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癌治療進歩のためには,早期診断の精度をいかに高めるかということと,癌化学療法をいかに進歩させるかということが重要である.癌の手術療法,放射線療法は今日,技術的にはほぼ限界に達していると言えよう.したがって,従来の癌の診断法に勝る鋭敏な診断法によって,治癒手術・放射線療法が可能な癌が早期発見されるようになると,癌の治癒率は一層向上するはずである.それが,癌に対する定期検診に応用しうる有用な血液生化学的検査法,すなわち腫瘍マーカーに寄せる大きな期待である.このような背景のもとに,近年,癌の臨床において腫瘍マーカーの研究はますます盛んになってきた.あたかも各種の抗癌剤の開発に世界中が必死になっているように,新しい有用な腫瘍マーカーの開発は,これが癌の診断に広く採用されるようになり,癌の生物学的研究としてのみならず,実際の臨床に役立つことが次第に明らかとなるにつれて,その研究開発の状況は目を見はるばかりの競争の烈しさで,数多くの新しい優れた腫瘍マーカーが次々と登場してきた.そして腫瘍マーカーの成績はもはや必須不可欠の検査となってきた.
ここにおいて漆崎一朗,服部信両氏の編集になる「腫瘍マーカー―生化学的・免疫学的研究と臨床応用」なる書が上梓されたことは誠に時宜にかなったものと言えよう.本書は編者らの述べているごとく,一面からみれば臨床家のための書であるが,他面では悪性腫瘍の生化学・免疫学の研究を志す者のための解説書とも言える.“腫瘍マーカーを理解するうえで,本書が臨床家ばかりでなく,広く医学,薬学,生物学の分野の研究者にとっても役立てば幸いである”とあるが,まさにそのとおりで,本邦でも外国に負けず,新しい腫瘍マーカー開発に取り組んでいる学者は多い.本書に盛られた長年蓄積されてきた腫瘍マーカー研究を糧として,世界的に通用する優れた腫瘍マーカーが本邦から開発されることを願うものである.
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