胃と腸 34巻12号 (1999年11月)

今月の主題 胃癌診断における生検の現状と問題点

序説

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 近年,わが国における内視鏡下冑生検は,胃生検そのものがルーチン検査となってあまねく行われるようになって久しい.この生検という行為の“ルーチン化”はともすれば視覚~思考過程の合理化・短絡化を招来せしめ,“胃癌診断=胃生検診断という誤謬”を生み出したのではなかろうか?かつて早期胃癌診断の黎明期に内視鏡直視下生検がいまだ困難な時代の先達たちは,X線あるいは内視鏡を通した肉眼視のみを手段とし今日の胃癌診断の基礎を築いた.この肉眼所見への傾注こそが,今日の胃癌診断の確立を導いたと言っても過言ではあるまい.すなわち,肉眼所見にいかに忠実な写真を撮り,どのように所見を拾い解釈するかに心血を注いできたのである.

 1960年代半ばから直視下胃生検が導入されたことにより,胃癌の早期診断は飛躍的に向上した.このことについての胃生検の果たしてきた功績は大である.しかし,一方においては生検に頼りすぎ,十分な所見の読み(=思考)の欠落した短絡的な生検が流布され蔓延してはいまいか? 確かに消化管の形態診断学は地道な努力の積み重ねや経験を要し,時代の流れと研究・診療環境の変遷とともに,特に若い先生方にとって取っつき難い学問のイメージを抱かせている面があり,手っ取り早い生検で決着をつければよいとする風潮があることは否めないであろう.

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要旨 胃内視鏡が施行され生検が行われた症例の内視鏡像を,G1:良性にしか見えない,G2:癌(悪性)を否定しえない,G3:癌か良性かはっきりしないがおそらく腫瘍(腺腫に相当),G4:癌(悪性)を積極的に疑う,G5:癌(悪性)にしか見えない,の5段階に分類し,生検組織像との対比を行い胃癌診断における生検の役割を検討した.対象症例737例中G1が413例,G2が256例,G3が18例,G4が21例,G5が29例であった.各群での癌検出率は,G1が0.2%,G2が1.6%,G3が11.1%,G4が66.7%,G5が100%であった.また,内視鏡像と組織像の一致率は95.8%であった.内視鏡で癌と判定(G4,5)されたが生検では良性であった症例は7例(全体の0.9%)で,逆に内視鏡で良性(G1,2)と判定されたが生検で癖であった症例は5例(全体の0.7%)であった.現状では内視鏡的に良悪性の鑑別がかなり可能であるが,良性と判定している症例にもかなりの数の生検が施行されている.そして,肉眼的に悪性の所見が乏しい癌や悪性様所見を呈する良性病変も少なからず存在するので,確定診断においては生検が重要な役割を果たしている.

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要旨 内視鏡診断および生検診断の現状を明らかにし,内視鏡による胃癌の診断過程における問題点を検討した.生検が施行された症例は内視鏡検査総数の32.8%であった.内視鏡診断の感度は84.66%,特異度は99.10%,陽性反応的中度は65.33%となり,内視鏡診断の偽陰性率は15.34%であった.GroupⅠ~Ⅲを胃癌に対する生検診断の陰性,GroupⅣ,Ⅴを陽性とすると,生検診断の感度は96.16%,特異度は99.98%,陽性反応的中度は99.72%となり,生検診断の偽陰性率は3.84%であった.内視鏡診断と生検診断が不一致となる大きな原因は,内視鏡診断の精度が低いためと考えられた.内視鏡診断偽陰性の原因として,内視鏡診断能の不足が58.9%を占めた.診断困難例においては,活動期潰瘍の合併,微小胃癌を含む小さな胃癌などが重要であった.内視鏡診断偽陽性の原因としては,活動期および再発性潰瘍が重要であった.生検偽陰性の原因は,病理診断に起因するもの,病変の特性に起因するもの,内視鏡診断に起因するものの3つに分けられ,それぞれ非常に分化度の高い胃癌,スキルス,そして微小癌を含めた小さな胃癌が重要であった.

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要旨 癌としての内視鏡所見に乏しい病変で生検により癌と正診された陥凹型胃癌155症例の特徴を占拠部位別,組織型別,内視鏡所見別に検討した.占拠部位別では前庭部に39%,胃体部に28%,胃角部に18%,分水嶺上に9%,噴門部に6%存在した.組織型では分化型癌が83%を占めていた.形態的には胃炎型36%,Ⅱc疑い35%,潰瘍29%で特徴的な内視鏡所見は得られなかった.今回検討した中から代表的と思われる症例を呈示した.

