胃と腸 34巻11号 (1999年10月)

今月の主題 胃MALTリンパ腫―Helicobacter pylori除菌後の経過

序説

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 本誌では胃MALTリンパ腫とHelicobacter Pylori(H.pylori)の関連を,第31巻8号(1996年)で「Helicobacter pyloriと胃リンパ腫」と題して取り上げた.しかし,当時は全国的にいずれの施設も自験例が少ないうえ除菌後の観察もごく短かく,両者の関連を問うには自ずから限界があった.それから3年が経ち,より長い経過観察例が蓄積されているものと考え,本号を企画した.

 H.pylori陽性のMALTリンパ腫の治療に除菌が有効かどうかは国際的にも依然として定まっていない.オランダのマーストリヒトで行なわれた1996年のEuropean Helicobacter pylori Study Groupのconsensus reportと1997年のアメリカのDigestive Health Initiative Internationa1 Update Conferenceでは除菌の有用性を支持しているが,1997年のAsian Pacific Consensus Conferenceではむしろ否定的である.一方,わが国では胃MALTリンパ腫に対するH. Pylori除菌を有効と見なす風潮がややもすれば強く,除菌が有用であったとする症例報告も増えている.しかし,日本消化器病学会のHelicobacter pylori治験検討委員会では除菌の有用性をみるための臨床試験の必要性を指摘している(1999年)段階である.

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要旨 H.pylori陽性の低悪性度MALTリンパ腫においてH.pylori除菌治療後に腫瘍が消失する完全寛解率は84.2%と高く,内視鏡像やIgH再構成の有無による差はなく,有効である.除菌成功後は病変の平坦化と褪色がみられ,寛解後は褪色した萎縮粘膜や瘢痕像のまま再発なく経過し,更に正常粘膜に回復するには数年を要する.除菌後4か月以降も少量の腫瘍細胞が残存する縮小例では組織学的寛解が遅く,更にIgHの再構成の改善は遷延するため次の治療に移る判断が難しいが,内視鏡像が改善すれば急ぐ必要はなく,2年後に消失した例もある.縮小例では,生検偽陰性となる可能性が高いため注意が必要である.なお,完全寛解16例では最長54か月まで再発せず予後は良好であるが,2例に早期胃癌を認めたので,重複癌にも注意が必要である.

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要旨 胃MALTリンパ腫37例中,Helicobacter pyloriは33例で陽性,4例で陰性と判定された.陽性例全例に除菌療法を施行し31例で除菌に成功,その転帰はCR 11例・PR 17例・NC 3例であった.胃MALTリンパ腫の肉眼所見を内視鏡所見6つ(潰瘍・びらん・cobblestone粘膜・褪色調粘膜・早期胃癌類似病変・粘膜下腫瘤様隆起)に分類した.CR例,PR例とも肉眼所見の多くは1~3か月で萎縮粘膜所見として改善し,その所見は以後長期にわたって持続した.特に胃底腺領域では斑状萎縮粘膜として残存した.その組織所見は,腫瘍細胞が減少・消失し固有胃腺は萎縮して粘膜固有層は空虚となっていた.cobblestone粘膜はPR例のみにみられ,粘膜下腫瘤様隆起はNC例に多くみられた.粘膜下腫瘤様隆起は除菌治療に反応しにくいものと考えられる.

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要旨 胃MALTリンパ腫に対してHelicobacter pylori(Hp)除菌療法が積極的に施行されている.本稿では,当科で経験した胃MALTリンパ腫の内視鏡像と病理組織像,治療後の変化について検討した.びらん性変化を種々の程度に伴う限局性,またはびまん性の発赤局面を呈する症例は,Hp除菌療法が奏効する症例が多く,リンパ腫細胞が消失した後の粘膜は,固有胃腺が消失し,粘膜内の線維化,浮腫による間質の増大を認め,内視鏡的には褪色粘膜面となった.一方,当初より褪色局面を呈する症例はHp陰性症例,他臓器に併存病変を有する症例などで認められた.これら症例間の臨床像や生物学的態度の違いについて更なる検討が望まれる.

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要旨 低悪性度胃MALTリンパ腫(以下L-MALT)におけるHelicobacter pylori除菌療法後の内視鏡的評価について検討した.L-MALTは発赤・びらん,粘膜腫脹・浮腫,Ⅱc様陥凹,潰瘍,敷石状粘膜,隆起,白斑などの多彩な所見を呈するが,その中で隆起所見は内視鏡的に除菌非奏効を予測しうる因子と考えられた.また,白斑以外の各所見はいずれも内視鏡的に評価しうる有用な所見であり,特に除菌後の萎縮様褪色所見の出現は,内視鏡的寛解を示唆する所見である可能性が高いものと考えられた.

