胃と腸 25巻6号 (1990年6月)

今月の主題 炎症性腸疾患の鑑別診断(2)―大腸病変を中心に

序説

大腸炎の鑑別診断について 長廻 紘
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 注腸二重造影法,コロノスコピーが実用化した60年代後半から70年代にかけては,大腸では腫瘍性病変が少なく,かつ形態的に単純(ポリープと2型癌)であったせいで,診断の主力は当時すでに多かった炎症性疾患に向けられた.

 コロノスコピーは大腸疾患の決して多いとは言えない日本で完成(少なくとも商業ベースでは)するという,ある意味では不幸な出生であった.大腸疾患診断の隘路のbreak throughをなすものとして必然性をもって生まれたのではなく,技術があるからできたという面が否定できない.腫瘍に関しては歴史の古い直腸鏡による仕事が既にたくさんあり,それらの業績を十分利用できた.大腸の炎症性疾患(以下大腸炎)については,腸結核,Crohn病のように直腸に異常のないものが少なくないこともあって,その診断については精力的に行われた.文献をひもとけば1970年代には大腸炎の診断に関する発表が多いことがよくわかる.

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要旨 自験255例の炎症性大腸疾患のX線,内視鏡,生検組織検査の初回診断能をみると,それぞれ78.4%,82.7%,54.9%であった.有所見群でみるとX線診断能は84.4%となり,肉眼所見のみからではX線,内視鏡診断能はほとんど同じであった.初回生検診断能は低かった.X線の鑑別診断能を向上させるために,初回X線診断で確定診断が不能であった55例の再検討(見直し診断)を行った.その結果,大多数(85%,47/55)は診断可能となった.見直し診断には,内視鏡や,臨床情報の十分与えられた生検診断の併用が最も有用であるが,病歴や臨床症状,細菌学的検査を含めた臨床検査所見の詳細な把握,臨床経過,X線による経時的診断や小腸病変合併の有無の検討などが重要と思われた.見直し診断後の真の意味の分類困難大腸炎(狭義)は1.2%(3/255)という成績であった.

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要旨 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,Crohn病)の診断は,臨床,X線・内視鏡所見,組織所見の特徴(積極診断)と,類縁疾患の除外(除外診断)により,総合的になされる.この過程で内視鏡検査は,潰瘍の形態,周辺粘膜の状態や軽度の炎症をも診断でき,病変の拡がりや分布も正確に把握できるので,重要な位置を占めている.潰瘍性大腸炎の典型例では,直腸から連続性,びまん性に粘膜の炎症を認め,Crohn病では区域性,非連続性に敷石像,縦走潰瘍と種々の形態の潰瘍を認める.これらの所見は,自然緩解,治療,経過などにより非典型的所見へと変化することがよくある.鑑別困難例に対しては,必ず糞便の細菌・寄生虫学的検索,小腸造影,内視鏡的に一見正常にみえる直腸,および主病変間からの生検を必ず施行する.確診のついた非典型例の再検討と,症例報告などの見聞により,これら疾患の内視鏡所見のバラエティーを理解することが重要である.

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要旨 炎症性腸疾患を病理学的に鑑別するには,まず病変が肉眼的に,①縦走潰瘍型,②輪状潰瘍型,③円・卵円形潰瘍型,④玉石状所見・炎症性ポリポーシス型,⑤浮腫・充血・出血・びらん型,および⑥腫瘍様多発隆起型,の6基本肉眼型のどれに帰属するかを判定しなければならない.各基本肉眼型はいくつかの病変を含んでいる.次いで,基本肉眼型である基本病変の肉眼的特徴とその周辺粘膜の肉眼的特徴とを組み合わせることで,各疾患は肉眼的に診断できる.これに組織所見を加えることで,炎症性腸疾患の病理学的鑑別診断はより確実なものとなる.

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要旨 患者は38歳女性.1975年7月より下腹部痛および泥状下痢が出現し本院受診.肝彎曲部から上行結腸にかけての区域性腸炎の診断で抗結核剤投与を行った.1987年6月より,下痢および発熱が出現し再度入院.脾彎曲部を中心とした縦走潰瘍を認めたことより,大腸Crohn病を疑い,栄養療法を施行したところ病状の改善をみた.1988年6月粘血便の再燃を認めたが,栄養療法の強化により改善した.しかし1989年8月にも再燃し,第3回目の入院.大腸鏡でS状結腸を中心に,膿性粘液の分泌による小白斑が付着する浮腫状の粘膜面を認め,改めて潰瘍性大腸炎と診断した.salicylazosulfapyridineおよびprednisoloneの投与を開始したところ緩解に導入され,以後再燃は認めていない.

