胃と腸 20巻7号 (1985年7月)

今月の主題 小腸診断学の進歩―実際から最先端まで

主題

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要旨 アメリカにおける小腸X線検査法の現状を中心に文献的な考察を行うと共に,私信および学会における印象などを加味して,文献の背後にあるもの,文献上では探ることのできないことなどについて若干の解説を試みた.欧米諸国において現在その必要性が強調されているのはenteroclysisであるが,この方法は日本における胃の二重造影法のようには普及していない.また,enteroclysisから二重造影法を行う場合にはメチルセルロース法が推奨されている.

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要旨 小腸のX線検査には,経口追いかけ法,二重造影法(ゾンデ),逆行性空気注入法などがある.炎症性疾患の診断には二重造影法が欠かせない.この方法では蠕動などの偽陽性像がなく,器質的変化を的確に現せる.炎症性疾患の診断では,まず特徴的な潰瘍の形を捕らえ(点・線・面の要素),次いで病変の分布状態(単発・多発-散在,skip,区域,びまん)を考える.潰瘍の深さ,好発部位,臨床的事項も大いに参考になる.変形の現れ方で潰瘍の形が推定でき,病変の分布と共に,二重造影法でなければ確実な診断は困難である.

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要旨 二重造影法の導入によって小腸の微細X線診断は飛躍的に向上した.小腸のX線診断には今は二重造影法が広く用いられている.この二重造影法による微細診断能を小腸Crohn病,小腸結核,アミロイドーシス,糞線虫症を対象に検討した.二重造影法には粗大,微細顆粒状陰影,大小フレック,網の目模様などが描写されていた.これらの微細診断の向上は臨床的にも大きな意義を持つものである.X線微細診断能をその描写能とX線像から肉眼所見への移し変えの2つに分けて検討した.描写能はこれまで幾つかの文献に述べられているように,まだ今後に残された問題がある.X線像から肉眼所見への移し変えはX線像に描写された直接症状だけでは難しい.ここには変形学が必要である.直接症状に変形学を加えることによって初めてX線微細診断は可能である.

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要旨 小腸内視鏡検査法として,①プッシュ式,②ロープウェイ式,③ゾンデ式の3方式の小腸ファイバースコープが開発されてきた.各々の方式には一長一短があり,プッシュ式は簡便に検査ができ,上部空腸の病変やびまん性病変に対する生検の目的に適応があり,ロープウェイ式は全小腸の観察と生検,拡大観察や内視鏡的ポリペクトミーなどの適応がある.ゾンデ式は狭窄性病変に対する検査や重篤な状態に対する検査の目的に適応がある.これらの各方式の小腸ファイバースコープを使い分けることによって,いかなる部位に発生した小腸病変であっても内視鏡診断ができるだけの技術は確立されたものの,1施設で3方式の器械を準備しなければならないこと,などの小腸内視鏡検査の普及のための隘路は少なくない.

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要旨 直視型十二指腸ファイバースコープの延長型(GIF-P2-2000,GIF-P3-2000,GIF-Q10-2000)を用いたプッシュ式小腸内視鏡検査が,十二指腸第3部~4部および空腸上部に病変が認められた(あるいは疑われた)57例に対し61回施行された.57例61回の検査中55例59回において検査の目的を達成できた.上部空腸への挿入が不成功に終わった2例はいずれもGIF-P2-2000によって施行され,1例は術後の腸管癒着が,他の1例は十二指腸潰瘍に基づく球部変形がそれぞれ高度なため,十二指腸第3部以降への内視鏡挿入が不可能であった.内視鏡の挿入深度をTreitz靱帯からの距離で表すと,スライディングチューブ不使用群23.8±22.8cm(±SD),スライディングチューブ使用群53.5±24.2cmであり,後者のほうが有意に深部まで挿入可能であった.また,59回の検査中51回において直視下生検が施行され,生検鉗子の作動,採取組織片の大きさも十分満足すべきものであった.以上の成績より,本検査は十二指腸遠位側~空腸上部(Treitz靱帯より100cm以内)の病変の診断に極めて有用であり,深部空腸への確実な挿入のためにはスライディングチューブが必要であると考えられた。