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要旨 国立がんセンター中央病院にて,1997年7月より1999年6月までの2年間に,胃病変からの生検はのべ10,703か所施行された.内視鏡診断では良性と診断された8,572病変のうち,生検にて癌と診断された病変は127病変(1.5%)で,検討期間中の全胃癌の11%,全早期胃癌の19%にも上っていた.更に,127病変中75病変(59%)が,胃炎性変化とのみ診断されていた病変であった.これらの病変は内視鏡的に,平担褪色型,平担発赤型,凹凸主体型の3つに大別された.平担褪色型は病変の境界が明瞭なものが多く,比較的年齢が若く,かつ女性に多く認められ,未分化型腺癌が多かった(85%).平担発赤型は,病変の境界が明瞭なもの(0.5%)に比べ,不明瞭なもので癌の頻度が高かった(2.8%).また,平担発赤型および凹凸主体型は平担褪色型に比べ平均年齢が高く,男性優位であった.占居部位は,平坦褪色型および平担発赤型がいずれの部位にも認められたのに対して,凹凸主体型は9割が胃角から前庭部に分布していた.更に,内視鏡フィルムの見直し診断にても“癌”としての認識が困難であったものは凹凸主体型,平川発赤型,平川褪色型の順で多く(66%,48%,30%),これらの病変のうち7割が,病変の辺縁で非癌腺管への置換型の発育を示す低異型度の癌であった.今後,褪色や発赤のみならず,わずかな胃粘膜の凹凸にも注意を払った内視鏡検査が求められ,更に非常に分化した低異型度癌の認識が必要になってくると考えられる.

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要旨 今日,胃生検診断の手技,診断能については全く問題なく,どのような所見を生検すべきかについても,少しでも異常と見えるとすぐ生検するようになったので検討する課題は少ない.むしろ,あまり予想しなかった部位から生検で癌と診断された後の診断過程に問題があると考えるので,症例を挙げ診断上の問題点について述べる.〔症例1〕は胃体上部前壁の発赤を帯びた粘膜から生検がなされ印環細胞癌と診断された.境界の追える局在病変を胃内視鏡・X線検査で認めずⅡb型早期胃癌と診断したが,手術直前にX線フィルムを見直したところ壁の伸展不良に気づき linitis plastica 型癌と診断した.〔症例2〕は胃体部前壁の急性胃粘膜病変と考えられる粘膜からの生検で癌と診断された.X線診断では1枚のフィルムで表層拡大型胃癌の全貌を表すことができた.〔症例3〕は胃体下部小彎に潰瘍を認め,周囲からの生検で癌と診断された.X線診断は噴門部まで拡がるⅡc+Ⅲ型早期胃癌であった.口側切除線の決定にX線診断は有用であった.このように胃X線診断は内視鏡・生検診断後にも全体像を表すといった点で,依然として大きな意義を持っている.

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要旨 胃扁平隆起性病変281病変に内視鏡的粘膜切除(EMR)を施行した.EMR前に生検でGroupⅢと診断された病変(G-Ⅲ群)は164病変,GroupⅣあるいはⅤと診断されていた病変(G-Ⅳ・Ⅴ群)は117病変であった.これらの群におけるEMR前後の病理組織診断および大きさ,部位からの対比を行った.G-Ⅲ群ではEMR後,腺腫139病変(84.8%),癌25病変(152%)であり,G-Ⅳ・Ⅴ群では,癌100病変(85.5%),腺腫17病変(14.5%)であった.特に大きさ5~20mmの病変ではG-Ⅲ群,G-Ⅳ・Ⅴ群にそれぞれ16.4%,17.O%に生検診断とEMR後診断の変更がみられたが,癌であった125病変はすべて高分化型のm癌であった.したがって,扁平隆起性病変の臨床的対応としては,生検でG-ⅢおよびG-Ⅳ・Ⅴであれば,診断および治療を兼ね備えたEMRが有用であると考えられた.