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要旨 患者は27歳,男性.2年前に全大腸炎型潰瘍性大腸炎の診断で全結腸切除回腸直腸吻合術を施行されており,血便,下痢を主訴に再入院となった.吻合部より口側約50cmにわたって不整型の辺縁に発赤のある潰瘍の多発,非潰瘍部粘膜の発赤を認めた.生検ではびまん性の炎症で潰瘍性大腸炎の再燃と診断した.直腸は炎症の治癒像を示していた.切除標本では肉眼的には回腸は正常であったが,組織学的には炎症を認めていた.潰瘍性大腸炎は大腸を切除すれば再発しないと言われているが,backwash ileitisが少なくとも組織学的レベルでは決してまれでない.本症例のように小腸再燃をみる場合もあり,潰瘍性大腸炎は大腸に限局した炎症との考えは修正を迫られる.

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要旨 患者は24歳,男性.初期病変から典型的病変への病像の進展の様子,病変部の治療への反応を,発症当初より2年間にわたり,X線・内視鏡で月に1回ずつ経過観察した,Crohn病(全大腸炎および回腸炎型)の症例である.初期X線診断は潰瘍性大腸炎で,初期寛解期の内視鏡像は直腸より回腸末端部までびまん性のアフタ様潰瘍の散在であった.発症後10か月目の再燃時に,結腸で縦に配列する小潰瘍群より短い縦走潰瘍へと病像が進展し,典型的生検像も得られてCrohn病と診断された.病期や部位によって異なる多彩な病像および潰瘍性病変の展開(進展・後退)について切除標本像も含めて検討して得た知見を述べる.

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要旨 患者は22歳の男性で,主訴は粘血便と発熱である.初回発症時の注腸・内視鏡所見では,S状~横行結腸にかけて連続性・びまん性にhaustraは消失し,粘膜面は粗ぞうでびらんおよび小潰瘍が散在していた.直腸は肉眼的にほぼ正常であった,この時点で非定型的な潰瘍性大腸炎(萎縮性大腸炎型)と診断され,サラゾピリン,ステロイド投与が行われた.その後3回にわたり再燃を繰り返し,次第に内科的治療に反応しなくなったので初発より約3年後に手術が施行された.本症例は経過をみるうちに縦走潰瘍,腸管の非対称性変形や狭小化が顕著となり,手術標本肉眼・組織所見でも大腸Crohn病に合致する像を呈した.初発から全経過を通じて本例の直腸はほぼ正常のままであった.

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要旨 患者は72歳の男性で,主訴は水様便と発熱,ツ反は強陽性を呈した.初回入院時の注腸および内視鏡所見は,下行~上行結腸にかけての粘膜集中を伴う類円形・不整形潰瘍である.縦走潰瘍やcobblestone像は認めていない.潰瘍は幾分輪状傾向を呈し,この時点で大腸結核が疑われ抗結核剤投与が行われた.3か月後,病状・注腸所見は改善し治療に反応したと考えられた.その後の十分な抗結核療法にもかかわらず,再燃を2回繰り返し内科的治療に次第に反応しなくなったので,初発より約4年後に手術が施行された.本症例は,高齢,ツ反強陽性,抗結核剤に対する反応および初回の注腸・内視鏡所見などから大腸結核がまず考えられたが,経過をみるうちに縦走潰瘍,cobblestone像や腸管の狭小化が顕著となり,手術標本の肉眼・組織所見からも最終的には大腸Crohn病と考えられた.

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要旨 患者は31歳,主婦.下痢,発熱,体重減少を主訴として来院.口内アフタ,陰部潰瘍の既往があり,S状結腸から回腸終末部にかけてびまん性にアフタ様潰瘍だけから成る病変の多発を認めた.潰瘍からの生検では肉芽組織と壊死組織をみるだけで,特異的な所見を認めなかった.プレドニン投与後,症状は軽快し,腸病変はひだ集中などの所見を残すことなく消失した.回盲部に大きな潰瘍がなく,びまん性でかつ広範にアフタ様潰瘍だけから成る腸型Behçet病(疑わしい型)であり,まれな病態を示したので報告した.

