胃と腸 20巻1号 (1985年1月)

今月の主題 胃診断学20年の歩みと展望―早期胃癌を中心として

序説

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 昭和41年4月に誕生した本誌の創刊の辞は村上忠重教授によるものであるが,その冒頭に,わが国では消化器病学の専門誌が育たないというジンクスがあると述べられている.それから既に20年の歳月が流れようとしているが,本誌は年を経るに従って大きく育ってきた.当初,編集の中核は当時わが国で非常な進歩を遂げつつあった早期胃癌に置き,順次良性病変へ,更には腸,胆,膵へと拡げていこう,そして本誌を読んでさえいれば,この方面の第一線の仕事と技術に遅れることがないようにしたいと願ったのであるが,幸いに多くの人々の共感を得て,このように発展の一途を辿ってきたのだと思う.

 本誌の果たした役割として,私にとってまず嬉しいことは,多くの施設で多くの人によって,その気になりさえすれば,早期癌(胃と限らず消化管すべてについて)の発見が容易となってきたことである.つい20年前までは,その多くが死に至る病であり,早期発見,早期切除とただ念仏のように唱えていた消化管の癌も,治すためには,どうやって,どのようなものを見付けるかが明らかになってきたのである.そしてもう1つ,早期癌に対する情熱が他の良性病変(潰瘍,ポリープ,炎症性疾患など)の病態解明への進歩をもたらしてくれたことである.

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 診断の狙い方が,日本と欧米とでは全く違う.彼らは経験例をまとめる.日本は,経験から理論的に考え,推定→捜し出す,の手法をとる.腕に自信を持つまで修練し,見張って病変を捜す.これでは両者は嚙み合わない.

 2cm大の病変の診断能が固定し,さあ今から1cmのものまで見つけるぞと頑張ってみたが,数年~5年ぐらいかかった.急速充電というわけにいかないから,急がず一歩一歩,自分自身に手ごたえのある進歩を積み重ねるのが学問の王道だと痛感している.さあ学会だと,あわてて次々と息をつく間もなく発表を繰り返し,一見,業績を上げるかにみせる学派には与するわけにはいかない.

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 「市川さん,アメリカの病理学者の70%は,今でも,日本で言っている早期胃癌は,本当は癌ではない,と思っていますよ.」

 これは,1983年5月,ジュネーブのTNM分類委員会の席上で隣に坐った米国代表ハター教授の言葉である.

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 21世紀まで,あと何年と数えるようになった1985年の今日,19世紀の“世紀末”と言われたときと同じように,時代は完全に激動の時期に突入した.しかも,変化の振幅はより一層大きい.もろもろの価値感の動揺も著しい.そして,われわれは来るべき新しい時代の様相を,正確に知ることは全くできない,どうやら,混沌のままで,新しい世紀に入り込みそうである.

 もっとも,現代を表現する言葉だけは,むしろ過剰とも言えるぐらいある.そして,それらの言葉は,すこし使い古されると,すぐ新鮮味を失ってしまって,新しい用語が登場し,もてはやされる.いわく,脱工業化社会,不確実性時代,情報化社会,ニューメディア時代などなど.新語辞典を見れば,いくらでも出てきそうである.

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 「胃と腸」も創刊20周年を迎え,これを記念した特集号が3回にわたって刊行されるとのことで,誠に御同慶の至りです.

 20年前と最近の胃診断学を比較すると,その進歩の著しいことに対する大きな驚きと喜びを,すべてのこの道に携わった人々が等しく感じることと思います.

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はじめに

 医師免許証を得て22年,数多くの論文を手掛けてきたが,本稿ほど悩んだ原稿はない.X線診断に関する膨大な文献もさることながら,“早期胃癌のX線診断学”が何を意味するのか,そしてその進歩を計る基準をどこに置けばいいのかわからなくなったからである.