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要旨 胃生検組織診断は,多くの場合決定的な最終診断となる.その結果,逆に本来の内視鏡検査の意義が軽視されている感じを受ける.最近5年間に当院でGroup Ⅴと診断された717例のうち,陥凹型病変について,その臨床的対応の問題点について述べた.その要点は次の4点である.①717例中1例は“ひとかき癌”(=生検で癌が消失した病変)の可能性があるが,厳重に経過観察中である.②717例中6例(0.8%)は組織型診断に問題があった.特に,悪性リンパ腫が低分化腺癌と診断されたものが2例あった.③癌の悪性度診断も行われつつある.④日本の一般病理医間に診断能力の差がある.最も重要なことは,臨床と病理の良好な関係を築くことである.

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要旨 患者は55歳,男性.検診で異常を指摘され,当科を紹介受診し,内視鏡検査で胃体上部後壁大彎に,粘膜下腫瘍に類似した立ち上がりを示す隆起性病変を認めた.表面に凹凸があり,周囲にひだ集中を認め,浸潤した胃癌を強く疑った.しかし,癌の露出する範囲は認識できず,生検診断は Group Ⅳ で,癌の確定診断は困難であった.胃全摘術を施行し,病理組織学的には,胃底腺領域に発生した22mm大の高分化型低異型度管状腺癌で,粘膜構造を保ったまま,粘膜下層を主座に発育し,漿膜下層まで浸潤していた.癌は細胞異型度が低く,Paneth細胞を有し,CD10陽性の刷子縁とMUC2陽性杯細胞を認め,完全腸型の癌であった.

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要旨 患者は63歳,女性.胃集団検診で胃角変形(小彎辺縁硬化不整)を指摘され,当センターを受診.初回内視鏡検査で胃体下部小彎の潰瘍瘢痕と診断されたが,その前壁寄り辺縁の生検で Group Ⅳ が検出された.しかしその後の検査では癌の確定診断が得られなかったため経過観察となった.2年後の内視鏡検査でも悪性所見に乏しかったが,瘢痕部からの生検で癌と確定診断されたため,胃亜全摘術を施行.病変は大きさ25×14mmの Ⅱb+Ⅱc 型早期癌,深達度m,tub2であった.臨床像が悪性所見に乏しく,生検で初めて確定診断が得られた症例を経験したので報告した.

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要旨 患者は55歳,男性.1991年の近医での上部消化管内視鏡検査にて幽門前庭部後壁に潰瘍性病変を指摘され,以後内服治療を受けるが改善せず難治性であった.同院にて約6年間で数回の上部消化管内視鏡検査を受けたが,生検で悪性所見がみられず経過観察となっていた.1997年7月心窩部痛が出現したため精査・加療目的にて当科に紹介入院となった.上部消化管X線検査で,幽門前庭部後壁に立ち上がり明瞭な透亮像を認め,中心には巨大なニッシェを伴い,その辺縁の一部に不整な浅い陥凹が描出された.上部消化管内視鏡検査では,深い潰瘍を伴う粘膜下腫瘍様病変として観察されたが,潰瘍辺縁の一部には不整な陥凹を認めた.超音波内視鏡検査では不均一なやや高エコーの腫瘤が第4層まで塊状に浸潤していた.以上の画像所見から,粘膜下腫瘍様発育を呈した進行胃癌を疑い繰り返し生検を施行したが,癌の確診が得られなかった.主病変対側にはⅡc+Ⅱa型早期胃癌を合併しており,遠位側胃切除術を行った.切除標本では,主病変は3.7×3.5×3.3cmで,著明な粘液結節から成る腺癌が粘膜下腫瘍様に発育し,深達度se,INFβ,ly0,v0の膠様腺癌と診断した.主病変対側のⅡc+Ⅱa型病変は深達度sm1の高分化型管状腺癌であり,両病変の間には病理組織学的に連続性は確認されず多発胃癌と診断した.膠様腺癌を念頭に置いた詳細な臨床・病理学的評価を進めることが必要である.

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〔患 者〕 49歳,男性.検診で便潜血陽性を指摘され来院.上部直腸に病変が認められたため精査加療目的で人院となった.

Coffee Break

内視鏡奮戦記(5) 武藤 徹一郎
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 5.ポリペクトミー事始め

 Deyhle型スネアを購入したことは先回で述べた.このスネアを用いて誰がポリペクトミーを最初にやるのかは,皆の注目する所であったが,筆者にはイギリスでのライセンスがないので,残念ながら Dr.Christopher Williams が行うことに決まっていた.1972年と言えばもう1年の経験を積んでいて,両者の実力は伯仲していたので,どちらがやってもおかしくなかったのである.