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要旨 患者は27歳の男性.発熱,下痢,関節痛,皮疹を主訴に入院.左側結腸にdiscrete ulcerの多発,右側結腸にアフタ様潰瘍,回腸末端部の腸間膜付着側を中心に裂溝潰瘍を伴った縦走潰瘍を認め,Crohn病が疑われた.しかし,ステロイド投与により上記所見が4週で治癒したこと,これまで4回の再発・緩解を繰り返しているにもかかわらず腸管の変形が軽度であること,腸症状のない再発が認められること,組織学的に肉芽腫が認められないこと,がCrohn病としては非典型的であった.皮疹からの生検で細動脈に壊死性血管炎の所見を認めたことを糸口にして,臨床経過を総合し,本例を過敏性血管炎による腸病変の1例と診断した.

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〔患者〕49歳,女性.主訴:口内不快感.現病歴:1983年7月ごろより口の中が苦く感じるようになり,2か月の間に1.5kgの体重減少があった.近医を受診し,上部消化管X線検査で胃の隆起性病変を指摘され,当科を紹介された.経過中,顔面紅潮,水様下痢などカルチノイド症候群を示唆する症状は認めなかった.既往歴:11歳時,虫垂切除.36歳時,胆嚢切除.理学的所見:異常なし.入院時検査成績:血液一般,血液生化学異常なし.血中ガストリン,セクレチン正常範囲内.セクレチン負荷は正常反応.尿中,血中5HIAA正常.血中5HT正常.血中グルカゴン正常.血中ソマトスタチン正常.75gOGTT正常.腹部超音波,CT:異常なし.

早期胃癌研究会

1990年4月の例会から 西元寺 克禮
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 1990年4月の早期胃癌研究会は18日に,北里大学内科西元寺克禮の司会で行われた.第39回日本消化器内視鏡学会総会の前夜で,800名を越す参加者があり,盛会であった.

〔第1例〕44歳,男性.ポリペクトミー後急速に発育した食道granular cell tumor(症例提供:名古屋大学第1内科 岩瀬).

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要旨 長期経過した潰瘍性大腸炎のコロノスコピーによるfollow-up中に,癌,dysplasia以外の粘膜病変が少なからず発見された.これは大腸炎のない通常の大腸(without colitis)にはみられないものと,通常の大腸にもよくみられるものと2種類に分けることができた.前者は扁平上皮化生(1例)と広汎な拡がりをみせる過形成性扁平粘膜隆起(2例)であり,後者としては若年性ポリープ,通常型の過形成ポリープであった.10年以上経過した潰瘍性大腸炎41例にコロノスコピーを行い癌2例1)のほかに上記のような粘膜変化を認めた.これらはすべて全結腸型,または亜全結腸型の症例にみられた.

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要旨 患者は43歳,男性.10年来の腹痛の精査のため小腸X線透視を行ったところ,回腸に2か所の輪状狭窄と1か所の偏側性変形がみられた.狭窄の増強のため手術を行ったが,術中内視鏡所見では2か所の短い縦走潰瘍と1か所の不整粘膜像がみられた.摘出標本肉眼所見では,腸間膜に沿う卵円形潰瘍2か所,輪状潰瘍1か所がみられ,各々の口側

に縦走潰瘍がみられた.病理組織学的には,多数の非癒合性非乾酪化性肉芽腫,全層性炎,裂溝などの所見がみられたが結核菌や粘膜下層の線維化はみられなかった.術前に縦走潰瘍が描出できず,また輪状潰瘍がみられたことなどから結核とCrohn病との鑑別が難しかった症例である.

入門講座・6

小腸X線検査の実際 八尾 恒良
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 これまで5回にわたって主として小腸X線検査の方法について述べた.繰り返しになるが,これらの種々の方法に共通して,しかも最も大事なことは,できるだけ充盈した腸索を,分離して観察し描出することである.そして,その基本となるのは経口法で,術者は圧迫を加えながら腸索を分離し,観察している部位が小腸のどこなのか,経時的に腸管のほぼ全体を観察できたかどうかを考えながら,大まかに何枚かの写真の上にそれを表現しておく習慣が欲しい.

