパ濾胞増生症の像であると思われます.アフタ様病変は同論文の考察部でも触れられておりますが,紅暈を伴うびらん性変化であり,Fig.5a,bが合致する所見です.また,その他の理由として,リンパ濾胞の炎症がUCの病巣進展の初期病変の可能性がある(同号1202頁),またUCの発症・病因と,M細胞を含む大腸リンパ装置の間に何らかの関連があるものと推測される(同号1196頁)と言われております.したがいまして,題名は「リンパ濾胞増生症から典型像への進展を観察しえた全大腸炎型潰瘍性大腸炎の1例」とすべきと考えます.

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要旨 リンパ節転移を認めた表層拡大型食道粘膜癌の1例を報告する.患者は55歳の男性.検診の内視鏡検査で食道癌を発見された.食道X線では胸部中部食道に両側性狭窄と約5cmの範囲の淡い不整陰影斑を認めた.食道内視鏡では同部に全周性の発赤を認め,ヨード染色で発赤部全体が不染帯となった.生検診断は扁平上皮癌であり,表層拡大進展したm3の0-Ⅱc型食道癌と診断し,リンパ節郭清を伴う根治術を施行した.切除標本ではわずかなびらん性変化がみられるのみであった.病理組織学的には大きさ6.0×5.9cm,大部分はm1で,中心部がm2,deeper cutしたごく一部のみがm3の低分化型扁平上皮癌であった.郭清した右上縦隔リンパ節に転移を1個認めた.

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要旨 胃体下部後壁の胃潰瘍瘢痕として長期間経過観察されていた54歳の男性に,瘢痕の肛門側に隣接する0-Ⅱc型の早期癌を発見した.表面露出部は8×3mm大の小陥凹にとどまる印環細胞癌であったが,その周囲の粘膜深層,粘膜下層のリンパ管内を充実型の低分化腺癌が侵襲し,20×10mm大の拡がりを示していた.同部位はX線では胃小区間溝の目立たない淡いバリウム斑として,内視鏡では淡い槌色域を呈していた.また,第2群のリンパ節に転移がみられた.悪性サイクルの経過中に瘢痕の肛門側にのみ癌が残存し,その部の観察が不十分となり診断が遅れたものと考えられた.潰瘍の経過観察に際しては常に悪性の可能性を考慮した注意深い観察が必要であると考えられた.

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要旨 患者は49歳,女性.大腸癌検診にて便潜血陽性を指摘され,本院受診.大腸内視鏡検査にて,虫垂開口部およびその近傍に小びらんを伴う異常発赤を認めた.生検にて粘膜および粘膜下層に強いリンパ球浸潤がみられ,MALTリンパ腫の可能性が否定できなかったため経過観察とした.42日後の内視鏡検査および生検では著変なく,4か月後の内視鏡検査にて耳介様隆起を認めた。生検所見ではcentrocyte-like cellとlymphoepithelial lesionを認め,MALTリンパ腫と診断した.EUSでは第2,3層に限局した低エコー腫瘤を認めた.回盲部切除術を施行し,25×21mm大のⅡa+Ⅱc様の発赤した腫瘤を認めた.病理診断はlow grade MALT-type lymphoma,sm2,n0であった.免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子再構成にてmonoclonalityが証明され,B細胞性リンパ腫と診断した.

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要旨 患者は72歳,女性.血便のため当院を受診した.注腸X線検査では直腸に約2cm大の粘膜下腫瘍があり,表面に小顆粒状のバリウム斑を認め,内視鏡検査では黄白色調の半球状の隆起性病変で頂上に斑状のびらんとわずかの出血を認めた.超音波内視鏡検査では内部エコーは充実性均一で,斑状の散在する点状高エコーを認めた.経肛門的腫瘍切除を行った切除標本の組織学的検索では,病巣は粘膜下層に主座があり,腫瘍内にはリンパ濾胞の残存が認められた.その濾胞間には小型から中型のcentrocyte-like cellの増殖が認められた.細胞増殖能は低く,低悪性度直腸MALTリンパ腫と診断された.直腸で粘膜下腫瘍をみた場合はMALTリンパ腫を念頭に置いた検索が必要であり,鑑別診断には超音波内視鏡が有用であると考えられた.

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要旨 患者は29歳,男性.腹痛と下血の精査のため当院を紹介受診した.小腸X線検査で回腸にKerckring皺襞様ひだを有するペニス様腫瘤像を認め,体外式超音波検査では比較的均一な高エコー像を内部に有する有茎性の腫瘤性病変として描出された.術中内視鏡検査では腫瘤の頭部の表面は軽度発赤した過形成性粘膜から成っており,茎部は正常の小腸粘膜に覆われていた.摘出された病変の大きさは7×3cmで,回盲弁から70cm口側の腸管膜対側に存在した.病理組織学的に同腫瘤は腸管壁で構成され,それが漿膜側脂肪組織とともに腸管内腔へ内翻した真性憩室の形態をとっていた.以上から内翻Meckel憩室を先進部とする腸重積症と診断した.