 症例はこれまた Mr.Allan Parks の患者で,中年男性の小さなS状結腸ポリープ摘除をすることになった.初めてのことなので大事をとって患者は直前に入院し,施行日も決められ手術室も予約された直前に, Dr.Williams 自身が腰痛で入院する羽目になってしまった.今更予定も変更できないので, Mr.Parks の監督と責任の下でということで筆者がポリペクトミーを行うことになった.数mmの小ポリープで,今なら簡単に済ますことができたであろうに,随分と時間をかけて汗をかきながら慎重に摘除したのを思い出す.とにかく第1例目は成功,これでまた新しい分野が開け,必要検査数が上昇することになった.ちなみに,これがイギリスでのポリペクトミー第1例であったと思う.慣れるにつれて大きなポリープにも挑戦し,3cmのポリープも摘除できるようになった.1973年にはこれらの経験を British Medical Journal に報告している.

道と芸術 長廻 紘
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 内視鏡検査と写真撮影は切り離すことができないものと考えられているが,そんなことはありません.撮るに値するものがなければ,一枚の写真も撮らないで検査を終えても一向に構わない,むしろそのほうがよいのです.

 今では意識されなくなっていると思いますが,わが国の内視鏡医には2つの集団,胃カメラの流れをくむ人々と胃鏡の流れをくむ人々がありました.この2つで写真に対する考え方に微妙な差があるように思えます.前者が圧倒的に多かったが,歴史的には19世紀にまで遡る後者がはるかに古いと言えます.胃カメラは胃粘膜を直視できない状態でシャッターを切り,現像したフィルムを見て診断するので,広角レンズで胃内をくまなく撮影することが前提になります(ある臓器を検査する,ということはくまなく検査するということです.colonoscopy はそういう意味では必ずしも大腸を検査しているとは言い難い).そのうえ,必ずしもよい条件で撮られているとは限らないフィルム(全体の一部しか写っていない,隅のほうにわずかに写っている,粘液をかぶっている)を読むことは大変な作業だったと思いますが,胃カメラを診断器機にまで高められた崎田隆夫先生によると,結構楽しかったようです.苦しい中で早期胃癌の1つも見つかればすべて忘れることができたそうです.しかし,生命に直結する胃癌を主たる対象にしているので,読影と手術標本などによるその修正といったフィードバックを繰り返しているうちに恐るべき解読力がつきました。これはX線診断についても言えることです.今の内視鏡医はわからないとすぐ生検をするから,こと読解力については先人に劣るとよく言われます.当り前のことです.それが進歩の両面です.昔は東海道を歩いたものだと息まいても,失笑を買うだけでしょう.

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患者〕59歳,男性,1998年11月に受診した集団検診の上部消化管造影で食道の病変を指摘された.更に内視鏡検査を施行され,生検の結果,扁平上皮癌と診断された.精査加療目的で本院を紹介され入院となった.

早期胃癌研究会

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 1999年6月の早期胃癌研究会は6月16日(水),東商ホールで行われた.司会は工藤進英(秋田赤十字病院胃腸センター)と馬場保昌(癌研究会附属病院内科)が担当した.mini lecture は「噴門部癌の診断」を西俣寛人(南風病院消化器科)が解説した.

1999年7月の例会から 中野 浩 , 樋渡 信夫
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 1999年7月の早期胃癌研究会は7月21口(水),東商ホールで行われた.司会は中野浩(藤田保健衛生大学内科)と樋渡信夫(東北大学第3内科)が担当した.mini lecture は「低緊張性十二指腸造影の手技とびまん性腸疾患の鑑別」を飯田三雄(川崎医科大学消化器内科Ⅱ)が解説した.

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要旨 患者は46歳,女性.SLE,慢性腎不全で外来通院治療中,シャント造設目的に入院.注腸X線検査で下行結腸に約20mm大の打ち抜き状の境界明瞭な陥凹病変を認め,大腸内視鏡検査による生検で adenocarcinoma と診断,下行結腸切除術を施行した.病理組織学的に扁平上皮化生を有するsm癌と判明した.大腸癌が良性潰瘍に類似した形態をとることはまれであり,扁平上皮化生を呈した点でも貴重と思われ報告する.