 胃や大腸の場合と異なって,小腸のX線検査では二重造影像を撮影しておけば誰かが読影してくれるという面は少ない.すなわち,二重造影法やHerlinger法は検査技術に左右されることが多く,経口法による検査に習熟した人が行って初めて診断に役立つ検査となることを認識して欲しい.その典型例として,Fig. 1に最近経験したいわゆる“非特異性多発性小腸潰瘍症”の1例を示した.Fig. 1は他院での以前のX線検査フィルムを借用したものであるが,経口法で異常が指摘されながら二重造影法で異常なしとされ,そのまま放置され診断されていない.この症例は最終的には当院で手術されたが,術後造影像と対比してみると,その特徴は経口法の不十分な写真上でも十分に読影可能である.この症例から学ぶべき点は,①ゾンデ法による二重造影法は,二重造影撮影のためだけに行うのではなく,空気注入前のバリウム注入時にも圧迫を加えつつ観察し必要に応じて写真を撮影しておかねばならない,②下手な二重造影はむしろ行わないほうがよい,③自信がない場合は専門家にconsultationすべきで,いい加減な妥協と診断はかえってその人の上達を阻害する,といったことであろう.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

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 胃X線ルーチン検査では,限られた時間内(時間的制約)に,限られた撮影枚数(経済的制約)で効率の良い,しかも診断能の高い検査を行う必要があるが,その主体を成すのが二重造影像である.本稿では,筆者のルーチン検査における幽門部から胃角部の二重造影像の撮り方について述べる.

1.バリウムの量と空気量

 バリウムは粗粒子(バリトゲンデラックス)と微粒子(ウムブラゾル-A)を1:1の割合で混合したものを濃度130w/v%で使用している.通常250mlのバリウムに少量の消泡剤を混ぜて用いる.まず,縦2分割で食道を撮影した後,バリウム量100~150mlの状態で胃角から前庭部を中心に圧迫撮影する.バリウムの十二指腸への流出に注意しながら,可能な限り広範囲にわたって圧迫する.これでバリウムの粘膜面への付着は良好となる.

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1.はじめに

 最初に幽門部から胃角部の二重造影を撮影するに当たり,留意すべき基本的事項について簡単に触れる.第一に,この部は空気量や呼吸停止のさせ方によりかなり可動性に富んでいるということ,第2に,椎体や十二指腸係蹄に流出したバリウムがこの部の二重造影の障害陰影になることである.したがって,空気量や呼吸停止のさせ方を調整して障害陰影との重なりを避け,明瞭な二重造影像を得るように努める必要がある.また,前壁撮影に関しては別項で述べられるので,ここでは主に後壁の撮影について述べる.

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はじめに

 現在,わが国で使用されている消化管のX線診断装置はほとんど遠隔操作型X線テレビ装置である.筆者が初心者として教えていただいたころ(約20年前)には暗室透視撮影装置があり,大変良い写真が撮れていたように記憶している.管球のオーバーヒートと密閉された部屋,無知と稚拙のゆえもあって汗びっしょりであったことが想い出される.一方,現在の遠隔TVはそう汗水たらさなくても,そこそこの写真が撮れる装置ではある.はっきり言ってその画質は満足のいくものではない.しかしながら,実際にはこの遠隔TVで胃のX線診断をしなければならないのが現状である.

 精密検査で納得のいく写真を撮りたいときは近接TVで行うべきである.また,ゾンデを用いて胃液を吸引除去したのちバリウムおよび空気量を調節したり,被険者の体位を自分で変えたり,ふとんなどの小物も上手に使うべきである.精密バリウムの撮り方にはそれぞれの好みや流派があり,またこのシリーズでも執筆される方がおられるので本稿では割愛し,遠隔TVでのルーチン検査法について述べる.

学会印象記

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 第76回日本消化器病学会総会が,平成2年3月29日から31日までの3日間,東京慈恵会医科大学第1内科亀田治男教授の会長のもとに,京王プラザホテルで開催された.今年は例年になく桜前線が早く,東京は桜花爛漫の時期であったが,あいにく学会期間中は花冷えの気候であった.

 今回の総会では,招待講演2題,特別講演3題,会長講演,シンポジウム3題,パネルディスカッション3題ワークショップ2題,今回初めての試みとして本学会学術奨励賞受賞講演が企画された.また一般演題860題(口演653題,ポスター207題)の多くを数え,各会場で熱心な討議がなされた.今回は会長の配慮で総会抄録集にも工夫がなされ,各演題のkey wordに基づく用語索引および人名索引が作成され,参会者に好評であった.