 1950年代の後半から,1960年代にかけて,早期胃癌のX線診断はものすごい勢いで進歩し,普及した.そして一部の研究者以外には無縁であった早期胃癌を一般臨床医のものにした.しかし,X線検査で早期胃癌をいくら多数発見しても,それは“診断学”にはなりえない.“学”と称するには,新しい検査法を確立したり,1例として同じものがない早期癌に対する検査法の中から共通する概念を導き出したり,発見された早期癌を集積して診断限界を類推したりする作業がなされていなければならないだろう.

 このように定義すれば“学”に関与する研究者はほんの一部となり,これを列挙すればその施設の歴史を述べることになりかねない.本稿に課せられた“X線診断学の進歩”を論述する目的は,そんなものではないと思う.

 思い悩んだ末,本誌の1巻から18巻に至るX線診断の論文を抜粋し,論評を加えてみた.そしてX線診断の目標とされる微小癌,Ⅱbの診断の変遷に触れ,早期胃癌X線診断の最弱点とされる噴門部早期胃癌もチェックアップしてみた.X線診断の進歩は「胃と腸」にすべて網羅されているわけではないことは重々承知のうえである.他誌に優れた論文を発表された方には深くお詫びしたい.

 なお,紙面の都合上,文献は本誌掲載のものは文中に筆頭著者名,巻,頁,のみを記載し,他誌掲載のもののみを末尾に記した.

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要旨 最近の約20年間の早期胃癌診断学の進歩を概観した.1962年の田坂らによる早期胃癌の定義・肉眼分類の発表は,それ以前の胃鏡,胃カメラ,胃X線検査などによる診断学の集大成であり,その後のファイバースコープ・二重造影時代への基盤をなすものとして,決定的な役割を果たしてきた.また,ファイバースコープ直視下胃生検法の確立は,早期胃癌の診断を,より確実・容易にし,生検法の普及を促進した.このような診断能の向上は,早期胃癌の発見数を増しただけでなく,早期胃癌の成長速度・成長様式(悪性サイクル,linitis plasticaなど)・発生母地などについての新しい知見をもたらした.近年では,一層の診断能の向上を目指して,色素内視鏡・拡大内視鏡・レーザー内視鏡・超音波内視鏡などが実用化されている.また,生検組織グループ分類の改正案を相い補うものとしても,新たな生検法strip biopsyが登揚したことの意義は大きい.結論としては,この20年あまりのわが国での早期胃癌診断の進歩は,十分な成果を収めたと言える.しかし,微小胃癌診断学の確立と発見率の向上,更には胃癌の予防までを目指して,今後より一層の努力が必要であろう.

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はじめに

 早期胃癌の診断の進歩と今後の問題点について病理学の立場より論ずるのが私への要請である.この領域に関係する「胃と腸」に掲載された論文をはじめとして,過去の論文や症例をさかのぼって読み,考えた末に,これらの業績を総括報告(Referat)することは容易でなく,まだ,その時期ではないと思うようになった.むしろ,始まりから早期胃癌の診断にかかわり合ってきた私の体験と知識と考え方を明らかにし,未解決の問題を提示し,読者の御批判を仰ぎたいと思い,それらを数個の項目ごとに記したが,必ずしも相互に関係していないこともあるので,あらかじめお断わりしておきたい.

 病理学とは何であるかという設問は,現在特に重要であり,また論議も多いが,これは本稿の目的ではないので,一応,早期胃癌の診断のための病理形態学に限っておき,病因論というような広い領域を含まないことにする.しかし,後で述べるように,診断のための道具にとどまらず必然的に胃癌の形態発生(Histogenese)の問題にまで発展するのはやむを得まい.