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要旨 胃の表層拡大型低悪性度MALTリンパ腫25例と,除菌後新たに胃体部に発生した低・高悪性度混在型MALTリンパ腫1例を用いて,Hp除菌療法が奏功する例と奏功しない例の組織学的特徴,および除菌後のCR予測判定時期を検討した.低悪性度MALTリンパ腫でも腫瘍細胞が点状のクロマチンを有し,核周はやや不整で,核は大細胞型リンパ腫のそれに比べて小さいが大小を示し,Ki-67標識率が20%以上と高い例はHP除菌療法が無効であった.除菌後1~2か月の時点でCRの例はそのまま6~22か月にわたってCRが持続し,除菌後1~2か月の生検でPR例も6~8か月後にはCRになることが予測された.

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要旨 Helicobacter pylori(H.pylori)除菌後1年以上経過観察できた胃MALTリンパ腫22例を超音波内視鏡(EUS)像により表層型,肥厚型,腫瘤型,混合型に分類し,除菌後の経過を検討した.除菌後の完全寛解(CR)群は15例(68%),不変・増悪(NR)群が6例(27%)であった.1例(5%)は部分寛解(PR)群で経過,1年後にH.pylori再感染・腫瘍再燃を確認し,再除菌を行った.CR群は表層型12例,腫瘤型3例で,除菌後1~15か月,平均4.7か月でCRとなった.再燃例はなかったが,2例で8,12か月後に組織学的再燃が疑われ,別の1例で52か月後にH.pylori再感染を認めた.NR群は肥厚型3例,腫瘤型2例,混合型1例で,全例sm深部以深への浸潤を認めた.腫瘤型2例と混合型1例には経口アルキル化剤単剤療法が有効であった.CR群とNR群の除菌前の所見を比較すると,high-grade成分の有無や臨床病期に差はなく,H.pylori菌量とEUSによる病型(表層型か否か)で有意差を認めた.以上より,胃MALTリンパ腫に対する除菌の効果はEUSを含めた病型評価で予測可能であり,無効例に対しても経口化学療法などの胃温存治療の効果が期待できると結論した.

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 はじめに

 胃MALTリンパ腫に対するHelicobacter pylori(Hp)除菌治療は,第一選択の治療法として広く行われるようになった.本稿ではこれまで除菌治療を行った胃MALTリンパ腫の経過より,各要因からみた治療戦略について述べる.

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 Helicobacter pylori除菌療法後の問題点

 1993年,WotherspoonらがHelicobacter pylori(H.pylori)除菌療法による胃low-grade MALTリンパ腫での消退が得られたと報告したのに端を発し,多数の除菌療法の有用性が報告されている.現在,除菌療法が胃原発low-grade MALTリンパ腫に有力な治療手段として認識されるに至っており,侵襲も少なく,かつ短期間で済むことから,世界的に除菌療法が胃low-grade MALTリンパ腫に対する一次治療として普及しつつある.しかし,除菌不成功例の問題や除菌後のH.pylori再感染によるMALTリンパ腫の再燃の報告,除菌後の増悪,high-gradeへの転化例の報告もあり,除菌療法は現時点において,いまだ確立された標準的治療とは言い難い.特に,除菌後の経過観察の間隔,どの時点で二次治療に移るか,二次治療の内容などについては一定の見解を得ておらず,手探りの状態で行われているのが現状と考えられる.本稿では自験例も踏まえてわれわれの方針を示す.

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 はじめに

 低悪性度胃MALTリンパ腫(以下,L-MALTリンパ腫)は1983年,Isaacsonらにより提唱された概念である.その後,Helicobacter pylori(以下,H.pylori)との関連が明らかとなり,H.pyloriの感染により胃内にmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)が形成され,このMALTからL-MALTリンパ腫に進展するとの考えが報告された.更にWotherspoonらによりH.pyloriの除菌後にL-MALTリンパ腫が消退することが示され,以後,Bayerdörfferら,Roggeroら,齊藤らにより同様の追試が報告され,その有用性が証明された.

 今回,筆者らの本症に対する除菌療法の成績を検討し,特に除菌後の白色粘膜の出現およびIgH再構成の経過について報告する.