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要旨 小腸には集合リンパ濾胞であるパイエル板が存在し,この部は局所免疫機構の場として働き,また,小腸疾患の発生や進展に際しても関係が深いと考えられている,このパイエル板が回腸末端~回腸下部に多いことは,よく知られている.しかし,それより口側の回腸や空腸にも存在しうることは,意外と知られていない.特にパイエル板が空腸にあるか否かについては,解剖学や組織学の成書でも明確にされていないことが多い.そこでわれわれは,種々の原因で切除された小腸標本の13例(非びまん性病変8例,びまん性病変5例)にて,新鮮切除標本の二重造影像,固定標本のレントゲノグラムを撮影し,回腸終末部(回盲弁より口側30cmとした)以外のパイエル板について,存在の有無,腸間膜との関係,肉眼および組織像による形態と表面構造の特徴を検討した.その結果びまん性病度では粘膜表面からパイエル板を指摘することはできなかった.だが非びまん性病変の8例に関しては以下の結果を得た.①パイエル板は回腸終末部より口側の小腸にも認められ(8例中8例),空腸にも存在した(5例中5例),②8例から検討しえた25個のパイエル板の大きさは,最小5mm,最大45mmで平均15.4mmであった,③パイエル板部の粘膜表面は,周囲の絨毛粘膜部に比して,領域性を有した網目像や顆粒像を呈した,④パイエル板は腸問膜の反対側に存在した,⑤パイエル板部ではKerckring皺襞は欠如ないし消失していた,⑥肉眼では認識困難で,固定標本レントゲノグラムでのみ発見可能なパイエル板も存在した.

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要旨 蛋白漏出性腸症の小腸内視鏡検査所見が,初めて報告されたのは1974年(田中,竹本ら2))のことであった.わが国では,その後本症に対して21例に小腸の内視鏡検査が施行され報告されている.この内視鏡検査例数は,わが国で小腸鏡が開発された1970年以降今日までに報告された本症の中で,その病変が小腸に存在していることが記載されている症例総数113例(われわれの集計による)のうちの約1/5にすぎない.そして,十二指腸,空腸,更には回腸が,同一例において内視鏡的に検索された症例は自験例以外にはない.自験例6例の内訳は,①腸リンパ管拡張症(2例)とその疑診例(1例),②回腸の多発性びらん(1例),③Crohn病(1例),④悪性リンパ腫(1例)である.これらの症例においては様々な形態の病変が小腸の様々な部位に内視鏡で観察された.しかしながら,蛋白漏出性腸症としての共通の内視鏡所見を見いだすことはできないばかりか,異常な蛋白の漏出現象が小腸で発生している事実を内視鏡所見から推測することも困難な症例(腸リンパ管拡張症の疑診例と悪性リンパ腫の例)もあった.小腸内視鏡は今日でもなお本症の一部の腸管粘膜形態を垣間見ているにすぎない.今後,本症に対しては積極的に小腸全域を内視鏡で検索する努力を惜しんではならないことと,蛋白漏出という腸管の機能変化そのものを直接視覚化し,それを内視鏡で定量的に把握するような新しい内視鏡技術の開発も望まれる.

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要旨 小腸癌24個を用いて,同癌内での腫瘍性内分泌細胞の出現状況を検討した.同癌の75.0%に好銀性反応陽性細胞を,41.7%に銀親和性細胞を認めた.癌の発生部位別にみると,好銀性反応陽性細胞と銀親和性細胞は,十二指腸癌で50.0%,37.5%,空腸癌100%,37.5%,回腸癌75.0%,50.0%に出現した.銀反応陽陸細胞の出現程度は,回腸癌で高く,空腸癌,十二指腸癌で低い傾向にあった.11種類のアミン・ペプタイドに対する酵素抗体法の検索で,小腸癌の62.0%に陽性細胞がみられ,これらはすべて好銀性反応陽性例であった.serotonin細胞が小腸癌内の内分泌細胞の主体であった.十二指腸癌・空腸癌では,serotonin細胞以外のべプタイド陽性細胞の出現頻度と程度は概して低かった.しかし,回腸癌ではserotonin細胞のほかに,somatostatin,peptide YY,neurotensin,glucagon,glicentin細胞が半数以上の腫瘍に出現し,その出現程度も高かった.小腸癌内の内分泌細胞の種類と各種類の細胞の出現程度は正常小腸粘膜内のそれらと類似していた.

