胃と腸 20巻6号 (1985年6月)

今月の主題 慢性胃炎をどう考えるか

主題

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要旨 慢性萎縮性胃炎は幽門腺領域と胃底腺領域別に生じる粘膜変化で,単なる生理的加齢現象ではない.胃底腺領域の萎縮性胃炎には中間帯が関与する通常の萎縮性胃炎と悪性貧血を典型とするいわゆるA型胃炎に大別されるが,胃小区像や腸上皮化性の分布などに種々の差がみられた.また萎縮性胃炎は局在性胃病変の背景胃粘膜としての意義を有し,Ⅱa-subtypeと過形成性ポリープ後者では,ポリープの存在部位(前庭部と胃体部)により,萎縮の程度,腸上皮化生の分布などに種々の相違がみられるが,胃体部に存在する過形成性ポリープの症例で高ガストリン血症を伴い,粘膜萎縮の主座が胃体部に存在すると思われる例を認めた.

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要旨 中村のf-lineより幽門側にみられる萎縮性胃炎を“幽門洞胃炎”(antral gastritis)と定義し,加齢による幽門洞胃炎の進行と胃潰瘍,胃癌の発生との関連を検討した.幽門洞胃炎は体部胃炎に比し,高頻度かつ短時間の間に進行し,体部胃炎の拡大を引き起こすことを明らかにした.また幽門洞胃炎は胃潰瘍の発生と胃癌,特にその組織型に密接な関連を有することを示した.

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要旨 慢性胃炎を,臨床診断学の立場から,胃粘膜の欠損と再生の病態像と考えた.この見地から,胃粘膜の萎縮性変化と表層性変化について,病態生理および内視鏡所見を検討した.特に,最近の研究から,胃粘膜の萎縮現界の進展,腸上皮化生,更に表層性変化の発赤についての成績を報告した.しかし,われわれの研究を含めて,慢性胃炎の内視鏡的診断学は,まだまだこれからの学問という感じがする.

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要旨 慢性胃炎に関する基本的な考え方に従って,体部腺の萎縮や変質の組織学的要素を抽出し体部腺領域における分布を検討した.その結果,体部腺領域にびまん性要素の分布を示すdiffuse changeと,限局性の分布を示すzonal changeが存在した.zonal changeは少数の例外を除いて最も一般的で,体部腺に汎発性の変化はなくF-lineが存在する.一方,diffuse changeにはF-lineが存在せず,悪性貧血例の胃炎や肥厚性胃炎例がこの群に含まれた.

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要旨 広範胃切除術を受けた44例(十二指腸潰瘍16例,胃潰瘍8例,胃癌20例)について,術前に胃酸分泌能,ガストリン分泌能を測定し,切除胃のガストリン細胞(G細胞)を酵素抗体法にて同定,G細胞総数,G細胞領域,慢性胃炎の程度を検索し,これらをまとめて検討した.ガストリン分泌能はG細胞総数と相関した.幽門腺萎縮,腸上皮化生は共にその程度が進行するにつれて,G細胞総数の減少をもたらし,同時にガストリン分泌能の低下をもたらすことが判明した.すなわち形態学的に認められる幽門腺領域の慢性胃炎の進行に伴い,同領域の機能としてのガストリン分泌能の低下の起こることが判明した.胃酸分泌能とガストリン分泌能との間には相関関係がなく,胃底腺領域と幽門腺領域の慢性胃炎の進行が無関係に起こることが示唆された.G細胞領域は幽門腺,偽幽門腺の分布と完全に一致する症例がなく,中村のF境界線とも一致しなかった.中村の通常型に当たる38例では,G細胞領域の面積は年齢,幽門腺萎縮,腸上皮化生の程度との間に相関関係を認めず,偽幽門腺の拡がりとも無関係であった.すなわち加齢に伴い偽幽門腺が噴門側に拡がっても,G細胞領域は拡がらないことが判明した.

