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大腸内視鏡を用いた腫瘍摘除が大流行している.大腸のポリペクトミーが行われだした1970年代を知る者にとっては,この進歩にはただ驚くばかりである.隆起型の病変ばかりでなく,扁平な大きな病変までも摘除の対象とされるようになってきた.この傾向が生じた理由として,そのような病変が増加していること,しかも低侵襲処置を考慮しなければならない高齢者に多く発生することが指摘できるが,何と言っても機器の高性能化に伴う若い内視鏡医たちの飽くなきチャレンジ精神に負うところが大きいと思われる.チャレンジには技術が伴わなければならないのは当然のことであるが,現状は必ずしも理想どおりに事は運んでいない.慎重な適応決定と自らの技術に対する評価を十分に行うことなく,気軽に内視鏡的摘除が試みられる結果,医療の現場では様々な問題が生じつつあるようである.今回,本号と次号の2回にわたって大腸腫瘍の内視鏡的摘除に関わる問題が主題に取り上げられたのも,この辺の背景を考慮してのことである,と理解している.
大腸ポリープに対するポリペクトミー(ポリープ摘除)の第1の目的は,正しい組織学的診断のための摘除生検で,大多数の場合,この処置で治療も完結してしまうのがポリペクトミーの最大の特徴であった.しかし,内視鏡の性能向上によって,pit patternなどの観察により腫瘍の性状がより詳しく判定できるようになった結果,内視鏡的観察でほとんど組織レベルまでの診断を下し,治療として内視鏡的摘除が行われることが多くなってきている.この傾向は特に顆粒集簇型腫瘍のごとき,大きくて扁平な病変に対して顕薯に現れている.当然のことながら,これらの病変に対してはpiecemeal polypectomyの手法が多用されるので,腫瘍遺残による局所再発の問題が生じてくる.腫瘍を完全に取り除くことを外科では“摘除”1)と呼び,腫瘍の一部を取り除く場合を“切除”と呼ぶ.すなわち摘除生検と切除生検とははっきり区別して用いられている.したがって内視鏡的摘除がきちんと行われれば局所再発は起こりえないはずであり,内視鏡的切除が行われれば腫瘍が残っているので局所再発が起こって少しもおかしくはない.実は,編集会議の際に摘除か切除かについて十分な議論を尽くしていなかったので,“内視鏡的切除”の用語が用いられているが,その真意は摘除であることに間違いはない.日常的には切除と摘除がしばしば混同して同義語として用いられることがあることも事実であるが,本稿では“切除”ではなく“摘除”を用いることにした.
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