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要旨 大腸および遠位側小腸に主病変を有するCrohn病患者8名に小腸内視鏡を施行し正常粘膜部および微小瘢痕部を直視下に生検し,電顕的検討を行った.正常粘膜部では半数以上の症例の吸収上皮細胞にライソゾームの増加,自己貧食胞が認められ,微小瘢痕部では全例にライソゾームの増加,自己貧食胞が存在し,更に自己貧食胞の遺残物よりなる大空胞が認められた.これらの所見は微小瘢痕部のみならず内視鏡的正常粘膜部にも異常があり,何らかの刺激により病変が引き起こされる可能性が示唆され,Crohn病が消化管にびまん性異常を来す疾患であるという概念に合致すると考えられた.

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要旨 呼気中水素測定法および輸送電位測定法により糖質の消化吸収能について検討した.われわれが作製した閉鎖循環式回路(closed system)を用いた呼気中水素測定法によるキシロース試験では,全水素排出量を測定時間(180分)で除して得られる平均呼気中水素排出量と5時間尿中キシロース排泄量との間に有意の相関が認められ,短腸症候群症例のみが平均呼気中水素排出量0.19ml/min以上の高値を示した.本法は従来の尿中排泄量測定法に比し腎機能に影響されず老年者を含めた吸収不良症候群の吸収試験法として有用である.open systemによる呼気中水素測定法を用いてデキストリン大量投与時の消化吸収能と加齢との関連を検討した結果では,70歳未満の健常者では200g負荷時にも呼気中水素濃度の上昇はみられなかったのに対し,70歳以上の老年者では有意の高頻度で呼気中水素濃度の上昇がみられた.これは,加齢と小腸通過時間には関連が認められないことからデキストリンの小腸での消化吸収が不十分であることが主因と考えられ,70歳を超える老年者では糖質に対する忍容力の低下することが示唆された.糖輸送電位測定法による肝疾患における糖質の消化吸収能についての検討では,D-glucoseは肝疾患,特に肝硬変でも吸収障害は認められなかったが,二糖類のsucrose,maltoseについては肝硬変でPDmax,Ktの低下傾向が認められた.刷子縁のdisaccharidase活性低下に起因する可能性が考えられる.

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要旨 従来,小腸の内視鏡とX線検査は別々の日に行っていたが,われわれが考案した内視鏡および造影同時併用法によれば,一体化した単一の検査として施行できるので,患者にとっては苦痛ある前処置が1回で済む.また,検査術者にとっては,造影用long tubeの挿管が容易なので,X線被曝線量の減少を期待できる.更に,従来の方法によってはX線検査が困難であった部位(回腸,Billroth-Ⅱ法術後あるいは癌や潰瘍などによる幽門狭窄症例の十二指腸,結腸回腸側々吻合部から肛側の回腸)においても,造影用long tubeの挿管が可能となった.特に回腸では造影剤と空気量の調節が容易であり,腸管係蹄の重なりも少ないので,良好な二重造影像が得られた.

今月の症例

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〔症例〕49歳の男性で,1983年9月,突然メレナがあり貧血(Hb 6.29/dl)も認められた.10月下旬,小腸X線検査で10mm大の隆起性病変が発見されたが,都合により手術は見送られた.しかし,1984年1月,再び下血が認められたため,入院し小腸二重造影法にて精査後,2月23日空腸部分切除術が施行された.経過良好にて2週間後退院した.