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 はじめに

 Helicobacter pylori(以下H.pylori)を除菌することにより,胃MALTリンパ腫(以下,胃MALT腫)が肉眼的,組織学的に改善したという1993年のWotherspoonらの報告以来,胃MALT腫に対する治療が大きく様変わりしつつある.しかしながら,除菌不成功例に対する対応,除菌成功例における腫瘍細胞の残存,再発,不変,増悪例の存在,H.pylori陰性例に対する治療方針,更に経過観察の間隔など,いまだにコンセンサスが得られていない点も多い.本稿ではそのような点について私見を述べる.

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要旨 患者は39歳の女性.検診で胃潰瘍性病変を指摘され近医受診,胃内視鏡検査・生検の結果malignant lymphomaを疑われ,精査加療日的で当院紹介受診した.胃内視鏡検査再検にて胃前庭部後壁に不整潰瘍性病変を認め,生検の結果MALT lymphoma,low-gradeと診断,Helicobacter pylori陽性であったため,十分なインフォームドコンセントの下,除菌療法を施行した.除菌成功にて潰瘍部は領域性を持った自色の軽度粗糙粘膜所見を呈するのみとなり,生検もリンパ腫陰性となった.以後,年1回の胃内視鏡検査にて経過観察を続けているが,除菌後4年でも内視鏡所見に著変なく,生検上もリンパ腫は認められていない.

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要旨 Helicobacter pylori(以下Hp)の初回除菌療法で一旦消失したlow-grade MALTリンパ腫が,その3年後にhigh-grade MALTリンパ腫として再発した1例である.本例は,初回除菌療法前には.一部にhigh-grade MALTリンパ腫を疑わせる肉眼所見を認めたものの,組織学的にはlow-grade MALTリンパ腫の所見のみが得られていた.再発時には以下の点が注目された.すなわち,①再発時の小びらん所見で,良性びらんとは異なるぎざぎざした不整形で,一部枝分かれした肉眼所見が認められた.②再除菌施行でHpが陰性化したが,その後に急速にリンパ腫の増悪が認められた.手術材料の病理診断は,所属リンパ節への転移を認めるhigh-grade MALTリンパ腫(B細胞性.一部でT・B両形質発現を示す.)であった.

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要旨 胃MALTリンパ腫の中には,Helicobacter pylori(以下H.p.)の除菌治療で緩解する症例と緩解しない症例が存在する.除菌治療前にそれを判別する方法,および除菌後の長期観察による形態変化についての報告は少ない.今回,除菌治療が著効した1例を呈示し,その判別方法および長期観察による形態変化に関して,文献的考察を加えて検討した.患者は72歳,男性.胃角から幽門前庭部に顆粒状の粘膜粗糙,多発性の不整形びらん,および発赤部と褪色部の混在した粘膜を認め,病理組織学的に,low-grade MALTリンパ腫と診断された.H.p.は陽性であったため,lansoprazole+clarithromycin+tinidazoleによる除菌治療を行ったところ,生検でMALTリンパ腫は消失した.除菌後3年以上経過しているが,MALTリンパ腫およびH.p.の再発はない.内視鏡所見では,発赤,びらんは消失し滑らかな萎縮性の褪色粘膜に変化した.

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要旨 患者は62歳,女性.上腹部痛の精査にて上部消化管内視鏡検査を施行.胃前庭部に発赤を伴う小びらん,胃角部大彎にareaの乱れを認め,病理組織学的検査にてMALTリンパ腫と診断.また同時に行った生検,rapid urease testによりHelicobacter pylori(H.pylori)陽性と判定した.MALTリンパ腫に対しH.Pylori除菌治療を施行したところ,治療後,リンパ腫は消失した.除菌治療3年後においてもリンパ腫の再発はなく,H. Pyloriも陰性であった.

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〔患者〕74歳,男性.1997年12月30日に下血がみられ,1998年1月7日に当センターを受診し,上・下部消化管内視鏡検査を行ったが,出血源は不明であった.2月6日の経口小腸X線検査にて異常を認め,精査加療目的のため入院となった.