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要旨 患者は48歳,男性.主訴は排便時出血.大腸X線検査で,直腸の前~後壁に粘膜集中を伴う多発性地図状潰瘍を認めた,病変の形態と分布,梅毒定性反応(PRPカードテスト,TPHA)陽性,経過中に出現した小紅斑状皮疹などより梅毒性直腸炎を疑ったが,直腸生検材料での Treponema Pallidum の証明はなされなかった.しかしながら,sexually transmitted disease(STD)の可能性を念頭に置きHIV検査を施行したところ,EIA法,WB法とも陽性が確認された.診断と治療を兼ねた駆梅療法にて,潰瘍病変の速やかな治癒を確認したことで,本症はHIV感染症患者に併発した梅毒性直腸炎と考えられた.

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要旨 患者は35歳,女性。1996年ごろから心窩部不快感を自覚しており,1998年6月当科を受診した.上部消化管内視鏡検査で胃体中部から下部の小彎に縦走発赤と微小な陥凹性変化が多発しており,微小陥凹からの生検組織でMALTリンパ腫と診断された.胃X線二重造影像でも内視鏡所見の陥凹部に一致して微小バリウム斑を確認できた.外科的切除材料の病理組織学的検索では胃体上部から下部の小彎で粘膜固有層の深層部から粘膜下層にかけて lymphoma cell の浸潤増殖を認めた.ごく一部では表層上皮近くまで lymphoma cell が浸潤し,粘膜表層にわずかな陥凹性変化を来していた.

追悼

田島強先生を哀悼する 多田 正大
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 今でこそ大腸鏡を回盲部へ挿入することは難しい手技ではないが,ファイバースコープ開発の黎明期にあって,開拓者としての気概をもって大腸内視鏡診断学の礎を築いた功労者の一人が田島強先生である.

 その田島先生が平成11年9月19日,先生にとっては第二の故郷となった東京都立駒込病院でお亡くなりになった.今年の2月に日本消化器内視鏡学会関東支部セミナー会長としての大役を果された折,お疲れのご様子で気になっていたが…….田島先生の訃報を知らされて,大腸内視鏡学の大切な柱を失ったという深い悲しみの念を抱いた人は少なくないであろう.

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要旨 好酸球性胃腸炎の1例を経験した.患者は38歳,男性.上腹部痛,嘔吐を主訴として1998年10月5日入院.末梢血白血球数,好酸球の著明な増加を認めた.腹部超音波検査および腹部CT検査で腹水貯溜と左上腹部の小腸の壁肥厚を認めた.腹水穿刺所見では好酸球の増多を認めた.小腸X線検査では十二指腸から空腸にかけて Kerckring 皺襞の著明な腫大を認めた.上部消化管内視鏡検査では十二指腸に Kerckring 皺襞の著明な腫大を認めた.十二指腸生検組織所見では粘膜の浮腫と間質に多数の好酸球浸潤を認めた.以上から好酸球性胃腸炎と診断しステロイドが投与され,2週間で臨床症状,腹部超音波所見,腹部CT所見,上部消化管内視鏡所見および病理組織学的所見は著明に改善した.

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「症例からみた読影と診断の基礎」〔Case 20〕(33: 230‐233, 1998)を見て,読んで,いくつか問題となる点があると思われたので検討した.

 まず,現病歴に関しては,“近医で胃X線検査を受け胃潰瘍と診断され,内視鏡検査のため当院へ紹介された”とあるが,近医の施設名を記載しなかったのはどうしたことか疑問になる.この貴重な症例の病変を発見した施設名を記載すべきであり,更に著者名に潰瘍病変を発見した施設の医師名を連名で載せるべきである.この症例に続く〔Case 21〕では,病変を発見した施設名を記載し,著者名に紹介医を連名で記載している.紹介医を報告者に連名にすることは紹介医に対する礼儀であり,病診連携を緊密にするうえからも重要である.できれば,近医の胃X線像を載せて,精査のX線像と比較検討してもらいたかった.近医のX線像で,胃潰瘍としか診断できないか,胃潰瘍の周辺粘膜に異常所見を認めることができるかが明らかになるであろう.更に,近医の胃潰瘍に対する診断能の向上に資することができたであろうと思われる.