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要旨 逆萎縮型胃炎(A型胃炎)と通常型萎縮性胃炎(B型胃炎)に多発した内分泌細胞微小胞巣(endocrine cell micronest: ECM)の組織形態,構成細胞,形態発生,自然史,およびカルチノイドとの相関について検討した結果,以下のことが明らかになった.①ECMの発生母地は非腸上皮化生腺(胃底腺,偽幽門腺,幽門腺)であった.②粘膜深層にみられたECMの発生には萎縮性変化,すなわち上記の腺の萎縮,消失が強く関与していた.幽門腺粘膜中間層にみられたECMの発生には,上記の発生様式のほかに内分泌細胞小集団が芽出,更に分離する様式が推測された.③逆萎縮型胃炎の胃底腺粘膜領域にみられたECMやカルチノイドは血中ガストリンのtrophic actionで過形成,腫瘍化したECL細胞であることが明らかになった.それらECMのあるものは,光顕的,肉眼的カルチノイドへの形態的移行を示した.④通常型萎縮性胃炎では,粘膜各部位にみられたECMの構成細胞は,それが発生した固有胃腺内の内分泌細胞の分布に近似していた.⑤腫瘍性ECM(微小カルチノイド)は,(a)最大径0.1mm以上の大きさのもの,(b)径0.1mm未満でも粘膜筋板や粘膜下層への浸潤を示すもの,(c)径0.1mm未満でも大型で異型のある核を持つ大型細胞から構成されているもの,のいずれかの特徴を有するECMと定義することが妥当であると考えられた.

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 竹本(司会) 諸先生に,慢性胃炎をどう定義するか,慢性胃炎という病態をどう考えるか,更にどのように臨床診断をしておられるかという点について,あらかじめ短文を御提出いただきました(「アンケート」参照).これを踏まえて座談会を進行したいと思います.

 御承知のように,慢性胃炎の診断学は,最近,方法論としてはかなり進歩してきたわけですが,慢性胃炎をどう考えるかという視点は,意外に旧態依然ではないかと思います.

今月の症例

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 慢性胃炎に対するこれまでのX線診断の立場は,消極的すぎたように思う.今日の生検の普及は,X線所見と組織所見との対比を容易にし,組織学的裏付けに基づいたX線像,特に各領域のアレア像の解析を可能にした.慢性胃炎の質,程度,拡がりに対するX線診断の有用性,役割をここで改めて強調したい.

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 蛋白漏出性胃腸症は,単一疾患ではなく90近くもの疾患を総合した症候群である.Waldmann1)はその成因を,①胃腸のリンパ管異常によるリンパ液の漏出,②胃腸の炎症,潰瘍面からの血清蛋白の漏出,③機序不明の3つに分類している.この胃腸の炎症,潰瘍面よりの蛋白の漏出を来すものの1つとして,びらん性胃炎が挙げられている.われわれは日常の内視鏡検査において,びらん性胃炎を数多くみているわけであるが,蛋白漏出性胃腸症の1つとして本症をみていることは少ない.

 近藤ら2)は蛋白漏出を来すびらん性胃炎およびMénétrier病において,粘膜の局所線溶が亢進していることを明らかにし,抗プラスミン療法が有効であると報告している.しかし,こういった薬物療法だけでは無効な症例があることも事実である.最近,われわれは3例の蛋白漏出を来すびらん性胃炎を経験したが,2例は抗プラスミン療法では無効であった.以前は,こういう症例はびらん性胃炎といえども手術しか治療法はなかった.

Coffee Break

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 胃潰瘍と十二指腸潰瘍が共存,あるいは併存する問題が,本誌13巻10号(1978年10月号)の主題となったとき,編集会議の席上で,主題の言いかたを統一しようということが話題となった.ただしそれは,それまで,“胃十二指腸潰瘍”,“胃及十二指腸潰瘍”,“胃・十二指腸潰瘍”など,様々な,紛らわしい用語が使われてきたことについての反省ということで,なぜか,“共存”か“併存”かということについて,立ち入った論義があったという記憶はない.そのあたりの事情は,座談会の冒頭の村上先生の発言にも表れていると思う.すなわち“胃・十二指腸潰瘍という言葉を区別しないで使うと,両方にあるものも,片方にあるものも,同じ言葉で呼ぶことになるので,このごろは“併存”という言葉を特に付けて,両方にあるものを表すようになっております.”という見解が,編集会議でもそのまま了解されたというなりゆきだったと思う.当時の編集委員の中には,既に“共存”という言葉を使っておられた先生もあったが,この問題について,特に発言があったかどうか,これも記憶には残っていない.要するに,何となく,自然に,“併存”潰瘍という表現に落ち着いたというなりゆきであったと思う.

