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内視鏡検査と写真撮影は切り離すことができないものと考えられているが,そんなことはありません.撮るに値するものがなければ,一枚の写真も撮らないで検査を終えても一向に構わない,むしろそのほうがよいのです.
今では意識されなくなっていると思いますが,わが国の内視鏡医には2つの集団,胃カメラの流れをくむ人々と胃鏡の流れをくむ人々がありました.この2つで写真に対する考え方に微妙な差があるように思えます.前者が圧倒的に多かったが,歴史的には19世紀にまで遡る後者がはるかに古いと言えます.胃カメラは胃粘膜を直視できない状態でシャッターを切り,現像したフィルムを見て診断するので,広角レンズで胃内をくまなく撮影することが前提になります(ある臓器を検査する,ということはくまなく検査するということです.colonoscopyはそういう意味では必ずしも大腸を検査しているとは言い難い).そのうえ,必ずしもよい条件で撮られているとは限らないフィルム(全体の一部しか写っていない,隅のほうにわずかに写っている,粘液をかぶっている)を読むことは大変な作業だったと思いますが,胃カメラを診断器機にまで高められた崎田隆夫先生によると,結構楽しかったようです.苦しい中で早期胃癌の1つも見つかればすべて忘れることができたそうです.しかし,生命に直結する胃癌を主たる対象にしているので,読影と手術標本などによるその修正といったフィードバックを繰り返しているうちに恐るべき解読力がつきました。これはX線診断についても言えることです.今の内視鏡医はわからないとすぐ生検をするから,こと読解力については先人に劣るとよく言われます.当り前のことです.それが進歩の両面です.昔は東海道を歩いたものだと息まいても,失笑を買うだけでしょう.
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