〔本症例の見どころ〕この症例に対して,小腸X線検査は①経口簡便法+圧迫法,②二重造影法,の両方が行われている.それぞれの利点を活用して,病変の形状を描出したつもりである.その結果,術前に充実性の腫瘍で,しかも頂部に小さな浅い陥凹を伴った粘膜下腫瘍であると診断しえた.X線像と切除標本とで,所見の1対1の検討を十分に行っていただきたい.

胃と腸ノート

X線の骨白写真 熊倉 賢二
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 十数年前の話である.偶然,私の撮った数枚のX線写真をアメリカの某社で印画紙に焼き付けてもらったことがある.俗に,脊椎陰影が白い写真を骨白写真,黒いのを骨黒写真と言っている.アメリカの写真は骨白写真,本誌の写真は骨黒写真である.

 その骨白写真を見て,きれいなのに驚いた.それに,私どもの骨黒写真よりも,微細所見がよく現れている.そのとき,1枚が200ドルで,1日に3枚しか焼けないという話も聞いた.真偽は知らないが,当時は,1ドルが360円であった.

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 メルロ=ポンティは“見えるものは見る能力の裏面である”と言ったが,見る能力にも大変革が起こってきたようだ.

 ファイバー光学系の内視鏡に限界を感じ,数年前から新しい映像伝導方式による消化器内視鏡の構想を描いていた.ニューメディアの時代,行きつくところは,誰でもそうかもしれないが,マイクロテレビカメラ方式であった.しかし,開発研究に取り組んだものの,その歩みが遅すぎた.

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 消化性潰瘍の論議は,いま,再発の問題に集中しているようにみえる.最近,改めて,そのあらましを通読する機会を得て,多くの疑問や異論や所懐やらがあった.その中の幾つかを書きとめてみたい.

 まず,不思議に思うのは,潰瘍の再発率と言えば,なぜ決まって“累積再発率”なのか,ということである.いわゆる累積再発率なしには,潰瘍の再発が語れないかのようである.では,その累積再発率とは何なのか.試みに,その定義は? その意味は? という問いに答えてみていただきたい.筆者の場合には残念ながら,“隔靴搔痒”という古めかしい言葉が浮かんでは消えるばかりで,とうてい答えらしきものにはならなかった.なぜ,この定義困難,意味難解な数字によって再発の問題を論議する習慣になったのか.

Refresher Course・17

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□患 者:44歳,女性.

□主 訴:心窩部痛.

〔初回X線所見〕背臥位二重造影で胃体下部小彎は線のわすかな乱れと辺縁陥凹があり,平滑さを失っている.これに対応する小彎寄りの粘膜面は,十二指腸係蹄に一部重なるが,不正な小バリウム斑と周囲に比ぺ角張った大きなarea模様がみられそうである.性状診断までは困難であるが,陥凹性病変の存在が疑われる(Fig.1).

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治療とfollow-up

質問 ポリペクトミーできる大きさの限界はありますか

 岡部 スネアが引っかかれば,どんなに大きいものでもいいですね.

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欧文目次

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 Endoscopic follow-up after colorectal cancer surgery: early Detection of local recurrence?: Bühler H, Seefeld U, Deyhle P, et al (Cancer 54: 791-793, 1984)

 この研究では,大腸癌の局所再発の早期発見に対するcolonoscopyの診断上および予後判定上の価値が評価されている.

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 Colorectal screening by a selfcompletion questionnaire: Farrands PA, Hardcastle ID (Gut 25: 445-447, 1984)

 大腸癌診断の遅れの80%は,病院受診が遅いためである.これらの患者の40%は,救急患者としてやってくる.その75%は,既に開業医に症状を訴えて通院している.

編集後記 八尾 恒良
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 小腸のX線,内視鏡診断が新しい方法論を見出し,著しい進歩を遂げはじめてから10年を越えた.そしてこの数年間は,ほぼplateauに達し,もはや手技としては進歩すべき予地はないようにも思われる.

 しかし,小腸の“診断学”に取り組んでいる施設は限られ,雑誌の特集,学会シンポジウムの顔ぶれは相も変わらぬ10年前からの常連で占められているのが現状であろう.

基本情報

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胃と腸
20巻7号 (1985年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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