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要旨 患者は31歳,男性.急性骨髄性白血病に罹患.制癌剤,ステロイドにより寛解状態になり,維持療法中に咽頭痛および心窩部不快感があり,内視鏡検査にて食道および胃に潰瘍を認めた.潰瘍部よりの生検組織にて食道では肉芽組織中の血管内皮細胞に,胃では腺細胞と血管内皮細胞に巨大封入体細胞が認められた.また,パラフィン切片での螢光抗体法により核内封入体ならびに細胞質内小体に一致してcytomegalovirus抗原を確認した.

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要旨 中心陥凹を伴った丈の低い隆起性病変が,約1か月と短期間に,浅い陥凹を主体とし,一部辺縁に丈の低い隆起に変化した.浅い陥凹の周辺では,粘膜ひだの集中と中断をみた,切除標本では,亜鈴型をした26×14mmの病変であった.陥凹部は円形で,大部分は非特異性の肉芽組織より成り,散見的に癌組織を認めた.陥凹部は口側寄りの一端で隆起性の癌巣へと連続していた.隆起部は高分化型腺癌で一部smへ浸潤していた.癌巣を取り囲むように,炎症性小円形細胞浸潤が目立つ.形態的な変化にこの細胞浸潤が何らかの関与があったと推測される.

Refresher Course・16

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患者:42歳,男性.主訴:無症状(検診).

〔初回胃X線所見(検診時)〕(背臥位二重造影・Fig.1)胃体部に2個,前庭部に1個のpolypold leslonが描出されている.胃体部大彎に軽いひきつれかみられる.

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読 影

質問 X線検査で小ポリープ像と気泡,腸内容物,便残渣との鑑別はどうしますか.

 丸山 造影剤をよく流して,同じ部位を2枚以上撮ることが必要です.実際に見間違うのは,大体5mm以下の便塊や気泡が多いですね.5mmより大きい便塊は,撮影体位によって移動することが多いし,気泡も消えるます.また,ポリープですと円形ないしは楕円形で,辺縁の線が非常にシャープです.ところが,便塊は辺縁の線がぼけていますし,また,角ばっているところがあったり,感じとしてわかります.しかし,小さなものではわからない場合もありますね.

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欧文目次

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 Colon cancer and dietary fat, phosphate, and calcium: A hypothesis: Newmark HL, Wargovich MJ, Bruce WR (JNCI 72: 1323-1325, 1984)

 疫学的研究では,結腸癌の頻度が食事性脂肪の過剰摂取と関連があることが示された.実験的には,食事性脂肪は結腸癌の発癌因子というより,むしろ促進因子として作用することがわかった.促進因子としての過剰な食事性脂肪は,発癌物質に曝された腸細胞からの腫瘍の発生を促進する.そのメカニズムはよくわかっていない.

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 基礎的な実験であれ,臨床的な研究であれ結果の評価に統計学の手法が必須の時代になってきている.動物を使っての研究,症例についての研究では多くの数を対象とすることは困難であり,データのバラツキも大きい.数字を見ているだけでは傾向としての判断は可能であろうが,理論的裏付けがなければ,研究の価値,評価は低くなってしまう.学生時代の教科書あるいは新刊の統計学の解説書を読んでも実際にどれを,どのように処理したら,目的とする評価が可能となるのか,理解するのに苦しむ人が多いのであろう.著者は医師であり,医学部公衆衛生学講座に長く所属し,医学研究の統計処理について造詣が深く,既に16年前に統計学入門を執筆され,医学者に多く利用されている(改訂第4版,1984,\2,200).本書はこの間の読者や関係者の注文を十分に取り入れ,より実用的な内容となっており,前書の応用篇と言えるものである.