Coffee Break

内視鏡奮戦記(4) 武藤 徹一郎
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4.内視鏡内輪話

 1971年から1972年にかけて大腸内視鏡はイギリスはもとよりヨーロッパに広まった.ブリストルで内視鏡学会が行われたときに,fiberscopyの原理を発明したというProf. Harold Hopkinsと一緒に飲む機会があった(Nature 173:39,1954).彼いわく,“私の論文が発表された後に,2人の人が訪ねて来た.1人は南アフリカのHirschowitz,もう1人はオリンパスの鈴木という人だ.”前者の話は納得できるが,後者のほうは最近確かめたところ実在の人物であることがわかった.そのうちにSt. Mark病院にはアメリカのACMI(American Cystoscope Makers Incorporation)からも内視鏡が1本寄贈された.ただし,先端の動きを制御する機構がオリンパス製とは全く異なっていて,棒状のハンドルを回転させたり前後に動かしたりする方式で,慣れるのに時間がかかったが,慣れてしまえば先端の動きを流動的かつダイナミックにコントロールでき,Dr. Christopher Williamsなどはアメリカ製を好んでいた.しかし,映像の悪さが決定的で,やはり総合的にはオリンパス製のほうがより多く使われていた.

 Morson&Pang(1967)のdysplasiaに関する有名な論文が出た直後のことで,dysplasiaへの興味が高まっていた時期であったこともあって,内視鏡はdysplasia発見に有用に違いないと提言したのだが,誰も反応を示さなかった.筆者の英語がまずかったのか,あるいはX線検査によほど自信があったのであろう.しかし,2~3年後にはDr,Williamsはsurveillance colonoscopyの有用性を報告していた.

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患者〕53歳,男性.主訴:腹痛.

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欧文目次

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 本書の編集者であるMorton A.Meyers教授とは旧知の間柄である.6月になって教授の献辞の入った本書を受け取り,時間の許す限りこれを読みながらこの種の本の内容の彼我の違いについてあれこれと考えていた.そして,正直な感想を添えて礼状をそろそろ書かなくてはと思っていた最中に,医学書院から書評執筆の依頼があった.

 書評というものは,あたり障りなく,無難な書き方をすればよいことくらいは十分に心得ているつもりだが,親交のある教授のためにも今回は少し辛口に書いてみることに決めた.

「胃と腸」質問箱 渕上 忠彦
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(質問) 早期胃癌におけるⅡa+Ⅱc型とはFig.1のように隆起部分にも癌が存在する型ではないでしょうか.もしそれが正しいなら「胃と腸」28巻3号(増刊号),30~31頁(1993)の〔Case 11〕(Fig.2)は型はⅡa+Ⅱc様でも癌が陥凹部分のみに存在するためⅡcではないでしょうか.また,Ⅱa+ⅡcとⅡc+Ⅱaの違いはどちらの成分がより優位かで決定されると考えてよろしいでしょうか.

編集後記 吉田 茂昭
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 1996年1月,本誌で初めて胃MALTリンパ腫を取り上げた際に小生が担当した編集後記では,“本疾患の発生にはHelicobacter pylori感染との関連が取り沙汰されており,除菌治療の有効性が最近議論を呼んでいる.このようなMALTリンパ腫をめぐる様々な問題を語るうえで,本号が共通の物差しを提供できたとすれば幸いである”と結ばせていただいた.また,昨年刊行された本誌増刊号「消化管悪性リンパ腫」(33巻3号)の編集後記ではMALTリンパ腫(lsaacson)の登場を黒船襲来に例え,“今後日清,日露,世界大戦といった,更に大きな戦いに直面することも十分想定される”と,生意気な感想も述べさせていただいた.本号の内容を見ると,この3年間の進歩はめざましく,外国産の疾患概念でありながら,少なくとも診断の面については除菌療法の効果判定を含め,日本海海戦の大勝利にも似て,わが国の水準の高さが大いに示されている.特に,除菌治療の有効性の判断指標として褪色像がみられること,治療の抵抗性が組織像よりも肉眼形態(隆起所見)にあることなどの知見は各主題論文に共通しており,おそらく間違いのない事実と思われるが,これらは世界的にも十分に評価に価するものである.

 本号を企画した際にもう1つ期待したこととして,長期経過からみて除菌治療をどう考えるかという課題があった.すなわち,除菌治療が有効であった場合,どれほどの期間が立てば治癒したと判断できるのか?知らぬうちに転移をしてしまうようなことはないのか?といった疑問への解答である.この点については,いまだ一定の見解が得られなかったが,完全寛解例では再発,再燃を引き起こすことが極めて少ないこと,経過観察上,他臓器のチェックが不可欠であることには論を待たないようである.大津論文にも紹介されているが,平成10年度の厚生省がん研究助成金によって「消化管悪性リンパ腫に対する非外科的治療の適応と有効性の評価に関する研究班」が組織され,大規模な多施設共同研究(prospective study)が開始されている.除菌治療の評価など,この研究班の報告を待ちたいところである.

基本情報

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胃と腸
34巻11号 (1999年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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