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欧文目次

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 素晴らしい本が出たものである.

 著者の丸山雅一博士が,「早期胃癌研究会」で,呈示されたX線写真に対して,これは良くない,こんな写真では読めやしない,と大声を出しているのを見た人も多いだろうし,なかには,折角「胃と腸」に採用された症例に対しても辛辣な批評を書かれてしまった被害者もいるかもしれない.彼自身も序文で言っているように,なにゆえにそれらのX線写真が良くないのか,その証を自分で示すために,文句を言うだけの理由を「絵」に語らせなければなるまい,といった気負いがこもっている.名著と言ってよい.

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 本書の著者,東義孝氏は昭和47年に九州大学医学部を卒業,九大放射線科を経て福岡大放射線科講師.松本廣嗣氏は昭和50年に熊本大学医学部を卒業し,現在沖縄県立中部病院外科医長であり,共に長年超音波診療に携ってこられた.本書はその豊富な臨床経験をもとに,トレーニングの意味からは極めて適切な症例を用いて作られたものと言えよう.

 著者は既に超音波診断に関する著書を世に出している.本書「序」にいみじくも語られているごとく,超音波診断のトレーニングは検査の現場で行われるのが最も効率よく,テキストによる指導には問題が少なくない.著者はこの点を十分知り尽したうえで,あえて初学者向けにこの本を工夫して作られたものである点が注目に値しよう.多くの類書が疾患別に分類して作られているのに対して,ここではQ&A形式をとりながら,どこにポイントをおいて読影するのかを教えているのもその点に配慮したものであろう.

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 本書は,川上武先生の御指導のもと,みさと健和病院と柳原病院の先生方が中心となって,“わが国の土壌にねざした外来診療の技術的整理”を行ったものである.

 本書を読んでみて強く感じることは,執筆者の先生方の問題意識にかなり共通性があり,外来診療に関わる種々の今日的な問題点がわかりやすく浮き彫りにされていることである.第1章外来診療のアプローチとシステム,第2章外来診療の進め方,第5章他疾患へのアプローチ(精神疾患,職業起因性・環境関連性疾患),第6章往診の実際,などに,患者の立場を尊重し,有効で効率的な外来診療を実践するための具体的な指針を示すとともに,診療所・病院のシステム,病診連携,更には医療・社会システムというマクロからのアプローチも不可欠なことが随所に適切に述べられている.純粋に医学的な問題について,しかも,“医療者の側の芝生”で診療を受ける入院患者と異なり,外来患者は“患者自身の芝生”で医療を受ける.したがって,外来医療には心理社会的な問題点,種々の医療行政に関わる問題点がとりわけ強く反映されるものである.本書には,そのような複雑な問題点につき,決して借り物でない,執筆者の先生方が直接日々の診療活動の中で捉えた視点から述べていることは特筆されるべきであろう.

編集後記 多田 正大
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 前号に続いて炎症性腸疾患の鑑別診断,本号は大腸疾患についての特集である.もっともこの疾患は大腸と小腸とで区別して考えることに問題がある.雑誌の編集の都合でこのようになった経緯があるが,前号の序説において白壁が形態診断の要点について触れた精神は本号でもそのまま当てはまるものである.序説で長廻が診断学の立場より大腸炎の鑑別のポイントについて鋭く力説しているが,大腸疾患として捉えるのではなく消化管全体の中での病変としての解釈をすべき,ということが炎症性腸疾患の鑑別診断の基本であろう.また渡辺は主に肉眼病理のうえからの臨床医顔負けの鑑別診断理論を展開しているが,迫力と説得力のある論文であり,読者にとって座右に置いておきたい鑑別の指標であろう.また瀬崎,樋渡論文もポイントを押えたX線・内視鏡による画像診断によって,鑑別診断は容易であることを強調しているが,それにしても主題症例にみられる病変は,わが国のスペシャリストの診断学にかかってもなお鑑別の困難な症例が少なくないことを表している.診断学の精神と実際の臨床の場でのdiscrepancyの表れであろうが,それだけにより適正な鑑別診断の尺度をみつける必要が強調される.なんとも画像診断学の奥の深さ,そして診断学の楽しさを感じさせられた貴重な症例であった.

基本情報

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胃と腸
25巻6号 (1990年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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