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欧文目次

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 大腸検査にはX線検査と内視鏡検査があるが,老健法では大腸癌検診の精密検査として第1に内視鏡検査を挙げ,X線検査は内視鏡検査を補完するものと位置付けている.また,今後大腸癌の罹患率の増加により大腸癌検診が普及するとともに大腸検査が増加することが予想され,内視鏡検査だけで処理することができなくなり,X線検査をを積極的に導入する必要が生ずると考えられる.内視鏡検査優先の位置付けの当否はともかく,X線検査の精度を内視鏡検査に匹敵するようにしなくてはならないことは言うまでもない.しかし,現在大腸X線検査について,検査の現場で役に立つテキストがほとんどないのが実状である.このようなときに待望の書が出版された.

 本書からは,鹿児島大学第2内科の消化管X線診断グループを主宰された故政信太郎先生のX線検査に対する情熱と伝統が浮かんでくる.本書は同門である西俣寛人・西俣嘉人先生による編集,伊原孝志・江平俊雄・土器屋貴技師による執筆である.X線検査において,医師とX線技師がすばらしい協調の上でより良い検査を行おうとする努力が本書からほとばしるのが感じられる.また,本書の中で指摘されているように,技師はX線所見をチェックし,診断は医師が行うのが原則である.しかし,X線所見を的確に捉えることは,技師ばかりでなく,若い医師にとっても重要であり,撮影技術を飛躍的に向上させることになる.現在,若い医師はX線装置・造影剤・フィルムなどについての知識が乏しいため,良いX線検査を行うにも,どこから手をつけて良いかわからないのが現状である.これらの点についてもわかりやすく述べられており,良いX線検査を行うためのエッセンスが凝集されている.

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 1959年の創刊以来,臨床医の絶大な支持を受けてきた「今日の治療指針」,その1999年版を手に取り,改めて情報量の多さに驚くとともに,up to dateの治療法を,第一線の専門家がやさしく解説していることに,心から嬉しく思った.

 私が勤務していた公立病院の図書室には,新年度には必ず,新しい「今日の治療指針」が書棚に並び,内科外来や外科の病棟にも,2~3年ごとに新しいこの年鑑がお目見えするのが普通だった(著者の寄贈によるものだったのだろう).全国の病院や診療所で,「今日の治療指針」ほどポピュラーに置いてある本はほかにないと思われる.

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 地域病院で一般内科の診療と教育に明け暮れている筆者にとっては,実地臨床にぴたりと役立つ本や雑誌を繙く時間は至福と言える.ところが,この種の“よい本”には最近でもなかなかお日にかかれない.医学書や雑誌の出版量自体は年々増えているように見えるのに,である.診断(特に画像診断)に関する“よい本”はまだしも存在する.しかし,治療に関する“よい本”となるととんと少なくなるのだ.薬に関する“よい本”も例外ではない.例えば肺炎の抗生剤選択について,“感受性のあるものを適当量”とか“AまたはBまたはCまたはDまたは…”としか書かれてない本は,“よい本”とは言えまい.

 この本は“よい本”だ.“よい薬”についてのとても“よい本”だ.内科の“よい薬”を100種類に絞り込んだコンセプトのすばらしさは,この第2版でももちろん継承されている.4年半の間の“進歩”は汲まれてはいるが,いたずらに“新しい薬”に目移りしているわけではない.文字どおり自家薬籠中の“よい薬”ばかりが取り上げられているのは,秀でた臨床医ならではのセンスである.今回も編集に当たられた北原光夫・上野文昭両先生の見識と指導力の賜物でもあろう.

編集後記 飯田 三雄
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 大腸腫瘍に対する内視鏡的治療の普及とともに,治療後の局所再発や転移が問題となっている.そこで,本誌では2号にわたって内視鏡的治療後の再発・転移についての問題が取り上げられることになった.まず,本号は,大腸腺腫・m癌に対象を絞って,内視鏡的摘除後における局所再発の実態と対策について第一線で活躍中の経験豊富な専門家に執筆していただいた.

 その要点は,①局所再発のリスクは,径20~30mm以上の病変(特に結節集簇様病変),分割切除(特に3分割以上)で高くなる(小林ら,太田ら),②分割切除後の穿通・穿孔例は局所再発の要因となりうる(趙ら),③根治度判定は,摘除標本の実体顕微鏡観察と組織学的検索,摘除後の内視鏡・生検による経過観察によって行う(藤田ら,工藤ら),④比較的大きな病変や分割切除となった病変に対しては,治療直後に通常および拡大内視鏡を用いて切除局所を十分に観察する(工藤ら,寺井ら),⑤局所再発は治療後約1年程度で発見されるものが多く,大部分は内視鏡的治療で対処可能な病変である(五十嵐ら),などである.更に今回執筆された他の専門家の根治度判定についての見解もほぼ類似したものであった.

基本情報

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胃と腸
34巻5号 (1999年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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