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編集後記
吉田 操
pp.982
発行日 1994年8月25日
Published Date 1994/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403105898
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食道癌の早期診断はヨード染色法の登場と共に大きな変化を遂げた.褐色に染まる正常粘膜の中に染まらず黄白色に残る部分は,粘膜の欠損か,異常な病態にある病巣である.粘膜病変を誰でも容易に,しかも再現性の高い診断を行うことができるようになった.この結果,食道癌の早期診断の目標は一挙に上皮内癌,粘膜癌になった.これに続いて食道粘膜癌の治療法にも革命的な変化が生じた.内視鏡的粘膜切除法の登場である.しかし,この分野の診断学は大きな進歩を遂げたにもかかわらず,まだまだ完成されていない.
課題の1つは,ヨード不染帯の鑑別法である.この点の研究はまだ成熟しておらず,臨床と病理の間の意思疎通を保ちつつ,知識を蓄積している時代である.また,一時点の観察だけでなく,不染帯の経過観察例の研究から,浅い食道癌の病態,時間の経過と共に生じる臨床的あるいは病理組織学的変化も判明しつつあると言ってよいだろう.これが,食道癌全体の病型分類を合理的なものに脱皮させる大きな力になるに違いない.粘膜癌の診断の基礎は着々と強固なものになってきた.しかし,今回のすばらしい主題原稿と主題症例を見るにつけ,診断学としての未熟さ,症例の少ないことからのデータの蓄積の小ささを思い知らされるのである.この問題は時間と努力が解決する事柄であるので,悲観する必要はない.努力あるのみである.われわれはこれまでの道を振り返り,困難の中に正しい方向を見出し,進んできたことを誇りに思ってよいだろう.
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