 ここで悪性腫瘍についての用語とその慣用について述べておく.胃癌のごとき上皮性悪性腫瘍については,癌あるいは癌腫,carcinoma,Karzinomの語が用いられるが,悪性腫瘍全体のうち上皮性のものが多いので,やや通俗的で同じ意味を有する,がん,cancer,Krebsの語が,悪性腫瘍を総称的に示すようになり,日米独の国立の研究所の正式の呼称としても用いられている.早期胃癌と漢字で表記すれば問題はないのであるが,欧文ではしばしばearly gastric cancerとかFrühkrebs des Magensと記されていることがある.病理学的には,early gastric carcinoma,Frühkarzinomdes Magensが厳密な表現である.しかし,特に米国では字数の少ないほうがよいという理由からか,cancerが癌腫の意にも用いられ,また,EGCという略語もできている.わが国でも,そのように書く人もいる.

 現在,悪性腫瘍細胞を見出すことが悪性腫瘍の決定的診断となる.細胞の形態のみを観察して悪性腫瘍を診断する細胞診というシステムは三十数年前より,子宮癌の診断に始まり,他臓器の癌にも適用され,剥離細胞診から擦過あるいは吸引細胞診のごとく局在している病変を対象とするまでに至った.早期胃癌の診断には擦過細胞診の段階まで用いられ,その後,胃生検の技術の発達と共に生検切片の組織学的観察では,胃癌組織の細胞のみならず,構造も知ることができるようになったために,現在では一般的に用いられなくなり,それゆえ,ここでは細胞診については記さない.

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 芦澤(司会) 「胃と腸」も20巻を迎えることになったわけで,いわば成人式を迎えるということです.これから本当に大人になるのか,またいままでどおりの子供のままでいるのか,そういう意味を含めて,いままでの20年を振り返って,その歩み,更には今後の展望などを存分に話し合っていただきたいと思います.

 この「胃と腸」誌ができた経緯を考えてみますと,その前に早期胃癌研究会があって,初めのうちは数人で,エーザイの小さな部屋を借りて行っていたわけです.そのうち何とか記録に残したいという熱望があって,そしてこの雑誌が生まれるきっかけになったと思います.

今月の症例

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 切除胃肉眼所見(Fig.1,2) 前庭部後壁に最大径5mmと見積られるⅡcを認める.その境界線は中央のインゼルに向かって凹で,不連続な線で形作られ,小区単位の蚕食像も認められ,癌としての特徴像を備えている.しかし,2~3mm間隔で切り出されたFig.3では,癌は白い印の部分に認められ,したがってⅡcの範囲はFig.3右下のシェーマのごとくであろうと推測される.とすれば,この病変の大きさは最大径8mmということになる.もし,注意深い切り出しが行われなければ,この病変は5mmの癌として通用したかもしれない.なお,切片4の後壁側は,追加切り出しにて癌がないことが証明された.

 病理組織構築Fig. 4は病巣中心部(Fig.3,切片3)の弱拡大顕微鏡写真である.分化型癌で癌は中心のインゼルの表層部分には認められず,陥凹部に限局している.Fig. 3aの粗大化した小区像は主として粘膜内水腫によるものと解釈される.b,c部は他の部と著変をみなかった.

Coffee Break

「胃と腸」と私 五ノ井 哲朗
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 将来への抱負などではなく,過ぎたことの思い出を語れと言われるところに,いささかの感懐があるけれども,それはそれとして,「胃と腸」自体については,多くの人々によって語られるだろうから,私は個人的なことに即して思い出を述べることにしよう.

 当時,不惑の年を目の前にして,生涯の方針も定まらず,田舎の大学の教室でウロウロしていた私にとって,早期胃癌研究会という集団にめぐり会ったことは,決定的な,そして望外の幸運であった.それは,大学も教室も,それぞれの専門ジャンルも,すべて既成の繩張り的なものを越えて,自立して自由な研究者の集団であった.今でこそ珍しいことではないが,戦前,原子物理学の世界に,このような研究集団があったという伝説を聞くばかりで,医学界としてはその存在自体が既に刺激的であって,恋人にでも会うように,教室の目を忍んで参加する研究者もいたのであった.新しいX線検査理論,目覚ましい内視鏡の進歩を背景として展開される自由で熱つぽい論議は参加者を魅了した.言い換えれば,私にとって,それはもう一度の青春であった.

