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はじめに
早期胃癌の診断の進歩と今後の問題点について病理学の立場より論ずるのが私への要請である.この領域に関係する「胃と腸」に掲載された論文をはじめとして,過去の論文や症例をさかのぼって読み,考えた末に,これらの業績を総括報告(Referat)することは容易でなく,まだ,その時期ではないと思うようになった.むしろ,始まりから早期胃癌の診断にかかわり合ってきた私の体験と知識と考え方を明らかにし,未解決の問題を提示し,読者の御批判を仰ぎたいと思い,それらを数個の項目ごとに記したが,必ずしも相互に関係していないこともあるので,あらかじめお断わりしておきたい.
病理学とは何であるかという設問は,現在特に重要であり,また論議も多いが,これは本稿の目的ではないので,一応,早期胃癌の診断のための病理形態学に限っておき,病因論というような広い領域を含まないことにする.しかし,後で述べるように,診断のための道具にとどまらず必然的に胃癌の形態発生(Histogenese)の問題にまで発展するのはやむを得まい.
ここで悪性腫瘍についての用語とその慣用について述べておく.胃癌のごとき上皮性悪性腫瘍については,癌あるいは癌腫,carcinoma,Karzinomの語が用いられるが,悪性腫瘍全体のうち上皮性のものが多いので,やや通俗的で同じ意味を有する,がん,cancer,Krebsの語が,悪性腫瘍を総称的に示すようになり,日米独の国立の研究所の正式の呼称としても用いられている.早期胃癌と漢字で表記すれば問題はないのであるが,欧文ではしばしばearly gastric cancerとかFrühkrebs des Magensと記されていることがある.病理学的には,early gastric carcinoma,Frühkarzinomdes Magensが厳密な表現である.しかし,特に米国では字数の少ないほうがよいという理由からか,cancerが癌腫の意にも用いられ,また,EGCという略語もできている.わが国でも,そのように書く人もいる.
現在,悪性腫瘍細胞を見出すことが悪性腫瘍の決定的診断となる.細胞の形態のみを観察して悪性腫瘍を診断する細胞診というシステムは三十数年前より,子宮癌の診断に始まり,他臓器の癌にも適用され,剥離細胞診から擦過あるいは吸引細胞診のごとく局在している病変を対象とするまでに至った.早期胃癌の診断には擦過細胞診の段階まで用いられ,その後,胃生検の技術の発達と共に生検切片の組織学的観察では,胃癌組織の細胞のみならず,構造も知ることができるようになったために,現在では一般的に用いられなくなり,それゆえ,ここでは細胞診については記さない.
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