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欧文目次

「胃と腸」質問箱 川口 実
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(質問)胃生検を行った患者が,翌日に少量の黒色便があったと訴えました.幸い何らの処置をするまでもなく,1日で通常便に戻りました.われわれの施設では過去に5万件を超える生検を行っていますが,このような例は初めてです.確かに生検後の縄発症として出血は発生しうるでしょうが,ごくまれに癸生する危険性のある偶発症に対して,どこまで予防的措置をすべきでしょうか.(京都ST)

書評「内視鏡外科用語集」 吉田 修
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 気腹して内視鏡で腹腔内を観察しようという試みは,1901年 Kelling がイヌの腹腔に空気を入れ,膀胱鏡を用いて腹腔内を観察したことにさかのぼる.しかし,この手法はヒトに用いられるには至らず,臨床的に応用されるまでにはかなりの年月を要した.内視鏡外科が今日のように発達するためには,内視鏡の改良とビデオシステムの応用,更にはトロカーをはじめ各種鉗子などの装備と器具の開発が必要であったからである.したがって腹腔鏡下手術がわが国に導入されたのは比較的近年のことであり,10年以上は経っていない.にもかかわらず内視鏡外科学の進歩は目覚ましく,腹部外科にとどまらず,産婦人科,胸部外科,泌尿器科,整形外科,形成外科などに拡がり,既にそれぞれの領域で minimally invasive surgery の1つとして定着したと言っても過言ではない.

 このような時代の流れの中で,日本内視鏡外科学会が設立されたのは必然であると言えるが,多くの専門分野を包含した新しい横断的領域ができると,用語の統一が優先的に必要になってくる.当初は 1aparoscopic surgery を腹腔鏡手術と呼び腹腔鏡下手術とは言わなかった.なぜなら腹腔鏡下手術は,読み方によっては下手術になるなどという他愛のない声も聞こえた.日本内視鏡外科学会では,新しい横断的領域には共通した言葉が必要であるとの認識のもとに各科領域から委員を選出し用語委員会を発足させ,「内視鏡外科用語集」の作成を開始したわけである.

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 10月27日(水),広島厚生年金会館大ホールで行われた第39回「胃と腸」大会の席上,第5回白壁賞と第24回村上記念「胃と腸」賞の受賞式が行われた.第5回白壁賞は幕内博康・他「m3・sm1食道癌に対するEMRの可能性」(胃と腸 33: 993‐1002,1998)に,第24村上記念「胃と腸」賞は勝又伴栄・他「潰瘍性大腸炎にみられる敷石様所見の臨床病理学的検討」(胃と腸 33: 1243‐1253,1998)に贈られた.

 司会の岡崎幸紀氏(周東総合病院内科)から,まず白壁賞受賞者の発表があり,幕内氏(東海大学外科)が紹介された.白壁賞は故・自壁彦夫氏の偉業を讃えて,消化管の形態診断学の進歩と普及に寄与した論文に贈られるもので,「胃と腸」に掲載された論文に加え,応募のあった論文も選考対象となる.今回は「胃と腸」33巻に掲載された全論文と,応募1篇・編集委員推薦1篇が選考対象となった.

編集後記 八尾 隆史
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 本号は,最近の胃癌診断において形態的診断がおろそかになっているのではないかという危惧から企画された.つまり,胃生検がルーチン化され,異常粘膜を発見すると即生検し病理診断に頼る臨床医が増えているのではないか,これまで諸先輩方が築き上げてきたすばらしい形態診断学がすたれてはいないかという危惧である.

 本号では,内視鏡像と組織像の対比の集計から内視鏡による肉眼的診断はかなり正確になされていることがわかったが,一方で良性と判断しながらもかなりの数が生検されているのが現状である.それは,内視鏡的に良性様所見を呈する癌が存在することをわれわれは知っているからである.そして,そのような癌(胃炎様所見の癌や微小癌など)の頻度や臨床病理学的特徴が解析され,典型的な症例が呈示された.また,生検偽陰性例は癌自体の形態的特徴の問題以外にも,癌組織が採取されにくい病変(スキルスや粘膜下腫瘍様癌)の存在や異型の低さ(超高分化腺癌)による病理診断の問題も指摘されている.生検で Group Ⅲ あるいは Group Ⅴ と診断された病変の臨床的取り扱いについても言及され,生検診断における臨床的・病理的問題点が浮き彫りにされた.

基本情報

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胃と腸
34巻12号 (1999年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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