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 食道のEp癌がよく見つかるようになってきた.発赤と褪色がそのポイントだが,見つける医師とみつけられない医師がいるのはどうしたことか.X線から出発した人は丁寧に見るから伸びるが,いきなり内視鏡から入った人は丁寧に見ない傾向があるとの由.

 大腸でも平坦な小腺腫を見つけるのは限られた人だ.皆が同様に発見しているわけではない.Crohn病のアフタ,Yersinia大腸炎のアフタ,潰瘍性大腸炎のアフタ,アフタ性大腸炎のアフタなどの所見の違いにあまり気付かない人もいる.私の友人の一人も“○○君がいなくなったら,早期癌がとたんに見つからなくなった”と嘆いていた.異常に気付かない人,見ても異常とは思わない人がいるのだろう.

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 「胃と腸」の創刊からはや20年を迎えたが,本誌はもともと早期胃癌研究会の機関誌としての性格を持った成り立ちであった.

 当初から早期胃癌研究会に関与し「胃と腸」の成長の過程を終始見守ってきた筆者にとって感慨無量である.

胃と腸ノート

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 Fig.1は体下部前壁のⅡc型早期胃癌(深達度m,大きさ33×23mm,印環細胞癌,リンパ節転移0/22)の切除標本である.Fig.2はホルマリン固定後の標本の粘膜上にバリウムを塗布してX線撮影したものである.Ⅱcの所見が,大変よく描写されている.

 ところでFig.3はFCR(Fuji Computed Radiography)によるこの症例の仰臥位二重造影像である.一般に病変が前壁に存在する場合には,二重造影像は腹臥位で撮影する.Fig.3のように,仰臥位での撮影は一般に行わない.その理由は,前壁病変は仰臥位の二重造影像には所見が描写されないか,あるいは描写が不十分と考えられているし,実際にもそのとおりである.しかし,Fig.3は,仰臥位の二重造影像にもかかわらず,Ⅱcの所見が実に明瞭に描写されている.Fig.2の標本のX線写真よりも,Fig.3の二重造影像のほうが,より微細な所見を描写していると考えられる.“偶然”と言うのには,余りにも見事すぎよう.

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要旨 患者は75歳,女性.家族歴では夫(65歳),息子(46歳)が共にBorrmann 4型胃癌で死亡.胃X線および内視鏡検査にて幽門部前壁にカリフラワー様の粗大結節病変と,幽門部から体中部にかけて大小不同の表面平滑な隆起病変が多発していた.病変の口側境界は不明瞭であった.内視鏡検査で体中部小彎の隆起病変の周囲粘膜は灰白色であり,血管透見網の乱れを認めⅡb病変の存在が疑われた.胃生検は主に隆起病変より12個採取された.幽門部のカリフラワー様病変はGroup Ⅳであった.その他の隆起病変はGroup ⅣとⅡが混在していた.亜全摘術が行われた.切除胃肉眼所見では幽門部から体下部にかけて大小不同の多数の隆起病変と,この間に囲まれるように灰白色粘膜肥厚より成っているが,病巣の口側境界は不明瞭であった.組織学的にはⅠ+Ⅱa+Ⅱb型の12.5×10cmの大きさで,深達度mの管状腺癌であり,腸上皮化生を広範囲に認めた.

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要旨 症例は68歳,男性.心窩部痛,下血を主訴とし某病院を訪れ,当院を紹介された.胃X線検査,内視鏡で多発潰瘍とその瘢痕と診断,生検でGroup Ⅱ,lymphoreticular hyperplasia(LH)として6年半経過観察した.自覚症状増強するため胃3/4の摘出術を受ける.手術材料の肉眼所見で,胃体部の小彎から前後壁にかけて浅い多発潰瘍と皺襞の集中をみる.組織学的にLHと組織球型悪性リンパ腫が混在,移行する.潰瘍はUl-Ⅲ,深達度はsmの早期例である.本例からLHの悪性化が推測できた貴重な症例と考える.LHの本態は橋本病に類似する自己免疫機序による特異な局所反応性胃炎を推測した.