 第1章:得られたデータを解析するにはいかなる統計学的方法を用いたらよいか,では6つの方法を挙げ,実例につき解説してある.第2章:計算方法,では実際の計算方法から,その評価の仕方について述べられている.1.平均値,2.百分率,3.相関関係と回帰直線,4.分散分析,5,Ridit分析を行う場合,6.Ridit分析,t検定,x2検定,Mann-Whitneyのn検定の比較,7.生存率の求め方と2つの生存曲線の差の検定,から成っている.それぞれ目的,方法,利用法,有意性の検定法,評価について実例を挙げ,解説されている.

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 癌治療進歩のためには,早期診断の精度をいかに高めるかということと,癌化学療法をいかに進歩させるかということが重要である.癌の手術療法,放射線療法は今日,技術的にはほぼ限界に達していると言えよう.したがって,従来の癌の診断法に勝る鋭敏な診断法によって,治癒手術・放射線療法が可能な癌が早期発見されるようになると,癌の治癒率は一層向上するはずである.それが,癌に対する定期検診に応用しうる有用な血液生化学的検査法,すなわち腫瘍マーカーに寄せる大きな期待である.このような背景のもとに,近年,癌の臨床において腫瘍マーカーの研究はますます盛んになってきた.あたかも各種の抗癌剤の開発に世界中が必死になっているように,新しい有用な腫瘍マーカーの開発は,これが癌の診断に広く採用されるようになり,癌の生物学的研究としてのみならず,実際の臨床に役立つことが次第に明らかとなるにつれて,その研究開発の状況は目を見はるばかりの競争の烈しさで,数多くの新しい優れた腫瘍マーカーが次々と登場してきた.そして腫瘍マーカーの成績はもはや必須不可欠の検査となってきた.

 ここにおいて漆崎一朗,服部信両氏の編集になる「腫瘍マーカー―生化学的・免疫学的研究と臨床応用」なる書が上梓されたことは誠に時宜にかなったものと言えよう.本書は編者らの述べているごとく,一面からみれば臨床家のための書であるが,他面では悪性腫瘍の生化学・免疫学の研究を志す者のための解説書とも言える.“腫瘍マーカーを理解するうえで,本書が臨床家ばかりでなく,広く医学,薬学,生物学の分野の研究者にとっても役立てば幸いである”とあるが,まさにそのとおりで,本邦でも外国に負けず,新しい腫瘍マーカー開発に取り組んでいる学者は多い.本書に盛られた長年蓄積されてきた腫瘍マーカー研究を糧として,世界的に通用する優れた腫瘍マーカーが本邦から開発されることを願うものである.

編集後記 望月 孝規
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 慢性胃炎の定義は別として,その際の胃粘膜の変化を検索した人々の一致した所見は,最終的に生じる固有胃腺の萎縮,更に腸上皮化生の出現である.実際に個々の胃においては,このような方向に進展する変化の存在部位,程度,拡がりおよび質的差異が明らかにされなければならない.今日では,局在性病変である胃癌や胃潰瘍が見出されぬ場合の除外診断としての慢性胃炎は少なくなったが,しばしば“慢性胃炎のときにはしかじかである”という論文で,胃粘膜変化は具体的に記されずに,単に慢性胃炎として一括されている.また,小さな胃生検標本にもかかわらず,癌や潰瘍性病変がないと,慢性胃炎と記載されることがある.更に,胃粘膜全体の形態学的変化を観察するときに,antralizationとか通常および逆萎縮型のごとき表現に示されるように,比較的検索されやすい幽門前庭部,胃角周辺部や幽門腺領域の病変を主体と考える志向は,特にわが国では行きわたっている.この志向は,中間帯や腸上皮化生の成り立ちや進展についての考え方の中にも存在する.

 近来,胃粘膜の中の内分泌細胞を超微形態的,螢光および酵素抗体的に識別する方法が発達してきた.その内容と共に,病理組織学的変化との対比,更には関連が問題となる.本号は,慢性胃炎についての総括ではない.慢性胃炎の定義から始まり,機能的,形態的変化の問題点を明らかにするための第一歩であり,各論文には,著者のはっきりした主張が示されている.したがって各著者の立場や考え方は,必ずしも同一ではない.読者諸賢はこれらの点に御留意のうえ,御精読していただきたい.

基本情報

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胃と腸
20巻6号 (1985年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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