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要旨 心疾患,甲状腺機能亢進症を治療中の71歳の男子に,たまたま健康診断的に行った上部消化管X線検査により胃体下部大彎の隆起性病変(20×15mm)を発見した.引き続き行った胃内視鏡検査所見も総合し,癌も否定はできないが,粘膜下の悪性腫瘍を強く疑い胃切除術を行った.切除胃の肉眼所見では粘膜下に限局した灰白色の腫瘍様病変がみられ,組織学的には胃底腺と腺化上皮がheterotopicに増生した珍しい病変であった.

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要旨 腹部膨満感を訴え,74歳の女性が来院した.横行結腸に下掘れ潰瘍がみられ,その周辺粘膜は不整に結節状に隆起していた.回腸にも2か所にわたってapple-core様の狭窄性腫瘍が指摘された.そして回腸の2つの腫瘤の間の粘膜にはKerckring皺襞が失われ,線状潰瘍ないし瘢痕,偽憩室がみられた.切除材料の病理組織学的検索でも,大腸,小腸の病巣ともに低分化腺癌であり,いずれが原発巣か,あるいは重複癌であるのか確定診断はできなかった。更に回腸癌の周辺には腸結核の所見もみられ,癌と結核との因果関係についても興味が持たれた.

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要旨 32歳という若い年齢で,かつ横行結腸というまれな部位に生じ,腫瘍全体が非常に高分化のいわゆるlow grade malignancyと考えられるvillous tumorの1例を報告する.本症例は5年前より年4~5回の血便を生じていた.横行結腸に広基性の腫瘤を認め,生検ではGroup 3(腺管絨毛腺腫)の診断であったが一部に悪性の存在も否定できないので切除術を行った.腫瘤の大きさは6.0×4.7×2.8cmで表面は顆粒状を呈し,組織学的には絨毛状を呈し,各絨毛を覆う上皮は1層の高円柱細胞から成り,その異型度は低かった.腫瘍の大部分は粘膜内にとどまっていたが,ごく一部で固有筋層への浸潤,所属リンパ節の一部への転移巣が認められたが,その異型度も軽かった.

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要旨 大腸内視鏡検査で多彩な異常所見を経時的に観察でき,metronidazoleとtinidazoleに効果を示さずdehydroemetineで軽快した蛋白漏出性胃腸症を伴ったアメーバ性大腸炎の1例を経験した.73歳の男性,主訴が水様粘液性下痢,両下肢の浮腫で1983年4月18日当科へ入院.約7か月前に内視鏡所見から潰瘍性大腸炎として治療がなされた.今回の内視鏡所見はS状結腸に限局性(約10cm)の地図状の異常発赤部とその中に白色調の粘膜が島状に残ったような奇異なものであった.便からE. histolyticaのcystを検出(生検組織:陰性).metronidazoleとtinidazoleで効果なくemetine 45mg/日(筋注,10日間)で軽快した.131I-RISAで証明された蛋白漏出性胃腸症も治った.

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要旨 54歳,女性.粘血便を主訴に来院.指診にて直腸ポリープを指摘され,精査目的で当センター入院.内視鏡検査で肛門輪直下歯状線より約3~4cm口側,12時方向に表面にびらんを伴った扁平隆起が認められた.生検像から上皮性悪性腫瘍は考えにくく,内視鏡所見から悪性リンパ腫が疑われた.手術標本所見で腫瘍は4×2.5cmの扁平隆起で,境界明瞭であるが外膜浸潤を伴っていた.腫瘍細胞は血管内皮細胞の核と同じぐらいのものが主体で,なかには,やや大きめの核を有するものや,小型核のものも混在してみられた.くびれ核も散見される.核分裂像も目立たない.食細胞の出現も極めて少ない.腫瘍増殖はびまん性の所と明らかな濾胞構造を有する部分とが混在してみられた.以上から直腸原発の悪性リンパ腫で,組織分類(LSG)からは濾胞性中細胞型と診断した.免疫グロブリンを用いた酵素抗体法ではIgG(κ)にmonoclonarityを証明できた.

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 例によって,風変わりな学会印象記になりそうな予感がする.あらかじめ,兜をぬいでおいたほうがよさそうである.

 ⅩⅡ International Congress of GastroenterologyとⅤ International Congress of Gastrointestinal Endoscopyの両学会は,Portugalとわざわざことわることもあるまいが,Lisbonで,1984年9月17日から22日まで開催された.

Refresher Course・11

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〔症例1〕72歳,男性,主訴:血便.

〔X線所見〕注腸造影時,透視中に,S状結腸に隆起性病変を認めた(矢印①).その二重造影像がFlg.1である.この像からでも,大きさがほぼ2.5cmで,広基性であること,表面の陥凹を思わせるごく淡い不整形の陰影(矢印②)が見られること,基部にいわゆる“lndentatlon”(矢印③)が認められることなどから,おそらく小さなBorrmann 2型癌であろうと読影される.しかし,このような写真で,あれこれと推定を楽しむのもよいかもしれないか,もう少し工夫して,その病変の形態を,有無を言わせずに,きちんと把握できるX線像を撮影し呈示したいものである.

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基本的な心構え

 岡部 消化器診断入門のⅡということで,下部消化管について入門者,これからやりたいけれども,どうして始めたらいいかという人を対象にして,今月から連載していきます.たくさんの質問が来ております.まず総論で,基本的な心構えということからいきます.

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欧文目次

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 Histologic evaluation of chronic gastroesophageal reflux: An evaluation of biopsy methods and diagnostic criteria: Knuff TE, Benjamin SB, Worsham F, et al (Dig Dis Sci 29: 194-201, 1984)

 胃食道逆流の有症状患者の60%までが,内視鏡的に食道粘膜は正常と言われている.同様に食道の充血所見は,多くの患者でみられるが,非特異的で必ずしも組織学的な食道炎との相関を示さない.1970年lsmail-Beigiにより食道炎の組織学的診断基準が提示された.この診断基準は,punch biopsy(つまみ生検,以下PBと略す)に応用されうるか,あるいはsuction biopsy(吸引生検,以下SBと略す)にのみに適用されるのか,今なお議論が多い.

編集後記 八尾 恒良
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 学会雑誌の編集会議に出席した.丁寧に処理され自分の主張を科学的に論述した論文は極めて少なく退屈した.そのすぐあとで,あるプロカメラマンの話を聞く機会を得た.数多くのきれいなスライドを示しながら,プラスチックはプラスチックらしく,鉄は鉄らしく,その質感・量感を表現するのに苦労しているという趣旨の話が心に残った.引き続いて内視鏡学会に出席した.そして数多くの講演を聞いたが,心に残る講演内容はほとんどなかった.押すだけで写る完全自動のカメラで撮影した写真で,プロカメラマンに挑戦するような内容を述べた演者が少なくなかったことが印象的であった.

 本誌も発刊以来20年目を迎えようとしている.内視鏡学会は二十数年を経ている.しかし,最近の写真や論文はずっしりした手応えのあるものが減少し,まさに最近の軽薄短小ですべて平等の時代にふさわしい内容に移行してきているように思える.押すだけで写る完全自動のカメラもそれなりの役割りを果たしていることは否めない.しかし,それでは量感や質感は表現できないし,プロカメラマンも育つまい.

基本情報

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胃と腸
20巻1号 (1985年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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